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2025.10.02
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カテゴリ: 自作小説-時代
​ < 佐紀の懐妊 > ----- #329


「おぉ、上野の蓑助一家は潰れたぜ、親父」

「お雪ちゃんも、働いたかい」

「ほとんど平太さんが相手を片付けました、私は少しだけです」

「お雪はまだ修行を始めたばかりですよ、これからです、辛くはないですか、お雪」

「はい、全然辛くはありません、今日の鍛錬で明日の自分がどうなっているかが楽しみです」

「それは良い心持ちです、皆もその気持ちです、一緒に精進しましょう」

「はい、おっかさん」

お雪はここでのお駒が母親なのでそう呼んだ。

「お雪、良い返事です、道場へ戻っても、おっかさんと呼んでも良いですよ」

「はい」

「おっか~、船宿・駒清は女将がいなくて大丈夫なのかい」

「葉月さんが、若女将を務めてくれてね、板長は正平がいるし、双角さんもいるからね」

「浅草で葉月さんと弥生さんに会ったぜ」

「おや、そうかい、二人もまだ慣れない勤めに鬱憤が溜まっているのかねぇ~」

「それでか、お佐紀様が名指しで仕事を振ったんだ」

「その辺は龍一郎様には解らないわね、まぁ、あの人は仙人だから普通の人の気持ちが解らないのさ」


そんな船宿・駒清では双角が葉月に尋ねていた。

「浅草は片付きましたか、女将さん」

「はい、勿論です、上野の蓑助一家は無くなりました。新たに上野を何方が仕切るのかですね」

「またぞろ、悪いのが出て来なければ良いがな」

「その時はまた、潰しましょう」

「今度は儂の出番を龍一郎様が作ってくれると良いがな」

「替わりの板前を育て無ければ無理でしょう」

「女将が主と芝に出張っていて、替わりの女将が一晩とは言え浅草に出張り、儂は板場か」

「板さんと女将の役目が違います、板さんはいなければ料理が作れませぬ、女将は挨拶が出来ないだけのことです。料理を作る訳でも、料理を運ぶ訳でもありませぬ」


料亭・揚羽亭の女将の部屋でも弥生が尋ねられていた。

「弥生さん、浅草は片付きましたか」

「はい、女将、上野の蓑助一家が無くなりました」

「次が何処の組が仕切りますかね」

「何処だろうが、悪けりゃ、龍一郎様が黙っちゃいないよ、揚羽」

「次は私の出番も作ってくれないかしら、龍一郎様は」

「揚羽様、私と葉月姉様の出番を下さったのは、お佐紀様のようです」

「そうですか、仙人か天狗の龍一郎様の弱みはお佐紀様でしたね、今度、お佐紀様に願ってみよう」


「お前様、次は芝ですかね」

平太、お雪、葉月、弥生の四人は持ち場に戻る前に道場に寄り龍一郎たちに知らせていた。

「龍一郎、儂にも働かせろ、毎日、鍛錬だけでは、呆けてしまうわい、のぉ、お久」

「そうですよ、龍一郎殿」

「父上、母上、今回の人選は佐紀で御座います」

「まぁ、佐紀、其方でしたか」

「はい、葉月さんと弥生さんは慣れない勤めで鬱憤が溜まっておるのではと思いました」

「成程、そうですね」

「母上には、お糸、お鈴、お春、お夏を育てる役目も御座います。お糸、お鈴、お春、お夏どうですね、辛いことはありますか」

「お佐紀様、慣れぬことばかりで御座います、疲れます、ですが楽しいです。お料理、お習字に読み書き、言葉使い、行儀作法、剣術、身体作り、毎日、自分が変わっていくのが解ります。楽しい、楽しみです」

「何が一番楽しいですか」

お糸は刀を構えるように両手を前に出して構えた。

「剣術です」

「ほほぅ、剣術が楽しいてか」

小兵衛が驚いたように声を出した。

「鈴さん、其方はどうですね、苦しいこと、辛いことはありませぬか」

「ありません、毎日三回も白飯が食える、いえ、食べられるだけで、お姫さんになったみていだ」

「鈴、言葉使いを直しなさい」

「お春さん、其方はどうですね」

「はい、毎朝、剣術の修行が出来るだけで、私は満足です。楽しいことばかりで、辛い、苦しいことなど何もありません。お佐紀様」

「お夏はどうですね」

「料理も手習いも行儀作法も教えて貰うて嬉しい、剣術が慣れぬで困っとるが楽しいですだ」

「辛くは無いですか、続けられそうですか」

「はい、なんも辛くはねいだ。それに、お春お嬢様には申し訳ねいだすが、親分の処は飯は三度、三度食べられて良いのだが、皆の言葉が怖かっただ、ここは、みんな優しいだ、お佐紀様」

「お夏、一つ年上だから、お夏さんと言うべきね、お夏さん実は私もあの家は嫌いです、皆の言葉も態度も荒いから」

佐紀と久は優しい眼で四人を見ていた、いや、五人だった、糸の膝の上で龍之介が眠っていた。


「旦那様、父上、母上、お知らせしたいことが御座います」

「何だな」

「佐紀、其方」

「はい、母上」

「何じゃ、何じゃ」

「お前様、子ですよ、佐紀にややこが出来たのですよ」

「でかした、佐紀」

「はい、私も嬉しいのですが、鍛錬を控えねばなりませぬ。それが辛い」

「全く、其方ら二人は鍛錬の虫じゃな」

「天狗の夫婦ですよ、お前様」

「確かに、天狗夫婦じゃな、お久」

<つづく>

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最終更新日  2025.10.02 06:00:06 コメントを書く


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