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それから四半刻後、月番の南町奉行所に投げ文が有った。
その文は見つけた門番が宛名を見て大急ぎで同心に渡され受け取った同心は、これまた宛名を見ると大急ぎで与力に、与力は年番方与力へ、年番方与力から内与力へ、最後に宛名の奉行に渡された。
封を切った奉行の大岡は一度黙読するともう一度ゆっくりと黙読し内与力に緊急出役を命じた。
奉行所は奉行の出役に大慌てとなった。
大岡は出役装束を着る前に文を一通認めた、その文を内与力の一人に託し代役で届けさせた。
その文の届け先は大岡と入魂の付き合いのある目付の役宅であった。
大岡は出役の組を五つに分け与力に指揮を委ね仔細を説明した。
その説明を聞いた与力たちは驚きと興奮に指揮が高騰した。
今回の捕縛は御禁制の品の中でも最重要とされる阿芙蓉に関する物だけに、忠相は使える手駒を全て当てた。
忠相は配下の者たちを三つの組に分け、組頭に年番方与力と与力の十兵衛を当て、残りの一組は自らが指揮する事とした。
年番方与力は三十名の配下を連れ廃寺へと向かい、そこでこみ包みに包まれた辰三の手下たちを見つけ小伝馬町の牢屋敷へと引き立てて行った。
与力の十兵衛も配下の者たちを連れ、こちらは辰三の家へと向かい、そこで後ろでに縛られ猿轡を噛まされた辰三の手下たちと辰三本人を同じく小伝馬町の牢屋敷へと引き立てて行った。
忠相は佐久間頼蔭(よりかげ ) の屋敷の表と裏の門に配下を配置し門前で目付の到着を待ち合流すると梯子を使い門を開けさせると忠相と目付とそれぞれの配下が屋敷に踏み込んだ。
屋敷内は森閑として聞こえる音は忠相たちが立てる音だけだった。
余りの静けさに逆に警戒心が高まり、静々と前進した。
玄関から順に部屋と言う部屋を探したが人気が無く、いよいよ主の住む部屋へと踏み込むと、そこには信じられない光景があった。
主の頼蔭と共に配下と思われる武士や用心棒と思われる武士たち、奉公人と思われる人達が縄で後ろでに縛られ猿轡を噛まされていたのだ。
そして彼らの前には山積みになった阿芙蓉と思しき包みが置かれてあったのである。
忠相と目付は早速包みの一つを手に取り阿芙蓉である事を確認すると配下の者たちに命じ小伝馬町へ引き立てさせた。
そして文机の上には証拠となる阿芙蓉の取引の証書が山積みされていた。
忠相と目付は一部の内容を確認し容易ならざる書き留めを見つけた。
其処には城の重職に着く者の名もあったのである。
一人は大目付、一人は御典医、一人は大奥の年寄りであった。
忠相と目付はお互いを見つめ合い頷き合うとその一冊を忠相が懐に仕舞い他の書付を配下の者たちに運ばせた。
本来なれば、武家の旗本を小伝馬町の牢屋敷へ入れる事は無い、だが旗本を監督する目付が同道しているが為、旗本の職責剥奪を評定に掛けると明言し全員を牢屋敷送りとした。
引き立てられた旗本とその配下、辰三とその配下、合わせて七十三名を牢屋敷の二つの牢に押し込んだ。
辰三が喚き、旗本の佐久間頼蔭(よりかげ ) も不当な扱いだと喚き散らしてしたが奉行所の与力・同心は勿論牢屋敷の牢番も全く相手にしようとはしなかった。
彼らは役目柄、甘い言葉には慣れており、それに乗った結末も十二分に知っていた。
それでも時々は誘われる者もいて、その結末も見て来ていた。
忠相と目付は急遽、城へ上がり御側御用取次の加納に目通りし上様との面談を願った。
御側御用の加納に見つけた書付と仔細を述べ至急の面談を願った。
事の仔細と証拠の書付を見せられた御側御用の加納は上様の元へ出向き全ての予定を取りやめ忠相と目付の面談とした。
「忠相、酒井、ご苦労じゃな」
「上様、お忙しい処、至急の面談恐れ入りまする」
「して、証拠の書付とやらは」
「はい、此処に」
忠相は懐から帳面を出して加納に渡した。
加納から受け取った帳面を開き黙読し始めて吉宗は時々唸り最後まで読むと帳面を閉じ暫く瞑目した。
「両名、手柄であった、だが、解らぬ事がある、この探索を進めて居れば必ずや此処に記された者たちからの横槍が入るは必定ではないか、いかにして、この者らの眼を欺いたな」
「はぁ、正直に申し上げます・・・奉行所への投げ文にて捕縛へ向かいました」
「何、投げ文じゃと~・・・悪戯かも知れぬでは無いか」
「その文が達筆にて御座いまして・・・」
「字が綺麗故、悪戯では無いと思うたか」
「上様、私、文の字に見覚えが御座いました」
「何、其方の存じおりの者・・・そうか、そうか、成程のぉ~」
「失礼ながら、上様、上様も忠相殿も投げ文の主をご存じで御座いますか。
我らが駆け付けました刻には既に皆が縄で縛られ我ら何の苦も無く引っ立てただけに御座いました。
投げ文の主の手柄と存じます、七十名を超える数の捕縛で御座いました。
その様な御仁にお二人は心当たりが御座いますのでしょうか」
「酒井、これ以上の詮索はするで無い・・・其方と忠相の手柄で良いでは無いか。
その事よりも、此処に記してある三名の者の処置、いかがいたす所存じゃ」
「至急、評定を開き三名と旗本をその場に立ち会わせとう御座います」
「大奥の年寄りじゃぞ、評定と言う訳にも行くまい」
「はぁ、上様の名代として、ここに居られる加納様のご出席を頂ければと存じまする」
「爺を名代にか・・・良かろう、考えおったな、忠相、手が無くば儂が出ると言うたものを・・・」
目付の酒井が呆気に取られた顔で三名を順番に見つめた。
上様が評定に出るなどと前代未聞な事、それさえも考えさせる程の信頼が忠相にあると言う事実に驚いた。
翌日、城内に大目付罷免・御家断絶、御典医罷免・御家断絶、大奥・年寄りは宿下がりの上、即刻の捕縛との噂が流れた。
その頃、市中では辰三の悪行の数々と刑が書かれた読売が売り出された。
その最後に旗本の一人も改易になったらしいとの仄めかしも記されてあった。
その読売を読んだ、聞かされた中には辰三に給金を吸い取られていた娘たちもいて胸を撫で下ろし、岡場所に売られた娘は里へと帰る支度を初めた。
中でも辰三に寄って闇で妓楼を買い取ろうとしていたとの件では吉原会所が大騒動になっていた。
全くの寝耳に水で気づいてもいず、何処の妓楼だ、ガセネタだ、と大騒ぎになっている処に中妓楼の主が四郎兵衛に面談を求めに来て、読売が事実である事が判明した。
主は読売にまでなっては隠し通せる物では無いと観念し四郎兵衛に許しを請いにやって来たのである。
四郎兵衛は誰かは知らねど、この一件を始末してくれた者に借りが出来たと思った。
<つづく>加賀の若様 奮闘記 #345 <墨堤 散策> 2026.10.04
加賀の若様 奮闘記 #344 <町年寄り 奈良屋> 2026.04.09
加賀の若様 奮闘記 #243 <吉宗からの呼び… 2026.03.23