2006年07月21日
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◆リスク調整とリスク水準の決定者

 よく使われるリスクを調整した評価尺度(公的年金などでもよく使う)は、アクティブリターンをアクティブリスクで割って一単位当たりのリスクで幾らのリターンを稼いだかの比を求めた「情報レシオ」(IR;Information Ratio)と称するものだ。先ほどの場合、ファンドAのIRは0.75、ファンドBは0.5だからファンドAの方が優秀だとされる。果たしてこれでいいのか。
 リスクに対する態度にもよるだろうが、多少リスクは大きくてもファンドBの方がいい、という投資家が居てもおかしくない。特に、年金基金のように多くの運用会社を雇う投資家は委託先の分散でリスクを低減させることが出来るのでそう思っても不思議はない。
 実は「IRが高い方が優秀」ということが無条件に言えるのは、IRを保ったままでリスク水準を投資家の自由に決められる場合だけだ。たとえば、ファンドAでこれが可能なら、6%のアクティブリスクを取って4.5%のアクティブリターンを稼ぐことが出来るから、投資家のリスクに対する態度に関係なくファンドAの方が優秀だと決定できる。しかし、これは、理論家が仮定したがるような、アクティブリターンに関して「コストがゼロで、レバレッジの水準が自由に決定できる」ような、非現実的な状況でのみ成立することで、日本の上場銘柄を対象に、組み入れ比率の上限が100%であるような、現実のファンドでは無理な話だ。経験的にいって、同じ投資戦略なら、アクティブリスクの大きさを小さくする方が、IRは高くしやすい。アクティブリスクを大きく取ると、どうしても、プラスのリターンのために欲しい種類のリスク以外のリスクがポートフォリオの中で大きくなる。
 しかし、現実には、アクティブリスクを取る大きさに関して、運用者側にある程度の自由度があることが多い。つまり、こうした場合、いつどのくらいのアクティブリスクを取るかという判断も、「運用者のスキル」に帰属させて評価すべきだろう。運用する側の立場で考えるとしても、チャンスのある時とあまりないと思う時、自信のある時とない時では、取りたいリスクの大きさが違うし、この判断は、かなり重要だ(気分の問題に過ぎないかも知れないが、実感としては)。
 評価尺度としてのIRには、アクティブリターンがマイナスの場合という別の問題もある。アクティブリターンが共に-1%のファンドC、Dがあって、前者のリスクが2%で後者が4%の場合、IRはそれぞれ-0.5と-0.25で、-0.25のファンドDの方がよく見えるかも知れないが、Cと比較するとDは「同じだけマイナスのリターンで、しかもより大きなリスクを取っている」ということなので、投資家にとって劣る選択肢だ。他方、IRを一定のままで同じリスクを取ることが出来るなら、たとえばDのアクティブリスクをCと同じ2%にすると、リターンは-0.5%となるので、今度はこちらの方がましな選択肢になる。ここにも、アクティブリスクの大きさを誰が決めるかという問題と、IR一定のままでアクティブリスクの水準を自在に動かすことが出来るか、という問題がある。
 運用評価の尺度として有名な「シャープ・レシオ」は、リスク・フリー運用(近似的には、たとえばコール市場での短期資金運用)をベンチマークとした場合の情報レシオだ、と解釈する事が出来る。ただし、シャープ・レシオでアクティブ・ファンドのパフォーマンス評価を行うとすると、意味的としては、資産クラス(国内株式、外国債券、などの資産の大分類)と大まかな配分比率が商品性格としてある程度決められていて、ファンドマネジャーが大きな裁量を働かせる余地がない現実の運用とはかなり異なる状況を仮定して、(誤って)運用者のスキルを評価していることになる公算が大きい。なお、この点の理解と、超過リターンがマイナスの場合のシャープ・レシオに関しては、上手く説明できないアドバイザーが少なくないかも知れないが、こうした人物が、ファンドを選ぶことなど出来ないことは自明だ。アドバイザーの簡単な実力テストとして、シャープ・レシオに関する質問は役に立つことがある。
 運用の現実を考えると、アクティブリスクの水準に関しては現実に運用者の裁量が相当程度ある。また、運用者の側から言うと、チャンスがあると思う時にはアクティブリスクを大きく取るし、そうでない時はアクティブリスクを縮小するのが当然だ。運用者の判断に意味があると思えばスポンサーも同様の行動を望むはずだ。従って、アクティブリスクの水準に起因するリターンも運用評価の対象とすることが妥当だろう。そして、ほとんどの場合、アクティブリスクの水準によってIRは影響を受ける。

