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一夏5413

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2026.06.24
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カテゴリ: ベリーズ文庫



2026年4月刊
ベリーズ文庫with
著者:皐月なおみ(敬称略)
人懐っこい同僚が“癒やし役”に立候補!?ひとりが好きなのに、彼のペースに巻き込まれ…。愛犬ロスによる不眠のせいで、残業中に職場の休憩室で寝落ちしてしまった一華。ふと懐かしい温かさに目覚めると腕の中には愛犬…ではなく同僚の歩が!しかも終電を逃し歩と朝まで過ごすことになり…!?口下手でひとりを好む一華は人懐っこい歩と一緒は気まずいと思ってたけど…。これ以上関わることはないと思いきやなぜか歩は一華に興味津々なうえ、“癒やし役”に立候補してきて!?


登場人物
 加藤一華=仕事は優秀だが人付き合いが苦手で、何かと誤解されがちな性格。
  加藤歩=一華の同僚。明るい人懐こいワンコ系男子。
   夏木=歩の営業アシスタント。


法律事務所向けの業務支援ソフト開発販売会社・キュリルテクノロジーの営業として働く一華は人付き合いが大の苦手。今日も課のムードメーカー・加藤歩が音頭を取って飲み会をするらしく、加藤さんもどう?と誘われたがまだ仕事があるのでと断る。
そんな一華に、あ、それならお手伝いしますとおずおずと声をかけて来たのは一華のアシスタントの河西だった。時計を見ればもう定時は過ぎてる。それでも自分が手伝えば三十分ほどで終わるからと申し出てくれたのだろう。失敗したー、仕事残ってるとか言われたら河西さんも気にしちゃうよね。
次に誘われたら他に用があるって理由にしよう。

こういう時、ニコリと笑えればいいのだが、真顔でこんなこと言われた河西は一瞬泣きそうな顔をして、すみませんお先に失礼しますと先輩たちに促され退勤して行った。
一人ぽつんとPCに向かう一華を歩のアシスタントを務める夏木が睨みつけ、だから言ったじゃん、加藤さんは呼んでも来ないって、それに見た?あの態度・・・。一華への不満を聞こえよがしに言いまくる夏木に同意する他のアシスタントたちの声が遠ざかり聞こえなくなると彼女はため息を吐いた。

歩や河西には申し訳ないが、自分のことは放っていて欲しい。
大抵の人は皆でわいわいするのが心底楽しいのだろうけれど、一華は一人が好きだった。かといって引き籠りなのではなく、映画館や地元の催しに行くのも、外食するのも一人の方が楽しめるからだ。何と言っても気兼ねしなくていい。それに加えて一華の場合、その日あったことを反芻し反省点含めてじっくり考え答えを出す時間がどうしても必要で、それは一人にならなければできないことだった。
でもこうして会社で働いている以上、最低限の人付き合いも必要だと思う。
もう少し愛想があれば、夏木さんからの評価も変わっていただろう。
一時間ほどの作業を終えて、会社を出た一華は近道である公園を通り抜けつつ、落ちているペットボトルを数個拾い中ほどにあったゴミ箱に入れ満足げに微笑む。ゴミ拾いでポイント一点!

徳を積むと良い事があるのよ。
亡き祖母は幼い一華によく言って聞かせた言葉だ。
ゴミが落ちていたら拾ってゴミ箱へ、困っている人が居たら助ける。
そうした小さな徳が溜まりに溜まったら後で自分にいい事が返ってくるのだと。

スマホの電源を入れ、愛犬の写真を見ると少し凹んだ心も癒されていた。

翌週、担当している法律事務所でトラブルが起こり、一華は大忙し。
本来なら河西と連携を取らなければならないのに、あちこち飛び回っていたせいで彼女は何をしていいのか判らなかったそう。
そういうの、ちゃんと加藤さんの方が指示出さなきゃ!
これみよがしに一華の協調性の無さを責め立てる夏木にストップをかけたのは歩で、今回ばかりは仕方ないよと宥めた。夏木が歩に好意を持っているのは周知の事実で想い人に宥められた彼女は渋々黙った。そして歩は一華にも加藤さんもこっちに仕事回してくれていいからと笑顔を見せた。

