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2020.10.12
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カテゴリ: 自作小説-時代
< 茶会 >-----#174


「小兵衛、其方、倅・龍一郎の太刀を見たか」

立ち合い後の主人が八島の茶会での会話である。

早朝であるが故に酒とも行かず茶会となった。

「はい、拝見致しまして御座います」

「其方、龍一郎の素性を知っておるな・・・して太刀はいかがであったな」

「素性は本人より知らされて御座います、太刀は眼福でございました。

上様より拝領致しました太刀も見事な太刀でございますが、失礼ながら流石に天下に名高き名剣には及びませぬ」

「仕方あるまい龍一郎の太刀を超える物などないわ・・・龍一郎の素性を知らぬは八島と俊方だけであろう」

柳生の二人は茶会には出た事が無く別室に控えていた。

名を告げられた八島と俊方が不思議そうな顔で龍一郎を見つめた。

「この事は内密に致せ・・・これまでに秘密は漏れておらぬ。

今後もしやして漏れる事あれば八島、俊方のどちらからとなる、良いな。

それとも聞きとうは無いか、どうじゃ」

「秘密は守りまする」

「誰にも漏らさぬとお約束致します」

俊方と八島が約定した。

「うむ・・・龍一郎はな、儂とは稚馴染みよ・・・加賀前田家の嫡男じゃ」

「なんと」

「・・・」

「八島、其方、龍一郎が佐紀の宿下がりを願うた時を覚えておるか」

「はい、私の知る限り大奥の歴史の中でも只の一度の事と思うております、故に昨日の事の様に覚えて御座います」

「あのおりに佐紀の容姿・顔を見て正直・・・儂の手付きとしたかった・・・だがな儂の幼馴染が己の許嫁で嫁にすると言うではそれも出来ぬ・・・惜し事をしたのぉ~八島」

「大変失礼と思います、もし御怒りでしたなら打首にして下さい、死を覚悟の上申しげます。

只今の佐紀の幸せそうな様子を見るにお宿下がりで良かった様に思われます」

「其方は良き心根の女子 ( おなご ) よのぉ~・・・其方は幾つにあいなるな」

「三十路で御座います」

「まだ子を成せるなぁ~、今宵を余と過ごさぬか」

「何と・・・三十路で御座います、若く美しい娘が他に大勢おります」

「儂と過ごすのがいやならば良い」

「いいえ、本当の事で有れば夢の様で御座います」

「良し、今宵其方とささ ( 酒 ) など楽しもうぞ」

「はい」

「その折りのささの肴にしたい、佐紀、あの日、宿下がりの日、以降の事を聞かせてくれぬか。

佐紀咎めはせぬ故正直に申せ。

龍一郎が其方を許嫁と申した折りに其方も否とは言わなんだ。

だが儂は其方と龍一郎が合うたのはあの折りが初めてと思うた・・・故に聞きたいのじゃ」

「正直にとのお言葉故申し上げます・・・確かに龍一郎様の許嫁では御座いませんでした。

お会いしたのもあの折りが初めてで御座いました」

「初めて合うた男子 ( おのこ ) に許嫁と言われて何故に否と言わなんだ」

「解りませぬ・・・その後も考えました、ですが解りませぬ。

あの折りに龍一郎様が許嫁と言われたおりにあぁ~この方が私の主になるお方と思いました。

故に否とは申しませんでした・・・後から何度考えましても解りかねます。

只今の自分はあのおりの言葉が正しいもので有った証かと存じまする」

「其方の判断と答えも良いもので有ったし儂の決断もまた良いものであった。

其方を誉めるが儂も儂自身を誉めても良いと思うぞ」

「はい、ありがとうございます」

「その後はどうしたのじゃ」

「はい、お城の門の外にて龍一郎様がお持ちで御座いました、私は家への道は解ります、一人で戻れますと答えますと龍一郎様は無事には戻れぬと申されました」

「何と」

「何、何かあったか」

「いいえ、何も御座いませんでした、実家に戻り家族と久方振りの再会で御座いました。

龍一郎様がその後何日か私の実家に泊ると申されました。

両親は娘を家に戻してくれた恩人を大歓迎で歓待致しました。

何日か経った日の深夜に賊が参りました様に御座います、が龍一郎様が退治された様で御座います、龍一郎様が泊ると申された訳がその時に解りまして御座います。

龍一郎様は恩を返して欲しくてお泊りでは無かったので御座います。

私の身を、我実家の身を案じての事で御座いました。

龍一郎様が明日、橘の屋敷に戻ると申された日の夜に両親と話を致しました。

そして龍一郎様が私を大奥から実家に戻すに当たり家に戻っても武家の嫁になるやも知れぬ、と申された事を聞きました、龍一郎様が橘の屋敷に戻られる時に私も同道致しました。

