『とんとこひ・セクスアリテ』

September 2, 2005
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 参考文献は、阿部謹也氏の『中世の星の下で』(第二章 黄色いマーク---ユダヤ人差別のシンボル)等です



(ホロコーストの犠牲者に非ユダヤ人や同性愛者を含めた方は、本年の九月二〇日に九六歳で亡くなられたサイモン・ウィーゼンタールさんだったそうですね)

 ワタシは、ユダヤ人などが十三世紀頃から一八世紀頃までの五〇〇年ものあいだ、キリスト教徒と区別するために黄色いマークを強制的に着用されてきた歴史をあまり深くは知らなかったのです。ユダヤ人、 ロマ 、同性愛者などに対する差別を合わせて歴史を読み直すことにより、過去の人々の生活する姿が徐々に見えてきました。そうすることは、自分の場合、部落問題を子どもに正確に語ることに通じるようにも思われました。





 研究者の研究の結果、ユダヤ人史はやはりヨーロッパ史の根幹に関わる問題であったことが浮かび上がってきたそう。
 まず、黄色いマークの由来はラテラノ公会議(一二一五年)の決議にあるのだけれど、ここではユダヤ人やサラセン人がキリスト教徒から区別できる服装を着用することが命ぜられているだけで、『黄色いマーク』の規定はなかったの。
 公会議の決議を最も早く実行に移したのはイングランドで(一二一七年)、『黄色いマーク』を強制したのはフランスのルイ九世の治世のもとでだったのだけれど、これはのちに赤と白の二色に変えられている。

 一方で、イベリア半島のユダヤの人びとは抵抗したの。
 カスチラでは、強制するなら国外退去しムーア人の領域に移住すると主張したので、実施は国の財政上の理由から延期されたし、イタリアでも♀は黄色い帽子の着用が強制されたけれども、服全体を黄色にして抵抗したというの。



 また一方で、ドイツ、オーストリア、ボヘミアでは、ユダヤ人はラテラノ公会議よりはるか以前から(九世紀頃)、円錐型の帽子で先端が折れ曲がっているものと髭というような民族衣装ともいうべき独自の服装を自由意志で着用していたというの。いかにそうであれ、その着用が外から強制され蔑視の道具とされると、それはユダヤ人にとって苦痛以外の何ものでもなくなる。


 ザルツブルグの公会議(一四一八年)で、ユダヤ人女性はマークと鈴をつけねばならないとされ、一四三四年には初めてドイツではアウグスブルグ市がユダヤ人に『黄色い環』をつけるよう命じ、これは一五三〇年の全国行政法令で全国に布告された。
 オーストリアでは『黄色い環』は一五五一年に義務付けられている。
 ヨーロッパ諸国において、ユダヤ人に強制されたマークの規定は、一八世紀まで五〇〇年近くものあいだ効力をもっていた。


そもそもラテラノ公会議でなぜ、ユダヤ人の衣服をキリスト教徒のそれから区別する必要があったのか。


 公会議を主催したインノケンティウス三世は、正当なる信仰の確立と教皇権の強化をはかった人物として知られているが、神学の教説として説かれているにすぎなかったこと(ユダヤ人はキリストの死に直接関係があり、永遠の隷属状態にある。カインのように地を彷徨い、その顔が恥であふれ主の美御名をよぶにいたるまで歩き続けなければならないと述べられていた)をラテラノ公会議(一二一五)で現実的な政策として打ち出した。


当時の社会的状況は、ローマ教皇にとって大変厳しいものがあった。
 各地の異端(ヴァルドー派、カタリ派など)の動きとして、無所有を主張し、富に関するローマ教皇の矛盾を指摘し、糾弾した。
 左右からの「不信の徒」に取り囲まれたローマ教会は、ユダヤ人をみせしめとして血祭りにあげようとしたのかもしれない。


 ユダヤ人に強制されたマークは赤と白、白、赤、黄などさまざまな色が用いられていた。しかしながら、黄色は圧倒的に多かった。ヨーロッパにおいてなぜ、マークの色が黄色だったのか


 中世の人びとが個々の人間の運命だけでなく、歴史の過去と未来についても天体の運行(七つの遊星の運動)と関連させて解釈してきたことはよく知られている。
 ネッテスハイムのアグリッパ(一四八六~一五三五)によると、黄色は太陽、水星、金星、月のいずれかと何らかの関わりがあるものとされている。ところが、この太陽、水星、金星、月は、当時の観念としていずれも賤しむべき仕事や人間と関わりがない。金星は肌の黄色い人や純潔でない者の星とされているが、幸運の星であることには変わりはない。