その日は結局事後処理に追われようやく終わったのは二十一時近く。さすがに河西は二時間ほど前に帰らせたが、仕事も終わりかけていたので素直に帰宅してくれた。
こっちも来週に持ち越さなくて良かった~~。
これで土日はゆっくりできる。久しぶりにあのブックカフェにでも、と週末やりたいことをつらつら考えていた一華はそのまま机に突っ伏して眠ってしまっていた。

フワフワ・・・。トモ、生きてたんだね・・・。
無意識に抱き寄せようとして愛犬の手触りと違うことに違和感を覚え、目を開く。そこには腕まくりした逞しい腕。ギョッとして掴んでいたその手を振りほどくと向こうも目が覚めた様だ。
加藤君、なんでここに!?
寝ぼけ眼の彼は、漸く事態を把握して、ああ、と頷く。
歩の話では、例の如く皆と飲みに行ったものの、持ち帰りの仕事を会社に忘れていたのを思い出し戻って来たのだそう。そこで気持ちよさそうに一華が寝ていたので起こそうとしたらトモと抱き着かれ、放してくれなかったと。酔いもあってつられて眠ってしまい、今ココという状況らしい。
誓って何もしてないからっ、の言葉に耳まで赤くした一華もコクコク頷く。
そう言う点では歩のことを信頼している。明るいお調子者だが決してバカではない。
時計を見ると何と午前二時。こりゃ終電ないなと頭を掻く彼にごめんなさいと詫びた。俺も何としても起こすべきだったからと謝罪した彼から朝までやってるバーがあるからそこで始発まで時間潰そう?と誘われた。食事も絶品というそのバーは本当に美味しかった。
珍しく話も弾み、もしかして今週トラブル以外に何かあった?と問われ顔を上げる。なんというか余裕ない感じだったから・・・。ホント、周りをよく見てる人だな、と思う。
彼になら話してもいいか、漠然とそう思えて「先週末、うちの犬が死んだの」
トモっていうゴールデン・レトリバーが老衰で・・・。二十歳だから大往生なんだけど、死んだ日からよく眠れなくて。トラブル自体は一華のミスなどではなかったが、眠れない上に毎日残業では相当きつかったろう。河西にも悪いと思いつつ一杯一杯だったはずだ。
子どもの頃から一緒だったそうだし、ペットロスは侮れない。もっと周りを頼ってくれてもいいのに。そういうの加藤さんには難しい?
歩の言葉に一華は小さく頷き、両親が厳しく他人に頼るなと教え込まれたこと、それに加え一人の時間が無いとダメな自分の性格を話した。寧ろ、大勢で騒ぐ方が楽しい歩だったが、稀に一人になりたいこともあるので一華の性分も判る気がした。

週明け、一華ちゃんおはよう、と歩から声をかけられしどろもどろに挨拶を返していると、室内はざわざわ。もう一人のお調子者社員・石橋がいつからお前らそんな仲に!?と驚いている。
まさか本当に下の名前で呼ぶなんて!!
あの後、同じ加藤じゃお互い呼びにくいから下の名前で呼び合わない?と提案されたのだ。なんで!?と嫌がる一華に夏木だって俺のこと「歩」と呼び捨てよ?加藤が二人じゃ紛らわしいってさ。そりゃ、夏木さんは別な意味で、と思ったが何だかんだと言い包められ不承不承承諾していた。
当然ながら面白くないのは夏木で、河西への伝達事項にまでアシスタントの先輩として口を出し一華に文句を付けて来た。なら、お前が河西さんをバックアップしてやってくれよ。そう言って歩が間に入り、夏木に言い含め一華がいない間のフォローを頼んでくれた。私の仕事が増えると不服気な彼女に俺はそこまでお前に仕事回してないぞとキッパリ。毎度キッチリ定時上がりしている夏木はかなり業務内容に余裕があった。偏に歩が時間内に処理できるものしか回してないからで、そこを突かれると夏木もぐうの音も出ない。判ったわよ、と頷いた彼女は話が終わった後、またしても一華を睨みつけていた。

