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「と言う訳で二人増えたのじゃ」
「まぁ~、ではあの二人の若者は柳生のそれも江戸と尾張の若者でしたか」
「そうじゃのぉ~仲が良く無いと聞いておったがなぁ~」
「剣の修行に藩も流派も役職も関係は御座いますまい」
「そう言う事かのぉ~、そう言えば帰りに何やら少々重い物を渡され誠一郎に持たせたが菓子にしては重い物であったなぁ~」
「金子が入って居たそうで御座います、本日の苦労賃で御座いましょう」
「そうか、苦労などしては居らぬのに上様に気を使わせたなぁ、それにしては重そうであった」
「何を成されたかは夕食 ( ゆうげ ) のおりにお聞きいたしますが大変な事と思いましたのに」
「何故じゃ」
「はい、金子は五百両御座いましたので」
「何~五百両・・・上様は儂に何をさせるつもりなのじゃ」
其の頃、龍一郎とお佐紀も屏風を挟んで着替えをしていた。
佐紀が龍一郎の着替えを手伝おうとすると
「其方も着替えがあろう、一緒に着替えを致そうではないか」
屏風を挟んで二人の会話が始まった。
「お前様、実家に来た賊は八島の方様では御座いませぬのでございますか」
「違う様じゃのぉ、我ら城の表ばかりを気にしておったが奥も探らねばならぬようじゃ」
「八島の方様はどなたかの心当たりがお有りの様で御座いました」
「心当たり程度は上様の方じゃ、八島殿は誰かを確信して居ったな」
「何方なので御座いましょう、私も奥に数年居りました故に合うた事もあるのでしょうか」
「何、其方気になるのか」
「えぇ~、お前様は気に成りませぬので」
「成らぬな、其方に危害を加える気が無ければ誰でも良い、知りとうも無い、まぁ今の其方を拐すなど無理じゃがな」
「これも全て貴方様の御蔭で御座います、私は何故に商家の娘に剣術をと当初思っておりました、今ようやく解りまして御座います・・・今や私は剣の修行は欠かせぬ物に御座います、暮らしの一部に御座います」
「儂は其方に切っ掛けを与えたに過ぎぬ、全ては其方の才覚の成せる事じゃ。
良う辛抱したのぉ~其方の鍛錬は男子 ( おのこ ) でも耐え難いものじゃ」
「私は貴方様を信じ付いて参っただけで御座います」
「其方はこの江戸で三番目の技前じゃ」
「・・・一番は貴方・・・二番はどなたでございましょうか」
「儂を一番と言うてくれるは嬉しい事じゃが二番かも知れぬ」
「・・・この江戸に貴方様より優れた剣者が・・・」
「これまではその存在さえも解らなんだ、じゃが上覧試合のおりにもう一人おる事が解った。
その者は己の力を隠しておったのじゃ・・・舞が山で言うておった事を覚えておらぬか・・・舞は山に来ると頭が晴れやかになる、江戸に居ると頭に靄が掛かるとな」
「覚えております、その言葉でそう言えば私もと思うたものでした」
「儂もそう思うた、そしてその訳も今は判っておる・・・その剣者が己の力を隠す為に結界を張っておるのじゃ」
「結界で御座いますか、その結界はどの様なもので御座いますか」
「気配を探る事が難しくなる、能力、剣技の力を計り辛くするのじゃ」
「その結界は今も」
「左様・・・今は考えぬ事じゃ、事を起こす刻が参れば其方に一番に伝えるでな」
「はい、私は一考に心配などしては居りませぬ、それよりも本日はまだ何も召しては居りませぬ。刻も刻で御座いますれば朝餉と昼餉を兼ねた食を致しませぬか」
「背中の皮と腹の皮が付くとはこの事かのぉ~」
「山修行では三日も四日も水だけで過ごされるお方のお言葉とも思えませぬ」
「修行と常とは別物じゃ」
「何とも融通の利く腹で御座いますなぁ~」
二人は冗談を言い合いながら常の服に着替え台所に向かった。
台所には既に小兵衛も居り仲間の殆どの者達の顔も有った。
「龍一郎様~忍び込まぬ城は如何でしたか」
「平太、歩くと刻の掛かるものじゃのぉ~疲れるわい」
この二人の掛け合いを聞いていた新参者、柳生の二人は師匠と弟子との会話とも思えぬ遣り取りにまずは驚き次に忍びの言葉に驚いた。
