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最近、高校生の頃から大好きな漫画をブックオフで購入して以来、ハプスブルク家関連の書籍をブックオフで注文するようになりました。本当は全て新刊購入したいのですが、紙の本が絶版していたりするものが多いので、ブックオフで購入しています。昨日もブックオフで写真に写っている上の本2冊を購入し、下の本2冊は書店で新刊購入しました。久しぶりに書店へ行くと、読みたい本、買いたい本が沢山見つかり、誘惑に駆られてしまいます。まあ、その結果積読本が増えるのですがね(笑)今日も、積読本を増やしましたwアガサ·クリスティーは名作揃いなので図書館でよく借りて読みますが、大好きな作品は手元に置きたいので、2冊も買っちゃいました。母が近所のスーパーで買ってきたあらポテトじゃがバター味。ザク切りのポテチに、まろやかなバターの味がマッチして美味しかったです。久しぶりに業務スーパーでビスケットのチョコ味とアイスコーヒー、スナック菓子を買いました。ビスケットのチョコ味は、しっとりとした味わいで美味しかったです。ビスコの焼きリンゴ味。香ばしい焼きリンゴの匂いがして、味もアップルパイみたいな後味がサッパリとした味わいで美味しかったです。
2024年09月30日
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素材は、湯弐様からお借りしました。「天上の愛 地上の恋」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。「アルフレート、ここでの生活は慣れた?」「うん。ルドルフ様が色々と教えて下さるから、助かっているよ。」「よかった。」いつものように食堂でアルフレートがアルフレドとそんな事を話していると、急に外が騒がしくなった。「何だろう?」「アルフレート、アルフレート=フェリックス、今すぐわたくしと校長室にいらっしゃい!」「は、はい!」訳がわからぬまま、アルフレートはミリセントと共に校長室へと向かった。「校長先生、アルフレートを連れて参りました。」「入りなさい。」「し、失礼致します!」アルフレートが緊張した面持ちで校長室のドアを開けると、そこには美しい喪服姿の貴婦人の姿があった。「アルフレート、ご挨拶なさい。こちらの方は、ハプスブルク=ロートリンゲン帝国皇后・エリザベート様ですよ。」「え・・」ロートリンゲン家といえば、欧州一の名家中の名家である。その皇后が、一介の孤児である自分に一体何の用なのだろうか。「こ、皇后陛下にはご機嫌麗しく・・」「顔をお上げなさい。それに、そんなに緊張しなくてもいいわ。同じバイエルン出身ではないの。」「は、はい・・」アルフレートが俯いていた顔を上げると、彼の目の前には、ハプスブルク=ロートリンゲン帝国皇后・エリザベートが立っていた。“欧州一の美女”とその美貌を称えられる程、彼女は美しかった。「あ、あのぅ・・」「ルーディ・・ルドルフと仲良くしてくれているようね。」「は、はい・・」「あの子は少し気難しい所があるから、あの子と付き合うのは少し骨が折れるでしょうけれど、仲良くしてやって頂戴ね。」「はい・・」「皇妃様、そろそろ参りませんと。」「えぇ、すぐ行くわ。アルフレート、あなたに会えて良かったわ。」エリザベートはそう言うと、アルフレートの額にキスをして校長室から去っていった。(一体、何だったんだろう?)アルフレートは、数学の授業中、エリザベートが、何故自分が会いに来たのかがわからず、上の空になっていた。「アルフレート=フェリックス、何をボンヤリとしているのかね?」「す、すいませんっ!」「前へ来て問題を解きなさい。」「はい・・」アルフレートは、黒板の前で難しい幾何の問題を5分もしない内に解いた。「アルフレート、ルドルフ様がお呼びだよ!」「わかった、すぐ行く!」数学の授業の後、アルフレートは寮の部屋に荷物を置いて、ルドルフが居る厩舎へと向かった。