F&B 腐向け転生パラレル二次創作小説:Rewrite The Stars 6
薄桜鬼 昼ドラオメガバースパラレル二次創作小説:羅刹の檻 10
黒執事 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:碧の騎士 2
天上の愛 地上の恋 転生現代パラレル二次創作小説:祝福の華 10
黒執事 転生パラレル二次創作小説:あなたに出会わなければ 5
YOI火宵の月パロ二次創作小説:蒼き月は真紅の太陽の愛を乞う 2
薄桜鬼 現代ハーレクインパラレル二次創作小説:甘い恋の魔法 7
火宵の月 転生オメガバースパラレル 二次創作小説:その花の名は 10
薄桜鬼異民族ファンタジー風パラレル二次創作小説:贄の花嫁 12
薄桜鬼ハリポタパラレル二次創作小説:その愛は、魔法にも似て 5
天上の愛地上の恋 大河転生パラレル二次創作小説:愛別離苦 0
火宵の月 BLOOD+パラレル二次創作小説:炎の月の子守唄 1
PEACEMAKER鐵 韓流時代劇風パラレル二次創作小説:蒼い華 14
黒執事 異民族ファンタジーパラレル二次創作小説:海の花嫁 1
火宵の月 韓流時代劇ファンタジーパラレル 二次創作小説:華夜 18
火宵の月×呪術廻戦 クロスオーバーパラレル二次創作小説:踊 1
薔薇王韓流時代劇パラレル 二次創作小説:白い華、紅い月 10
薄桜鬼 ハーレクイン風昼ドラパラレル 二次小説:紫の瞳の人魚姫 20
天上の愛地上の恋 転生昼ドラパラレル二次創作小説:アイタイノエンド 6
鬼滅の刃×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:麗しき華 1
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:鳳凰の系譜 1
薄桜鬼腐向け西洋風ファンタジーパラレル二次創作小説:瓦礫の聖母 13
コナン×薄桜鬼クロスオーバー二次創作小説:土方さんと安室さん 6
薄桜鬼×火宵の月 平安パラレルクロスオーバー二次創作小説:火喰鳥 7
天上の愛地上の恋 転生オメガバースパラレル二次創作小説:囚われの愛 8
天上の愛地上の恋 昼ドラ風時代パラレル二次創作小説:綾なして咲く華 2
ツイステ×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:闇の鏡と陰陽師 4
天愛×腐滅の刃クロスオーバーパラレル二次創作小説:夢幻の果て~soranji~ 0
ハリポタ×天上の愛地上の恋 クロスオーバー二次創作小説:光と闇の邂逅 2
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:月の国、炎の国 1
天愛×火宵の月 異民族クロスオーバーパラレル二次創作小説:蒼と翠の邂逅 0
陰陽師×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:君は僕に似ている 3
黒執事×ツイステ 現代パラレルクロスオーバー二次創作小説:戀セヨ人魚 2
黒執事×薔薇王中世パラレルクロスオーバー二次創作小説:薔薇と駒鳥 27
薄桜鬼×刀剣乱舞 腐向けクロスオーバー二次創作小説:輪廻の砂時計 9
火宵の月×薄桜鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:想いを繋ぐ紅玉 54
天上の愛地上の恋 昼ドラ転生パラレル二次創作小説:最愛~僕を見つけて~ 1
バチ官腐向け時代物パラレル二次創作小説:運命の花嫁~Famme Fatale~ 6
FLESH&BLOOD×黒執事 転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:碧の器 1
腐滅の刃 平安風ファンタジーパラレル二次創作小説:鬼の花嫁~紅ノ絲~ 1
天愛×薄桜鬼×火宵の月 吸血鬼クロスオーバ―パラレル二次創作小説:金と黒 4
黒執事×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:悪魔と陰陽師 1
火宵の月 戦国風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:泥中に咲く 1
火宵の月 地獄先生ぬ~べ~パラレル二次創作小説:誰かの心臓になれたなら 2
PEACEMAKER鐵 ファンタジーパラレル二次創作小説:勿忘草が咲く丘で 9
FLESH&BLOOD ハーレクイン風パラレル二次創作小説:翠の瞳に恋して 20
火宵の月 異世界ファンタジーロマンスパラレル二次創作小説:月下の恋人達 1
天上の愛地上の恋 現代転生パラレル二次創作小説:愛唄〜君に伝えたいこと〜 1
天上の愛地上の恋 現代昼ドラ風パラレル二次創作小説:黒髪の天使~約束~ 3
火宵の月 異世界軍事風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:奈落の花 2
天上の愛 地上の恋 転生昼ドラ寄宿学校パラレル二次創作小説:天使の箱庭 5
天上の愛地上の恋 昼ドラ転生遊郭パラレル二次創作小説:蜜愛~ふたつの唇~ 0
天上の愛地上の恋 帝国昼ドラ転生パラレル二次創作小説:蒼穹の王 翠の天使 1
名探偵コナン腐向け火宵の月パラレル二次創作小説:蒼き焔~運命の恋~ 1
FLESH&BLOOD ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の花嫁と金髪の悪魔 6
火宵の月 和風ファンタジーパラレル二次創作小説:紅の花嫁~妖狐異譚~ 3
天上の愛地上の恋 昼ドラ風パラレル二次創作小説:愛の炎~愛し君へ・・~ 1
黒執事 昼ドラ風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:君の神様になりたい 4
天愛×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:翼がなくてもーvestigeー 2
魔道祖師×薄桜鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:想うは、あなたひとり 2
火宵の月 昼ドラハーレクイン風ファンタジーパラレル二次創作小説:夢の華 0
薄桜鬼腐向け転生刑事パラレル二次創作小説 :警視庁の姫!!~螺旋の輪廻~ 15
FLESH&BLOOD ハーレクイロマンスパラレル二次創作小説:愛の炎に抱かれて 10
PEACEMAKER鐵 オメガバースパラレル二次創作小説:愛しい人へ、ありがとう 8
天上の愛地上の恋 現代昼ドラ転生パラレル二次創作小説:何度生まれ変わっても… 0
薄桜鬼腐向け転生愛憎劇パラレル二次創作小説:鬼哭琴抄(きこくきんしょう) 10
薄桜鬼×天上の愛地上の恋 転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:玉響の夢 5
黒執事×天上の愛地上の恋 吸血鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:蒼に沈む 0
天上の愛地上の恋 現代転生ハーレクイン風パラレル二次創作小説:最高の片想い 4
バチ官×天上の愛地上の恋 クロスオーバーパラレル二次創作小説:二人の天使 3
FLESH&BLOOD 現代転生パラレル二次創作小説:◇マリーゴールドに恋して◇ 2
YOI×天上の愛地上の恋 クロスオーバーパラレル二次創作小説:皇帝の愛しき真珠 6
火宵の月×刀剣乱舞転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:たゆたえども沈まず 2
薔薇王の葬列×天上の愛地上の恋クロスオーバーパラレル二次創作小説:黒衣の聖母 3
火宵の月×薄桜鬼 和風ファンタジークロスオーバーパラレル二次創作小説:百合と鳳凰 2
薄桜鬼×天官賜福×火宵の月 旅館昼ドラクロスオーバーパラレル二次創作小説:炎の宿 2
薄桜鬼×火宵の月 遊郭転生昼ドラクロスオーバーパラレル二次創作小説:不死鳥の花嫁 1
薄桜鬼×天上の愛地上の恋腐向け昼ドラクロスオーバー二次創作小説:元皇子の仕立屋 2
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:碧き竜と炎の姫君~愛の果て~ 1
F&B×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:海賊と陰陽師~嵐の果て~ 1
F&B×天愛 昼ドラハーレクインクロスオーバ―パラレル二次創作小説:金糸雀と獅子 1
F&B×天愛吸血鬼ハーレクインクロスオーバーパラレル二次創作小説:白銀の夜明け 2
天愛 異世界ハーレクイン転生ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の巫女 氷の皇子 1
相棒×名探偵コナン×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:名探偵と陰陽師 1
天愛×火宵の月陰陽師クロスオーバパラレル二次創作小説:雪月花~また、あの場所で~ 0
名探偵コナン×天上の愛地上の恋 クロスオーバーパラレル二次創作小説:碧に融ける 0
全20件 (20件中 1-20件目)
1
画像はコチラからお借りいたしました。「薔薇王の葬列」二次創作小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。 帝―ヘンリーが息を引き取った後、雨は一月も振り続けた。「一体、リチャードは何処に?」「申し訳ありません、使用人総出で、リチャード様の行方を捜しているのですが、見つからず・・」「もう良い、さがれ。」「は・・」 ヨーク公は、使用人を下がらせると、大きな溜息を吐いた。「父上、ジョージです。入ってもよろしいでしょうか?」「あぁ。」「リチャードの行方を、バッキンガム公が密かに探っているようです。」「帝の乳兄弟であるバッキンガムが何故リチャードを?」「それはわかりませんが・・やはり許婚の安否が気になるのでしょうね。」「許婚といえば、ネヴィル家のイザベル様とは上手くいっているか、ジョージ?」「父上、それは・・」「ジョージ、運命の相手を見つけたのなら、その相手の手を離してはならないよ、わかったね?」「はい、父上・・」 一月も都に振り続けた雨は、疫病をもたらした。「これは、鬼の祟りですわ!弘徽殿女御様、わたくしに良い考えがございます。」「それは何だ?」 エリザベスは口端を上げて笑うと、弘徽殿女御の耳元に何かを囁いた。「それは良い事だ。」 弘徽殿女御は、すぐさまリチャードを討つよう命じた。「父上・・」「ケイツビー、ひとつ頼まれてくれるか?」「はい。」 リチャードは、あの酒呑童子が棲んでいたとされる大江山の近くにある洞窟の中に居た。―姫様、誰かに苛められたの?―可哀想。 全身傷だらけになったリチャードが疲れて寝ていると、そこへ小鬼達がやって来た。 暫くすると、洞窟の入口の方から微かな物音が聞こえて来た。「こんな所に居たのか・・月読の君。」「バッキンガム、どうしてここがわかった?」「あんたが、鬼の気―陰の気が強いこの山に居る事位わかっている。どうして、こんな所で引き籠もっているんだ?」「お前には関係の無い事だ。」 リチャードはそう言ってバッキンガムに背を向けると、バッキンガムはその華奢な身体を抱き締めた。「何をする!」「あんたに、こんなに暗くて寂しい所は似合わない。俺と一緒に戻ろう。」「うせろ!」「・・仕方無い、あんたの気が変わるのを待っている。」 バッキンガムが去った後、リチャードは冷たい岩の上に横になって眠った。―ここに居たのか。 生ぬるい風が吹き、洞窟の中に後宮で会った鬼が入って来た。―俺と共に行こう、姫よ。 鬼はそう言うと、そっとリチャードの身体を横抱きにし、洞窟から去っていった。「ん・・」 リチャードが目を覚ますと、そこは冷たくて暗い洞窟の中ではなく、寝心地の良い御帳台の中だった。「目が覚めたか?」「お前は・・」「酷い顔をしているな。食事の前に湯浴みを済ませよ。」 鬼に言われるがままに、リチャードは汚れた髪と肌を清めた。「何故、俺を助けた?同族の誼でか?」「それもあるが、そなたを妻として迎える為だ。」「俺は、誰も愛さない。」 リチャードはそう言うと、鬼にそっぽを向いた。「若様、お館様がお呼びです。」「わかった、すぐ行く。」 