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一夏5413

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2026.07.06
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カテゴリ: ヴァニラ文庫



2026年5月刊
ヴァニラ文庫
著者:すずね凛(敬称略)
皇帝ヴィクトルの花嫁選びの日、妹の侍女として同行したオメガのエディット。想定外の発情が、まさか皇帝の発情を誘発してしまった!? 強引に部屋に連れ去られはしたなく乱れさせられて。苛烈で甘いひと時ののちヴィクトルは、エディットをつがいとすると宣言。彼は「あなたしかいない」と言うけれど、オメガの皇妃など前代未聞と猛反発が起こり!?


登場人物
 エディット=アルファ家系に生まれたオメガとして虐げられていた。
 ヴィクトル=帝国の若き皇帝。エディットを妃に迎える。
ボーマルシェ=宰相。ヴィクトルの親代わりで国を裏から動かしている。



クザヴィエ帝国国民は三つの特質に別れている。
優秀なアルファと特に代わり映えのしない一般人気質のベータ。そして発情という気質を持つ希少種のオメガ。身分の高い者はほぼアルファに占められ、ベータはそれに付き従う。しかし、オメガはその特質から人々に淫婦と呼ばれ、底辺の扱いを受けていた。
そんな差別社会で、オメガに産まれてしまったエディットは伯爵令嬢ながら使用人以下の扱いを受けているのは仕方ない事なのかもしれない。異母妹の召使を命じられた地味な装いの彼女を誰も伯爵令嬢とは想像もしないだろう。


あの方が結婚される・・・。
新皇帝ヴィクトルはエディットの初恋の人だった。
数年前、家族で出かけた湯治先で、一人温泉に入れてもらえずに表で待たされたことがあった。雪が降りしきる中、凍えそうだったエディットに自分の手袋をくれた少年。アルファの特徴・額の花形の痣で一目でアルファだと判ったが、大抵のアルファはオメガを厭っている。
家族でさえあんな調子なのに、何て優しい方なのだろう。
だが、側仕えが「いけません、殿下」と少年に耳打ちしているのが聞こえて、恐れ多くも彼が皇太子殿下だと知った。慌てて礼をとるエディットにヴィクトルが手を振り去っていくのを、ずっと見つめ続けていた。あの手袋は今でも大事に仕舞ってある。見つかれば異母妹に取り上げられてしまうから迂闊に付けていけなかったけれど、辛い時はこの手袋を抱きしめて勇気を貰っていた。
でも、この想いもいい加減封印しなければ。
どうしても自分も王宮に行きたいと両親に頼み込むと飽く迄侍女扱いとしてならと渋々許可が出た。遠くで一目見られるだけでいい。それで諦められるから・・・。

花嫁選びの儀で選ばれるのはアルファの令嬢のみ。
しかし、アルファ同士は発情し難いという致命的な欠点があった。特に皇家は純血主義のアルファ、新皇帝になる度に跡継ぎ問題には頭を悩ませており、そこで考え出されたのがオメガの発情を利用すると言うもの。床入り前にオメガの発情フェロモンを嗅がせてその気にさせる。成功率も高く大抵は蜜月期間中に子を授かると言う。当て馬役に呼ばれたのだろう、王宮内の目立たない場所に控えている赤い髪の少女が見えた。
稀に失敗することもあるらしく、その場合当て馬は処分されると聞いている。本当に同じ「人」扱いされていないのね、私たち。複雑な心境ながらどうかあの子が死なないよう成功を祈った。

遠目でも一目会えれば、そう願っていたエディットの想いは見事に裏切られた。ここはあんたに相応しくない。リゼットにきっぱり言われ宴会場に入らせてもらえなかった。

音楽が微かに聞こえる中庭の噴水のヘリに座っていると、突然発情の兆しが出て彼女は混乱した。オメガとして産まれながら十六を過ぎても兆しが無く、出来損ないのレッテルを貼られていた自分がまさかここで発情するなんて。毎月高額な抑制剤を飲まずに済んでいたのは助かったが、発情に無縁だったせいで薬を持ち合わせていない。これは襲われても文句は言えない、と隠れる場所を探そうとしていたら大丈夫か?と声をかけられた。
顔を上げると夢にまで見た人が目の前に立っている。
髪の色でオメガと判ったのだろう、しかも発情しているのを悟ったのか徐に顔を寄せたヴィクトルにキスされてエディットの頭は真っ白。

嬉しい気もちを通り越してこれは拙いと必死に彼を引き剥がそうとしたが、時すでに遅し。散々乱されなんとか発情が治まってぐったりする彼女をヴィクトルが抱き上げるとすたすたと歩き出した。
衛兵が明けた扉を抜け、未だ彼の腕の中だと気付いてじたばたしていたエディットは、自分を妃にすると言うヴィクトルの宣言に唖然。