「来たな。」「ルドルフ様、あの・・」「お前、乗馬は出来るか?」「はい、牧場で働いていたので・・」「そうか。今から遠乗りに行くから、ついて来い。」「え・・」戸惑うアルフレートを無視して、ルドルフは鞍をつけた愛馬に跨ると、厩舎から出て行った。「ルドルフ様、お待ち下さい!」アルフレートは慌てて栗毛の馬に跨り、ルドルフの後を追った。「どうなさったのですか、ルドルフ様?急にこんな・・」「あの女に会ったんだろう?」「あの女?」ルドルフが言う、“あの女”とはエリザベートの事だろうか。「あの、ルドルフ様・・」「何だ?」「僕が、皇妃様にお会いになった事をお知りになられて、何が気に喰わないのですか?」「うるさい、黙れ!」苛立ちと激情の余り、ルドルフはアルフレートの頬を鞭で打った。鮮血が飛び散り、アルフレートが頬を押さえている間、ルドルフは森へと走っていってしまった。「ルドルフ様、お待ちください!」「うるさい、ついて来るな!」「ルドルフ様・・」アルフレートはルドルフと共に森の中を暫く走っていると、空が急に曇って来て、土砂降りの雨が降って来た。「ルドルフ様、何処か屋根がある所へ避難しましょう。」「わかった。」二人は森の中にある小屋へと避難した。「濡れた服を脱いで下さい。そのままにしていたら風邪をひいてしまいます。」「わかった・・」濡れた服を脱いで互いに半裸になったアルフレートとルドルフの間に気まずい空気が流れた。「アルフレート、こちらを向け。」「は、はい・・」 アルフレートが恐る恐るルドルフの方を見ると、彼はアルフレートの唇を急に塞いだ。にほんブログ村二次小説ランキング
2024年09月28日
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先程昔書いていたオリジナル小説を見ていましたが、「麗しき皇太子妃」全47話の内、1話をこちらのブログにUPするのを忘れてしまい、慌てて先程UPしました。もう、自分のポンコツさに笑うしかありませんねw
2024年09月27日
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「瑞姫(みずき)、本当にいいのか?」「ええ、お父様。もう決めたことです。」真宮家のダイニングルームで、瑞姫はそう言って当主である父・栄祐(えいすけ)を見て次の言葉を継いだ。「もうこちらへは帰りません。生活費は自分で稼ぎます。」「瑞姫・・」栄祐は何かを言いたそうに口をもごもごと動かしていたが、彼の隣に座っていた継母・顕枝(あきえ)が代わりに口を開いた。「まぁ瑞姫さん、何も大学なら家から通える範囲のところを受験したらよろしかったのに、何故あんな遠方に・・」「あそこなら声楽が学べますから。それに昔、夢を誰かさんに潰されるような事は決してないでしょうからね。」瑞姫がそう言って継母を見ると、彼女は口端をきつく結んで俯いた。「盆と正月には必ず帰ってくるんだぞ。それに女の1人暮らしは何かと物騒だから・・」「大丈夫です、お父様。下宿先のマンションはセキュリティが高いところに決めましたから。わたしは荷造りがありますので、これで失礼。」瑞姫はさっと椅子から立ち上がると、父に背を向けてダイニングから出て行き、2階の自分の部屋へと向かった。 ドアを開けて彼女が部屋の中に入ると、そこには引っ越し用の段ボール箱が所狭しと置かれていた。高校を卒業した瑞姫は、首都圏内にある女子大に合格し、大学から近いマンションで初めて1人暮らしをすることになった。実母・黒羽根が瑞姫を出産直後に亡くなって以来18年間、瑞姫は継母・顕枝の手で育てられたが、彼女とは全く反りが合わず、いつしか義理の母娘の仲は完全に冷え切ってしまっていた。中学時代、瑞姫は宝塚を目指してバレエや声楽、英会話や日本舞踊のレッスンに毎日励んでいたが、栄祐も顕枝も彼女の宝塚受験に反対した。「スターになれるのはほんの一握りよ。