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2005.06.12
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 わたしは長いあいだ島野に抱かれていた。ベッドで、わたしはゆっくりと動けなくなっていった。もちろん、わたしの身体だけが勝手に。わたしもなにかをやろうとしたけれど、足がうまく動かなかった。ただ、島野が唇を重ねてくることには応じることができた。島野がなにかをするたびに、わたしは水に濡れていった。島野には欲望の気配がなくて、ゆっくりとわたしを愛撫するその手は、まるで墓を掘る人のようだった。わたしの身体は狂いそうだった。熱を帯びる肉体の中で、わたしの言葉は閉じ込められていた。
 長い時間をかけて1度目が終わって、わたしはトイレに行って黙ったまま涙をこぼした。それは嬉しさでもなく悲しみでもない、名付けられることのない感情がわたしを動かしたにすぎなかった。涙は便器に溜まっている青い洗浄水の中に、音もなく混じっていった。上を向くと、白い電燈が綿のようにぼやけて見えていた。頬から喉へと涙は流れ落ち、薄い胸までもその涙は落ちていった。わたしは自分に涙を流せとも命じなかった。手のひらでそれを擦ってなかったことにすると、わたしはベッドに戻った。
 わたしたちは島野が用意した紅茶と苺ジャムを塗ったクッキーを食べ、再び身体を重ねた。それは朝まで何度か繰り返された。わたしは乾くことを知らなかったし、島野も絶えなかった。そしてカーテンの隙間が白じむころになって、わたしたちは抱き合ったまま眠りに落ちた。そして、それぞれ違う夢のなかにわたしたちは吸い込まれていった。
 目覚めた時に、わたしはべっとりと汗をかいていた。シーツが肌にはりつき、カリカリと音をたてながらわたしはそれを剥がしていった。白い光が床を埋めて、熱が厚く部屋に篭もっている。わたしは窓を開けるためにベッドから降りようとして、島野の指が手首に絡んだ。それを振り払って、
「八重草さんが書いてたのは本当だったんだ。島野はこういうとき、優しいね」
まぶたが落ちそうになるのを堪えた。八重草のノートにはそんなことは書いてなかった。彼女が残したノートには島野が書かれていたけれど、このことだけはすっぽりと抜け落ちていた。もしかして恥じらいが、たぶん書ききれないということが、彼女のペンを止めてしまったのだろう。島野は黙ってわたしを見つめ、それから光を支えきれないカーテンへと眼差しを移した。わたしはベッドから降り、カーテンを大きく開いた。落ちていきそうな青い空が広がっていた。
「もしかして、それを言うために?」
それを言うために? しばらくして島野がぽつりと言ってきたことがなにを指しているのか、わたしにはわからず、ゆっくりと記憶をたどった。こういうとき島野が優しい、とわたしは言ったのだった。わたしはこれを言うために? 島野はどういう表情を浮かべていたのだろうか。(しっかりと思い出せ、という声がどこかから聞こえてくる。だけど、人の表情はとても曖昧で、そして嘘をつくことができる。)島野が笑っていたなら、わたしは怒ることができたかもしれない。そして、見下すことができて、やっぱり馬鹿な男だったと終わらせることができたはずだ。けれど、わたしがそのときのことを思い浮かべると、どうしても島野は笑っていることができない。島野はたぶん、思いついたままに問いを口にしたのだ。わたしはなにも否定せず、そして認めなかった。
 夕方になって島野から離れた。家に帰ったわたしを、両親は咎めはしなかった。わたしにはいつのまにか、友達の家に泊まったというアリバイが作られていた。知らないところで増えていく借りに薄く笑いながら、ぼんやりと島野の身体を思い出していた。何気なくソファーの上の弟を抱いて、彼は小さな塊が溶けるように激しく泣き始めた。そんなことは今までなくて、母に弟を任せて自分の部屋に帰ると、鏡の前に立った。わたしのどのような小さなところも、昨日となにも変わっていないように見えた。少なくとも、自分では見つけることができなかった。





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Last updated  2005.06.12 09:32:03 コメント(1) | コメントを書く


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ひみ@喉

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Comments

ゆう@ とうとう出ちゃったね うわさは本当だったよ。 <small> <a hre…
ミーシャ3216 @ ひみとさんへ 最後まで、楽しく読ませていただきました…
ミーシャ3216 @ ひみとさんへ 抱かれちゃうんだ・・。
ミーシャ3216 @ Re:『かなりあ』(11)(06/07) う。。どうなるのでしょうか・・(//・_・/…
ミーシャ3216 @ うん・・。 >とりあえず、わたしはでたらめだった。…

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