宰相とその娘のアナベルは真っ先に反対の声を上げたが、もう契りを交わしたから撤回は出来ないとしれっと告げられ、ワナワナ震えている。
茫然としている実家の面々の姿も見えてなんとも居た堪れない。契りと言っても一方的に発散させられただけで最後までしたわけではない。まだ引き返せるが完全に番ってしまえばどちらか死ぬまで番は解消されなくなる。用は済んだと蜜月期用の寝室に向かうヴィクトルに考え直してくれるよう頼んだが、もう俺はあなたに発情してしまっている。故に無理だと押し切られ、結局そのまま押し倒されてしまった。

なし崩しに皇妃になってしまったが、思い続けた人と結ばれて嬉しいのは確か。それならば私は彼を支えられる皇妃になろう。そう決意したのはいいものの、当然ながらオメガの皇妃を受け入れる貴族は少なかった。色々嫌がらせも受けたし、面と向かって批判を受けたこともある。
それでも実家にいた頃に比べればなんてことはない。
リザベルや継母の方がよっぽど怖かったし強烈だった。その家族が、エディットが皇妃になった途端に擦り寄り自慢の娘だと言い出した時は苦笑したものだ。
その家族も、お前たちが皇妃に何をしていたか知っているぞとヴィクトルに詰められ、王宮への出禁を食らいすごすご引き上げて行った。何も話したことは無かったのに、どうして実家でのことを知っているの?

あの夜、当て馬役として召し上げられていた少女はマルタと言った。異例の皇妃選抜だったことで彼女は処分されるはずだったらしい。しかし、それを止めたのがヴィクトルでお前たちなら皇妃も気を許せるだろうと控えの当て馬役数人のオメガをエディット付きの侍女に据えた。
こうした経緯から侍女たちの皇帝夫妻への忠誠心は強く、エディットにとっても心強い味方になったのだった。

ひと月ほど経つとエディットの努力が漸く認められ、味方も増えて来た。ローランド公爵夫人を含め、アルファの女性陣からなる「薔薇の婦人会」の大半の者たちから認められたのは大きい。
これは、飴と鞭というヴィクトル推奨の一芝居のおかげでもあったのだけれど、一度打ち解ければ皆悪い者達ではない。しかし、今日も王宮内の庭園で楽しくお茶を嗜んでいたら事件が。
エディットにお茶を注いだ給仕が突然悶えだしたと思うと近くの令嬢を襲ったのだ。その者だけでなく、近くにいた数人の給仕たちも。護衛騎士に取り押さえられた彼らは一様に「皇妃さまから甘い匂いがして」と証言。オメガの発情特質が悪さをした、という噂が社交界に広がり、婦人会も無期限の活動休止に。だが、これはどう考えてもおかしい。
オメガは初体験を終えると発情しなくなるからだ。故にエディットから誘淫のフェロモンは出ない。侍女達も抑制剤を飲んでいるし、該当者がいない以上、何者かの手によるものだろう。
今回の婦人会は宰相の娘・アナベルが指揮を執っていて給仕たちも宰相の家が手配した者たち。怪しいな・・・。ヴィクトルが側近に宰相家を探らせると案の定、アナベルの企みだと判った。
給仕たちは媚薬を盛られていただけで、事件後は金を渡され口を噤むよう命じられていたらしい。アナベルは王宮の出入りを禁じられ、宰相は皇妃の無実を発表するよう命を受けた。
それが宰相のプライドをいたく傷付けたこともヴィクトルは重々承知している。
おそらく、邪魔なエディットを消すために手を打ってくるはずだ。
意図せずにエディットが懇意にしていた魔術師の老婆が宰相の子飼いの薬師をしていたのを知ったヴィクトルは罠を張り・・・。


オメガバースものです。
一応、男性のオメガはいないことにされているので、BL要素は徹底的に排除されている模様。それはさておき、このジャンルは苦手な方もいると思うので読まれる場合はご注意を。
徹底的な血筋主義の皇家がオメガの皇妃を迎え入れたことで貴族社会は混乱するも、ヒロインの努力によって環境は変わりつつありました。
これからは差別も無くなっていくかもしれない。
オメガの希望になっている皇帝夫妻でしたが、それを良しとしない者が不気味な動きを。皇妃の立場を失くして退位させればいいと先陣を切って宰相の娘がことを起こすもあっさりヴィクトルに抑えられ、ほぼ社交界追放の憂き目に。
そこで宰相がエディット暗殺を謀るんですが、魔術師がエディットの味方に付いたおかげでこちらも不発に終わります(死んだふりで欺かれていたと言う)
こんなことをしでかせば宰相もタダでは済まず、って感じだったんですけど、最後の最後でヴィクトルのある秘密が明かされることに。これは代々アルファで構成されていた皇家の歴史を揺るがすことになるんですが、オメガを妃に迎えたことと合わせ、帝国の歴史が代わる発端となります。
その後、ヴィクトルの治世から差別も無くなり、という終わり方でした。
この作家さんらしい内容で、展開もまぁ読めてしまうんですけど、だからこそ大団円のラストは気持ちいいと言いましょうか。


評価:★★★★☆





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最終更新日  2026.07.06 14:50:52
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