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大震災直後に書いた前号 第280回 財政・金融政策総動員を!がんばれ日本(2011年3月16日)で、 「日本はしばしば正解と正反対の経済政策をやってしまう」「増税など正解と正反対の事をやってしまう典型だ」と申し上げました。しかし信じられないこと に、ここ数週間で復興増税の議論が本格化、本当にますますその正反対の方向に突き進んでしまっています。このままだと復興増税という人災によって、日本経 済が二度と立ち直れなくなるかもしれない、危機的状況だと感じています。 問題の第一は、復興増税案です。数百年に一度というショックを目に当たりにし、今後時間の経過と共に消費者心理、投資家心理は冷え込んでいくでしょ う。短期間なら耐えられても、原発処理に少なくとも数カ月かかる、電力供給が不足等の状況では、夏~秋にかけて存続の危機にさらされる会社が続出してくる でしょう。復興に資金が必要なのは当然ですが、だからと言って可能な限り義援金を拠出した国民の、乾いた雑巾から何が絞り取れるというのでしょうか。肺炎 は悪化すると命取りになってしまいます。そうなると、そもそも財政健全化など二度と実現不可能になってしまいます。財政健全化は、まず肺炎をきっちり治 し、十分に元気になったと確認できてからというのが筋でしょう。 第二に、あと一歩で実現の見通しだった法人税減税が見送りとなってしまう方向です。私は法人税減税は「資本の金融緩和」 第277回 資本の金融緩和(2011年2月4日)と して、日本の競争力奪回に欠かせない策だと考えてきました。そして大震災後、法人税減税の必要性はむしろ格段に大きくなったと考えています。というのは、 復興のためにこれだけ株主資本が必要な時はないからです。復興に政府だけをアテにしていて足りるはずがありませんし、第一政府は原則、民間に資本を投入す べきではありません。このような中、リスクを覚悟して、企業に資本を投入してくれる人を優遇する環境作りが必要なのです。日本だけでは足りないでしょうか ら、外国の資本も取り入れるべきです。幸い今、アメリカでもヨーロッパでも、日本に対する支援意欲は旺盛です。これらの資本をスムーズに取り入れるため、 法人税減税は非常に有効な手段なのです。ちなみに全米経済研究所によると、日本の実効法人税率は33.5%でダントツの世界1位。22.5%で世界2位の アメリカを大きく引き離しています。そもそも日本の株主資本利益率は4.83%(TOPIX:直近12カ月)に対し、アメリカは22.09% (S&P500指数:直近12カ月)ですから、いかに日本が資本の調達に不利な国であるかが分かります。 それでは復興にかかる財源はどのようにファイナンスすべきなのでしょうか? 第一に、数百年に一度のショックなのですから、これこそ子供や孫など、数世代にわたって負担させるべき性質のお金です。これまでのような、子供・孫の代ま で残してはいけない借金とは正反対です。ですので国債増発で賄うのが合理的ですし、それも無理に増税をして短期間で返済しなければならないような性質のも のではありません。 第二に、どうしても復興増税をやりたいのであれば、市場原理に逆らわない増税をやるべきです。それは消費したり、投資したり、即ちこれから日本経済の回復 に貢献してくれる人に対して増税するのではなく、反対に貯蓄する人や現金を貯める人に対して増税する事です。例えば、預金利子等の源泉徴収税率を現行の 20%から、40%に引き上げる事などが考えられます。 第三に、日銀による国債購入を大胆に増やす事です。金融危機後、アメリカもヨーロッパも中央銀行が国債を大量に買ってマネー供給を30-40%増やし、一 方で日本は殆ど何もやらずマネー供給が3%しか増えていないから円高が進行しているのです。ご参考までに我々が国際マネー需給から割り出した適正ドル円 レートは3月末時点で80円36銭を示しており、実際のレートと数円の差しかありません。即ち最近のドル円の水準は投機的でも何でもなく、マネー供給を反 映した、極めて適正なレートだという事です。「投機筋が仕掛けている」と誤解して為替介入を繰り返し、外国為替資金特別会計の損失を膨らませている現状は とても愚かに見えます。他国に対抗して日銀が国債購入を増やす事は、(1)復興資金を利払い、償還期限なしにファイナンスできる、(2)為替介入のような 小手先の操作ではなく、マネー供給増加を通じた正攻法の円高対策になる、(3)現金の実質価値低下を通じて貯蓄に対する復興増税に似た効果を生む、など一 石三鳥の効果が期待できます。 ちなみに大震災から一週間後に為替介入が実施されましたが、為替介入資金は今回も結局アメリカ国債や欧州国債を購入。またもやこれだけ日本が大変な時に、外国政府の財政をファイナンスする結果となりました。復興のためにいくら必要でも、自国の財政はなかなかファイナンスしようとしないのとは好対照です。 アメリカが同時多発テロや金融危機という、100年に一度と言われる危機を乗り越える事ができたのは、市場原理に逆らわない政策を実行してきたから です。いくら財源が必要でも一時的に財政を緩和して消費や投資を優遇し、市場の力を味方に付ける事ができたからです。しかし今日本が実行しようとしている のは市場原理とは正反対の方向です。例えば財源が必要だからといって単に増税するのは、大震災という大きなショックを受けて市場の需要曲線が下方シフトす る事を理解していないからではないでしょうか。法人税減税を見送るのは、世界的に見ていかに日本の法人税率が高く、よってこれだけ必要な時にも資本が集め にくい状況にある事を認識していないからではないでしょうか。為替介入がよく実行されるのは、そもそもどうして円高が進んでいるのかを理解しようとせず、 投機のせいだと盲信しているからではないでしょうか。しかし今一度考えてみてください。世界経済が市場メカニズムの上に動いているにもかかわらず、市場原 理に添った政策を実行して来なかった、又は逆らってきた結果がこれまでの「失われたXX年」なのではないでしょうか。 これまでなら、市場音痴だから、で済んだかもしれません。しかし今回は、大震災に屈服して国民の生活水準低下に甘んじるのか、それとも日本経済に奇 跡の大復活を起こさせるのか、の重要な分岐点です。誰かに愛されていたに違いない、尊い3万人近くの命を無駄にしないために日本が目指す方向は、自ずと決 まっていると思います。 (4月15日記)
2011.04.18