「失礼ながらお聞き致します、橘の道場は只の剣の鍛錬場では無く影の役目として上様の警護が含まれておるのでしょうか」
「儂は其方らを弟子にするなどとは一言も言うては居らぬ」
「何と」
「我らの命を絶つと申されますか」
「龍一郎、この二人はもそっと素養かあるの思うたが剣の腕だけで馬鹿なのでは無いのか」
小兵衛が龍一郎に尋ねたが他の仲間はにやにやと笑っていた。
柳生の二人の若者は、自分たちの周りでにやにやと笑っている者達に恐怖を覚え震えた。
「爺様、意地悪をしちゃ駄目、震えているでしょ」
「おおぉ~済まぬ、済まぬ、儂も化け物どもに囲まれれば震えも出るわい」
小兵衛が二人に詫びた・・・が、これが又、皆を笑わせた。
「儂は其方らを弟子にするつもりでは無い、家族にするつもりでおる。
家族には秘密は無いと言う事じゃ。つまりは只の弟子には我らの本当の姿を見せては居らぬと言う事じゃ。どうじゃ其方ら只の弟子が良いか我らの家族になるか・・・如何いたすな」
二人は顔を見合わせ暫く見つめ合っていたが一人が頷くともう一人も頷いた。
「家族に成りとうございます」
「お願い致します」
「解った、がしかし確かめねば成らぬ。
其方らは巷では犬猿の仲とも言われる江戸と尾張の柳生の者達じゃ。
我らの知らぬと思われる事、つまりは柳生の秘密を言うて貰わねば成らぬ。
藩命よりも我らとの絆を第一にして貰わねばならぬ。どうじゃ、それでも家族で良いのか」
「正直に申しまして私の居ります鍛錬所では師範代、師範などの先達の人達は二言目には、その様な事では尾張には勝てぬ、などと何かに付け尾張柳生を引き合いに出しております。
ですが、橘の方々の技前を見せられて江戸だ尾張だと柳生が天下一の流儀とは思え無く成りました」
「江戸もそうか・・・尾張も同じで御座います、何かに付け江戸の柳生、江戸の柳生と申されて柳生が天下一の様に申されておりました」
「そうか、尾張もか、某は殿に橘に弟子入りしたく藩籍を抜けたいと上役を通して申しでました。
そうした処、殿の御前に呼ばれ「暫し待て」とのお言葉で本日の登城と相成りました。
登城に同道せよと命じられました刻は腰が抜けると思う程に驚き切腹を覚悟致しました」
「某も尾張藩江戸家老殿に呼びだされ大和柳生藩藩主・俊方様に同道せよ、と命じられました刻に切腹を覚悟致しまして御座います」
「それが上様に橘の弟子に成れと命ぜられ、今度は龍一郎様に弟子にはしないと言われ、驚きの連続で御座います・・・正直・・・余りの展開に頭が付いて参りませぬ」
「某も同様で御座います、試合の後に柳生を捨てる覚悟で橘への入門を決めました。
故に心は既に橘では御座いますが、長年修行致しました柳生の秘密を漏らすには少々戸惑いも御座います」
「でしょうね~」
「お気持ち、お察し申し上げます」
佐紀と久が同情の言葉掛けた。
「あっしらは町人ですからお二人の気持ちが解りませんね」
武士姿の清吉と武家婦人の姿のお駒、お高、お花、舞が頷いていた。
「えぇ~皆さんは武士では無いのですか」
二人の柳生武士が何人かが町人と知って驚きと若干の蔑みの態度を見せた。
「町人と侮った様だが其方らの今の技前では相手に成らぬ・・・信じぬようじゅのぉ~」
「信じろと申す事の方が不思議かと存じます、女子衆 ( おなごし ) も武家では御座いませんので」
「清吉とお駒は船宿の主と女将じゃ、最も清吉は岡っ引きでもあるがな、お高とお花は料亭の女将とその娘じゃ、其方らも揚羽亭と言う料亭の名くらい知っておろう、舞は清吉とお駒の娘じゃ」
今度は小兵衛が紹介した。
「某と平四郎とこの三郎太は武士と言え様なぁ~、三郎太の隣の小さいのは平太と申して清吉殿とお駒殿のお子じゃ、舞の兄者じゃな」
小兵衛の後を平四郎が継いだ。
「・・・」
「我々の技量は皆様方の何方と何方の間位なので御座いましょう」
「其方らにここに居る者達の技量の並びが解るかな」
小兵衛がまた意地悪な問いを放った。
「皆様が竹刀で戦こうた場合の勝者で御座いますね」
