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2005.05.26
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カテゴリ: カテゴリ未分類

 次の日、わたしはクラスメイトと小さな揉め事を起こした。屋上に連れていかれ、3人の女の子に色々なことを言われた。島野を気落ちさせたということから始まって、わたしが彼女たちを馬鹿にしているということへ繋がっていった。それは全く違っている。わたしはただ、無関心なだけだった。わたしは罵られながら、彼女たちの髪が綺麗だと感じていた。美しい髪と人を罵ることが暖かい夕日の下で同じ場所へ広がっているのが、わたしにはなんとなく楽しい。わたしはきっと、小さくほほえんでいた。。

 日曜日はゆっくりと時間がすぎていく。わたしは弟を胸に抱くと、あやしていた。ソファーはわたしに弟を重ねて深く沈んでいた。ベルが響いて、母は含み笑いで受話器をわたしに渡した。わたしは程よく冷房の効いた部屋から、燃え上がる草のような日差しの中へ呼び出された。
 島野が待っていたのは、駅の近くにあるファーストフードの店だった。ガラスの向こうに島野を見つけ近づいていったときのわたしは、傍目から見ても不機嫌だったと思う。昼にそうめんを食べて、借りてあったCDを聞きながら本を読もうと思っていた午後の計画はあっさり壊れた。けれど、わたしは島野の呼び出しを断ろうと少しも考えなかった。夏の太陽が肌を焼くような自然さで、島野は唐突だった。頼みごとを断れないというのとは違う。わたしは嫌なことは嫌と言えていた。そのときのわたしは、島野に嫌ということを考えもしなかった。単純に、夏だったこともわたしの一部を緩ませていた。暑い夏、恋人が死んだ男、青すぎる空、日曜の午後、そうめん。わたしは自分が冷静であると考えていたけれど、それは単に情熱を自分に与え得ることを避けていたにすぎないに思えた。綺麗に茎をカットされた花束のように、わたしはすぐにも飾られえるようだった。だからわたしは島野とのことが終わったあとで、自分の忍耐を信じなくなった。
 島野は椅子に窮屈そうだった。公園で隣に並んでいた姿を思い出して、わたしは苦笑する。眼差すことができないものへ、人は美しい期待をもつものだ。陰りのない日差しの中、目の前にいたのはわたしと同年の普通の男の子だった。情熱は肉を奪われて、立ち尽くす古椅子となっていた。わたしは自分を取り戻し、椅子を引いて島野に向かい座った。島野は指に残っていたソースを舐め取り、紙ナプキンで唇の周りを拭いた。
「昼飯たべた? 朝岡はあんまり、こういうのは好きそうじゃないけどさ」
「好きじゃない」
とわたしは気だるさを隠さずに言った。食べ損ねたそうめんを思い出していた。ファーストフードは、舌の裏に残る油の匂いが濃くて眩暈を起こしそうになる。島野はぼんやりとわたしを見て、
「なにが食べたいんだ?」
 そうめん、と答えたわたしに、島野はメニューを手で擦りながら眺めた。もちろんそうめんはなかった。
「別にここで食べたいわけじゃない。お母さんが作ってたから、ただ言っただけ」
「わるいな。なにか食べたかったら俺がおごるよ。休みに呼び出してるわけだし」
 頷いてメニューを見たけれど、ハンバーガーのどれもが胸をもたつかせそうだった。どうしてこんなものが食べたいのだろうか。ひとつひとつ名前を確かめていって、結局は選びきれなかった。わたしは悪意を持たずに、
「八重草さんはなにを食べていたの?」
「色々食べてたよ。昼飯、ここで食べること多かったし。できれば、八重草が本当はなにを考えていたか知りたいんだ、俺と会っててさ。この店とか、他のとこでもさ。そうしたら、彩子が俺のせいで死んだのかどうかも、納得できると思うし」
「それはこの前、聞いた」
 短く押し返すと、わたしはなにかを注文しようと席を立った。全ての言葉がしっとりとした匂いをこぼす夜は既になく、わたしには島野が滑稽に見えた。怒りすら感じていたのかもしれない。生きているときに八重草を理解していなかった島野が、どうして彼女の死を理解できるのだろう? けれど、今になって思い返せば、わたしも島野と同じもの、八重草が死んだ理由を見ていたのだ。島野は自分が愛されていなかったと考えることで彼女の死の理由を見つけようとし、わたしは島野が八重草に愛されていたと考えたから、八重草の死を理由づけようとしなかった。人は誰かを愛する理由を説明できるだろうか? 人は誰かが死ぬ理由を説明できるだろうか? わたしはぼんやりと、挟まれているレタスが王冠のように立派なハンバーガーのセットを頼んで席に戻った。島野が待ちうけていた性急さで、
「ここで彩子はなにを考えていたか、書いてあったか?」
と言った。わたしは八重草の日記を何度も読み返していて、該当する部分をすぐに思い浮かべることができた。日記にはこう書いてあった。なにかを食べている島野はとても可愛くて、私が食べさせてあげたくなると。しばらく間を置いて、その文章を作り変えていく。わたしは、八重草の言葉を演じようとする。「島野がなにか食べているところを見るのが、八重草さんには嫌だったみたい。スプーンを取り上げたくなる、って書いてあったかな。八重草さんは上品そうだったし、マナーとかに厳しかったのかもね」
 島野は目を細めて黙り込んだ。その店を出てからも、こうした会話が街のあらゆるところで繰り返された。雑貨屋、駅、ゲームセンター、蕎麦屋、コイン式の駐車場、書店、デパート、カラオケ、幾つかの公園、ボーリング場、雑居ビルの休憩所、お好み焼き屋、レンタルショップ。そのそれぞれで、わたしは八重草の言葉を作り変えていった。そうしてその度に、島野は黙りこんだ。わたしはあるところから、自分がなんのためにこうしたことをやっているか、わからなくなってきた。島野に八重草を嫌わせて忘れさせること、と心の中で呟くことはできた。けれど、島野はわたしの言葉になんの反論もしなかった。ただ受け止めていた。わたしが作り変えた言葉は彼の中に、八重草の言葉として溜まっていっていた。夜になって家までわたしを送ってくれた島野の表情は、闇の中でひどく白かった。





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Last updated  2005.05.27 02:41:30 コメント(1) | コメントを書く


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うう;;;;  
まりあ さん
し・・島野君・・。 (2005.05.27 10:11:27)

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ひみ@喉

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ゆう@ とうとう出ちゃったね うわさは本当だったよ。 <small> <a hre…
ミーシャ3216 @ ひみとさんへ 最後まで、楽しく読ませていただきました…
ミーシャ3216 @ ひみとさんへ 抱かれちゃうんだ・・。
ミーシャ3216 @ Re:『かなりあ』(11)(06/07) う。。どうなるのでしょうか・・(//・_・/…
ミーシャ3216 @ うん・・。 >とりあえず、わたしはでたらめだった。…

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