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4月18日、アメリカの格付け会社スタンダード&プアーズはアメリカの格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げました。これにより、 この先2年以内に、33%以上の確率でアメリカは最上級格付けであるトリプルAを失う事になりました。これを受けて同日のダウ平均は前日に比べて一時 250ドル近く下げる場面がありました。 それでもテクニカルなデフォルト(債務不履行)を別にすれば、アメリカ国債が実質的にデフォルトするような可能性は限りなくゼロに近いでしょう。し かし「相対的に」考えた場合、アメリカがいまだにトリプルAを付与されているのは不思議です。むしろ私は、とっくにダブルAに引き下げられていて当然だと 思っています。「相対的に」既にトリプルAでない理由としては、いくつかのポイントが挙げられます。 第一に、連邦債務の急増加です。リーマンショックが起こった2008年9月時点の連邦債務は9.6兆ドルで、これはアメリカのGDP(国内総生産) の66%に過ぎませんでした。この時点では90年代以降のアメリカとしては極めて平均値に近い比率であり、全く問題ではありませんでした。しかしその後、 公的資金注入をはじめとした金融機関救済、相次ぐ大規模な景気対策を受けて連邦債務は急増加、現時点で14.3兆ドルでGDPの95%を超えてきていま す。連邦債務がGDPの95%を超えるのはほぼ65年ぶり、戦後初めての事です。しかも3月には民主党と共和党が財政合意に達せず、もう少しで政府機関閉 鎖となる所でした。そして現在、連邦債務額は既に法定上限を超えてきており、ファイナンスは綱渡りの状態が続いています。 第二に、財政危機が問題になっている欧州との比較です。債務のGDPに対する比率を国際比較してみると、日本が225%でダントツの一位。次にギリ シャやイタリアが120%前後、そしてポルトガルやアイルランドと並んでアメリカが100%弱で登場してきます。ちなみにポルトガル、イタリア、アイルラ ンド、ギリシャは欧州の財政危機でよく挙げられるPIIGSの中の4カ国です。さらに去年始まった欧州の財政危機は、国債の外国人保有比率の高い順に訪れ ている事が分かります。2009年末時点の国債の外国人保有比率はポルトガルとアイルランドが85%、ギリシャが70%。そしてアメリカは47%で、「次 の危機」が懸念されたスペインの43%よりも高い比率です。もちろん比率でなく実額で見れば、アメリカの数値はいずれも突出しています。 第三に、日本との比較です。日本国債は現在、AAマイナスで見通しは「ネガティブ」。確かに日本の債務のGDPに対する比率は突出して高くなってい ます。しかし国債の外国人保有比率はせいぜい6%で、しかも為替市場で円が最高値。実際、通貨発行権を持っている日本政府が自国通貨建てで発行している国 債をデフォルトなど、まず有り得ないでしょう。もちろん財政状態が悪い、というのは分かります。しかし欧州危機の例を見れば、債務のGDP比率よりも、国 債の外国人保有比率の方が重要な事は明らかです。しかもアメリカはここ数年、財政のマネタイゼーションをやりまくった結果、ドル指数は最安値近辺にあるの です。 以上から「相対的に」見れば、アメリカ国債はとっくにダブルAに引き下げられていてもおかしくない事が分かります。なのに今更、格付け会社が格付け 見通しを引き下げるという、既に分かり切った事を発表することによって、市場は何故これほど反応してしまうのでしょうか。それは、第264回 格付けの不思議(2010年6月4日)で書かせていただいた通り、トリプルAを妄信している投資家がまだまだ驚くほど多いから、としか言いようがありません。 そしてそうなっている一つの要因はメディアにあるでしょう。格付け変更など、一つの民間会社が判断を変更しただけなのに、その報道の仕方は過剰とし か言いようがありません。第一に、金融危機で問題になった金融保証会社(モノライン)もトリプルAでしたし、リーマンショックを前後して実質破綻となった 政府系住宅金融機関も、世界最大の保険会社も、みなトリプルAでした。デフォルトが相次いだ、住宅ローン証券のシニア部分の多くにもトリプルAが付与され ていました。格付け変更を報道するのであれば、これまでの格付け判断がどれだけアテにならなかったかも同時に報道すべきです。 第二に、そもそも格付け会社は債券の発行体に甘い傾向がある事を念頭に置くべきです。これは通常、格付け会社の収入源が債券の発行体である事から生 じる問題です。なのでこの利益相反を除去するには、格付け会社は本来、発行体ではなく、投資家から手数料を得るべきなのです。実際イーガン・ジョーンズと いう格付け会社はこのモデルで、サブプライム問題の時にも他の格付け会社に先がけて、いち早く格下げを発表していましたし、今回のアメリカ国債にしても、 既に3月に格付け見直しを発表していました。しかし殆どのメディアはイーガン・ジョーンズの格付け見直しは報道していなかったのではないかと思います。 実質的には既にダブルAのアメリカ国債に対して、表面的な「格付け見通し」が過剰に報道される事によって、それまでトリプルAを妄信していた投資家がパニックを起こす。金融危機を通じて学んだ筈だった教訓を、投資家は再び忘れてしまっているようです。 (5月10日記)
2011.05.12