 そこで、「ハウスブーフ(家の書)マイスター」(一四八〇年)の絵に描かれた七つの遊星と人間の職業の運命の分類をみてみることにする。


★土星
最大の星だが徳性に欠け、冷たく乾燥し人間の本質に背く星とされ、悪しき不徳の人びとの星である。皮剥ぎ、「魔女」、死刑囚、農民などがこの星の運命のもとに生まれた人びととされている。


☆木星
徳のある星で温暖で湿潤、賢明で平和的な星であり、倫理にあつく、正しい者、美しく気品に溢れて、芸術性豊かな者、鹿狩り、裁判官、官僚と廷臣たちがこの星のもとで生まれている。


★火星
暑く乾燥し、戦と苦難を示す。この星のもとで生まれる者は怒りやすく、気性が激しく戦闘的である。盗み、殺人、詐欺に明け暮れる戦の星である。

☆太陽
太陽は王の星である。最も穏和で人びとに愛を向け、人びとを賢くする。この星の運命のもとに生まれた者は大きな目をもち、白い肌にうすく赤色が混じっている。楽しんでいる男女、楽師、競技に打ち興じる者などが描かれている。

☆金星
金星は冷たく湿っているが、幸運の星でもあり、黄色い肌の人びとや純潔でない人びと、女色を好む男たちがいる。この星の運命のもとで生まれたものは清潔を好み、音楽を楽しみ、よく踊る。入浴している男女、カルタに興じている男女、踊っている男女の姿が描かれている。

☆水星
水星は手工業の星である。金細工師や、彫刻家、パイプオルガンの製造者、時計造り、などが描かれている。

☆月
粉挽きや水浴をしている人びと、漁をする人、奇術師、狩人、放浪学生、浴場主、沖仲士などが描かれ、月は水によって生活する人びとの星である。




 黄色それ自体は、民俗学的資料でみる限り、決して一義的に蔑視すべき特徴だけをもっていたわけではなかった。
 悪霊や「魔女」を追い払うとき黄色い色がしばしば用いられた。病気の治療にも黄色い花が用いられることが多かった。
 黄色が最も目立つ色であったというのが単純な理由であったといえるかもしれない。
 しかし、インノケンティウス三世が祭礼の色として四色(白、赤、緑、黒)を定め、黄色を省いたとき、既に色の中に公的な階層化の兆しがもちこまれたといえるかもしれない。




 黄色いマークに対する抵抗の調査は、中・近世については十分進んでいないそうだ。
 二〇世紀(今からほんの六四年まえ。一九四一年)において、ナチはユダヤ人の『黄色いマーク』を復活させて、六歳以上のすべてのユダヤ人に六角型の星形で黄色い布地に黒い縁取りをし、真ん中にユダヤ人と黒い字が書き込まれているマークの着用を強制したが、アントワープでは全住民がユダヤ人のマークをつけて外出し、抵抗の姿勢をみせたことが伝えられている。







 人びとに卑しまれていた賤民も、中世は土星という一つの星を持っていたんですね。
 これらの考え方は非科学的であることはいうまでもありませんが、「ハウスブーフ」の七枚の絵に描かれているものは中世に生きたすべての人びとの生活実態ですよね。そして、中世から近代まで多くの人びとを支配した宇宙観、世界観がこのようであったことは事実なのですよね。こういうものはワタシは世界史の授業では全くといっていいほど見えなかったです。その反動で、もうすこし以下に続けて見てみました。


★第一図 土星とその子ら

 ・・・画面の一番下で皮剥ぎが死馬の皮を剥いでいる。皮剥ぎは賤民の最下層に位置づけられており、彼の尻を豚が嗅いでいる。丘の洞穴には手枷足枷をつけられた罪人が閉じ込められており、そこで「魔女」が不吉な言葉を述べている。丘の上には絞首された死体と車裂きの刑に処せられた者の姿がみえる。処刑台の上には烏が飛び交っている。鳥の羽をつけた帽子をかぶり、長い剣を身につけた死刑執行人が、犯人を刑場へ引き立てている。そのそばにはカプチン僧が十字架を手に持って最後の祈りを捧げようとしている。画面の右手では農夫が を馬に引かせ、子どもが馬を先導している。農夫は裸足で貧しく、その表情は苦痛に歪んでいる。・・・



★第三図 火星(マルス)とその子ら

平和な村に突如として軍隊が侵入する。中央では両手を縛られた村人が今や振り下ろされんとする剣におびえ、左下では倒れた巡礼の首にあわや剣が突き刺されんとしている。右下では、両替商の店が荒され、主人が殺されようとしている。村の家々に火を放つ騎士たち。その下手では勇敢な女が壷をふりあげて襲ってくる騎士からおそらくはわが夫を守ろうとしている。教会の塔の窓には逃げ込んだ人びとの顔がみえる。・・・








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Last updated  January 23, 2006 01:31:56 AM
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