それに華やかな世界には裏があるっていうじゃない。いじめも酷いらしいし、瑞姫さんがやっていけるような所じゃないと思うのよ。」口調こそは穏やかそのものだったが、義理の娘が己が敷いたレールの上を歩かない事に対して、顕枝は遠回しに非難していた。両親の反対に遭ってでも宝塚を受験しようと決意を固めていた瑞姫だったが、栄祐が交通事故で入院したこともあり、断念した。 宝塚への夢を諦めた代わりに、瑞姫は声楽が本格的に学べる大学を選び、受験勉強や声楽のレッスンに励んだ末に、私立の女子大に無事合格した。(わたしは漸くこの家から出て行ける。もうあの人と毎日顔を合わすこともない・・)段ボール箱に書籍や衣類などの荷物を詰めながら、瑞姫は反りの合わない継母と漸く縁が切れると思ってせいせいしていた。「姉様、入っていい?」ドアが躊躇いなくノックされ、その隙間から幼い義理の弟が部屋の中を恐る恐る覗きこんでいた。「真珠(まじゅ)、入ってもいいわよ。荷物を詰めるのを手伝ってくれる?」「うん。」真珠はそう言って部屋に入ると、瑞姫とともに荷物を詰め始めた。「姉様、ここを出たらもう会えなくなっちゃうの?」「そんな事ないわよ。夏休みや冬休みには遊びに来てもいいのよ。」瑞姫が真珠に微笑んで優しい言葉を掛けると、彼は安心したかのような表情を浮かべた。顕枝との仲は完全に冷え切り、彼女を母と呼ばなくなってもう何年か経つが、真珠を産んでくれたことに、瑞姫は密かに感謝していた。母と義理の姉の不仲を知りながらも、真珠は瑞姫を純粋に慕ってくれているし、瑞姫も真珠と居る時だけ心が安らいだ。「真珠、宿題やったの?」「あ、忘れてた。」「後はわたしがやるから、宿題をしなさい。」「おやすみ、姉様。」「おやすみ、真珠。」ドアが閉まり、再び独りになると、瑞姫は黙々と荷造りを再開した。「これでよしと・・」一通り荷造りを終えると、瑞姫はベッドに入って目を閉じた。 翌日、彼女は朝の5時に目を覚ますと眠気覚ましにシャワーを浴び、着替えやパソコンが入ったスーツケースを持って階下へと降りていった。にほんブログ村恋愛ランキング
2024年09月27日
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映画化された作品。誘拐劇の裏に隠されたある政治家の罪。事件は無事解決したけれど、後味が悪かったです。まあ、ハッピーエンドなんて現実には存在しませんからね。
2024年09月27日
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「天上の愛地上の恋」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。両性具有·男性妊娠設定あり、苦手な方はご注意ください。性描写が含まれます、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。「アルフレート、憶えているか?お前と別れた、あの冬の夜の事を?」「はい。ルドルフ様、あの時は、あなた様を傷つけてしまって済まなかったと・・」そう言った時、アルフレートは急に強い眠気に襲われた。(おかしい・・どうして・・)「疲れたんだろう。わたしが寝室まで運んでやろう。」そう言ったルドルフは、アルフレートを寝室まで運んだ。「ん・・」ルドルフがアルフレートの唇を塞ぐと、彼は微かに身じろぎしながら呻いたが、起きる気配は全くしなかった。ルドルフはアルフレートの唇を貪り、唇でアルフレートの首筋から胸元まで強く吸い上げた。指と舌で乳首を愛撫すると、アルフレートは甘い嬌声を上げた。彼のバスローブを脱がし、下肢へと手を伸ばすと、そこは蜜で溢れていた。「んっ、はぁっ・・」ルドルフが指でアルフレートの蜜壺を愛撫すると、彼は腰をひいて自分から逃げようとしたので、ルドルフは猛った己自身をアルフレートの蜜壺に挿れた。ミチミチと、内臓を圧迫され、肉が避けるかのような激痛に襲われたアルフレートが漸く目を覚ますと、ルドルフが自分に覆い被さっていた。