鬼はそう言うと父が待つ寝殿へと向かった。「父上、お呼びでしょうか?」「都で疫病騒ぎを起こしている鬼姫を匿っているそうだな?」「はい。それは彼女を妻として迎え入れたいと思います。」「それは出来ぬ。そなたと鬼姫は血が繋がった兄と妹。」「何と・・」「あの娘・・安子には酷な事をした。人との間に子を成し、一人で苦しませた末に死なせてしまった。」「安子様・・わたしの母上ですね。」「鬼姫は何処に?」「わたしが用意した局で休んでおります。」「そうか。では、後で鬼姫をこの局に呼べ。」「はい・・」 リチャードが眠っていると、外から微かな物音がした。「漸く見つけたぞ、月読の君・・リチャード。」「どうして、こんな所に・・」「あんたを迎えに来た・・妻として。」「妻ならば、あの娘が居るだろう?俺に構うな。」「わかっていないな、あんたは。」 バッキンガムはそう言うと、リチャードの唇を塞いだ。「俺は、あんたみたいな高貴な女が好きだ。」「それはガキの頃に一度お前から聞いた。」 リチャードはそう言うと、バッキンガムを睨んだ。「離せ!」「離さない。俺は、ずっとあんたが好きだった。」「貴様、そこで何をしておる?」 鬼―安高はそう言うと、バッキンガムを睨んだ。「俺は妻を迎えに来ただけだ。」「ほぉ?」 安高の紅い瞳が、剣呑な光を宿した。「我が妹を妻として迎えるだと?人間風情が、ふざけた事を・・」「俺は本気だ。」「ならば、この兄の前で我が妹を抱いてみよ。」 バッキンガムは、リチャードの耳元でこう囁いた。「今からあんたを抱く、いいな?」「・・好きにしろ。」 リチャードが都から姿を消して、半月が経った。「父上、父上!」「どうした、ジョージ?」「リチャードが、リチャードが・・」「お館様、リチャード様がお戻りになられました!」「何だと!?」 ヨーク公が寝殿から渡殿へと出ると、丁度リチャードがバッキンガムに身体を支えられながら姿を現したところだった。「父上・・」「リチャード、息災で何よりだ。」「長らく文も寄越さず、申し訳ありませんでした。」「早く中へ入りなさい、身体を冷やしてはいけない。大切な身体なのだから。」「はい・・」 そう言ったリチャードの下腹は、大きく迫り上がっていた。 程なくして、リチャードは元気な男児を産んだ。「可愛い子だ。」「父上、この子を抱いてやってください。」 ヨーク公がリチャードから赤子を受け取ると、赤子は金と銀の瞳で彼を見つめて来た。「鬼姫が戻って来ただと?それはまことか!?」「はい・・それが・・」 女房からリチャードが出産した事をしった弘徽殿女御は、烈火の如く怒り狂った。「ただちに兵をヨーク邸へ向かわせろ!」「はっ!」
2022年02月17日
コメント(0)
画像はコチラからお借りいたしました。「薔薇王の葬列」二次創作小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「一体何なのです、あの黒雲は!?」「それが・・あの黒雲は、亡くなったあの御方が呼んだのではないかと・・」「何を馬鹿な事を!」「弘徽殿女御様、落ち着いて下さいませ!」「あの女、死してもなお妾を苦しめるつもりか!」「お言葉でございますが女御様、わたくしに考えがございます。」「そなたは?」「エリザベス、と申します。」「エリザベスとやら、そなたの話を聞こうか?」「実は・・」 エリザベスは、弘徽殿女御の耳元に、ある事を囁いた。「それは、確かなのか?」「はい。」(これで、わたしの敵は居なくなる!)「帝のご容態は・・」「今は落ち着いておられますが、主上が危険な状態に陥られるのは時間の問題です。」「そうか・・」「主上は、うわごとでリチャード様を呼んでおられます。」「リチャードを呼べ。」「父上、どうされたのですか?わざわざわたしをお呼びになられるなんて、お珍しい。」「主上が、お前を呼んでいるらしい。一度、主上に会いに行ってやれ。」「ですが、わたしは・・」「決めるのは、お前だ。」 リチャードはヘンリーに会いに、ケイツビーを連れて彼の元へと向かった。「まぁ、あんなに空が黒くなって・・」「呪われているのではなくて?」「噂に聞いたところによると、あの御方の呪いかもしれぬと・・」「まぁ、恐ろしい・・」 清涼殿の廊下を女房装束姿のリチャードが歩いていると、自分と擦れ違った女房達の話を聞いてリチャードは顔を曇らせた。「リチャード様・・」「ケイツビー、何か俺に隠している事はあるか?」「いいえ、ありません。」「そうか、ならばいい。」 二人がヘンリーの寝所へと向かおうとした時、渡殿の向こうからエリザベスがやって来た。「あら、来たのね。」「義姉上・・」「主上の寝所には、わたくしの主である弘徽殿女御様がいらっしゃるから、あなたは行かない方がいいわよ。」「ご忠告どうもありがとうございます。行くぞ、ケイツビー。」(相変わらず、生意気ね・・まぁ、それもいいけど。)「主上、あの者が・・」「妾が会おう。」 苦しそうに咳込んでいるヘンリーの手をそっと握った後、弘徽殿女御は彼の寝所へ入ろうとするリチャードを阻んだ。「主上に会わせる訳にはいかぬ。」「何故です?」「そなたが、あの御方を呼んだのでしょう?」「女御様、一体何をおっしゃって・・」「とぼけても無駄よ・・お前は、この国に災いを齎しに来たのだろう?周りの者は騙せても、妾に騙されぬぞ!」 一瞬、弘徽殿女御の顔が、幼い自分を罵った時の母の顔に重なって見えた。“お前は全ての者を不幸にする!”「ここから去ね!」「せめて主上に会わせて下さいませ!」「くどい!」 弘徽殿女御はそう叫ぶと、リチャードを突き飛ばした。 リチャードは、土砂降りの雨の中、放り出された。「リチャード様!」「俺は大丈夫だ、もう行こう。」「嫌だわ、また雨が降って来たわ。」「天候ばかりはどうにもなりませんわ、ベス様。」「それにしても伯父様はどちらへ?」「それはわかりません。」「早く帰って来てくれないかしら。一人だと退屈だわ。」 ベスは、そう言うと御簾の向こうで吹き荒れる雨風を見て溜息を吐いた。「リチャード、助けて・・」「主上、気が付かれましたか?」「リチャードは何処に居るの?」「もうあの者と会う事はなりませぬ。あの者は・・」 ヘンリーは、激しく咳込むと、再び意識を失った。「リチャード様大変です、主上が・・」「行くぞ、ケイツビー!」 リチャードがヘンリーの寝所へと向かうと、彼は苦しそうに息を吐いた。「ヘンリー!」「リチャード、やっと来てくれた・・」 ヘンリーはそう言ってリチャードに優しく微笑むと、静かに息を引き取った。「嘘だ!」「何をしておる、早うこの者を追い出さぬか!」「ヘンリー、目を開けろ!」「リチャード様、落ち着いて下さい!」 半狂乱となったリチャードを落ち着かせようとしたケイツビーは、空に白銀と紅色の稲光が浮かんでいる事に気づいた。「きゃぁぁ~!」 雷鳴が轟き、その雷はリチャードをヘンリーから引き剥がそうとしていた衛士の一人に直撃した。 肉が焦げるような嫌な臭いがあたりに漂い、女房達は悲鳴を上げて逃げ惑った。「怯むな、あの鬼を捕えよ!」「リチャード様・・」 鬼の姿へと変化したリチャードは、金色の瞳で自分を睨みつけた。 その額には、以前見た梵字は浮かんでいなかった。(一体、これは・・)「射て、射て!」 衛士達はリチャードに向けて矢を放ったが、それらは全て弾き飛ばされた。「一体、どうなっている!?」「化物!」 リチャードは衛士達に石を投げられ、全身傷だらけになりながら、闇の中へと消えていった。「先程、宮中で鬼騒ぎがあったとか・・」「はい・・」「ほぅ・・」 バッキンガムは、嵐が止むのを待って鬼騒ぎがあった弘徽殿へと向かった。「まぁ、バッキンガム様・・わざわざこちらにいらっしゃるなんて・・」「リチャード様はどちらに?」「それが、昨夜から行方知れずなのです。」「何だと!?」「何でも、弘徽殿に雷を落としたそうです。」(一体、あいつは・・リチャードは何処へ消えたんだ?) バッキンガムは、一人の女房と目が合った。「あ・・」「待て、お前何か知っているな?」「わたくしは・・」「知っている事だけを話せ。」 バッキンガムに迫られ、彼女は昨夜の事を話し始めた。「そんな事が・・」「あぁ、主上がおかくれあそばしたばかりだというのに、これからどうなってしまうのかしら?」にほんブログ村
2021年09月22日
コメント(0)
画像はコチラからお借りいたしました。「薔薇王の葬列」二次創作小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「あら、帰って来たのね。」「母上・・」 ヨーク公と共に実家の母屋の中に入ると、そこには珍しく笑みを浮かべた母・セシリーの姿があった。「バッキンガム様からの文が届いたわよ。」「はい・・」 バッキンガムの文には、“あなたが恋しくて堪らない”という旨の和歌が書かれてあった。「帝の乳兄弟でいらっしゃるバッキンガム様に見初められるなんて、あなたは何て幸運なのかしら。」「母上、わたしは・・」「リチャード、局へ行きなさい。」「わかりました。」 リチャードはヨーク公に向かって頭を下げると、自分の局へと向かった。 そこは、幼い頃から過ごしていた時の部屋と、変わらない場所だった。 唯一つ、式神が居る事だけを除いては。――姫様、お帰りなさい。「ただいま。」 白い毛を揺らしながらリチャードの元へやって来たのは、バッキンガムの魔手から助けてくれたあの狼だった。 彼女は、森の中で怪我をした時にリチャードに保護されたのだった。――何か、あったのですか?「あぁ。」 考えなければならない事が山程あるが、とにかくリチャードは休みたかった。「少し休むから、誰か来たら教えてくれ。」――はい。 御帳台の中に入ったリチャードは、夢も見ずに眠った。「あなた、リチャードさんに縁談が来たというのは本当なの?」「あぁ。しかもその相手は、帝の乳兄弟だそうだ。」「まぁ、それはめでたい事。お義母様も、さぞやお喜びの事でしょう。」「そうだが・・それよりもエリザベス、弘徽殿の方はどうなっている?」 帝が病に臥せってしまい、帝不在の朝議に出席する為参内したエドワードは、昨夜事件が起きた弘徽殿へと向かった。「皆、動揺しておりますわ。ですが、女御様は冷静に対応されておりますわ。」「そうか。」「それよりもあなた、アンソニー達の事を早く主上に話して下さいな。」「あぁ、わかったよ。」 エリザベスの弟と兄達は、粗暴な性格でこれまで色々と厄介事を起こしていた。 夜中に公卿の屋敷を襲ったりして、その悪名を都中に轟かせていた。 そんな者を宮中に上げる事など到底出来ないが、エリザベスは何としてでも自分の親族達を宮中へ上がらせようと躍起になっていた。 何故ならば、エリザベスの実家であるウッドウィル一族は下級貴族で、エリザベスがプランタジネット家に嫁いだ事によりその存在は宮中で良い意味でも悪い意味でも注目されていたが、それ以後は忘れられていった。「どうか、お願いいたしますね。」 エリザベスはそう言った後、夫を微笑みながら見送った。(バッキンガム公とは、わたくしの妹と結婚させたかったのに。) エリザベスは針仕事をしながら、己の野望がひとつ潰えた事に歯噛みした。 下級貴族である父は、立身出世など望まぬ穏やかな性格であったが、その子供達はそうではなかった。 長女のエリザベスは野心家で、何としてでも帝の目に留まり、やがて国母となる――その野望を叶える為、彼女が目をつけたのはプランタジネット家の長男・エドワードだった。 エドワードは都一の色男で、かなりの女好きであるという噂を聞いたエリザベスは、早速彼と接近する事にした。「お父様、わたくしをプランタジネット家のエドワード様と結婚させて下さいませ!」「突然何を言うのだ。そのような事、出来る筈がなかろう!」「ならば、わたくしこの場で自害致します!」「はやまるな!」「わたくし、エドワード様以外の殿方と結婚したくありません!」 こうして、エリザベスは半ば強引にエドワードの元へ嫁いだのだった。 この時代の結婚は、夫が妻の元へ通い、文を送り合うものであったが、エドワードは己の為に自害しようとしたエリザベスの事を大層気に入り、周囲の猛反対を押し切り彼女を正室に迎えた。 だが、エリザベスはそれで満足するような女ではなかった。(わたくしはこの程度で満足するような女ではないわ・・もっと、もっと上を目指すの!) エリザベスは、自分だけではなく己の一族を宮中で一目置かれる存在となる事――それが彼女の最終的な野望だった。 だから、エリザベスは自分の妹であるキャサリンを帝の乳兄弟であるバッキンガムの正室に迎えようとしたのだが、その矢先に彼と義妹・リチャードとの縁談話が来た。(リチャード、いつもわたくしを見下したような目で見る・・絶対に、潰してやるわ!)「お母様、どうなさったの、怖い顔をして?」「いいえ、何でもないわ。」「そう・・」「ベス、あなたには良い殿方と素敵なご縁を結んであげますからね。」「お母様、わたしは・・」「ベス様、こんな所にいらしたのですか、リチャード様が探されていましたよ。」「リチャード伯父様が!?」 そう言った娘の声が少し弾んでいる事に、エリザベスは気づいた。 リチャードを心底憎んでいる自分とは対照的に、娘はリチャードを慕っている。 母と娘で、同じ価値観を持てとは言わないが、エリザベスは何処か寂しい気がした。「お母様、わたしはこれで。」「ベス、待ちなさい!」 エリザベスは慌ててベスを追い掛けたが、彼女は既にリチャードの局へと向かった後だった。(わたくしから全てを奪うつもりなのね、リチャード・・そうはさせないわ!) エリザベスは、リチャードへの敵意を日に日に募らせていった。「リチャード伯父様、お久しぶりです!」「久しいな、ベス。」 宮中へ上がって以来、久方振りに姪と再会したリチャードは、懐紙に包んだ唐菓子を彼女に渡した。「わぁ、ありがとう伯父様!」「暫く会わない内に綺麗になったな。」「まぁ、ありがとう・・」 彼女の母親であるエリザベスは嫌いだが、娘のベスとリチャードは気が合った。「ねぇ伯父様、主上はどんな方なの?一度お会いしてみたいわ!」「リチャード様、大変です!」「どうした、ケイツビー。そんなに大声を出して?」「先程、エドワード様の従者から文を受け取りましたが、主上が血を吐かれたそうです!」「それは、本当なのか!?」 清涼殿の上空は、黒雲で覆われていた。にほんブログ村
