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2005.06.05
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 その日、としか今になっては思い出せない。数日に渡って続いていたテストが終わり、ぽっかりと空いた午後を、例のグループの3人とわたしは、街を遊び歩いていた。日差しは柔らかく穏やかで、誰もが幸福そうに見えた。テストの結果がどうであれ、わたしも息を吐いて楽しんでいた。次の日は休日だったし、なんの心配もなかった。そのなかで、不意に書店に入っていく島野をわたしたちは見つけた。彼が店に入っている間に、3人の間に奇妙な目配せが交わされ、誰からともなく島野の家に行こうと言った。出てきた島野をつかまえて、あっさりと願いは叶えられた。両親は今日は帰ってこないから、と言った島野に、それなら泊まりだね、と3人は騒いで見せた。島野はわたしの方を見て、小さく苦笑した。わたしものんびりと微笑みかえした。いくらか綿の飛んだタンポポの湿り加減がわたしたちを包んでいた。ぬるま湯のような微笑、深く思考することができなくなってため息をつくことができない時間のなかにわたしたちは落ち込んでいた。手を伸ばしても肌は麦穂色のヴェールに包み込まれるだけで、歩くことさえ緩慢になっていく。わたしたちは野良犬の胃で溶かされるのを待っている羊肉のように身体をぶつけ合いながら道を歩いた。同じ匂いをみなで擦りつけあっているようだった。
 島野の家は街の中心から少し外れたところにあった。マンションの6階で、その高さに慣れないわたしは伏目がちに下を見た。落ちたら死ぬだろう遠さだった。こうしたところに生きるためには死を忘れているか、常にそれを意識していなければならないように思えた。うっかり転がり落ちていきそうな手すりの高さだったけれど、それでもわたしの胸まであって、乗越えるためには少しぐらいの意図が必要だった。静かに眺めていたわたしの腕を、島野がゆっくりと引いて部屋のなかへ導かれた。わたしたちは綺麗に透明な水槽に手のひらをあてて中の金魚を見つめてみたり、ソファーの上に置かれた週刊誌を手に取ったり、テーブルの椅子に座ってキッチンでなにかを探している島野の背中を見つめてみたりした。島野がお盆の上にジュースとお菓子を載せて戻ってくると、わたしたちは特に面白いわけでもない話を始めた。その脇では、島野のお母さんがコレクションしているアクション映画のDVDを文句を言いながら見ていたし、週刊誌の袋とじのページを覗きこもうとしていたりした。金魚は水の中をゆっくりと泳いでいるし、細く開いた窓からは秋風が柔らかく吹き込んで髪を揺らしていた。わたしが知らない外国人の俳優の白黒のポストカードがソファーの下から出てきたし、冷蔵庫の中には色々なチーズがぎっしりと詰まっていた。島野の部屋に入っていって見つけた薄い革のアルバムにはやはり八重草の写真が多くて不意に沈黙を運んだし、ベランダにはアロエの鉢植えが幾つか並んでいた。夏みかんはわたしの唇に冷たいのだ。わたしたちは島野の家で、あるなにか、わたしが今でも名付けることができないそのなにかの周りを、ゆっくりと回りながら色々なことをしていた。中心になにかがあることに気づいたとしても、それがなんであるかは語ることができなかった。わたしはテーブルの話に笑いながら自分の笑顔がつまらないと感じたり、話から外れて黙って金魚を眺めながらなぜか満ち足りた。その充足の思いはまた空しくなった。どこにも行くことができない、とわたしは感じた。生まれてからなにひとつ満足できることをしてこなかった、と考えたときに、島野が頼んだ宅配ピザが届いて、チキンの脂に唇を濡らしてわたしは満足した。とりあえず、わたしはでたらめだった。悲劇を歌い続ける張り詰めた喉は、きつい匂いのワインによって潤うのだ。なにも必要としないのは、死人だけだった。






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Last updated  2005.06.05 19:00:19
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ひみ@喉

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Comments

ゆう@ とうとう出ちゃったね うわさは本当だったよ。 <small> <a hre…
ミーシャ3216 @ ひみとさんへ 最後まで、楽しく読ませていただきました…
ミーシャ3216 @ ひみとさんへ 抱かれちゃうんだ・・。
ミーシャ3216 @ Re:『かなりあ』(11)(06/07) う。。どうなるのでしょうか・・(//・_・/…
ミーシャ3216 @ うん・・。 >とりあえず、わたしはでたらめだった。…

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