「ルドルフ様・・何を・・」「見ての通りだが?」ルドルフはそう言うと、アルフレートの薄い腹を撫でた。「お前を永遠にわたしのものにする為には、どうすればいいのか考えていた。そして、ある答えに辿り着いた―お前に、わたしの子を産んで貰う事にした。」「どうして・・」「お前は、少しでもわたしが目を離すと何処かへ行ってしまう。あの時だって、そうだった!」「うっ、あっ・・」アルフレートを激しく責め立てるように、ルドルフは彼の奥を穿った。「わたしは、お前が去ってどんな思いで過ごして来たのか、知らないのだろう?わたしはずっと、お前を求めていた!」“あいつは一度死んでしまった、お前がウィーンを去った時にな。”アルフレートの脳裏に、ヨハン―サルヴァトールの言葉が浮かんだ。ヨハンから、ルドルフが自分の若い頃と瓜二つのミッツィという女を囲っていた事、そして彼女を囲っていた屋敷は、かつてルドルフが自分と過ごす為に購入した屋敷だったという事を知ったアルフレートは、彼の心に深い傷をつけてしまった事を、激しく後悔した。そして、あのマイヤーリンクの夜、ルドルフは・・「ルドルフ様、わたしは何処にも行きません・・」「嘘だ、お前はそうやってまっすぐな目をして、嘘を吐いてわたしから離れていくんだ!」ルドルフはそう叫ぶと、アルフレートの首に手をかけた。「いっその事お前を殺して永遠にわたしのものにしてやろうかと思ったが、やめた。その代わり、お前にはわたしの子を産んで貰う。」「いや、それだけはやめて下さい・・」「黙れ。」ルドルフはそう言うと、アルフレートの最奥に欲望を放った。その後、アルフレートは三日間、ルドルフに寝室に閉じ込められ、彼に抱き潰された。解放されたのは、プラハの視察が終わった頃だった。「何とかストライキも治まったし、工事も予定通りに終わりそうだな。」「ええ・・」ウィーンへと戻る列車の中で、ルドルフはアルフレートにスマートフォンを渡すよう命じた。「違う、それじゃない。もうひとつの方だ。」「そ、それは・・」「まだわたしを、殺そうと思っているのか?」「いいえ・・」アルフレートは、スーツの内ポケットから、カロルスから渡されたスマートフォンを取り出してそれをルドルフに手渡した。すると彼は、徐にそれを紙コップの中に入れられたコーヒーの中に沈めた。「これで、お前と組織との繋がりは絶った。今日から、お前はわたしの事だけを考えていればいい。わかったな、アルフレート。」「はい・・」「アルフレートと、連絡がつかなくなった?」「数ヶ月も連絡が取れないんだ、こんなのおかしいぜ、カロルス!」カロルスの邸で、クラウスが彼にそう訴えていると、クラウスの傍に居たコンラートが彼の言葉を鼻で笑った。「何がおかしいんだよ!?」「わかってねぇなぁ、これだからお子ちゃまは。」「何がわかってねぇんだよ!」「アルフレートは、どうやらこの世界から足を洗う気でいるようだね。優秀な“人材”をなくして惜しいねぇ。」カロルスはそう言って溜息を吐くと、ワインを一口飲んだ。「アルフレートの事は、どうするんだよ?」「諦めるしかないさ。惚れられた相手が悪かったのさ。」組織から“解雇通達”がアルフレートの元に届いたのは、彼がルドルフと共にブタペストへ出張している時だった。「アルフレートさん、それは?」「何でもありません。」アルフレートはそう言うと、カロルスの手紙を暖炉の中へと投げ捨てた。「ルドルフ様は、どちらに?」「そろそろ取引先との会議が終わる筈なので・・」アルフレートがルドルフの部下であるフィリップとそんな話をしていると、廊下が急に騒がしくなった。「一体、何が・・」「先程、ルドルフ様に対する殺害予告のようなものが届きました!アルフレートさんは、ルドルフ様をここから避難させてください!」「アルフレート、どうした?」「ルドルフ様、事情は後でお話しますから、今すぐここから避難しましょう!」「わかった。」