2021年04月13日
コメント(0)
画像はコチラからお借りいたしました。「薔薇王の葬列」二次創作小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。―姫様・・ また、あの声が聞こえて来る。 誰かが、自分を呼ぶ声。 一体、誰が自分を呼んでいるのだろうか。 そんな事を思いながらリチャードがゆっくりと閉じていた目を開けると、暗闇の中から人の気配がした。 「誰だ!?」 リチャードが護身用の懐剣を握り締めながら周りを警戒していると、その“気配”は消えた。(何だったんだ、あれは?)「リチャード様、どちらにおられますか!?」「どうした、ケイツビー?」 局の中に、何処か慌てた様子のケイツビーが入って来た。「また、鬼が出たそうです!」「何だと?今度は何処だ?」「弘徽殿です!」 リチャードが、鬼が出たという弘徽殿へと向かうと、そこには既に人だかりが出来ていた。「あら、リチャードさん、わざわざ心配でわたくしの様子を見に来て下さったの?」「義姉上・・」 自分が居る局が大変な騒ぎだというのに、エリザベスは何処か落ち着いていた。 そんな彼女の様子に、リチャードは違和感を抱いた。「襲われたのは、ここに入ってまだ数日しか経っていない下﨟(身分が低い)の娘だそうよ。あなたに良く似た・・」「・・何がおっしゃりたいのですか、義姉上?」「あら、いけない。女御様が呼んでいるわ。」 エリザベスはそう言ってわざとらしく咳払いすると、そそくさとその場から去って行った。「ケイツビー、戻るぞ。」「はい。」 エリザベスの、妙に落ち着き払った態度が気になり、リチャードはその夜は一睡も出来なかった。「きゃぁぁ~!」 夜明け前の静寂を破ったのは、若い女の悲鳴だった。「女御様、大変です!」「弘徽殿女御様のお付きの女房が、何者かに殺されました!」「まぁ、それは本当なの!?」 藤壺女御は、弘徽殿女御付の女房が殺害された事を知り、恐怖で蒼褪めた。―後宮で殺人事件ですって・・―祟りよ、あの女御の祟りに違いないわ!―次は藤壺が狙われるかもしれないわ。 後宮では、弘徽殿で殺人事件が起きた事により、次に狙われるのは自分のではないかと、戦々恐々としていた。「リチャード様、実家から文が届いております。」「父上から俺宛に文とは、珍しいな。」「ええ・・」 リチャードがヨーク公からの文に目を通すと、たちまちその美しい顔が険しくなった。「どうなさいましたか、姫様?」「父上が、俺に縁談が来ていると・・相手は、あのバッキンガムだとか・・」「バッキンガムとは、帝の乳兄弟の・・」「とにかく、一度俺は実家に帰る。」「そうですか。では、わたくしもお供致します。」「あぁ。」 ヨーク公の文を読んだリチャードは、すぐさま実家へと戻った。「父上・・」「リチャード、済まない・・」「何故、謝るのですか?」「それは後で話す。」にほんブログ村
2021年04月10日
コメント(0)
画像はコチラからお借りいたしました。「薔薇王の葬列」二次創作小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。―姫様、姫様・・ 闇の中で、誰かが呼んでいる。―ひめさま・・誰だ、俺を呼ぶのは・・「姫様、起きて下さいませ。」リチャードが目を開けると、そこには自分を心配そうに自分の顔を覗き込んでいる芹の姿があった。「芹、一体俺は・・」「姫様は高熱で一晩中うなされていたのですよ。もうお熱は下がりましたから、大丈夫ですね。」芹はそう言うと、リチャードの額に手を当てた。「藤壺女御様がお見えです。」「わかりました、すぐに参ります。」 リチャードが藤壺女御の部屋へと向かうと、そこにはエリザベスの姿があった。「あらリチャードさん、すっかり女房装束姿が似合って来たじゃないの。」「・・大変ご無沙汰しております、義姉上。」「いやぁね、そんなに堅苦しい態度を取るのを止して。」エリザベスはそう言って笑ったが、目は全く笑っていなかった。「義姉上、わたしに何かご用でしょうか?」「主上は、あなたの事を気に入ったそうよ。」「そうですか・・」「後宮で上手く立ち回りたければ、敵は作らない方がいいわよ。」「どういう意味でしょうか?」「その言葉通りの意味よ。あなたは、少々目立ち過ぎているから。」エリザベスはそう言うと、衣擦れの音を立てながら藤壺女御の部屋から出て行った。「あんな言葉、気にしない方がいいわ。」「はい・・」「最近主上があなたにばかり気にかけて、弘徽殿へちっともお渡りにならないものだから、僻(ひが)んでいるのよ。」 「主上、また考え事をしていましたね?」「ごめん、何の話だったかな?」「あの泉で、主上が見たという天女の話ですよ。」バッキンガムはそう言うと、扇で口元を覆いながら笑った。「ねぇバッキンガム、僕最近変なんだ・・あの子の事を考えると、胸が苦しくなるんだ。」「そうですか・・それは恋というものでしょう。」「恋?」「主上はあの姫にすっかり心を奪われてしまっているのでしょう?」「どうしたら、それは治せるの?」「・・わたしに任せて下さい。」バッキンガムはそう言って口元に笑みを浮かべた。「縁談?わたしにですか?」「あぁ。相手は橘家の姫だそうだ。」「そのような方など、おそれ多い・・」 ケイツビーはヨーク公から縁談を持ち掛けられ、戸惑いながらそう言うと、溜息を吐いた。「わたしは、結婚するつもりはありません。」「心に決めた相手が居るのか?」「それは、申し上げられません。」「そうか・・」 ケイツビーが部屋から出て行った後、彼と入れ違いにジョージが入って来た。「父上、ケイツビーと何を話していたのですか?」「ジョージ、ネヴィル家のイザベラとは最近どうなのだ?」「上手くやっております・・」「そうか。先程ケイツビーに縁談を持ち掛けたのだが、彼は余り乗り気ではなかったようだ。」「ケイツビーはリチャードを想っているのだから当然でしょう?」「そうか・・あれは、リチャードが生まれた頃からずっとリチャードを見ていたから、リチャードを好いていたのか。」「ケイツビーはリチャードしか見ておりませんよ、父上。」「そうか。それよりも、雷壺女御の事は何かわかったのか?」「はい。雷壺女御の子を取り上げた産婆の元を訪ねると、そこは今にも朽ちそうなあばら屋だった。「誰かおらぬか?」 ジョージが小屋の中に入ってそう声を張り上げると、そこは今にも朽ちそうなあばら屋だった。「誰かおらぬか?」ジョージが小屋の中に入ってそう声を張り上げると、奥から痩せて垢まみれの女が悪臭を撒き散らしながらやって来た。「お前が、雷壺女御の子を取り上げた産婆か?」「はい、わたしがあの方の御子を取り上げた産婆でございます。」そう言った女―元産婆・くめは、雷壺女御が鬼の子を出産した時の事を話した。「あの方は、稀に見る難産でございました。あの方はご自分のお命と引き換えに、元気な姫君様をお産みになられました。」「今姫君と言ったな?その姫は今何処に?」「御子は黒と銀の瞳を持った、大層可愛らしい姫君様でございました。」「何だと、今何と言った?」「これ以上、わたくしの口からは何も申し上げる事は出来ません。」「では最後にひとつだけ答えろ。雷壺女御が産んだ御子は、左右違う色の瞳を持った姫君なのか?」「はい・・」(何という事だ・・) ジョージは雷壺女御が産んだ姫君がリチャードであるという衝撃的な事実を知り、暫くその場に立ち尽くしていた。にほんブログ村
2020年08月01日
コメント(0)
画像はコチラからお借りいたしました。「薄桜鬼」「薔薇王の葬列」二次創作小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「リチャード、待って!」黒谷へと文を届けに行くだけだったのに、リチャードは女装したヘンリーを彼の自宅まで送り届ける羽目になってしまった。「おい、黒谷へ使いはどうする?」「済まないが、お前一人で行ってきてくれないか?」「わかった・・何やら、訳有りのようだしな。」バッキンガムはそう言った後、ちらりと横目でヘンリーを見て雑踏の中へと消えていった。「ねぇ、これから何処行くの?」「お前を家まで送る。」「そんな・・すぐに君と離れるのは嫌だよ。」「そう言われてもな・・」「お願い、一緒に居てよ、リチャード・・」ヘンリーは蒼い瞳を涙で潤ませながら、上目遣いでリチャードを見た。「・・わかった。」「やったぁ~!」先程の涙は何処へやら、ヘンリーは満面の笑みを浮かべていた。(こいつは何をやってもあざとく見える・・そう見せているだけなのか、それとも・・)「リチャード、喉が渇いたよ。」「じゃぁ近くの井戸にでも・・」「あ、あそこの茶店で何か食べようよ!」「こらヘンリー、待て・・」茶店に入ったヘンリーは、嬉しそうな顔をして団子を食べていた。「おいしいね、リチャード!」「ヘンリー、まだ食べるつもりか?」「うん!」「もうそれで五本目だぞ?いい加減食べるのを止めないと太るぞ。」「わかったよ・・」ヘンリーはそう言うと、溜息を吐いた。そんな彼の顔を見ていると、リチャードは思わず団子を一本注文しようとしたが、やめた。「ねぇリチャード、僕の格好、おかしいかな?」「おかしくないぞ?何か言われたのか?」「ううん、ただ通りすがりの人にジロジロと見られるんだ。」「そうか・・」はた目から見れば、ヘンリーは良家の令嬢にしか見えない。そんなヘンリーと、若侍姿のリチャードは、何処からどう見ても幼馴染の男女とお嬢様と使用人にしか見えない。「ねぇ、どうしたのリチャード?さっきから黙ってばかり・・」「いや、何でもない。日が暮れる前にここを出るぞ。」「うん、わかったよ。」リチャードがヘンリーと共に京の町を歩いていると、そこへバッキンガムがやって来た。「何だ、この娘とまだ居たのか?」「リチャード、あの小物屋に入ろうよ!」「おい待てヘンリー、急に引っ張るな!」小物屋へと向かったヘンリーは、簪や櫛を手にとっては蒼い瞳をキラキラと輝かせていた。「わぁ、これ可愛いなぁ。」「そんな事言っても、買わないぞ。」「店主、これは幾らだ?」バッキンガムはそう言うと、ヘンリーが持っていた紅い櫛を買った。「これはあんたに。」そう言って、バッキンガムはリチャードに桜を象った簪を彼女の髪に挿した。「あんたの黒髪によく映える。」「・・そんな物、要らない。」「許嫁からの贈り物だ、受け取れ。」「・・わかった。」リチャードは バッキンガムにそう言うと、照れ臭そうに笑った。にほんブログ村
2020年07月18日
コメント(0)