前の日の夜の両親との話し合いで両親を説得致しました、その日から私は橘龍一郎様の妻と成りました」

「其方の家に賊がと申したが何者であったのじゃ」

「私は存じませぬ」

佐紀は龍一郎の方を見つめた。

「龍一郎、其方、何か言う事は無いのか、今日、其方の声を一言も聴いておらぬぞ」

「お言葉では御座いますが私だけでは御座いませぬ」

「忠相と倅もじゃな・・・忠相、其方は龍一郎の素性を知っておったか、加納の爺は儂が教えた・・・忠相はどうじゃ」

「はい、幼き頃から存じ上げております故、お会いしましたそのおりに即座に解りまして御座います」

「左様か、そして誠一郎を預けたか」

「上様の御推察お見事に御座いまする」

「その折りにあの様に見事な剣士になると思うたかな」

「とんでも御座いませぬ、その頃の倅・誠一郎は近隣の悪垂れで鼻摘み者、勘当すら考えて居りまして御座います。

只普通に戻る事だけを期待しておりました、それがあの様に変貌するなど夢の様に御座いまする」

「ついぞやは南北奉行所の粛清にも加わったと聞いた、良き倅になったのぉ~」

「はい、これも龍一郎様の薫陶の御蔭と感謝して居ります」

「処で、龍一郎、佐紀の実家に入りし賊は何者であったか解っておるのか」

「某、今の今まで八島の方様の手の者と思うて居りました」

「今は違うと申すか」

「はい、八島の方様では無い様に御座います」

「八島、どうじゃ其方の手の者か、そうでは無いならば思い当たる者はおるか」

「おのれ~・・・これは失礼をば致しました、私は佐紀の幸せを願うて居りました。

私が市中で佐紀を認め奥へと申しました、ですが一年のつもりでおりました。

妹とも娘とも思うておりました・・・ですが一年のつもりでしたが・・・まさか・・・」

「表だけでは無うて奥にも不遜な者がおる様じゃのぉ~済まぬ儂とて奥には簡単に手は出せぬ、其方に改めて言う事でも無いがのぉ~」

「はい、何か手立てを考えまする」

「上様、某に妙案が御座いますが、上手く行くかどうかは解り兼ねますが」

「龍一郎、妙案とな、儂も八島も何の案も無い、その妙案とやらを聞かせてくれぬか、ここに居る者なれば漏らす者など居らぬ」

「はい、その心配はしては居りませぬ、が、上様が賛同なされますかどうか」

「聞かねば反対も賛成も文句も言えぬわ」

それから暫く龍一郎の考えた妙案の説明が続いた。

「確かに儂には辛い面もある、あるが儂が勧めておる倹約に大いに役にはなる」

「はい、上手く行きましたおりには読売にて世に喧伝いたせば上様みずからが倹約との評判になる事で御座いましょう」

「しかし、龍一郎様、其方は剣術だけでは無く、人の好さそうな顔をして姑息・・・姑息とも違うな、卑怯でも無し、奇策、妙案と言うしかないかのぉ~」

「忠相、其方の言葉は良く解る、其方の白洲でも龍一郎は妙案を考えるやも知れぬぞ」

「はい、前例の無い時には相談致したいと存じます」

「誠一郎を良き師匠に預けたな・・・俊方、其方の弟子の二人もきっと誠一郎の様になるであろう、どうじゃその時の姿、見とうはないか」

「見とう御座います、御座いますが・・・某が成りとう御座います」

「何、其方・・・本に龍一郎の弟子になると申すか」

「いけませぬか」

「儂の指南役と言う役目故にそう簡単に誰ぞの弟子になる訳にも行くまい、幕閣の者達にはな」

「左様で御座いますなぁ~」

「上様のご指南役を龍一郎様いえ小兵衛殿に変わって頂きその後に道場の門弟に加えて頂くと言う事では如何で御座いましょう」

「弟子の中には幕閣の者も居る、居るが其方は一万石とは言え大名の当主じゃからのぉ~それも只の当主では無い柳生新陰流と言う一大流派の統領だからのぉ~簡単には行くまい」

「はい、確かに難しい事では御座います・・・御座いますが、年月が掛かろうとも何としても弟子入りを願うつもりでおります、まずは上様のご承諾を何卒お願い申し上げます」

「儂の返事は決まっておる・・・許す」

「ははぁ~有難き倖せに存じまする」

「じゃが俊方、師匠となる小兵衛と龍一郎が承諾せねば弟子にはなれぬぞ」

「おや、確かに失念しておりました、我流派では来る者は拒まずで御座います故に思いも致しませんでした・・・ご両者にお願い申し上げます、某の弟子入りをお許し願い申し上げまする」

「儂からも弟子入りを願う」

俊方に次いで吉宗も弟子入りを願った。

「お受け致します」

小兵衛が弟子入りを許した。

この時、俊方は吉宗が自分の俊方の弟子入りを願ってくれたものと思っていた。

​<つづく>​





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最終更新日  2025.06.20 20:57:57 コメントを書く


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