効用=アクティブリターン-(リスク拒否度)×(分散で測ったアクティブリスク)
 効用関数は上記に限らないが、上記は単純で最もよく使われる投資家の効用関数形だ。意味的には、期待リターンから、推定リスクのペナルティー分を差し引いた、「リスク修正済みの期待リターン」のようなものだと考えると良い。
 ここで使うリスク拒否度は投資家によって異なる。たとえば、リスク拒否度が0.025という投資家の場合だと、先の選択肢AとBでは、Aが1.4、Bが2.1となってBをより好ましく評価することになるが、リスク拒否度が0.05(より強くリスク回避的)ならAが1.3、Bが1.2となって、Aの方が高評価となる。
 同じファンドに対する評価が投資家によって異なるという事態は、投資家自身の目的には適合するが、たとえばファンドの評価をビジネスにする会社にとっては不都合かも知れない。しかし、パフォーマンス評価は評価会社のためにある訳ではないから、こうした属性を備えたパフォーマンス評価尺度を使う事の方が明らかに合理的ではないだろうか。
 考慮に値する別の現実的な問題として、ファンドを評価する際のリスク拒否度をどう求めるかが難しいことが挙げられる。これは、投資家自身が持っているもともとのリスク拒否度にもよるし、評価対象のファンドが投資家のポートフォリオの中でどう位置づけられているか(ウェイト、他の資産のリターンとの相関関係等)によると言えるだろう。これらは幾らか技術的に煩雑だが、たとえば、アセットアロケーションの計画と一貫した形で解決が可能な問題である。
 また、パフォーマンス評価の目的を考えると、投資家が個々の運用対象を評価する際に、前提とするアセットアロケーション全体の影響を受けるのは全く当然のことだ。
 また、パフォーマンス評価を考える上でもう一つ重要な問題として、評価の期間を挙げることが出来る。冒頭のパフォーマンス評価の手順整理の(3)に関連する問題だ。たとえば、観測期間1年間のパフォーマンスと観測期間4年間のパフォーマンスは、少なくとも手順(1)のような仮定の下では、後者のデータの方が信頼性が高いと考えられる。評価の尺度とした「効用」が、スキルによって規定される一定の平均値の周りに一定のばらつき具合でランダムに現れると考えるなら、大まかに言ってその平均値の標準誤差は観測期間の平方根分の一倍になる。つまり、同じ効用水準なら、4年のデータは、信頼性の点では1年のデータの2倍程度の価値があると考えていいだろう。この点は、たとえばパフォーマンス評価のデータ期間が異なるファンドどうしを較べる場合に反映させるべきかも知れない。
 ただし、先述の拙文(本シリーズ第二十五回)でも触れたように、パフォーマンス評価の期間は単純に長期であるほど良いわけではない。市場の環境も、ファンドマネジャーの能力も、時間と共に変化するから、昔のデータを大きく含めると、かえって目的にそぐわない場合が多い。

◆パフォーマンス評価の“主権”
 今回述べたパフォーマンス評価の考え方は、よくある画一的な商業ベースのパフォーマンス評価尺度やランキングと較べると、違和感があるかも知れない。しかし、パフォーマンス評価はファンドマネジャーの満足や、運用評価会社のビジネスのためにあるのではなく、投資家自身が運用を改善するためにある。
 投資家をいわば「主権者」とした運用パフォーマンスの評価方法を改めて構築しなければならないし、これは投資家自身が行うべき仕事であろう。





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最終更新日  2006年07月21日 14時45分07秒
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