画像はコチラからお借りいたしました。「薄桜鬼」「薔薇王の葬列」二次創作小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。 リチャードの前に突然現れた許嫁と名乗るバッキンガムは、その日からまるで金魚の糞のようにリチャードに付きまとうようになった。「おいバッキンガム、毎日俺につきまとっていても、俺はお前と結婚する気はないぞ。」「そんな事はわかっている。ただ俺は、あんたの傍に居て、あんたがどんな女なのかを観察したいだけだ。」バッキンガムはそう言うと、金色の瞳を光らせながらリチャードを見た。「土方さん、いいんですか、あいつ放っておいても?」「放っておくも何も、藩主の姫君様を無碍にすることは出来ねぇだろうが。」「違いますよ。僕が話しているのは、彼女に最近つきまとっている奴ですよ。」総司が指した方を見て、土方は漸くバッキンガムの存在に気づいた。「リチャード、お前に至急頼みたいことがある。この文を黒谷へ届けてきてくれないか?」「わかりました。」「それならば、俺も共に行こう。」土方はリチャードからバッキンガムを引き離そうとしたのだが、その目論見は無駄に終わった。「リチャード、そいつは誰だ?お前の知り合いか?」「副長、彼は・・」「俺はバッキンガム公ヘンリー=スタフォード、リチャードの許嫁だ。」「許嫁ぇだと?じゃぁお前が家を出た理由がこいつか?」「まぁ、端的に言えばそういう事になります。」「そうか。それでバッキンガム、お前はいつまでここに居るつもりだ?」「さぁな。俺はリチャードが居る限りここに居るつもりだが、何か問題でも?」「別に問題はないが・・」「そうか、ならば俺はこのままここに居る事にしよう。」バッキンガムと土方の会話を聞いていた総司は、少し嬉しそうな顔をしていた。「ねぇ、土方さんがあんなに気圧されるなんて珍しくない?」「そうだな。今日は空から槍が降ってきそうだな。」 結局、リチャードは、バッキンガムと共に黒谷へと文を届けに行くことになった。「お前はいつもそんななりをしているのか?女子でありながら、勿体ないな。」「言っただろう、俺は女子としての幸せは望んでいないと。女子は髪を美しく結って、美しく着飾って夫の帰りを待つ・・そんな平凡で退屈な人生は真っ平御免だ。」「そうか。だからあんたの両手のタコは男になりたい証なのか。」バッキンガムはそう言うと、リチャードの両手に残る竹刀ダコを見た。竹刀ダコの他に、刀傷が白魚のような両手に幾つも残っていた。「お前には関係のない事だ。」リチャードは己の手を握っているバッキンガムの手を邪険に払うと、先を急いだ。あと少しで黒谷に着くという時、娘の甲高い悲鳴が向こうから聞こえてきた。「一体何の騒ぎだ?」リチャードとバッキンガムが、悲鳴が聞こえた方へと向かうと、そこには美しい振袖姿の娘と、その供と思しき女性が不逞浪士と思しき数人の男達に絡まれていた。「弱い者いじめとは感心しないな。」「何だぁ、若造はひっこんじょれ!」「田舎侍がほざくな。」愛刀の鯉口を切ったリチャードを見たバッキンガムは、すかさず彼女に助太刀した。「おい、こんな所で無駄な殺生をするなよ?」「安心しろ、全員峰打ちで片付ける。」バッキンガムはリチャードの言葉を聞くなり、笑った。路上に無様に転がされた浪士達を軽く足蹴にしたリチャードは、恐怖で震えている娘に手を差し伸べた。「もう大丈夫だぞ。」「リチャード、助けてくれてありがとう!」その娘―もとい女装したヘンリーは、そう叫ぶとリチャードに抱き着いた。「ヘンリー、お前その格好はどうした?」「リチャードに会いたくて、少しお洒落したんだ、似合う?」 ヘンリーはそう言った後、嬉しそうに真新しい振袖をリチャードに見せた。にほんブログ村
2020年07月18日
コメント(0)
画像はコチラからお借りいたしました。「薄桜鬼」「薔薇王の葬列」二次創作小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。リチャードが藩邸から姿を消したことを知ったセシリーは半狂乱となった。「あぁ、あの子に何かあったら・・」「母上、リチャードは心配要りませんよ。わたし達よりもリチャードは強く逞しい娘です。」「何を寝ぼけた事を言っているのです、エドワード!」セシリーはそう叫ぶと、家臣達にリチャードの消息を探るよう命じた。「母上はリチャードに対して過保護すぎる。あいつが普通の女子の幸せなど望まないことくらい、俺達でも知っているというのに。」「そう言うな、ジョージ。母上は母上なりにリチャードを心配されているのだ。」エドワードは溜息を吐いてすっかり冷めてしまった茶を飲んだ。同じ頃、新選組隊士となったリチャードは、屯所に隣接する道場で稽古に励んでいた。「次!」自分よりも倍の大きさがありそうな程の大柄の隊士を倒したリチャードは、汗ひとつかいていなかった。「やるねぇ、あの子。まぁ、あれほどの剣術の腕前なら当然か。」リチャードの稽古の様子を遠巻きに見ていた沖田は、そう言うと溜息を吐いた。「それにしても、あの土方さんが良くあの子の入隊を許したよなぁ。」「藩主の姫君様だから、無下にできなかったんだろう。まぁ、向こうは特別扱いしないで欲しいって言っていたからな。」原田と藤堂は道場の隅でそんなことを話しながら、昨夜リチャードが屯所へやって来たことを思い出していた。「ここへ入隊してぇだと?」夜遅くに新選組屯所の門を叩いたリチャードに待っていたものは、驚愕の表情と戸惑いの表情がない交ぜになった土方の顔だった。「何でも、親が望まない縁談を持ってきたから、それで家出したんだそうです。」「家出ねぇ・・仮にも藩主の姫君様が、大胆な事をしやがる。」土方はそう言うと、眉間に皺を寄せ、溜息を吐いた。「まぁいいんじゃないんですか?この子の剣術の腕は確かなものだし、それに身分を隠していれば周りにはバレませんよ。」「それはそうだが・・誰かの小姓にでもしなきゃぁ収まりがつかねぇだろうが。」「それは言い出しっぺの土方さんが面倒を見ればいいでしょう?」「総司、てめぇ・・」こうして、リチャードは土方付の小姓として新選組に入隊を果たしたのだった。稽古の後、リチャードが井戸で額に浮かんだ汗を拭っていると、そこへ一人の青年がやって来た。「もし、ここが新選組の屯所か?」「あぁ、そうだが・・貴殿は?」「自己紹介が遅れた。俺はヘンリー=スタフォードと申す。」青年はそう言って被っていた笠を脱ぐと、金色の瞳でリチャードを見つめた。「新選組に何か用か?」「ここを訪ねたのは、新選組に用があるからじゃない。あんたに用があるからだ、リチャード。」青年はリチャードとの距離を詰めると、彼女の前髪を掻き上げ、その下に隠していた左目を露わにした。「ヨーク藩主が溺愛している一ノ姫は、左右違う色の瞳を持っていると噂に聞いた。なるほど、美しい瞳をしているな。」「貴様、何者だ!?」「まさか、自分の縁談相手の名を忘れたわけではあるまい?」―女の幸せは良い人と結婚し、その人との子を成して育てることです!それが女として生まれたお前の幸せなのよ!「俺は女の幸せなど要らない。悪いが俺の事は諦めてくれ。」「面白い。俺は高貴で扱いにくい女が好きだ。」ヘンリー・スタッフォード、バッキンガム公はそう言うと口端を上げて笑った。にほんブログ村
2020年07月18日
コメント(0)
画像はコチラからお借りいたしました。「薄桜鬼」「薔薇王の葬列」二次創作小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。―リチャード・・闇の中から、誰かの優しい声が聞こえてくる。―リチャード・・リチャードが目を覚ますと、そこにはあの日の雪山で出会った、美しい鬼の姿があった。彼女は金色の瞳でリチャードを見つめると、そっと彼女を優しく抱きしめた。―こんなに大きくなったのね。鬼の声は、どこか嬉しそうでいて、切ないものに聞こえた。(貴女は誰?)―また、会いましょう・・「待って!」リチャードが鬼に向かって手を伸ばそうとすると、そこに広がるのは漆黒の闇ばかりだった。(夢か・・)京に来てから、リチャードはよく幼い頃雪山で会った美しい鬼の夢ばかりを見る。夢の中の鬼は、いつも自分に優しかった。まるで彼女は、リチャードを実の子のように優しく接してくれた。母の愛に飢えているリチャードは、夢の中で鬼に甘えていた。(あの人が自分の母親だったらいいのに。)そんな馬鹿な事を考えながら、リチャードは再び目を閉じて眠った。「リチャード様、起きてください。」「どうした、ケイツビー。朝早くから俺のところに来るとは珍しいな?」「セシリー様がいらっしゃいました。」「母上が?父上と共に国元に居るのではなかったのか?」「詳しくはわかりませんが、お支度をなさいませ。」国元に居るはずのセシリーが突然上洛し、訳が分からぬままリチャードはケイツビーと女中達に身支度を手伝って貰い、ケイツビーと共に彼女は兄達が待つ部屋へと向かった。「失礼いたします、兄上。」「リチャード、久しいわね。元気そうで何よりだこと。」上座に座ったセシリーはそう言うと、華やかな着飾ったリチャードを見て嬉しそうに笑った。「母上、何故突然上洛などされたのです?」「母が子に会うことに何か理由でもあるのかしら?それよりもリチャード、お前は相変わらず剣術にうつつを抜かしているそうね?ジョージから聞いたわよ、御前試合で男達を打ち負かしたとか・・」「母上、わたしは・・」「わたしは今までお前を甘やかしてきたわ・・剣術にお前が夢中になっていることを知ったとき、わたしはいずれ飽きるだろうと思っていた・・でもそれは大きな間違いだったわ!」セシリーはそう叫ぶと、苛立ちを紛らわせるかのように脇息を叩いた。「これ以上お前を好きにさせてはいけない。お前を国元へ連れて帰ります。」「母上、それだけはおやめください、俺は・・」「立場をわきまえなさい、リチャード!お前がどれだけ剣術や武術の腕を磨いても、女であるお前が戦場に立つことはできないの!女の幸せは良い人と結婚し、その人との子を成して育てることです!それが女として生まれたお前の幸せなのよ!」「そんな生ぬるい幸せなど俺には不要です、母上!」リチャードはそう叫ぶと、部屋から飛び出した。(女の幸せなどクソ食らえだ!俺は母上のように髪を簪で飾り、美しい衣を着てひたすら夫の帰りを待つ女になどなりたくはない!)乱暴に櫛と簪を抜き取り、結い上げられた髪を崩したリチャードは、鏡台の中に映る己の顔を見た。リチャードは両親や兄達の誰とも似ていない。金髪碧眼の中で、リチャードだけが黒髪で左右違う色の瞳をしている。その所為で母には疎まれ、周囲の者たちからは鬼の子だと畏怖されていた。これ以上ここに居たら、母に無理矢理国元へ連れ戻され、飼い殺される日々が待っているだけだ。女としての幸せなど要らない、自分が欲しているのは戦場で鮮血を浴びながら戦う男としての幸せだ。もうここには居たくない―そう思ったリチャードは、夜明け前に藩邸を飛び出した。彼女が辿り着いた先は、新選組屯所だった。「頼もう!」「何だ、道場破りかと思ったら君か。ここに何の用?」「俺を新選組に入隊させてくれ。」「へぇ・・何だか面白そうだから、話を詳しく聞こうか。」沖田は緑の瞳を閃かせると、そう言ってリチャードを屯所の中へと招き入れた。「“探さないでください”か・・」「リチャードを探さなくてもよろしいのですか、兄上?」「大丈夫だ、あいつの事だからまた何処かで会うこともあるさ。」にほんブログ村
2020年07月18日
コメント(0)