アルフレートがルドルフと共にオフィスの裏口から外へと向かっている途中、アルフレートは茂みの中から何か光るものに気づき、反射的にルドルフを突き飛ばした。「ルドルフ様、危ない!」暗殺者が放った銃弾は、アルフレートの肩を掠めただけで済んだ。しかし、その日からアルフレートは謎の貧血や吐き気に悩まされるようになった。そして、彼は会議中に貧血で倒れ、気が付いた時には病院のベッドの上に寝かせられていた。「気が付いたかい?」アルフレートが目を開けると、そこには心配そうに自分を見つめるバーベンブルクの姿があった。「わたしは・・」「駄目だよ、大切な時期なのに、無理しちゃ。」「え?」「おや、気づいていなかったのかい?お前は妊娠しているよ、アルフレート。今九週目に入っているね。」「それは、本当なのですか?」「あぁ。」バーベンブルクは、アルフレートに超音波写真を見せた。にほんブログ村二次小説ランキング
2024年09月27日
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「魔道祖師」「薄桜鬼」の二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。一部残酷・暴力描写有りです、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。 遠く姑蘇から京までやって来た藩士達が頭を悩ませたのは、京の複雑な裏道だった。「一体何処がどう繋がっているのか、全くわからん!」「そうだな。」「それよりも江澄、少し腹が減ったな。」「お前、今どんな状況なのかわかっているのか!?」「どこだろうなぁ、ここ。」 魏嬰はそう言うと、傘をさしながら乾いた声で笑った。 二人は、いつの間にか他の藩士達とはぐれてしまい、雪降る京で迷子になってしまった。「あ~寒い。なぁ江澄、あたためてくれよ!」「やめろ、気色悪い!」「そこのお武家はん、こちらへどうぞ。」「は~い!」「おい、勝手に行くな!」 寒さと空腹に耐えかねた魏嬰は、近くの和菓子屋へと駆け込んだ。「お汁粉どうぞ。」「ありがとうございます。」「こんな寒い中、あんまり歩き回ったら風邪ひきますえ。」「いやぁ、今日京に来たばかりで、道が全然わからなくて・・」「そうどすか。お武家はんらは、どちらの・・」「姑蘇です。」「へぇ、姑蘇藩の方々ですか。京の道は細くて狭い道が多いさかい、迷うのは当然ですわ。」「お待たせしました。」「うわ~、美味しそう!」「どうぞ、熱いうちにお召し上がりください。」「いただきます!」 魏嬰がお汁粉を食べていると、そこへ眉間に皺を寄せた藍湛が店に入って来た。「ここに居たのか・・」「よぉ、お前も食べるのか!」「皆がお前達を探していた。早くここから出よう。」「え~、今来て食べているのに!そんな固い事を言うなよ~」「あら、あちらのお武家様は?」「俺達の連れです!」「まぁ、えらい別嬪さんやねぇ。さ、お汁粉をどうぞ。」「私は・・」 結局、藍湛は魏嬰達とお汁粉を食べた。「支払いは・・」「わたしが払う。」 魏嬰はそう言うと、藍湛に抱きついた。「恥知らず!」「何だよ~、そんなに怒る事ないじゃん~」「おいやめろ、藍の二の若様が困っていらっしゃるだろう!」 江澄は慌てて藍湛にしがみついて離れようとしない魏嬰を彼から引き剥がした。「すいません、後でこいつに厳しく言い聞かせておきますから!ほら、行くぞ!」「藍湛、またな~!」「君達を、私は迎えに来たのだが・・」「あ、そうだったな!」 色々とあったが、魏嬰達は藍湛と共に黒谷にある金戒光明寺へと辿り着いた。「遅かったね、忘機。」「兄上、申し訳ありません。この者達を迎えに行っておりました。」「そうだったのか。」 その夜、曦臣達姑蘇藩士達は、島原で有志達が開く宴に招かれた。「遠くからはるばるお越し下さっておおきに。ほな、これから親睦を深める為に、一杯どうぞ。」「かたじけない。」「それにしても、姑蘇藩の方々は皆様美男子でいらっしゃいますなぁ。」「そうですか。