それから暫く経った頃、歩が何かと気遣ってくれたおかげで一華のペットロスは大分緩和して来ていた。先月、彼がゲーセンで取ったというゴールデンレトリバーのぬいぐるみを貰い、それを抱きしめていたら自然と眠れるように。八時間睡眠のおかげで顔色も良い。
一華ちゃん、いいよな。女好きの石橋の言葉に歩は眉を吊り上げた。
彼女の可愛さは俺だけが知ってればいい。ふと沸き上がった感情に自分でもびっくり。俺ってもしかして彼女のことが好きなのか!?
あの日を機に始まった一華との友人関係は、決して変な気を起こさないと言う約束から成り立っている物だ。なのに今更下心を見せたらもうあんな風に笑顔を見せてくれなくなるかもしれない。
そう思うと告白できなかった。
一方、就業後に彼と一緒に行った紅茶専門店に入ろうか迷っていた一華を丁度通りかかった夏木が見咎めた。へぇ、あなたも歩とここに来たの?
でも勘違いしない方がいい、彼は誰にでもあんな調子だから自分だけ特別とは思わない事ね!!言いたいことだけ言って店に入っていく夏木の背を見送り一華は今言われた言葉を反芻した。
そうだよね、彼は優しいからコミュ障の私に声かけてくれてただけ。もういい、次に会う時はもう大丈夫とそう言おう。小さく嘆息した一華は歩とは個人的に会わないことを決意し・・・。


ワンコ系の陽キャ男子とおひとり様大好き女子の恋物語です。
傍で見てても良いバランスの二人なのに、同僚の女からの横やりが入り、由々しき事態に。いや、相手にされてないのはあんたの方やで?夏木さん。
もう個人的には会わない、と後日一華から宣言された歩は大慌て。告白する前にシャットダウンされたらそりゃ焦る。しかも飲み会で夏木から、さっき加藤さんがうちの取引先の弁護士と連れだって歩いていたと聞かされいても立って居られず居酒屋から飛び出す歩。
幸運にもイタリアンレストランに向かい合って座る二人の前に、彼女とはどういう関係でといきなり詰め寄る彼を一華が止める前に弁護士の方は何かを察したのか自棄に挑戦的な態度。それでも屈しない歩に弁護士が大笑いし、失礼と差し出した名刺には永江祐一郎という名前。一華の従兄ですと挨拶され、大事にされてるなとウインクした彼は一華を託し店を後にします。
一華の実家は地元でも大きな寺のため、色々厳しい彼女の両親に頼まれた祐一郎が度々様子伺いで食事に誘ってくれていたのでした。理由を聞いて気の抜けていた歩は自らの気持ちを打ち明け、一華も私も歩君が好きと告白。晴れて二人は交際を始めますが、恋に不慣れな一華のためゆっくり行こうと歩は告げます。
歩への恋心で一華にライバル心を燃やし当たりのきつかった夏木は、周りからもその態度が目に余ると上司に報告されて厳重注意を受けます。確かに、一華が祐一郎と歩いてるだけで取引先の人との交際は禁止されてるのに、もしかして身体で仕事取って来たんじゃない?とか大げさに触れ回ってたのを、周りが滅多なこと言うもんじゃないと止めてたからなぁ。あの物言いはヤバイ。まぁ、おかげで歩がブチ切れて一華とハッピーエンドになったんだから、夏木さんはキューピットになる、のか?その夏木さんもそのうち居難くなって辞めそうな気がしてたんだけど、しぶとくいる辺り給料良い会社なのかも。
二人が結婚したら同じ姓なので、ハンコとか変える手間なくていいね、と何となく思いました。
冗談はさておき、内容はすごく良かったです。


評価:★★★★★





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最終更新日  2026.06.24 16:06:17
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