画像はコチラからお借りいたしました。「薄桜鬼」「薔薇王の葬列」二次創作小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。リチャードが会津藩の御前試合に出場した数日後、彼女宛にセシリーからの文が届いた。「姫様、奥方様は何と?」「読まなくてもわかる。女子ならば武道にうつつを抜かしていないで花嫁修業をしろ、女子らしく生きろと、どうせ小言ばかり長々と書き連ねているのだろう。」「奥方様は奥方様なりに姫様の事を心配してんだなし。」「さぁ、どうだか。」爺やが淹れてくれたお茶を飲みながら、リチャードはあの時自分が助けた金髪の優男・ヘンリーの事を想っていた。自分と同い年くらいだったが、彼は男の癖に頼りなかった。あれでは、一度も刀を振るったことがないのだろう。あんな奴でも男として生まれれば家を継ぐことが出来るのだから、理不尽過ぎる。「姫様?」「少し俺は出かけてくると兄上達に伝えておいてくれ。」そう言ってリチャードは自室に入ると、刀掛けに置かれている大小を腰に帯び、そのまま縁側を通って裏口から外へと出た。以前京見物した時は髪を結い、振袖姿で頭が重くて動きにくかったが、男装姿だと動きやすい。それに、男装していると周囲になめられないで済む。「おこしやす。」「リチャード、また会えたね!」鍵善の中に入ると、ヘンリーがそう言ってリチャードに抱きついた。「また君にここで会えると思ったから待っていたんだ。そしたら、また君に会えた!」「ヘンリー、離れろ、苦しい。」「ごめん、君に会えて嬉しくてつい・・」ヘンリーはそう言うと、慌ててリチャードから離れた。「それにしてもお前、何故店に入ったとき俺だとわかったんだ?お前と初めて会った時、俺は振袖姿だったろう?」「君の瞳を、憶えていたんだ!」「俺の、瞳?」「うん。リチャードの瞳はとっても綺麗だから、姿が変わっても君の瞳を憶えていたから、一目で君だとわかったんだ!」「そ、そうか・・」リチャードは少し恥ずかしそうに俯いた。今まで左右の瞳の色が違うことでセシリーから忌み嫌われたり、女中達から気味悪がられたりしていたが、その瞳を綺麗だと言われたことは初めてだった。「ねぇリチャード、これから何処に行こうか?」「俺は別に行きたいところなんてないから、お前に任せる。」「じゃぁ僕、君と一緒に行きたいところがあるんだ!」そう言ってヘンリーは、躊躇いなくリチャードの手を掴むと、店から出た。彼が向かった先は、八坂神社だった。「まだ桜が咲いてないよ、リチャード。満開の桜を君と一緒に見たかったのに。」「桜が咲くのはまだ先だ。それよりもこんな所に居たら風邪をひく、戻ろう。」「うん・・」ヘンリーが少し落胆した表情を浮かべながら石段を下りようとした時、彼は足を滑らせてバランスを少し崩してしまった。「危ない、ヘンリー!」「リチャード!」リチャードは咄嗟にヘンリーを自分の方へと引き寄せたが、その弾みでリチャードもバランスを崩してしまい、ヘンリーの上に倒れてしまった。「大丈夫か?」「うん・・リチャードも、大丈夫?怪我はない?」「ああ。」リチャードはそう言って頬を羞恥で赤く染めると、慌ててヘンリーの上から退いた。「ねぇリチャード、また会えるよね?」「あぁ。」「もう帰らないと・・また爺やに叱られちゃう!」ヘンリーは急いで立ち上がると、そのまま石段を駆け下りた。「リチャード、じゃあね!」「あぁ、またなヘンリー!」八坂神社の前でヘンリーと別れたリチャードが藩邸の裏口からこっそりと自室へと戻ろうとした時、彼女は運悪くケイツビーに捕まってしまった。「姫様、そのような格好をなされて・・また、男装をして町に行っていたのですね?」「ケイツビー、何故それを知っている?」「貴女の事は幼少の頃から見てきましたから、貴女が日頃何をなさっているのかは大抵把握できます。それよりも姫様、大小を腰に差して出歩くのはおやめください。貴女様に剣の腕があるとは言え、もし貴女の大事なお身体に傷がついたとしたら、わたしは命を代えてお詫びするしかございません。」「わかった、次からは気を付ける。ケイツビー、今から着替えをするから出ていけ。」「わかりました。では姫様が着替えを済ませるまで、外で待っています。」漸くケイツビーの小言から解放され、リチャードは安堵のため息を吐いた。一方、ヘンリーは風邪をひいて寝込んでしまっていた。「若様、お粥を作りましたよ。」「ありがとう。」「若様は体が弱いのですから、無理をしないでくださいよ。若様に何かあったら、奥方様にわしらが叱られてしまいますからね。」にほんブログ村
2020年07月18日
コメント(0)
画像はコチラからお借りいたしました。「薄桜鬼」「薔薇王の葬列」二次創作小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。京見物で謎の優男とリチャードが出逢ってから数日が経った。いつものようにリチャードは次兄・ジョージと共に武芸の稽古に励んでいた。「参った!」「有難うございました、ジョージ兄上。」「お前は京に来てからますます武芸の腕を上げたな、リチャード。お前が男として生まれていたら、その名を日の本中に轟かせていただろう。」ジョージはそう言って手拭いで額から流れる汗を拭うと、隣に立っている妹を愛おしそうに見つめた。「俺は女ですが、母上や義姉上のように家の中で大人しく夫の帰りを待つような女にはなりたくはありません。ヨーク家の一員として、戦場で敵将の首を討ち取ってみせます。」「頼もしい事を言うようになったな、お前!貴方もそうお思いになるでしょう、兄上?」ジョージに突然話を振られ、長兄・エドワードは少し困ったような顔をした。「リチャード、お前は武芸に優れているが、女子は勇ましさよりも優美さを身に付ける方がいい。」エドワードはそう言うと、リチャードの汗をそっと優しく懐紙で拭った。「二人とも、稽古の後で腹が減っただろう?爺やが握り飯を作ってくれたから、一緒に食おう。」「はい、兄上。」三人は縁側に座り、爺やが作ってくれた握り飯を美味そうに頬張った。「爺やの作る握り飯は絶品だな。俺でもこうは上手く作れない。」「姫様にそう言っていただけると、作り甲斐があります。」爺やはそう言って皺が目立つ顔をまた皺くちゃにして笑った。「爺や、俺の事を姫様と呼ぶな。」「でも、儂らにとっては姫様だぁ。それよりもエドワード様、先程国元から使者の方がお見えになりました。」「そうか、すぐに行こう。」エドワードはそう言ってゆっくりと立ち上がると、国元からの使者・ウォリックを自室で迎えた。「ご機嫌麗しゅうございます、エドワード様。」「ウォリック、遠路はるばる京までの長旅、ご苦労だった。父上や母上は息災か?」「お二人ともお元気にしておられます。今日こちらに参りましたのは、姫様のご縁談の事でお話があるからです。」「リチャードに縁談だと?相手は誰だ?」「スタッフォード家の嫡男・ヘンリー様です。姫様とはお年が近いので、良き縁組だと奥方様が喜んでおられます。」「母上が決めた縁談を、あいつが首を縦に振ると思うか?」エドワードの問いに、ウォリックは静かに首を横に振った。「その縁談、お断りいたします。」「やはりな、お前ならばそう言うと思っていたぞ、リチャード。」「俺は男として生きたいのです、兄上。顔も知らぬ男の元へ嫁ぎ、婚家に尽くすなどまっぴらごめんです。」「リチャード、これは母上がお決めになられた縁談なのだ。もしお前がその縁談を断ったら、母上の顔を潰すことになるのだぞ?」「母上の顔など何度潰れても構いません。」リチャードは縁談に対して頑なに拒絶し、エドワードはどうリチャードを説得しようかどうか迷っていた。「それならば、今度ヨーク藩と新選組で行う武芸大会が金戒光明寺で開かれる。そこでお前がもし彼らに勝ったら、お前の縁談を白紙に戻そう。どうだ、悪い話ではないだろう?」「武士に二言はありませんね、兄上?」「ああ。」その日からリチャードは、ますます武芸の稽古に励んだ。「兄上、あいつは本気ですよ?嘘だとわかったらどうなさるおつもりなのですか?」「それはそうなったら考える。新選組は元々江戸の片田舎の百姓達や町人達で作られた集団だという。相手が田舎侍とはいえ、れっきとした男だ。所詮男の腕力の前では女子が無力だということに、あいつが気付けばいいだけの話だ・・」「策士ですね、兄上。」ヨーク藩主催の武芸大会が金戒光明寺で行われ、そこでは藩士達が新選組隊士と実戦さながらの打ち合いをした。たかが田舎侍の集まりだと新選組を侮っていたエドワードだったが、彼は皆一流の剣の遣い手だった。中でも、沖田と斎藤の剣の腕は目を見張るものがあった。「土方、あの二人もお前達の部下か?」「ええ。あいつら・・総司と斎藤とは、江戸の道場仲間です。それよりもエドワード様、今日は一の姫様のお姿が見えませんが・・」「ああ、妹ならばこの後に出る。ほら、出て来たぞ。」エドワードが扇子で指示した先には、男袴を穿いて襷がけをした姿のリチャードが沖田と対峙している姿だった。「まさか、女が相手なんて、新選組一番隊組長である僕も舐められたものだね。」「女相手だからといって一切の手加減は無用だ。お前のような田舎侍など、俺の相手ではない。」「ふぅん、随分と言ってくれるじゃない。じゃぁ、容赦しないよ!」リチャードの挑発に乗った沖田は鋭い突きでリチャードを押したが、リチャードは難なくそれを躱し、沖田の面を打とうと見せかけ、彼の鳩尾を鋭い一撃を打ちこんだ。「勝負あり!」「兄上、約束通り、わたしの縁談話を白紙に戻してくださるのですよね?」「リチャード、それは・・」「兄上、武士に二言はありませんよ。俺が兄上に代わり、すぐさま母上に文をしたためましょう。」「そうしてくれ、ジョージ。」「有難うございます、兄上!」息を弾ませながらその場から去っていくリチャードの背を見た沖田は、初めて彼女がヨーク藩主の娘だと言う事を知り、驚愕の表情を浮かべながら土方を見た。「土方さん、どうして僕達にあの子がヨーク藩の姫様だと言う事を黙っていたんですか?」「お前達に自分の素性を明かしたら、妙な気遣いをされるから嫌だと、本人が直接俺に言ってきたんだ。」「まぁ、性別と身分が違えば、あの子とは背中合わせで戦えるかもしれないなぁ。」屯所へと帰る道すがら、沖田はそう言うと溜息を吐いた。藩邸へと戻ったリチャードは、汗を井戸の水で流していた。濡れた艶やかな黒髪の隙間から、リチャードの首にある梵字のような痣が、月明かりに照らされた。にほんブログ村
2020年07月18日
コメント(0)
画像はコチラからお借りいたしました。「薄桜鬼」「薔薇王の葬列」二次創作小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「有難う、助かったよ。」金髪の優男はそう言うと、澄んだ蒼い瞳でリチャードを見つめた。「お前、見た所何処かの坊ちゃんのようだが、供を連れずに一人でこんな人気のない通りを歩いていたらどうぞ襲ってくださいと言うようなものだ。」リチャードが呆れた顔で金髪の優男を見ると、彼は蒼い瞳を潤ませながらこう言った。「だって、この近くに美味しいぜんざいのお店があるって聞いたから、探している内に道に迷っちゃって・・」「あいつらに捕まったという訳か。」碁盤の目の様に整っている京の道は、幾つも裏道などがあり、国元から上洛してきた諸藩の藩士達が度々迷子になってしまう事が多かった。二人の兄達と共に上洛してきたリチャードは、京で迷子にならぬよう、京見物をする前に全ての道を把握していた。「お前が行きたかったそのぜんざいの店は何処にあるんだ?」「確かこの近くだったと思うんだけれど・・鍵善良房というお店なんだ。」「その店なら知っている、案内するから俺について来い。」「いいの?」リチャードは金髪の優男を連れて鍵善へ行くと、彼は店員に嬉しそうな顔をしてぜんざいを注文した。「このお店でぜんざいが食べられるのが冬だけで、夏は黒蜜入りのくずきりが美味しいんだ!」「そうか。」「ねぇ君、名前は?僕はヘンリー、君に危ない所を助けて貰ったからお礼がしたいんだ!」「俺はリチャードだ。俺はお前に礼をされるような事はしていない、当然の事をしたまでだ。」リチャードがそう言って金髪の優男・ヘンリーにそっぽを向くと、丁度そこへ二人前のぜんざいがやって来た。「頂きます!」ヘンリーは熱いぜんざいを冷ますことをせず、そのままレンゲを持って口へと運んだので、その熱さに彼は思わず悲鳴を上げてしまった。「大丈夫か?」「ごめん、こんなに熱いなんて知らなかった・・」「口に垂れてるぞ。」リチャードはヘンリーの口端に垂れたぜんざいの食べかすを懐紙で拭うと、彼は恥ずかしそうに俯いた。(何だかこいつと居ると調子が狂うな・・)「お前、家族は?」「僕は父上を早くに亡くして、母上は僕が15の時に死んだから、僕を心配する人は誰も居ないんだ。」そう言ったヘンリーの横顔は、何処か寂しそうに見えた。(俺と同じだ・・)「なぁ、お前がもしよければだが・・もう一度ここで会えないか?」つい、リチャードはそんな言葉が口から突いて出てしまった。「僕と、友達になってくれるの?」「まぁ、そういう事だ。」「有難う、友達になってくれって僕に言って来たのは、君が初めてだよ!」その後、ヘンリーとまた会う約束をしてリチャードは彼と店の前で別れた。(何であんな事を言ったんだ俺は!またあいつに会える保証何てないのに!)そんな事を考えながらリチャードが歩いていると、彼女は人相が悪い男と擦れ違いざまに肩がぶつかってしまった。「おい姉ちゃん、人にぶつかっておいて謝りもせぇへんのかい?」「済まない、周りを見ていなかった。」「それが人に謝る態度か、あぁ!?」リチャードの態度に激昂した男が、彼女の胸倉を掴もうとした時、浅葱色の羽織がリチャードの視線の端に映ったかと思うと、一人の黒髪の美丈夫が、彼女と男との間に割って入った。「てめぇ、天下の往来で女に手ぇだすたぁ感心しねぇなぁ。何処の組の者だ?」「ふん、壬生狼め、早う京から去ね!」男はそう言って黒髪の美丈夫を睨みつけると、そのまま雑踏の中へと消えていった。「嬢ちゃん、怪我はないか?」「助けて貰って礼を言う。」「家はどこだ?送ってやろうか?」「結構だ。」リチャードはそう言って黒髪の美丈夫の申し出を断ったが、結局彼に藩邸まで送って貰う事になった。「そういや、あんたの名前をまだ聞いていなかったな・・俺は新選組副長・土方歳三。」「俺は・・」「姫様、こぢらにいらしていたのですか~!」リチャードが男に自分の名を名乗ろうとした時、彼女の背後に乳母の濁声が響いた。「さぁ姫様、早く中に入ってくなんしょ、これ以上外に居ると凍えちまう!」「待て、“姫様”だと?」リチャードが男の方を見ると、彼は紫紺の瞳を驚きで大きく見開きながら自分の顔を見つめていた。「こんお方は、ヨーク藩主・リチャード様の一ノ姫様、リチャード様だ、控えなんしょ!」「ここまで送ってくれてありがとう、土方。」乳母に半ば強引に邸の中へと入れられそうになったリチャードは、そう土方に礼を言った。「まぁ若、今までどちらに行っちょったとですか?」「ごめん、ちょっと美味しいぜんざいの店に行こうとしたら道に迷っちゃって・・でも、友達に連れて行って貰ったからちゃんと美味しいぜんざいを食べられたよ。」「そんな問題じゃありません!若の身に何かあったらお家の一大事ですよ!」長い金髪を揺らしながらヘンリーが藩邸の中へと入ると、彼の元へそう言いながら蒼褪めた爺やと乳母が駆けつけて来た。「今度出掛ける時はわしらにひと言声を掛けてからにしてくださいませ。若が中々お戻りにならんで、わしゃぁ心の臓が止まりそうになりました。」「わかったよ、心配を掛けてごめんね。」「して若様、そのお友達の名前は何というので?」「リチャード、リチャードっていうんだ。」ヨーク藩主の娘・リチャードと、ランカスター藩の若き藩主・ヘンリー。互いに二人は敵同士である事を知らず、こうして運命の出会いを果たしたのだった―にほんブログ村
