PR
キーワードサーチ
カレンダー
龍一郎からの探索指示が出た五日後の夕餉にまた皆が集まった。
「まずは儂と佐紀が調べたことを申す、佐紀、願おう」
「はい、旦那様。奥山の顔役はやはり香具師の元締めで御座いました。倉蔵と申す者で御座いました。
見世物小屋から寺社に替わって場所代を徴収し手間賃を得ております。評判は小悪と言う処でしょうか。地域の顔役は 材木商の山城屋藤右衛門様で御座います」
「と言うことかのぉ。倉蔵には配下に与太者が三十人と用心棒浪人が五人、女将に倅と娘と女中が三人おった。浪人者の技量はそこそこでな、と言うても一人づつならばお雪でも勝てよう、神田はどうであったな、平四郎殿」
平四郎がお峰を見て頷いた。
「では、私がお知らせ致します。神田は明神様が御座いますので参道の店は夜半まで賑わいを見せておりました。 こちらも参道の場所代を香具師の元締めが集めておりました。奥山と同じで土地は明神様からの借り物ですので場所代を払うております。
元締めは口入屋の井筒屋藤兵衛と申す者で御座います。
配下に与太者が三十六人、用心棒浪人が八人、女将と跡継ぎの倅と次男に女中が四人おりました。土地の借り料を地子と申しまして、この地子が都度に値上がりしております。
香具師の元締めの取り分を増やしておるのです。
断ろうものなら与太者や用心棒の出番の様で御座います。
この近辺の顔役は 材木商の奈良屋茂左衛門の申す方で御座いました。
このお方は近隣で火事がありますと鳶の者たちと火消しの任に当たっておるとのことで、とても人望のある御仁のようで御座います」
「火消しの元締めですか、うむ、それも考えねばならぬな。その口入屋は邪魔のようだの。どうだな」
「はい、今の主と嫡男は変わりようがありませんが次男は使えそうです」
「我らの仲間にせよと申すか」
「そうしても良いように思われます、と言うのも近隣の子供達を集めて寺子屋を開いております、それも銭を取っておりませぬ。昼餉も出しておりまして、これも無賃です」
「おぉ、その者に店を継がせるのも良いな。では、芝を聞こう」
「お駒、お前がお知らせしねぇな」
「はいよ、お前さん。芝も芝神明様が御座いますので賑わっております。こちらも 香具師の元締めがおりまして松吉と言う者で御座います。こちらは至って堅実で御座いまして、配下は下働きが五人だけで、女将と娘が一人に小間使いの小娘が二人に老人が一人おりました。用心棒侍はおりませんでした。
地子も店子が納得する額でしてね、歩合もきっちり守っておりまして、支社に収めております。
ですからでしょうか、最近、近場に新たに口入屋が与太者と浪人者を集めて参道の店に悪さを致しておる様です。その都度、香具師の処の者が出張っておる様です。どうも浪人者を雇うつもりの様です」
「浪人者として清吉郎と言いたいが其方は岡っ引きの顔が売れておるでな。平四郎殿と替わるかな」
「龍一郎様、岡っ引きの装束と髪型は町人です、浪人姿になれば似た者ですみますって大丈夫ですよ。女房持ちで入り込みます」
「良いでしょう。そうじゃ、平太と雪の子持ちではどうだな」
「平太もですかい、お雪ちゃんは良いのですがな」
「実の子に何て事を言いやがる。拗ねるぜ」
「与太話はそれぐらいでな、その新興の一家を潰してしまいなさい。始末したなら、松吉には橘道場が後見していると喧伝 ( けんでん ) しなされ」
「下働きの若者頭が出来た男で御座いまして、親分の一人娘とくっ付けば安泰なんですがね」
「二人は恋仲なのですか」
お駒の言葉に佐紀が興味を 唆 ( そそ ) られたのか問うた。
「 そこまではまだ解りません、中に入れば直ぐにも解るでしょう」
「 そうなると良いですね」
「 はい、二人は女雛男雛と言う言葉がぴたりなのですよ、お佐紀様」
「 ますます良いですね」
「 まぁ、それは清吉郎殿がお駒殿と子供らと入り込んでの楽しみとしようではないか。次は上野です、平太」
