カナダとほほ暮らし

カナダとほほ暮らし

2024.10.06
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テーマ: エッセイ(115)
カテゴリ: 読書

リョウと過ごす夜、緑子はいつも同じ光景を目にした。バスルームから戻ると、リョウは無言で床に落ちた緑子の髪の毛を掃除していた。まるでそれが不潔なものだと言わんばかりに。言葉はなく、ただ淡々と掃除をするリョウを見つめるたびに、緑子の心は少しずつ冷たく傷ついていった。

そのたびに、緑子は自分が嫌われているのかもしれないと感じた。自分の髪の毛が、緑子自身の存在が、リョウにとって厄介なものになっているのだと信じ込んでいた。リョウの家にいるたびに、心にどこか冷ややかな痛みが染み渡るようだった。

しかし、ある時、緑子は気づいてしまった。リョウが緑子の髪の毛を執拗に掃除する理由は、緑子を嫌っているからではなかった。実は、リョウの部屋には他の女性たちが出入りしていたのだ。緑子の髪の毛が残っていれば、次に来る誰かに気づかれてしまう。それを避けるために、リョウは緑子が去った後も、次々と髪の毛を掃除していたのだろう。

気づいた時、緑子の胸の中で何かが凍りついた。リョウの無言の掃除が、緑子への冷たさではなく、彼の裏切りを隠すためだったことを知った瞬間、緑子のリョウに対する感情はすっかり変わった。愛情は消え、代わりに冷たい憎しみが湧いてきた。無言で、淡々と床に落ちた黒髪を集めるリョウの姿は、ただ自分の二重生活を守るための行為だったのだ。

年月が経ち、緑子はリョウを忘れようとしたが、時折、夢の中でリョウの姿を見た。年老いたリョウが、狭い部屋で一人きり、再び床に落ちた埃や髪の毛を掃除している。だが、その黒髪は緑子のものではなかった。孤独が積もった部屋の中で、リョウは一人、自分の過ちと共に生きていたのだ。










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最終更新日  2024.10.06 12:43:26
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