2020年07月18日
コメント(0)
画像はコチラからお借りいたしました。「薄桜鬼」「薔薇王の葬列」二次創作小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。1853(嘉永6)年1月。その日は、何年振りかの大雪に見舞われ、ヨーク藩の城下町は雪で白く染まっていた。「リチャード、お前もこっちに来いよ!」「いいです。わたしは・・」「何遠慮してるんだ、雪合戦は楽しいぞ!」長兄・エドワードと、次兄・ジョージはそう言うと、嫌がるリチャードの腕を無理矢理引っ張り、雪合戦に参戦した。はじめは兄達に遠慮していたリチャードだったが、やがて彼らと雪玉を投げ合う内に笑顔を浮かべるようになった。「何をしているの!」「母上、リチャードと一緒に雪合戦をしているだけですよ。そんなに怒らなくても・・」「リチャードが病弱なのは知っているでしょう?」リチャード達の母・セシリーはそう言うと、リチャードの頬を容赦なく叩いた。「お前が兄達を誑かしたのね、この化け物!」「母上、お願いですからリチャードを苛めないでやってください。」咄嗟にリチャードをエドワードが庇ったが、リチャードは泣きながら森の中へと駆け出していった。“化け物!”―物心ついた頃から、リチャードはセシリーにそう罵られて育った。母親への愛に飢えていた彼は、彼女から言葉の暴力を受ける度に、その小さな心に傷を抱えながら生きて来た。(母上は、わたしがお嫌いなんだ・・だからわたしの事を苛めるんだ・・)「どうしたの?こんな寒い森の中で震えて・・」頭上から突然声が聞こえたので、リチャードが顔を上げると、そこには雪の精と思しき銀髪金眼の女だが立っていた。女の頭部には、六つの角がついていた。「貴方はだぁれ?」「わたしは貴方の味方よ。貴方の名前を教えて?」「リチャード。」「リチャード・・美しい名ね。リチャード、また会いましょう。」そう言うと女はリチャードを優しく抱き締めると、何処かへと消えていった。その後リチャードはエドワード達に森に一人で居るところを見つかり、翌日熱を出して数日間寝込んだ後、リチャードの頭の中からはあの女の事は綺麗さっぱりなくなってしまった。 10年後―1864(元治元)年1月、京。泣き虫で臆病だったリチャードは、美しく成長した。「兄上、お呼びですか?」「おお、来たかリチャード。今度新しい着物を誂えようと思ってな。どうだ、似合うだろう?」「はい。とてもよくお似合いです、兄上。」緋色の地に龍の刺繍が施されている布を見たリチャードは、華やかな兄に良く似合うと思った。「お前もいつも黒ずくめの格好などやめて、少しは着飾れ。」エドワードはそう言うと、白地に黒い蝶と薄紅色の小花を散らせた振袖をリチャードに羽織らせた。「お戯れを、兄上。」「何を言う、お前はこの世の誰よりも美しい。母上に気兼ねする事などないのだぞ。」「兄上・・」リチャードが二人の兄達と共に上洛してから早一年が過ぎようとしていた。セシリーが居る国元から遠く離れ、リチャードは武芸の稽古を欠かさずにし、それに加えて華道や茶道、裁縫などの女子の嗜みも毎日こなしていた。艶やかな黒髪に半ば隠されたその美しい華の顔を一目拝みたいと、リチャードの元には山ほど恋文が届いたが、リチャードはそれらを全て燃やした。(俺は、普通のものなど望めない。俺は化け物なのだから。)幼き頃にセシリーから掛けられた呪いが、未だにリチャードの心を責め苛んでいた。結局完全に乗り気になった女中達に着付けをされ、髪を結われてしまったリチャードは、鏡の前に映った己の姿に絶句した。何処からどう見ても、今の自分の姿は高貴な武家娘か、大店の令嬢にしか見えない。「まだ京見物をしていなかったな、リチャード?俺達に遠慮せずに行ってこい。」「はい・・」長兄の言葉に甘えたリチャードは、供を連れずに京見物をした。白い雪に染まる京の街は何処か幻想的で美しかった。リチャードが真紅の傘を差しながら橋を渡っていると、向こうから誰かの悲鳴が聞こえた。「さっさと金出しな。そうすれば痛い目に遭わねぇよ。」「やめてください・・」リチャードが人気のない路地裏へと向かうと、そこには恰幅がいい二人の男達が、金髪の優男から金を集ろうとしていた。「男が二人掛かりで弱い者苛めか、情けない。お前達の腰に差しているのは竹光か?」リチャードが口元に嘲笑を閃かせながら男達の前に出てそう言うと、彼らは憤怒で赤くした顔を彼女に向けた。「女は引っ込んでろ!」「待てよ、こいつはぁ上玉だ。痛めつけるよりも、俺達で楽しもうぜ?」男達は下卑た笑いを浮かべながら、じりじりとリチャードとの距離を縮めていった。「俺に気安く触るな、下衆が。」リチャードはそう言って男達の足元を素早く払うと、彼らの喉元に懐剣を突きつけた。「命が惜しくば、去れ。」「畜生!」男達が去った後、リチャードは路上に蹲っている優男に向かって手を差し伸べた。「大丈夫か?」―靡く漆黒の髪の美しさに、僕は目を奪われた。そして僕は、彼女と目が逢った瞬間、彼女と恋に落ちてしまったのだ―にほんブログ村
2020年07月18日
コメント(0)
画像はコチラからお借りいたしました。「薔薇王の葬列」二次創作小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「あ・・」 ヘンリーはそう言いながら、じっとリチャードの白い裸身を見た。「きゃぁっ!」突然ヘンリーが現れ、唖然としていたリチャードだったが、慌てて傍にあった衣で身体を覆い隠した。「ごめん、まさか君が水浴びをしているなんて思わなかったから・・」「あの、暫くあちらの方を向いて頂けませんか?」「わかったよ・・」 ヘンリーがそう言って自分に背を向けた後、リチャードは濡れている髪をそのままにして手早く衣を着て、泉から立ち去った。「主上、天女は見つけられましたか?」「うん・・とても綺麗だったよ。ねぇバッキンガム、もう帰ろう。僕、疲れちゃったよ。」「主上、せっかくここまで来たというのに、何をおっしゃるのです。少し水浴びをした後で戻りましょう。」「・・わかったよ。」 ヘンリーはそう言うと、乳兄弟のバッキンガムに従って彼と共に泉で水浴びをした。 濡れた髪と身体を十分に乾かさぬまま衣を着てしまったリチャードは、その日の夜案の定風邪をひいてしまった。「リチャード様も慌てん坊ですね。まだ髪が乾かない内に泉から出て行かれるなど・・一体何があったのですか?」「ゆっくりと泉で水浴びをしようとしたら、人が来てな・・」「これから薬湯をお持ちいたしますので、ゆっくり休んでくださいませ。」 リチャードの式神・芹はそう言って嘆息して局から出ると、衣擦れの音を立てながら廊下を歩き始めた。 リチャードが時折咳込みながら御帳台の中で寝返りを打っていると、廊下の方から微かな足音が聞えて来た。 芹だろうかと思い、リチャードが微かに顔を上げて廊下の方を見ると、そこには芹ではなく帝の乳兄弟(ちきょうだい)であるバッキンガムの姿があった。「・・ほぅ、先程泉で水浴びをしていた天女は、貴女だったのか。」「・・何の用でございますか、バッキンガム様。」「新しくこの藤壺女御様の女房となられた高貴な女人の顔を是非とも拝見したくて、貴女の女房に代わって薬湯を届けに参った次第です。」 妙にかしこまった口調でそうリチャードに話すバッキンガムは、ゆっくりとリチャードの傍に腰を下ろした。「薬湯を口移しで飲まして差し上げましょう。」「いいえ、結構です。後宮は女人禁制です。人に見つかる前に早くここから立ち去ってはいかが?」「ふふ、貴女がそうおっしゃると思いましたから、先程人払いを命じておきました。ここに居るのはわたしと貴女の二人だけ・・」 バッキンガムはそう言って薬湯を口に含むと、間髪入れずにリチャードの唇を塞いだ。「何をなさいます!」「貴女の唇は柔らかいですね・・まるで天女のようだ。」そう言いながらバッキンガムは、リチャードの衣の中へと手を滑り込ませ、彼女の乳房を軽く揉んだ。「天女との交合は、まるで天にも昇るかのような快感を得られると、ある書物に記されておりました。是非ともそれを天女の貴女と試したいものですね。」「やめて、誰か・・」「人払いを命じたと、先程言ったでしょう?」 バッキンガムはそう言って欲望で金眼を爛々と輝かせながら、リチャードの衣を脱がせた。 その時、さっと二人の前に白い影のようなものが横切ったかと思うと、それはバッキンガムにのしかかり、リチャードの乳房を揉んでいる彼の手に噛みついた。「玻璃(はり)・・」「イテテ、一体何なのですか、この狼は?」 バッキンガムがそう言いながら自分の手を噛んだ白い狼の方を見ると、狼は彼に向かって唸っていた。「わたしが飼っている狼です。これ以上わたしに触れると、この子が貴方の喉仏を食いちぎってしまうかもしれませんよ?」 狼に邪魔されたバッキンガムは、軽く舌打ちしながら局から出て行った。にほんブログ村
2020年07月18日
コメント(0)
画像はコチラからお借りいたしました。「薔薇王の葬列」二次創作小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。 宴の後、弘徽殿女御(こきでんのにょうご)・マーガレットは、ヘンリーが何処か上の空である事に気づいた。「主上、どうなされました?何処かお身体の具合が芳しくないのですか?」「藤壺女御様付の女房・・先程の雪見の宴で舞っていた黒髪の・・」「まぁ、そんなにその娘がお気に召したのですね・・」マーガレットはそう言って溜息を吐きながら、ヘンリーの心を虜にした藤壺女御(ふじつぼのにょうご)付の女房・凛の事を調べるよう、自分付の女房に命じた。 一方藤壺では、滅多に後宮にお渡りになられない帝が今夜お渡りになられるという事で、帝をお出迎えする為の準備に慌ただしく追われていた。「ねぇ、何故主上は後宮嫌いになられたのかしら?」「さぁ、詳しい事は知らないけれど、前の帝が早くにお亡くなりになられて、主上の母上が男好きで、色んな男達を誑かしては袖にしていたとか・・」「まぁ・・」「何でも、雷壺の女御様とは犬猿の仲だったと・・あら、喋り過ぎたわね。」そうリチャードに話した女房は、そそくさと向こうへと行ってしまった。(初耳だな、主上の母上と雷壺の女御様とは接点があったとは・・) 今回の騒動の原因は、もっと根が深いところにある―そう思いながら渡殿を歩いていたリチャードは、数人の男達の存在に気づかず、その中の先頭を歩いていた一人の男とぶつかってしまった。「大丈夫、怪我はない?」「わたくしの方こそ、失礼いたしました。」 リチャードがそう言ってぶつかった男に謝罪しようとした時、その男が帝その人である事に気づき、リチャードは慌てて顔を檜扇で隠した。「君は、確か宴で舞っていた子だね?」「はい・・」「君の名前を聞かせて!」「わ、わたくしはこれで失礼いたします!」「待って!」 ヘンリーは慌ててリチャードを追いかけようとしたが、衣擦れの音を立てながらリチャードは局の中へと入り、几帳の陰に隠れた。(危なかった、もう少しで顔を見られるところだった・・) まさかヘンリーが自分に興味を持っている事などつゆ知らず、リチャードは後宮での潜入生活を続けていた。 その潜入生活を始めてから半月が経ち、都はうだるような暑さに連日襲われた。「暑い・・」 御簾越しでありながらも、夏の陽光に容赦なく照らされ、リチャードはその白い肌にうっすらと汗を滲ませていた。 腰下まである髪は先日櫛で梳ったものの、余りの暑さに耐えきれず、リチャードは重ねて着ていた衣を被って顔を隠し、藤壺から出て雷壺の近くにある人気のない泉へと向かった。 衣を脱ぎ捨て裸となったリチャードが泉の中に入ると、ひんやりとした水の感触が爪先に伝わり、思わずリチャードは悲鳴を上げた。 リチャードが肌に纏わりついている汗を水で洗い流していると、遠くから数人分の足音が泉の方へと近づいてきた。「なぁ、ここか?天女が水浴びしたとかいう伝説の泉は?」「ここみたいだよ。」 叢を隔てて聞こえるその声に、リチャードは聞き覚えがあった。(どうして帝が、こんな所に・・) 慌てて泉から上がって衣を着ようとしたリチャードだったが、その前にリチャードはヘンリーに見つかってしまった。にほんブログ村
