2006年08月04日
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合理的な投資家にとっての運用報酬の上限

 それでは、顧客がもう少し合理的である場合、運用報酬はどのように決まるのか。
 この場合、運用報酬率は、(1)顧客が運用者のスキルを知っていて、(2)運用者が顧客の望む大きさの運用リスク(アクティブ・リスク)をとっているとする場合、顧客がファンドに期待するアクティブ・リターンの半分が上限になる。

 アクティブ・リターンの期待値が運用報酬よりも高ければ問題はないと思われる方がいるかも知れないが、期待値は単に「予想の平均」であり、これが上下にぶれるリスクが存在するので、このリスクのマイナス面を考慮すると、顧客にとってメリットがあるのは、運用報酬が、期待されるアクティブ・リターンの半分までという結論になるのだ(理由は、後述の補足をご参照下さい)。
 日本の投資信託の場合、たとえば年率1.5%の信託報酬という顧客にとっての運用の価格は、アクティブ・ファンドの平均的なアクティブ・リターンがとても3%には届きそうにないことを考えると(計測期間にもよるが、日米とも、実際にはベンチマークにわずかに負けているだろう)、運用報酬が非合理的に高いと言える。

 あるいは、顧客が単純に非合理的ではないとすると、顧客は、ファンドマネジャーの能力を買い被っているのかも知れないし、自分のファンド評価能力に関して過剰な自信(「オーバー・コンフィデンス」と呼ばれて、行動ファイナンス研究者の注目を集めている人間の非合理的な傾向性の一つだ)を持っていて、過大な手数料を払っているのかも知れない。
 なお、ヘッジファンドのような運用では、定率のマネジメント・フィーの他に、「値上がり益の2割」といった成功報酬が設定されていることが多く、実質的な運用報酬率は非常に高くなる(詳しくは、本シリーズの第28回「成功報酬について考える」をご参照下さい)。この場合、顧客は、成功報酬の価値を正しく評価できていないのかも知れないし、自分のファンド評価能力(従ってファンド選択能力)を恐ろしく高く勘違いしているのかも知れない(強度の「オーバー・コンフィデンス」が働いた状態と解釈できる)。

補足1 運用報酬の上限の決定プロセス(上級者向け)

 投資家のアクティブ・リターンに関する効用関数を以下のように定義する。
     U=R-λσ2
(U:効用、R:アクティブ・リターン、λ:リスク拒否度、σ:アクティブ・リスク)

     R=Iσ
 これを先の効用関数に代入する。
     U=Iσ-λσ2
 仮定により、投資家の効用を最大化するようにアクティブ・リスクσが決まるとすると、上式の一次微分がゼロになる(一階の条件)ようにσは決まる。
     U’=I-2λσ=0
     ∴σ=I/2λ
 これを効用関数に代入すると最適なアクティブ・リスク水準での投資家の効用が求められる。
     U=I・I/2λ-λ(I/2λ)2=I2/4λ ・・・・・・(A)
 同じリスク水準での期待アクティブ・リターンは先のσ=I/2λをRに代入すると求めることが出来る。
     R=I・I/2λ=I2/2λ ・・・・・・(B)
 (A)と(B)を比較すると、顧客にとって最適なリスク水準での顧客の効用(A)は、期待されるアクティブ・リターン(B)のちょうど半分であることが分かる。すなわち、期待されるアクティブ・リターンの半分以上の運用報酬をコストとして支払ってしまうと、投資家の効用はマイナスになってしまうということだから、投資家が払うことの出来る運用報酬は、期待アクティブ・リターンの半分まで、となる。

補足2 それでも投資信託で運用したい人の選択肢


 しかし、分散投資したポートフォリオを自分で運用するのは面倒だというひとは、どうしたらいいだろうか。

 2、3年前であれば、筆者は、「TOPIX連動型のETFを長期保有すればいい」と答えていた。これは、TOPIXの場合、日経平均のように銘柄入れ替えに伴って、インデックス・ファンドが損をする(小規模な入れ替えでも数十ベイシス損をしていることが多い)パターンにはまらずに済むので、ETFなら信託報酬水準も低く、リーズナブルに運用できると思っていたからであった。

 しかし、詳しくは別の機会にでも説明したいが、TOPIXの計算方法が浮動株基準に見直されたことで、TOPIXでも銘柄ウェイトの変更が、株式市場で(主に証券会社の自己勘定取引によって)利用されることで、インデックス・ファンドが損をする(この場合、指数自体も下方バイアスを持つ)ことになる公算が大きくなった。加えて、ETFの場合、現物での設定・解約が可能なことを利用して、裁定取引用の現物株を分配金の権利確定寸前に持ち込んで、「配当取り」をする取引が拡がっており、この取引によって、一般投資家の分配金が「薄まる」ことによる弊害が登場してきた。

 かつて、証券会社にとって、インデックス・ファンドは、売買回転率が低く儲けられない巨額資金であったのだが、「それなら、指数自体を動かして、これを利用すればいい!」という新たなアイデアが登場することで、「売り買いの内容が事前に読める大きなカモ」とでも呼ぶべき資金に変化した。一般投資家の立場からすると有り難いことではないが、証券業界のある種の逞しさを良く表している例だと思う。

 今や、「インデックス・ファンドならローコストでいい」とか、「TOPIX型のETFならいい」といったことは、言えなくなってしまった。こういうことをまだ言っているファイナンシャル・プランナーなどがいるとすると、その人物は、市場と金融商品の現状を詳しく見ていない、怠慢で信頼するに足らない、アドバイザーだ、ということが出来る。


 現在、ネット証券では、販売手数料をゼロにした、「ノーロード」の投資信託をラインナップしているが、この商品ラインナップの中に、90年代前半以前に設定されたファンドが混じっていることがある。こうしたファンドは、国内株式のファンドであれば、当時の70から80ベイシスといった信託報酬水準なので、正直なところまだ高いと思うが、まあまあリーズナブルな水準でのアクティブ運用商品であり、現在のインデックス・ファンドの場合のような大きさが不確定な損失を被る可能性が小さいので、リーズナブルだと思う。こうした運用で満足できる方は、ネット証券のノーロード投信のラインナップの中から、ファンドの目論見書を読んで、該当するファンドを探してみるといい。

 具体的な商品名は、特にこの商品を勧めたいという意図が、筆者にあるわけではないので、あえてここには記さない。興味のある方は、ご自分で探されたい。





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最終更新日  2006年08月04日 14時49分00秒
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