2006年08月04日
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現実の運用報酬には幅がある

 投資信託や投資顧問など、資産運用サービスの手数料に対して、運用業界では「マネジメント・フィー」という言い方をすることが多いように思う。

 投資信託の場合、顧客が払う販売手数料以外の手数料は「信託報酬」と呼ばれる。現在の投資信託の信託報酬が高すぎることについて、筆者は、何度も書いたり話したりしているが、運用会社から見て、この信託報酬の全てが自分たちのマネジメント・フィーになるわけではない。

 例えば、信託報酬が150ベイシス(1ベイシスは100分の1パーセント。何と高いことか!)の投資信託の場合、資産を保管する信託銀行(「受託銀行」と呼ぶ)に数ベイシスから10ベイシスくらいまで、運用会社の取り分は70ベイシスくらい、販売会社に対して「代行手数料」という名目で(投資信託の券面の保管や、分配金の支払いなどを投信会社に代わって「代行」していることに対する手数料だ)同じく70ベイシスくらいが支払われることが一般的だ。投信運用会社にとっての収入は、たとえば、日本株に投資するような典型的なファンドでは、運用資産額の0.7%ほどになるということだ。ただし、水準は、会社により、ファンドによって結構な差がある。

 では、運用報酬の水準が、大体これくらいなのかというと、そういう訳でもない。同じ会社の運用報酬であっても、投資顧問の運用報酬は、大きく異なるのだ。
 日本証券投資顧問業協会のホームページには、「投資顧問会社要覧」という本の全文が掲載されており、運用会社の投資顧問業サービスの料率表が会社を会社ごとに見ることが出来る。
 日系の大手投資顧問会社の料率はどこもだいたい同じようなものだ。近年では、投資信託と投資顧問を併営している会社が多いが、こうした大手のある会社の投資顧問(年金運用、国内株式の場合)の料率を見ると、運用金額によって差があるが、たとえば100億円から200億円の運用金額の場合、0.1575%と出ている。500億円超の金額の場合は、0.13125%だ。つまり、500億円以上の金額の場合13ベイシス強だということは、投資信託の運用報酬を70ベイシスと見ても、実に、5倍の価格差がある。全く同じ会社の運用サービスの価格がこれだけ異なるのだ。経済学の世界には「一物一価の法則」と呼ばれる法則があるが、「運用サービス」という商品ほどに大きくこの法則から外れている例は、他になかなか思いつかない。

 投資信託の場合、毎日基準価額を計算して発表しなければならないといった手間が掛かるが、投資顧問の運用であっても、ファンドの時価ぐらいは把握して運用しているし、第一、投資信託の運用資産を現実に預かっていて、更に毎日基準価額も計算している(基準価額は、投信運用会社と信託銀行が両方計算して照合している)信託銀行の手数料が10ベイシス以下なのであって、これは投資信託と投資顧問の間にある運用報酬の大きな価格差を説明するものではない。

 また、運用会社、同じA社ならA社の、投資信託部門の方に優秀な人材が、たとえばファンドマネジャーとして配属されているのかというと、そういう訳でもない。現実には、ファンドマネジャーの仕事は、投資顧問の方が、ハードであるケースも多く、純粋に運用ばかりでなく、マーケティングと運用の説明(しばしば言い訳)に追われるし、顧客を直接相手にするので、プレッシャーも大きいことが多い。こうした事情もあって、あえて、印象を言えば、日本の運用会社では、投資顧問の方に、優秀な人材を配属することの方が多いように思う(会社により、時によって異なるが)。

運用報酬の決まり方

 筆者は、運用報酬がどのような原理で決まるかという専門的な論文をほとんど読んだ記憶がない(単に不勉強なだけかも知れないが)。実務の世界でも、運用報酬の決定方法に関する納得的な説明を聞いたことがない。



