『とんとこひ・セクスアリテ』

November 19, 2007
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   目ふさぎの藪

むかし、美濃の国の部落は、本村の小字なみに多少なりとも竹薮のくろにあったと。
小字などは人の往き来の道ばたが家並みで裏が竹薮じゃが、部落はあべこべでな。本村の人家に向けて竹薮があって、裏は人の住まん野っ原や河原など明けっぴろげになっとったと。世間でよっぼど部落を見とうないのか、藪は本村の目ふさぎじゃったそうな。
竹薮のなかの一本道が部落と世間をつないどったらな。出入りするのは




部落の者だけで、どうでも用事の百姓などは、部落の裏からあぜ道や道草づたいに訪ねてきたと。
本村では代官所の指図をうけて、年ごとに竹の年貢を納めたで、おりおりの村うちの竹薮を伐りはらったがな。部落のくろの藪ばかりは村人の思惑で手をつけんので、おのずと部落の者だけが立ち入るようにできとったとよ。
竹皮拾い、樋づくり、竹の子掘り、竹細工なんぞ、ずいぶんと暮らし向きのたすけになったがな。部落の者が竹薮をわがもの顔にせんかぎり、村の者も見て見ん




ふりしとったと。
村の者が寄りつかん竹薮でも、ときには極道百姓が集まっての手なぐさみや、村の帳外者が小屋をつくって坐りこみ、親や庄屋の気が変わったらまたぞろ村へ戻る手段のかくれどころに使ったが、部落の者も見て見んふりしとったと。

大野の藪川ぞいに部落があってな。
ぐるりを藪に囲まれとったが、いつやら藪から血相かえて飛び出した男がおってな。部落のかかさを呼び止めて、女房が藪で産気づき、のたうちまわって弱っとる、運ぶ人手を貸してくれ、と




頼んだとよ。
胡散くさいがともかくと、近所の連れを四、五人呼んで、女ご衆ばかりが藪へ踏みこんだらば、いつの間にやら小屋掛けしとってな。たった一枚のござの上で、いま産み月の女房が、はちけんばかりの大腹を波うたせ、あお向けざまに転がっとったと。雨つゆをしのぐだけの掛小屋じゃ、子を産む用意なんぞ、ほってもありゃせんと。
女房はござに爪たてて、すぐと生み落す息づかいじゃで、こりゃ放っておけんと、女ご衆が手とり足とり抱えあげ、ひとまず部落へ運ぼうとしたらばな。抱えられとる女房が




息たえだえの声あげて、
 「そっちで生むのはかんにんじゃ。たとえ死んでもあっちで生ませとくれ」
 と本村を指さしたとよ。亭主も真顔で引きとめて
 「そっちで生ませてなるもんか。わしらの体面丸つぶれじゃ」
 と、立ちふさがって押し返したと。
部落の女ごの虫が出てな。
 「ごたく言うなら、なぜ呼び止めた。女ごの大役前にして体面なんぞを構うなら、好きなところで産みなされ」
 とな。腹だちまぎれに女房を、その場へ一気に




おっぽらかしたと。
大腹かかえた女房は、地べたをはって手あたりしだい、右や左の青竹にすがりつき、目をつりあげて泣き叫んだで、藪のそとまで知れわたってまったと。
部落の婆さが駆けつけて
 「どこで生もうと指図はせんが、産所えらびは、もう、手おくれじゃ」
 とな。言うなり両足ふんばって、泣き叫んどる女房を抱え上げ、亭主を尻目にとことことひとりで部落へ運んだが、生まれる子どもに待ったはきかん。婆さの家の軒さきで、自分勝手に生まれ落ちたと。




腕におぼえの婆さはな
 「これみい、よい子じゃ、よい子じゃぞ。藪で生まれんでよかったな。生まれとったら竹の子じゃ」
 なんぞと目を糸にして、ひとりで後の始末をしてやったと。
せんかたなしの亭主はな。ひとまず母子を婆さにまかせ、おのれひとりが掛小屋で、しきりと藪をすかし見て、村の使いを待っとったがな。
村八分ならいざ知らず、親さえ久離の帳外者を、村にとりなすひまどもおらんのか、待ってもたっても迎えにこんと。このうえは、忘れるほどの年月を知らぬ他国で生きのびて、歳にめんじて




戻るより他に手段がなかったと。
部落の者が哀れがり、誰かれなしに食い物を運んでやったらな。
喰うの、喰わんのと、しばらくは片意地だけで気を引きたてとったが、ものを喰わずに生きとれるなら、こんな住みよい世間はないて。
二日、三日とたつうちに、生まれたばかりの乳呑み児かかえ、どこに住みつくあてもない、宿なし者の身の上じゃと、わが身でようやく納得したとよ。
そこで婆さが口きいて、夫婦そのままずるずると藪のこっちに住みついてまったがな。




なんで村から追われたのか、仲間うちじゃで誰も聞かんに。












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Last updated  November 19, 2007 04:25:01 PM
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