2006年07月07日
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 株式に限らず、投資やトレーディングの世界では、論者によって、「長期」と「短期」について、多くの意見が存在し、それらには、しばしば誤解と混乱が見受けられる。

 加えて、長期と短期の区別に関して、「投資」と「投機」の概念の区別が混じり込んで、この投資と投機に関して論者によって様々な意見があり、議論が一層複雑になっている。
 本稿はこれらの概念と、願わくは正しい知識の、なるべくコンパクトな整理を目指すものだ。はじめから、「投資」、「投機」という言葉を使うと議論が混乱するので、両方を合わせて、運用資産を増やそうとする行為全般に「運用」という言葉を使い、先ず、両者を区別せずに行けるところまで、話を進めてみたい。

◆長期運用に関する誤解
 運用における「長期」と「短期」に関する誤解で、おそらく最も広く普及していて、かつその影響が深刻なのは、「長期投資では、リスクが縮小するので、投資期間が長い場合には、大きなリスクを取ることが出来る」という考えだろう。これは、投資教育のテキストにも堂々と載っていることがあるし、新聞・雑誌のマネー運用特集にも、ご丁寧にもデータのグラフ付きで(見せ方を誤ったグラフなのだが)載っていることがある。
 また、古いタイプのファイナンシャル・プランナーのアドバイスには、「あなたの場合、運用期間が長いので、ある程度リスクが取れます・・・」式の、こうした誤りに基づいたものが数多く見受けられる。
 長期でリスクが縮小するという説の主旨は、あらまし次のようなものだ。
 たとえば、計算を簡単にするために、リターンの期待値がゼロでリターンの標準偏差が10%で、リターンはランダムに発生し、正規分布するとする。この場合、「たとえば、2年間の運用の年率リターンの標準偏差は10%×(√2)÷2≒10%×1.414・・・÷2=7.07%となり、1年間の運用よりもリスクが縮小している。4年間の運用のリスクを同様に計算すると、10%×(√4)÷4=5%と、1年間の運用の半分になっている。同様に、運用期間が長くなれば長くなるほど、リスクは縮小するのだ」というものだ。この場合、リスクを「年率リターンの標準偏差」で評価していて、これが縮小するなら、リスクに対する拒否度(リスクの追加に対してリターンの追加をどの程度求めるかの度合い)が一定だとすれば、運用期間が長ければ、大きなリスクを取ることが出来る、と話を展開していることになる。

 もともと、人の効用は、富の額に対して計算されるが、富の額のばらつきは、2年間の運用だと、1年間の運用の約1.414倍だし、4年間の運用だと2倍になる。つまり、先に仮定した条件で、それぞれ-1標準偏差レベルの不運に見舞われたときに、初期運用額100万円が、1年間運用すると90万円、2年間の運用だと約85万8千円、4年間運用すると80万円になってしまうということだ。要は、長期投資を年率にならしたリターンの上下でリスクを見る、というデータの見方が正しくないのだ。新聞・雑誌などの記事によく載っている、日本の株式投資のリターンの40年くらいのデータ(多くは、証券経済研究所のデータによると書いてある)も、長期間の投資の「年率リターンの上下を見る」という形になっており、同様に正しくない。
 考えてみると、リスクをヘッジする役割を持つ、保険やオプションだって、これを買う価格は、期間が長いほど高い。通常、負担すべきリスクの対価は、期間が長い方が大きいのであり、つまり、運用期間が長期化するとおおむねリスクは拡大すると考えるべきなのだ。
 しかし、現実的には、運用のリスクを負担する必要がある資産は、期待リターンが、リスクの無い資産よりも大きい場合が多い。こうした場合、運用期間の長期化によるリスクの拡大は、同時に、運用期間の長期化による期待運用資産額の増大によってカバーされる。
 厳密には、投資家側評価の考え方が不変だとすると、時間的に前後のリターンどうしの相関関係がプラスの場合は(値上がりの後には、値上がりが続きやすい場合)運用期間の長期化は、それ以前の期待リターンとリスクの効率性を損なう公算が大きい。逆に、前後のリターンの相関関係が、マイナスの場合は、運用期間が長い方が、期待リターンのリスクに対する効率は改善する。
 しかし、リターンの前後の相関関係は、ほぼゼロと見なされることが多く、この場合、運用期間の長期化は、より短期間の運用と比べて、「損でも得でもない」というのが、ほぼ正解なのだ。つまり、運用期間が長い方が、より大きなリスクを選択できる、という通念は誤りなのだ。
 それでは、負担できるリスクの大きさは、何によって決まるのかと言えば、第一に、運用主体のリスク負担能力の大小だ。
 しかし、「長期運用だと、運用者が負担するリスクは縮小する」という誤った通念は、運用商品のマーケティングに好都合であることもあって、日本でも、アメリカでも、訂正されることなく拡がっていることが多い。

◆長期運用のメリット
 リスク資産のリターンの時系列的な自己相関がゼロの場合、運用期間を長期化することで、確実に得られるメリットは、実は、売買手数料など、一時的にかかるコストが運用期間を長期化することで、薄められることだ。
 たとえば、投資信託の購入時に手数料を3%取られるとして、この場合運用期間が1年だと、期待リターンに与えるマイナス効果は、3%だが、運用期間が3年だと年率1%に、10年だと0.3%に縮小する(何れも、単利で大雑把に考えた場合だが)。
 長期運用のメリットは、厳密には、この点だけだ。





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最終更新日  2006年07月07日 22時26分11秒
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