 実際、日本の年金運用の投資顧問料率は、厳しい需給環境の下で決まったといっていいだろう。日本で年金運用は、もともと信託銀行と生命保険会社だけが行っていた。信託も生保も相当の金額を運用していて、規模の利益が働いていたので、運用報酬はそう高くなかった。そうした状況の下に、90年代の初頭に投資顧問会社が企業年金の運用に参入したのだが、当時、年金運用に参入した投資顧問会社の多くは、金融機関の子会社であり、「シェアさえ取っていれば、将来は運用資産が増えるだろうし、親会社の面子もあるので、ともかく受託金額を確保したい」と考えていた。このように考えた投資顧問会社数社は、当時ある有力年金基金に料率表を提示する時に、情報交換をして(「談合」と言い換えても間違いではないだろう)、信託・生保に十分対抗できる料率を提示したのであった。いわば、これが、参入の当初から、競争を経て決まったような水準に、投資顧問の運用報酬が決まった背景だった。だが、その後、投資顧問会社の多くは、コストばかり高くて、なかなか儲からない年金運用のマーケットで苦労することになる。

 なお、年金運用の運用料率は、こうした投資顧問会社要覧に掲載されるようないわば「定価」の他に、年金資金運用基金のような大手の顧客(半ば、生殺与奪の権を握っているといっていい)に対しては、さらに2割以上の割引が行われることが珍しくない。非常に厳しい競争が働いている世界だ。
 この低水準のフィーと、顧客に対しては非常に多くの手間(従ってコスト)が掛かることは、一時は非常に熱心だった外資系の運用会社が、日本の年金運用ビジネスに、近年あまり積極的でないことの背景にもなっている。

 こうした「買い手独占」に近い競争状況では、売り手側は、利潤を削ってでも競争しなければならない。年金運用の競争の世界からいったん手を引くと、再びこの世界に参入するためには多大なコストが掛かるし、これまでの投資が無駄になる(これはサンク・コストだから、厳密には今後の意思決定には関係ないはずだが、現実には大いに気になる要因だ)ので、低料率を我慢して競争することになる。

 この場合、長期的には、大まかにいって運用業務を維持するために掛かるコストを運用資産で割り算したものが運用料率の下限になる筈だが、上記のような状況を考慮すると、運用会社は、年金運用業界に残ることで、将来あるかも知れない収益へのチャンスを残すことのオプション価値(所謂「リアル・オプション」の考え方になる)を考慮して、コスト割れをしばらく我慢する可能性も生じてくる。

 実は、年金運用のユーザーである年金加入者の側からすると、これまでのような確定給付の年金では、こうした限界に近い低価格で運用サービスを購入する事が出来たわけだが、近年導入が盛んな確定拠出年金では、主にリテール市場に投入されているのと同じ投資信託が運用対象商品となるので(信託報酬の代行手数料部分が割引されることが多いが)、実は、確定給付年金から確定拠出年金に移行する際に、運用報酬を大幅に「便乗値上げ」されているともいえ、これはこれで、大きな問題だ。

 もっとも、運用のコストは比較的固定的であり、たとえば、1000億円のファンドと1兆円のファンドでは、運用に掛かるコストに大きな差はないだろう。つまり、運用は規模の利益が大きく働くビジネス構造であり、運用会社の場合、コストをカバーできるブレーク・イーブンの運用資産額を超えてお金が集まると、運用報酬(一般の会社なら売上に相当する)の増加分が、ほとんどそのまま利益になる。従って、体力勝負を勝ち抜いて、残ることが出来れば、残った運用会社は運用資産額が大きくなるので、割合安定的に儲かるビジネス構造を作ることが出来る。運用の参入障壁は高いから、年金運用は、残存者利得が案外大きいビジネスと言えるかも知れない。

 一方、投資信託については、本シリーズの第5回「投信の信託報酬の過去と現在を考える」でも述べたように、運用会社同士が競争して、販売会社の窓口を取り合ったために、販売会社にとって魅力的な代行手数料を提示できるように、代行手数料と共に信託報酬を引き上げるという特異な経緯があり、信託報酬はむしろ上昇したのだった(信託報酬は90年代初頭よりも概ね5割以上高い)。これは、そもそも運用報酬に鈍感な顧客に集中的に投信が販売されていたことの不幸な結果である。現在の日本の投資信託の手数料を、合理的な投資家を前提として納得的に説明することはいささか難しいが、現在の日本の投資信託の運用報酬、ひいては信託報酬は、これ以上値上げすると、さすがにコストに鈍感な日本の投信の顧客でも気付くのではないか、というぎりぎりの水準に決まっているようだ。





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最終更新日  2006年08月04日 14時46分24秒
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