2020年07月18日
コメント(0)
画像はコチラからお借りいたしました。「薔薇王の葬列」二次創作小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「リチャード様、わたしです。」 白銀の髪を靡かせたリチャードは、金色の双眸で己の従者を見つめた。 しかし、その後ケイツビーは強い衝撃を受け、地面に倒れた。ケイツビーが顔を上げると、そこには冷たい表情を浮かべて自分を見つめるリチャードの姿があった。 その額に、梵字のようなものが浮かんでいる事に、ケイツビーは気づいた。「下がれ、ケイツビー!」「お館様、危険です!リチャード様が・・」「リチャード、おいで。」ヨーク公がそう優しくリチャードに話しかけると、憎しみに滾っていたリチャードの金色の双眸が彼の姿を捉えた途端、髪の色が白銀から黒へと戻ってゆき、リチャードの額から梵字が消えていった。「お館様、これは一体・・」「お前にはまだ話していなかったな、リチャードの事を。」気絶したリチャードを抱きかかえたヨーク公は、藤壺へとケイツビーと共に誰にも見られぬように戻り、リチャードを御帳台の中へと寝かせた。「リチャードには、生まれつき見鬼の才がある事は、お前も知っているな?」「はい・・それと、さっきのリチャード様と何の関係があるのですか?」「あいつは昔、鬼に拐かされた事があるのだ。丁度、こんな雪が降る肌寒い季節だった・・」 ヨーク公はそう言葉を切ると、静かにリチャードが鬼に攫(さら)われた事をケイツビーに話し始めた。 その日、リチャードが管狐と遊んでいると、そこへ偶々セシリーが通りかかり、セシリーは幼い我が子に向かって鬼だと罵った上に、その小さな頬を張った。 頬を張られ、母から拒絶された痛みでリチャードは邸を飛び出し、闇の中へと逃げ出した。 道に迷い、リチャードが辿り着いたのは古い祠の前だった。「可哀想に・・わたくしと一緒に暮らしましょう?」そう言って自分に微笑んだ鬼の胸の中に、リチャードは飛び込んだのだった。 リチャードが見つかったのは、かつて隆盛を極めた貴族の邸の荒れ果てた中庭にある、池に浮かんだ小舟の中だった。リチャードが凍えぬよう、彼の小さな身体には綿入れの衣が掛けられてあった。「わたし達はリチャードを攫った鬼の姿を見たことはないが、その鬼はセシリーよりもあの子の身を案じていた。」「お館様、その鬼は一体何者なのですか?」「それはわたし達にも解らない・・だがリチャードは時折己の力を制御できずに暴走してしまった事が何度かあった。それは成長するにつれ少なくなってきたが・・どうやら雷壺の女御とリチャードとの間には、何か深い繋がりがあるのかもしれない。」「そうですか・・」 ケイツビーがリチャードの方を見ると、彼は安らかな寝息を立てて眠っていた。 雷壺で起きた鬼騒ぎは、翌日後宮中を揺るがす大騒動となった。「不吉だわ、また鬼が現れるのかしら?」「そんな・・ああ、恐ろしい・・」 後宮の女達が鬼の影に震えている中、その七日後に弘徽殿女御主催の雪見の宴が開かれ、色とりどりの美しい衣を纏った弘徽殿、麗景殿、桐壺、梅壺、雷壺から選ばれた五人の舞姫達が舞台上に現われた。「まぁ、美しい舞姫達だこと。主上もそうお思いになられるでしょう?」「うん、そうだね・・」 そう言った帝の蒼い瞳は、何も映していなかった。また彼は夢の世界にいるのだ―弘徽殿女御・マーガレットは自分の隣に座る夫の姿を苦々しい表情を浮かべながらそう思っていた時、一人の巫女装束を纏った舞姫が舞台上に現われた。 艶やかな黒髪に金色の挿頭を付けたその舞姫は、ゆっくりと右手に鈴、左手に扇を持ちながら雅楽の調べに乗って舞い始めた。「ねぇ、あの子は誰?」「藤壺に新しく入った女房ですわ、主上。確か彼女の名は、凛とか。」「凛・・」 マーガレットは、初めて夫の目に生気が宿っているのを見た。「女御様、いかがなさいましたか?」「藤壺に主上が今宵お渡りになると、藤壺女御に伝えなさい。」にほんブログ村
2020年07月18日
コメント(0)
画像はコチラからお借りいたしました。「薔薇王の葬列」二次創作小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「お前は誰だ?」 リチャードはそう言うと、その美しい鬼を見つめた。「俺は其方を知っている、我が妻よ。」美しい鬼はそっとリチャードの黒髪を優しく梳いた。「産まれた時から其方の事をずっと見て来た。」「もしかしてお前が、雷壺(かんなりつぼ)で鬼騒ぎを起こした鬼か!?」リチャードは美しい鬼を睨みつけ身構えると、鬼と自分とを隔てる結界を素早く張った。「お前は何故、人間どもを守ろうとするのだ、姫よ?」その鬼は、いとも容易くリチャードが作った結界を破った。「な・・」「其方の母親は、お前に愛の代わりに憎悪を与えた。蛇のような冷たい目をした女が、其方の母親だと思うのか?」「俺は鬼などではない、俺は父上の子だ!」「其方は俺達の側の人間だ。気が変わったらこちらへ来い、その時は手厚くもてなしてやろう。」 鬼はリチャードに向かって優しく微笑むと、煙のように掻き消えた。「リチャード様!」「ケイツビー、お前どうしてここに・・」「アン様から文を頂いて、こちらに馳せ参じました。」そう言ったリチャードの従者・ケイツビーは、寒さで悴んで赤くなった主の足を見た。「陰湿な事をする輩は誰ですか?わたくしが懲らしめて差し上げましょう。」「気にするな。こんな嫌がらせ、母上から受けた仕打ちに比べるまでもない。」 リチャードはそう言って努めて平静な態度をケイツビーの前では崩さなかったが、御帳台の中にその身を横たえ、目を閉じると、あの鬼の言葉が甦って来た。―其方の母親は、お前に愛の代わりに憎悪を与えた。蛇のような冷たい目をした女が、其方の母親だと思うのか? 母・セシリーが幼い頃から自分を忌み嫌っている事に、リチャードは薄々気づいていた。 両親の容貌を濃く受け継いだ二人の兄達とは違い、リチャードだけが黒髪に黒と銀の瞳といった、異なる容姿を持って生まれた。 そしてその身体も、二人の兄達とは違った。セシリーは鬼であるリチャードをこの世に産み落としてしまったという罪の意識からか、リチャードを疎んじ、憎むようになった。 二人の兄達や父はリチャードを大事にしてくれたが、母から蔑ろにされ、傷ついたリチャードの心は彼らの愛情を以てしても癒される事はなかった。初潮を迎え、子供らしい身体つきから、女性らしい身体つきへと変わりつつあるリチャードの姿を疎んじ、セシリーは彼を別邸へと追いやった。「お前はこの家に災厄を齎(もたら)す!お前の姿を目にするのも疎ましい!」 鬼女の如き表情を浮かべながら自分を面罵したセシリーの顔は、未だに忘れることができなかった。―其方の母親は、お前に愛の代わりに憎悪を与えた。 セシリーが自分に対して話す時は、自分を面罵する時だけだった。自分を罵る言葉を美しい唇から吐き捨てる母の目は、蛇のような底なしに冷たいものだった。―其方は俺達の側の人間だ。 セシリーから疎んじられ、蔑ろにされて来たリチャードの孤独を癒したのは、目に見えぬ妖達だった。 妖達の多くは闇に生き、人に疎んじられて生きて来た者達だった。彼らの姿を幼い頃から見て来たリチャードは、いつしか彼らの友となっていた。 彼らはリチャードの事を、“ひめさま”と呼んでは慕ってくれた。自分は男だと言うのに、何故彼らが自分の事を姫と呼ぶのかが、リチャードには解らなかった。―それに貴女、あの方に瓜二つの顔をしているわ。 藤壺女御が自分に話した、鬼と愛し合い、その鬼の子を身籠り、そしてその子の命と引き換えに死んだ雷壺に居たという女御。 その女御に、自分は瓜二つの顔をしているのだとしたら・・―目覚めよ、姫・・ 闇の中から、自分を誘う誰かの声が聞こえて来た。(違う、俺は鬼なんかじゃない・・俺は、父上の子だ・・)―目覚めよ・・ 汗に滲んだリチャードの額に、梵字のようなものが浮かんだ。―愛しい吾子よ、母の胸にいらっしゃい・・セシリーのものとは違う、優しい女人の声。その声に導かれるようにして、リチャードはフラフラとした足取りで雷壺へと向かった。 雷壺の中庭に植えられている桜の木にリチャードが触れた瞬間、天から轟くような雷鳴が鳴り響き、闇を明るく照らした。「さっきの雷は一体何だ?」「雅人様、大変です!あの稲妻をご覧ください!」 陰陽頭・土御門雅人が上空を見上げると、そこには白銀と紅色の稲光が闇の中で光っていた。「リチャード様?」 息を切らしながらケイツビーが雷壺へと向かうと、そこには白銀の髪を靡(なび)かせた主の姿があった。にほんブログ村
2020年07月18日
コメント(0)
画像はコチラからお借りいたしました。「薔薇王の葬列」二次創作小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「・・大変御無沙汰しております、義姉上。」 リチャードがそう慇懃無礼な口調で挨拶すると、エリザベスは口元に笑みを湛えたままリチャードの女装姿を見た。「その唐紅の衣、貴方の黒髪によく映えて似合っているわ。」「そうでしょう?わたくし達が選んだのですよ!」「まぁ、そうなの。アン、イザベル、二人とも遊びに来てくれたのね。」「ええ。それよりもエリザベス様は弘徽殿女御(こきでんのにょうご)様にお仕えしていらっしゃるのですって?わたくし達近々入内するので、宮仕えがどのようなものなのか知りませんの。」「後宮は華やかだけれど、女達の嫉妬や怨念、愛憎が渦巻く場でもあるわ。そういえば、鬼騒ぎが起きた雷壺では、前に女房が祟り殺されたという噂があるわね。」「祟り殺された?それは本当ですか、義姉上?」「さぁ・・わたしはその噂を人づてに聞いただけだけれど、前に雷壺には帝のご寵愛を受けながらも、鬼との子を産んだ女御が居たと・・でもその女御は産後の肥立ちが悪くてすぐに亡くなり、怒り狂った鬼は帝と朝家に恐ろしい呪詛を掛けたのですって。」 エリザベスの話を聞きながら、リチャードの脳裏に浮かんだのは、夢の中で己の名を呼んだあの女の姿だった。―姫よ・・我が一族の姫よ・・ 急に何処からか自分を呼ぶ声が聞こえて来て、リチャードは辺りを見回した。「どうかなさったの、叔父様?」「いや、何でもない・・」 そう言ったリチャードの姿を、遠くで金髪紅眼の鬼が見つめていた。「あれが、噂の鬼姫か・・美しい顔をしている。」 数日後、リチャードは後宮に入内するアンとイザベルと共に、“入内”した。 三人が仕えるのは、エリザベスが仕える弘徽殿女御と対立している藤壺女御だった。「顔をお上げなさいな。」 リチャードが姉妹に倣って顔を上げると、そこには天女の如き美しい女人が脇息に凭れかかりながら座っていた。「貴女、お名前は?」「凛と申します、女御様。」「珍しい色の瞳をしているわね。それに貴女、あの方に瓜二つの顔をしているわ。」「あの方?」「女御様、その事は・・」女御の言葉に反応した傍仕えの老女が突然鋭く声を張り上げ、女御を諫めた。「まぁごめんなさい、わたくしったらつい・・あぁそうだわ、七日後に弘徽殿女御が開く雪見の宴があるの。その宴は弘徽殿、麗景殿、桐壺と梅壺、雷壺からそれぞれ舞姫を選ばなければならないのだけれど、凛、貴女雪見の宴で舞いなさい。」「女御様、それは・・」「女御様直々のお願いですよ、有り難くお受けしなさい。」「恐悦至極にございます、女御様。有り難く雪見の宴で見事な舞を舞わせていただきます。」「これから舞の稽古に励んで、あの女の鼻を明かしておやりなさい。」