以前から話したいと思っていた演出家さんに韓国料理屋で遅めのランチをご馳走になる。
二人とも同じサムゲタン(鶏を入れて煮込んだおかゆのようなやつ)を注文。
最近のボクの作品は全部観に来てくれているので、鶏を食らいながらいろいろと意見を伺う。
サシで話すのは初めてなのに会話が盛り上がる。うれしい。
とその時、口内に不思議な感触が訪れた。こりこりこり。…骨だ。
しまった。鶏と思い侮っていた。大きな骨の隙間に小骨が無数に存在していた。こいつ、こんなにも繊細な鳥だったのか。
小骨が気になりだす。
しかし、演出家さんはジッとこちらを見て真剣な話をしている。彼の目の前で指を突っ込み骨を取り出すというのはあまりに下品ではないか?
よく見ると彼は口に入れる前に器用に全ての骨を箸でほぐしていた。
試練か。これは試練なのか。
この鶏をきれいに食べられるかどうかで、ボクの箸使いとか、育ちとか、魂が計られるのだろうか。
指を「ぐにい」と突っ込み、「ぬちゅう」と骨を取り出す未来予想図を思い描く。
駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ。
この未来は必然か?回避する手段はないのか?
いや。必ず防ぐ方法があるはずだ。考えろ。考えるんだ。
そして静かに決意する。
丸飲みだ。
目の前の演出家の隙をついてこいつを全て飲み込むのだ。
歯で小骨の大きさを確かめる。意外とでかい。
下準備が必要だ。彼の言葉に「うんうん」とうなずくフリをしながら骨をできる限り噛み砕く。
よし。これならいける。あとはタイミングを待て。
飲み込む瞬間を見られたら大変なことになる。
「あれ、今飲んだ?」
「ああ、ボク、骨飲むの好きなんですよ」
「そうなんだ。じゃあ良かったら僕の分も」
駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ!
待つんだ!今は耐えるんだ!
ふっと彼の目線が携帯に向けられる。
いまだあぁ!
「ゴクリ」
「ちゅるるるる」と喉を通り過ぎていく小骨の残骸たち。
…危機は脱した。
最悪の未来になることは防ぐことができた。
夕方の韓国料理屋で、ボクは悪のターミネーターを倒したサラ・コナーのように晴れやかな気持ちに包まれたのであった。
(…その後飲み屋にいき、軽く酔っ払ってしまい醜態をさらすという未来を、このときのボクはまだ知らずにいた)
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