「はい、龍一郎様、しかし、どうしてこうも江戸の町には香具師が多いのですかね。上野は権現様の土地ですよ、それなのに与太者が多い多い、こちらの 香具師の元締めは蓑助と言いまして、配下に与太者が四十三人に浪人者が十二人、女将と倅と娘が二人です、娘の一人は近々、米屋に嫁に行きます、それと下働きの老夫婦と小娘が二人おります。稼ぎは祭りの場所代だけです。まぁ、真っ当な方でしょう」
「大体ニ丈の、二十尺の大仏は大きかろう」
「はい、でっかいのなんの、なぁ、お雪ちゃん」
「はい、すっごく大きかったです、婆様にも見せたいと思いました」
「うん、婆様がもう少し元気になったら行くと良い。しかし、平太に真っ当などと言われるとはな。そのままでも良いかな」
「それが、以前は配下と用心棒侍は半分程だったらしいのです、近頃、増やしたようで、どうも、浅草を狙っているようなのです」
「ほう、浅草をのぉ。それで浅草はどうですかな、お高殿」
「はい、浅草も浅草寺の門前の土地を寺社に借りて居りますので替わりに一家が銭集めをしております、香具師の元締めは源次と申します。配下は町人くずれが二十二人、浪人が四人で女将と女中が三人と飯炊きの爺様が一人で御座います。評判は悪くは御座いません」
「その人の良い処を上野の香具師が狙っているかのぉ」
「さて、龍一郎、まずは何処を始末するかな。やはり、芝かのぉ」
「はい、父上、芝神明を手始めにしましょう。が、併せて平四郎殿に浅草の一家に用心棒として入って頂きましょう」
「龍一郎、用心深いのぉ~、其方は」
「平四郎殿、お峰殿と夫婦では如何かな」
「夫婦で御座いますか」
「二人に異存が無ければじゃがな」
「某には異存はありませぬが・・・」
「お峰殿はお嫌かな」
「・・・いいえ、異存はありませぬ、龍一郎様」
「では、願おう、何時、上野の一家が何時来るやも知れぬでな、明日にも願おう」
「はぁ、畏まりました」
「あぁ、はい」
「清吉殿、他に江戸に人が集まる処は無いかな」
「そうですな、増上寺、愛宕神社、回向院、目黒不動、亀戸天神と言った処でしょうか」
「そうじゃな、分担は決めぬが、おりを見て探索を心がけて貰いたい」
皆が頷き、この日の会の幕が閉じ、四方山話となった。
< 参考 >-----( 吉宗期に人出が多かった主な場所 )---------------------
・寺社・名所
・上野東照宮・寛永寺
・ 将軍家ゆかりで格式が高く、庶民も花見(上野山の桜)や参詣で大賑わい。
・浅草寺と奥山
・ 江戸最大の観音信仰の場。門前町「奥山」には見世物小屋・操り人形・
見世物動物などが並び、庶民娯楽の一大拠点。
・芝神明(芝大神宮)
・ 伊勢神宮の御分霊を祀るため「関東のお伊勢さま」として人気。縁日
(芝神明祭礼)は大賑わい。
・神田明神
・ 江戸総鎮守。神田祭は将軍上覧の天下祭として盛大。
・富岡八幡宮(深川八幡)
・ 深川の総鎮守。例祭(富岡八幡祭)は神田祭と並ぶ江戸二大祭の一つ。
・増上寺(芝)
・ 徳川将軍家の菩提寺。将軍の法事や葬列があると多くの見物人が押し寄せました。
・周辺の人気社寺
・目黒不動(瀧泉寺)
・ 「江戸五色不動」の一つ。庶民の行楽参詣の地として大人気。門前町も繁盛。
・王子稲荷(王子神社・王子稲荷)
・ 稲荷信仰の中心の一つ。正月の狐火伝説でも知られ、参詣者が多かった。
・その他
・ 湯島天神(学問の神)、愛宕神社(出世の石段)、谷中感応寺(猫塚でも有名)
なども人出がありました。
--- ---------------------------------------------------------------------------’
加賀の若様 奮闘記 #345 <墨堤 散策> 2026.10.04
加賀の若様 奮闘記 #344 <町年寄り 奈良屋> 2026.04.09
加賀の若様 奮闘記 #243 <吉宗からの呼び… 2026.03.23