「竹刀と言うたな・・・まぁ良いか、どうじゃ解るか」
「暫し刻を頂けませぬか」
「良かろう、昼餉が済み茶の肴にしょうかのぉ~」
元柳生の新参者二人は皆の顔と仕草や態度を確かめては話会っていた。
他の何時もの面々は城はどうだっただの上様の印象はどうだのと二人が居ないかの様にわいわいがやがやと話が盛り上がっていた。
「技量の高い低いも気になるが、お主、思わぬかこの光景を見て」
「其方もか・・・家族と申していたが本当の家族でもこれ程仲睦まじい光景など見た事も無い」
「それよ、まるで館長の小兵衛殿が隠居でその奥方が居られ龍一郎殿と妻女が居られ小兵衛殿の他の倅達と娘達とその孫達が話ておる様に見ゆる」
「そう見えるなぁ~」
色とりどりの野菜と饂飩を煮込んだ大鍋から丼に取り分けられ皆が大いに食べた。
新参者二人は又驚かされた。
その量にだ、まだ子供の平太や舞でさえも二人の二倍程も食べた。
他の大人たちの食べた量は言うに及ばず大量だった。
食べ終わり皆で茶を飲み始めた。
「さてと、では、二人の返答を聞こうかのぉ~」
「はぁ、二人で話し合いまして皆様の家族に加えて下さい、お願い申し上げます」
「まず、私の居りました尾張のお話をさせて頂きます・・・尾張の柳生には裏の技が御座います、私はまだまだ下級の剣士でしたので一つだけしか教えては頂けませんでしたが確かに裏の技が御座いました、その一つは剣を練り合わせた際に柄元を相手の鳩尾に送り込む技でした」
「江戸の柳生にも裏が御座います、ですがその技を殿が使いましたが館長の小兵衛様には通じませんでした、出足の右足を踏み着け動きを封じる物でした・・・何故通じ無かったのか不思議です」
「簡単な事よ。我ら橘にも裏、と言うよりも卑怯な技が有り、その内の一つと言う事じゃ。
つまりは我らもあの技は使えるし又その対応策もあると言う事よ」
小兵衛が皆に変わり答えた。
「橘ではあんなの技の中にも入らないわ」
舞が可愛い声で大胆な事を平然と言った。
「痛い」
「あ痛い」
元柳生の二人が同時に頬に痛みを感じ思わず叫んだ。
そして二人の前に小豆の粒が落ちたのを見た。
二人は誰も自分達に投げた仕草をした者が居ない事を知っているので周りを見回し誰も居ない事にさらに不思議と驚きを感じた。
「誰が何をしたか解ったかな」
小兵衛が問うた。
「・・・」
「・・・解りませぬ」
「おいらだよ」
平太が言った、直後に再度二人が「痛い」と叫び再度二人の前に小豆が落ちた。
「解るまい・・・橘にはかような技もあるのじゃ、柳生には無いはずじゃ、柳生だけではなかろうなぁ。
其方らも家族になる故、その内鍛錬する事となろう。
おぉ忘れておった、我らは家族と言うておるが外の者がおる刻には内弟子と呼んでおる。
道場に住み込んでおる者じゃ、我らの事はどの様な拷問を受けようとも言うては成らぬ。
覚悟せよ、約定せよ」
小兵衛が少々自慢化に言い続けて少々怖い言葉も付け加えた。
「・・・」
「・・・」
「お前様、余り脅しては成りませぬ、お二人共、今は自信は無くとも我らと共に修行・鍛錬する内に秘密を守る信念・自信が生まれてまいります」
お久が優しく諭す様に助言した。
「我らに出来ましょうか」
「私に厳しい鍛錬が耐えられましょうか」
「私にも耐えられたのですから大丈夫と思うけど」
一番幼い舞も言い添えた。
「それで、この中で一番技量の劣る者が誰・・・と思うたのかのぉ~」
「・・・はい、本来ならば幼い舞殿とお答えする処で御座いますが、舞殿は少年組とは申せ次席に成られました、失礼とは存じますが、そちらにお座りの女子の方と思われます」
小兵衛の再度の問い掛けに二人を代表して元尾張柳生の若者が答えた。
「この刻限は内弟子しか居らぬ、此れより道場にて試し合いを行う、お花、相手をせい」
「はい、畏まりました」
お花が元気良く、嬉しそうに返事をした。
新参者の二人は顔を見合わせ「違ったのか」と言う風情を見せた。
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