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ふとした用事から足を運んだ隣町の図書館からの帰路に、懐かしい坂道を下った。中学校の横を通る、田んぼの国を貫くような、町で一番急な坂道だ。三年ぶりぐらいに望む町の全景は古い匂いがした。中学生の僕はこの道を通っていろんなことを考えていたのだ。中学生の彼女は、この道を通っていろんなことを考えていたのだ、たとえば僕のこととか。僕は坂が傾こうとする直前にブレーキをかけた。静まり返った平日の二車線の真ん中でペダルからアスファルトに両足を落とし、それからゆらゆらと揺れながら沈みゆこうとしている秋の夕日を見た。*どうして思い出してしまうのだろう。彼女のことを考える理由などないはずなのに。しかし僕は思い出してしまうのだ。それも悲しいことに、あかりを灯すスイッチを押すのは僕自身なのだ。カチッと音がして、ぼんやりと彼女のことが見えて、気味悪いほど鮮明に一年間が繰り返される。何度忘れようとしたことだろうか、しかし結局のところ僕は何を捨てることは出来なかった。どこかに跡を残しておきたかったのだろうか?しかしそれは矛盾だ。僕は彼女のことを頭から振り払おうと必死なのに、テストを目前にしても僕はしこりを切除することができない。切除したところで血も出ないのだ。なのに何故なのか。人は出会いを重ねて生きていくのだろうか。経験を重ねて生きていくのだろうか。僕にはそれがどうも納得できないのだ。だってあらゆるものには限度がある。いつかパンクしてしまうかもしれないじゃないか。パンクしたらどうなるのか。僕はパンクしそうだから彼女のことを忘れてしまいたいのか。僕の頭の中を巡る彼女は、キスミントの包装をはがそうとしていたり、堤防の上で俯いていたり、花火を見ながら泣いていたりする。なんだろう、それは写真みたいに薄っぺらくて軽そうなのに、ボンドでしっかりとくっつけられてしまっているみたいなのだ。誰が貼ったのだろう。彼女か、それとも僕なのか。現実が現実じゃなく、過去のほうがずっと現実みたいに思える。ここにいる僕は僕じゃなくて、本当は中学生の僕が僕なのだ、と。しかし不信感は募る。なぜなら当時の友達はみんな僕のそばから離れてしまったからだ。*さまよっている。どこを?どうして?いつから?…分からない。*自問自答は複雑な軌跡を描いて同じ場所に戻ってくる。その途中に記憶が織り交ざって余計何がなんだか分かんなくなって、僕ははっと気付く。僕は充実しているようで、本当は何も持っていないんじゃなかろうか。*記憶が何の役に持たないのだとすると、僕には何もない。空の箱を背負ってさまよっている。どこを?どうして?いつから?…分からない。*秋の風を感じる。それは三年前と同じで、変わったのは僕だけだ。僕だけが飛び出して、あとのみんなは同じ球の中を昔のようにぷかぷかと浮かんでいる。ペダルを踏む。でもそれは仮のペダルみたいな感じがして、本当は僕はここにはいないのだと思うと底なしの悲しみが襲ってくる。風を切って坂を下ると思い出してしまう。自転車に乗ると思い出してしまう。息を吸うと思い出してしまう。バケツにふたをすることにしよう。限りない悲しみは何も生むまい。
2008.09.18
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