藤壺女御はそう言ってリチャードに微笑むと、鈴を転がすような声で笑った。 かつて宮仕えをしていたかの中宮の女房が、自ら著した随筆に、“げにすさまじきものは宮仕え”という一文があったが、正にその言葉通りだとリチャードが思ったのは、入内初日の夜だった。 新入りの癖に藤壺女御から目を掛けられた事が気に入らない古参の女房たちによる新入りいじめと称した洗礼をリチャードは受け、彼女達からは自分の道具類や針箱を隠されたり、箏の弦を切られたりといった地味な嫌がらせをされた。(義姉上様が言っていた通りだったな・・女の嫉妬は恐ろしい。) リチャードは溜息を吐きながら、舞の稽古を終えて中庭から自分の局へと戻ろうとした時、藤壺へと繋がる扉が全て錠を掛けられて閉じられている事に気づいた。(くそっ、やられた!) リチャードは舌打ちしながら、閉ざされた扉に背を向けて中庭へと戻った。骨まで凍えるような寒さに晒され、リチャードは思わず両腕で己の身体を抱き締めた。 上に少し厚手の唐衣を纏っているとはいえ、冬の夜に戸外で一晩明かすのは厳しい。 リチャードは白い息を吐きながら、悴んだ手を擦り合わせた。その時、何処からか龍笛の澄んだ音色が聞こえて来た。(何だ?) リチャードが池の方へと目を向けると、そこには薄衣を頭に被った水干姿の少年の姿があった。 このような時間に、男子禁制の後宮で何故少年が居るのか―そう思いながらリチャードが少年を見つめていると、彼は血のような紅い瞳でリチャードの姿を捉えた。「漸く見つけたぞ、我が一族の姫・・そして我が妻よ。」 少年から瞬く間に大人の男へと姿を変えた鬼は、そう言うとリチャードの黒髪を一筋手に取り、それに優しく口づけた。「お前は何者だ?一体俺の何を知っている?」「その様子だと、お前は真の姿を知らないのだな・・」鬼は口端を歪めて笑うと、リチャードの顎を掴み上げ、その形の良い唇を塞いだ。「目覚めよ、古の世からこの国を統べてきた貴き方の血をひく美しき姫よ・・」にほんブログ村
2020年07月18日
コメント(0)
画像はコチラからお借りいたしました。「薔薇王の葬列」二次創作小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。草木も眠る丑三つ時、宮中の七殿五舎のひとつ、襲芳舎(雷壺)に仕える女房の一人は、何者かの気配を感じて目を開けると、そこには約六尺一寸(約185センチ)ほどの巨大な人影が蠢いていた。「ひぃ・・」恐怖の余り悲鳴すら上げられずにいる女房の上に覆い被さったその人影は、間髪入れずに彼女の頸動脈に食らいついた。「不味い・・不純な人間の血は糞そのものだ。」そう言って先程喰らいついた女の血を不味そうに口から地面に吐き出すと、口元を袖口で乱暴に拭い、鮮やかな金色の髪を揺らしながら漆黒の闇の中へと消えた。―姫よ・・我が一族の姫よ・・ 何処からか、誰かが自分を呼ぶ声がする。―古の世から日の本を統べてきた貴きお方の血をひく者よ・・目覚めよ・・(俺を呼ぶのは誰だ?) 闇の中から馬の嘶きと、雷鳴のように轟く蹄の音が聞こえた。 そして女達の悲鳴と、男達の怒号が聞こえる中、紅蓮の炎が建物を呑み込み、その中で自分に向かって手を伸ばす女が、自分の名をか細い声で呼んでいた。(俺は、この女を知っている。) 女へと向かってリチャードが手を伸ばそうとした時、リチャードは目を覚ました。(何だったんだ、あの夢は?) リチャードがそう思いながら顔を洗っていると、そこへケイツビーが部屋に入って来た。「リチャード様、お館様がお呼びです。」「父上が?」「はい。」「わかった、直ぐに行く。」 身支度を終えたリチャードが父の居る母屋の寝殿へと向かうと、そこには両親と二人の兄達の他に、見知らぬ男の姿があった。「リチャード、こちらの方は陰陽頭の土御門雅人殿だ。そなたの陰陽寮入寮について丁度話し合っていたところだ。雅人殿、こちらがわたしの末息子のリチャードだ。」「初めまして雅人様、リチャードと申します。」「君の事はお父上から聞いているよ。何でも、天賦の才を持っているとか。」「いいえ、そのような事はありません。」「最近陰陽寮は人手不足でね。是非君のような優秀で即戦力となれる人材を探している所だったんだ。リチャード、これから宜しく頼む。」「こちらこそ、宜しくお願い致します、雅人様。」 こうして、リチャードは晴れて正式に陰陽寮に入寮することになった。 陰陽寮に入寮したリチャードは、たちまちその美しさと天賦の才能が注目され、周囲から一目置かれた存在となった。―あれが、ヨーク家の・・―何だか女みたいな顔をしているな、本当に男か? 艶やかな黒髪で隠れた左の銀の瞳の美しさと、整ったリチャードの顔立ち、そして武芸や舞で鍛えたしなやかでありながら何処か婀娜っぽさを感じさせる華奢な身体は、その手の者達の注目も集めた。 衆道―所謂男色は、女色を禁じられている僧侶や呪術師達、そしてそれを嗜みとする公卿や武士達にとっては珍しくもなかった。 だがリチャードは出仕する度に自分宛に送られてくる恋文の多さに少しうんざりしていた。「どれもこれも、反吐が出るようなものばかりだ。男から恋文を貰って俺が嬉しいと思うのか?」 リチャードはそう言って溜息を吐きながら、自分宛の恋文をまた一通、焚き火の中へと投げ入れた。「リチャード、父上が呼んでいるぞ。」「父上が?」「あぁ、最近後宮で鬼騒ぎが起きているらしい。何でもその鬼は夜な夜な、女のここを喰らって血肉を啜るんだと。」 次兄・ジョージはそう言うと、自分の首を指した。「お呼びでしょうか、父上?」「ジョージから話は聞いているな?最近、後宮で鬼騒ぎが起きており、狙われているのはお前と同じ年位の若い女房だという。」「そうですか・・」リチャードは父の話を聞きながら、何だか嫌な予感がした。「そこでだリチャード、雅人様直々の指令で、お前には後宮に潜入して貰う。」「俺が、後宮にですか?父上、後宮は確か男子禁制の筈では?」「そうだ。お前は何も心配せず、この者達に任せておけばいい。」そう言って父は、部屋にエドワードの娘・ベスと、ウォリックの娘達、アンとイザベラを招き入れた。「リチャード様、お肌がきめ細かくてスベスベでいらっしゃるわ!」「御髪も艶やかでお美しいわ・・」 ベス、アンとイザベラのネヴィル姉妹に髪や肌をいじられ、色とりどりの衣を着せられた後、リチャードは漸く拷問のような身支度を終えた。「おお、これは何とも美しい。何処をどう見ても女人にしか見えぬぞ!」「ええ、兄上!」「父上、俺は本当にこの姿で後宮に潜入するのですか?」「そうだ。心配するな、後宮にはベスとアン達も一緒だ。ベス、リチャードの事を宜しく頼むぞ。」「はい、お祖父様!」「まぁ、何やら楽しいお話をされているようね。是非ともわたくしにもお聞かせ願いたいものですわ、お義父様。」 そう言って衣擦れの音を立てながら寝殿に入って来たのは、長兄・エドワードの北の方である、エリザベスだった。「あら、どちらの美しい姫君様かと思ったら、リチャード様ではないの。」エリザベスはリチャードの女装を見ると、口端を歪めて笑った。にほんブログ村
2020年07月18日
コメント(0)
画像はコチラからお借りいたしました。「薔薇王の葬列」二次創作小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。 サワサワと草木が揺れる音が闇の中で聞こえて来た。 リチャードはゆっくりと夢の世界から抜け出し、母屋から時折聞こえる管弦の音に耳を澄ませた。 そこでは今頃、プランタジネット家の当主であるヨーク公とその妻である北の方・セシリーと、リチャードの二人の兄達、エドワードとジョージが親族達と友人達を囲んで楽しく酒を酌み交わしている頃だろう。だが、その宴にリチャードは出席をすることは愚か、その存在すらセシリーに許されていないのだった。 それは、リチャードが金髪碧眼の両親や兄達とは異なる容姿を持ち、両性具有として生まれたからだ。 その上、リチャードは妖や鬼など、“人ならざるもの”が見える力を持っていた。 セシリーはそんなリチャードを憎み、リチャードの存在を世間から隠した。 しかし、そんな妻とは対照的に、父のヨーク公はリチャードを若君として育て、二人の上の息子達同様楽器や和歌、漢詩の手習いや武芸の稽古などをつけさせた。 二人の兄達よりも楽器や和歌、武芸の腕に秀でたリチャードは、いつしかその華奢な容姿と女の様に整った顔立ち、そして目の色が違う左右の瞳ゆえに、“月読の君”と呼ばれるようになった。 リチャードは生まれ持った見鬼の才を活かす為、元服をした後陰陽寮に入ることになっていた。 だが、その計画はセシリーによって潰された。「お前に宮仕えなど無理よ。お前は男としてではなく、これからは女として生きなさい。」「母上、わたしは・・」「お前のような鬼の子は、光の下で生きてはならないの。わたくしの言う通りに為さい!」 セシリーから一方的に女として生きるよう言われたリチャードだったが、リチャードは大人しく彼女に従わなかった。 父であるヨーク公は、リチャードの意思を尊重しリチャードの陰陽寮入りを後押しした。「お前は己の生きたい道を行きなさい。お前は誰よりも素晴らしい才能を持っている。」「はい、父上。」 元服を迎え、成人したリチャードは両親と兄達が暮らす母屋に隣接する別邸で暮らすことになった。 母屋に居ればセシリーから顔を合わせる度に嫌味を言われることになるし、母親に憎まれながら生活するのはリチャードにとって耐えられない事だった。 使用人が沢山居る母屋とは違い、別邸には使用人の数が少なく、その上皆リチャードを怖がって近寄ろうとしなかったので、リチャードは己の身の回りの世話などを式神達に任せ、それ以外はいつも独りで漢詩や和歌を詠んだり、楽器を奏でたりと自由きままな生活を送っていた。「リチャード様、お呼びでしょうか?」「ケイツビー、最近都で起きている鬼騒ぎをこれから調べるぞ。」「今からでございますか?危険です、リチャード様!」「鬼騒ぎが起きるのはいつも満月の夜だ。俺のような闇の眷属が居れば、同胞達が寄って来るだろうよ。」「リチャード様・・」自嘲めいた言葉と共に口元を歪めて笑った主の姿が、何処か悲しそうにケイツビーは見えた。 普段は纏わない女の旅装である壺装束を纏い、その上から顔を隠す為被衣を被ったリチャードは、何処をどう見ても夜道に迷って彷徨う貴族の姫君にしか見えなかった。 満月の夜ごとに、鬼は貴族の姫君を襲い、その血肉を喰らい尽くす―市井の人々の噂の真偽を陰陽師として確かめたいリチャードは、敢えて己が囮となり、その身を危険に晒したのであった。 ヒタリ、ヒタリと、何処からともなく自分の後を追う足音が微かに聞こえ、リチャードは隠し持っていた太刀の鞘を抜き、路地裏に回り込んで敵を待ち伏せた。 やがて月の光が異形の影を照らし出し、その血のような両眼がリチャードの姿を捉えた時、その首はリチャードによって刎ねられていた。「鬼切りの太刀というのは本当だったな。まぁ使い方次第によっては最強の武器になる。」「リチャード様、ご無事ですか?」「ああ。鬼は始末したし、邸に戻るぞ。」 血に濡れた被衣を乱暴に脱ぎ捨てたリチャードがケイツビーを従わせて夜道を歩いていると、そこへ一人の男が現れた。 月の光を全て集めたかのような、輝く金色の髪に、澄み切った湖面のような美しい蒼い瞳を持った男と、リチャードは目が合った。「君は、誰?」「お前こそ、何者だ?このような場所で何をしている?」「人を、探しているんだ。」「人を?」「昔、ここで会ったんだ・・黒髪の、左右の目の色が違う、可愛い子に・・」 そう言って、男は急に気を失った。「おい、しっかりしろ!」リチャードは慌てて男を抱き留めたが、自分よりも体格差のある彼の身体を支える事が出来なかった。 慌ててケイツビーが男の身体を支え、地面へと尻餅をついたリチャードを助け起こした。「お怪我はありませんか、リチャード様?」「ああ。それよりもこいつを邸まで運ぶぞ。」「はい。」 別邸へと戻ったリチャードは、全身についた魔物の血と泥を洗い流す為、湯浴みをした。 胸を覆う晒しを取り、白い薄衣だけを纏ったリチャードの身体には、女の象徴である乳房と、男の象徴である陰茎があった。 男としての機能も、女としての機能もあるリチャードは、どちらの性別でもない己の身体を呪っていた。“お前のような鬼の子は、光の下で生きてはならないの。” 時折脳裏に甦る、呪詛の言葉。(俺は太陽の光など望まない、月の光だけで充分だ。) 温かい湯の中に浸かると、リチャードは静かに目を閉じた。にほんブログ村
2020年07月18日
コメント(0)
全20件 (20件中 1-20件目)
1