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2005.06.07
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 誰が言ったわけではないけれど、不意に帰る時間になった。わたしたちはそれぞれ島野に適当な別れの挨拶をして、部屋を出た。広がっている街は、薄暗い煙の中で暮らしている老人のようだった。闇を編んでいる粒がわたしたちをほぐしたのだろうか、帰りの道は誰とも身体がぶつからなかった。自然と話が途切れるようになって、わたしは小さく呟いた。
「忘れ物したから、戻る」
「島野の家? それじゃ、戻ろうか」
と誰かが言って、3人が道を引き返そうとするのをわたしは押し留めて言葉を重ねた。
「1人で行くから」
 その言葉の意味を探るように3人は黙り込むと、お互いに顔を見詰め合った。わたしの言葉に含意を読み取るのは容易かったし、わたしも特に隠そうとしていたわけではなかった。既に決めていたのだし、3人がなにを言おうと変えることはもうなかった。
「1人じゃないと駄目なの?」
 頷いたわたしに、3人はなにも言わずに再び歩き始めた。わたしも、彼女たちとは逆の道へと引き返していく。少ししてから、彼女たちの1人が走ってきてわたしを呼び止め、
「私も彼氏いるから」
と言うと、小さな箱をわたしに手渡してまた走り去っていった。街灯の下でその箱を開けてみると、中にはコンドームが入っていた。外装には12個入りと書いてあり、残っていたのは8個だった。わたしは不思議な生々しさを感じた。口の中に苦い草の味が広がり、その箱を投げ捨てようとした。けれど、指が離れなかった。わたしはなにかを道に捨てることに慣れていなかったし、島野とセックスをするならそれが必要だった。
 わたしは島野の家へ戻って、なにをするつもりだったのだろう? そのときのわたしは、なにも準備をしていなかった。そもそも島野の家へ行ったことも、偶然だった。ただ、わたしの中でずっと溶けないで残っていたもの、剥がれ落ちた爪のような朗らかさと痛みの混じったもの、その部分、それがわたしを静かに引いていた。どこへ? それはわからなかった。ただ、島野になにかを言わなければならないという感触だけがわたしを包んでいた。
 引き返す道は、わたしの中で言葉をまとめるには短すぎた。そして、一度でも躊躇すればその道は長すぎるということもわたしは知っていた。なにかを考えようとして、電灯の光が届かぬところで静かに声を立てる闇のように、すぐに思考は不定形になり、霧散し、湧きあがった。オートロックのインターホンへ呼びかけるときに、その闇は明確な形をとった。忘れ物をした、というわたしの言葉に、島野は素直に扉を開いた。1人には広いエレベーターには、さっきは気づかなかったかび臭さが漂っていた。
 島野はソファーにもたれかかり、テレビの画面へと目をやっていた。二人組みのお笑い芸人が、透明なコップを手にして、よくわからない会話をかわしていた。わたしは黙ってテレビの画面を見つめた。ときおり、笑い声がどこからか聞こえては、場面が次々と移り変わっていく。わたしはしばらく気づかれなかった。ニュースへとうつったところで、ようやく島野はわたしを振りかえった。わたしはその間に、言葉を無くしていた。
「来てたのか。なにを忘れた?」
わたしは目を細めて、ゆっくりと考えた。そして、
「なにも」
と答えた。わたしの中でしっかりとした形を持っていたものは、すぐに壊れていった。たぶん、島野が好きだ、と言うことはできた。けれどなにも言わずに、彼の隣に座った。ソファーに二人並んで、わたしは島野を見ることができなかった。唇を開くことさえ、熱い鉛に包まれたような重さを感じた。自分の吐息が熱く、それが自分が野蛮なものであることの印のようで恥ずかしく、島野に気づかれないように鼻の裏でそれを押し殺した。言うべきことを決めていたつもりでそれは簡単に消えてしまい、ただわたしの身体だけが残っていた。死んだ人だって、身体は残るというのに。





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Last updated  2005.06.07 23:49:44 コメント(1) | コメントを書く


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Re:『かなりあ』(11)(06/07)  
う。。どうなるのでしょうか・・(//・_・//)カァ~ッ… (2005.06.08 08:54:54)

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ひみ@喉

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Comments

ゆう@ とうとう出ちゃったね うわさは本当だったよ。 <small> <a hre…
ミーシャ3216 @ ひみとさんへ 最後まで、楽しく読ませていただきました…
ミーシャ3216 @ ひみとさんへ 抱かれちゃうんだ・・。
ミーシャ3216 @ Re:『かなりあ』(11)(06/07) う。。どうなるのでしょうか・・(//・_・/…
ミーシャ3216 @ うん・・。 >とりあえず、わたしはでたらめだった。…

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