わたし達はそのような事は思っていないのですが・・」「まぁ、ご謙遜を。」 曦臣と八木源之丞がそんな事を話していると、隣の座敷から悲鳴が聞こえて来た。「一体、何があったんや!?」「長州のお客様が、太夫に絡んで・・酔って手がつけられへんのどす!」「そうか、では様子を見に行ってみよう。」「はい、兄上。」「お客様、危険です!」 曦臣と藍湛が隣の座敷へと向かうと、そこには割れた皿や猪口、膳などが転がり、その隅には泥酔した男と太夫が対峙していた。「何度言われても、うちは芸を売っても身は売りません。」「何を言うがか、男に愛想を振る舞うのがお前の仕事やろうが!」「おやおや、女子一人に手を上げようとするとは、武士の風上にも置けませんねぇ。」「何じゃ、貴様!?」 泥酔していた男がそう叫んで曦臣に殴りかかろうとしたが、その前に彼は曦臣に手刀を打たれ、気絶した。「お怪我はありませんか?」「へぇ、おおきに。」 そう言った太夫は、自分の命を救ってくれた曦臣に礼を言った。「凄いお人や、誰もかなわんかった人を一撃で・・」「それに、えらい男前やわぁ。」 島原での藍曦臣の武勇伝は、後世にわたって多くの人々により語り継がれる事になった。 上洛して一月後、藍湛と曦臣は帝に謁見した。―なんとまぁ・・―お二人共美しいこと・・ 二人は帝から、緋の御衣を下賜された。「藍湛、主上はどんなお方だったんだ?」「それを君が知る必要は、ない。」「何だよ~、少しは教えてくれたっていいじゃねぇか。」「君が居ると気が散る。」「もぉ~、冷たいなぁ・・」 いつものように藍湛が中庭で剣の鍛錬をしていると、そこへ魏嬰がやって来て、話し掛けて来た。 彼を無視して剣の鍛錬をしてきた藍湛だったが、彼の所為で集中できなかった。「どうしたんだい忘機、少しぼーっとして・・」「中々眠れなかったものですから。」「そうかい。余り魏公子の事は嫌いにならないでくれ。」「そう言われましても、わたしは彼の事がわからないのです。何故、彼が私にまとわりつくのか・・」「わからないのなら、わかり合えるまでお互いの事を知る努力をすればいい。」「兄上・・」「お前は昔から、他人と接するのが下手だからね。だから、魏公子と仲良くして欲しいとわたしは思っているんだよ。」「わかりました。」 兄からそう言われたが、藍湛は魏嬰とどう接すればいいのかわからなかった。「なぁ江澄、俺藍の二の若様に嫌われたのかなぁ?」「そんなの、京に来る前からだろうが。」 江澄は弓の手入れをしながら、魏嬰の愚痴を聞き流していた。「俺、あいつに嫌われるような事をしたかなぁ?」「今まで藍の二の若様に、お前はしつこく付きまとっていただろう!」「あ、そうだったか?」「本当に、お前はもう・・」 義兄の言葉を聞いた江澄は、そう言って頭を抱えた。「おい魏嬰、お前本当に覚えていないのか!?」「う~ん、思い当たる節がないなぁ。それよりも、島原で見た太夫さん達綺麗だったよなぁ。“東男に京女”とは、良く言ったもんだよなぁ。」「あぁ。」「あ、そうだ今度二人で島原に行かないか?」「俺達のような平藩士が簡単に行けるような場所じゃないだろう。」「え~」「え~、じゃないだろう!」 そんな事を二人が話していると、丁度そこへ藍湛が通りかかった。「あ、藍湛、お前も今度島原に行くか?お前だったら、すぐに可愛い子が寄ってくるぞ!」「行かない。」「行こうぜ、絶対楽しいぞ!」「行かない。」「お前、いい加減にしないか!」 江澄は慌てて止めようとしたが、無駄だった。「何だぁ、蘭の二の若様は俺に興味がないのか?あ、だったら俺にしないか?いつでも相手にしてやるぜ?」「この、恥知らず!」 藍湛は顔を赤くしながらそう叫ぶと、そのまま去っていった。「あ~あ、また嫌われちゃったよ。」「嫌われるような事を言うからだ!」「すいまへん、誰か居りませんか~?」 江澄と魏嬰がそんな事を言い合っていると、正門の方から若い女の声がした。 二人が正門の方を見ると、そこには一人の女が立っていた。 髪は割れしのぶに結われており、着物は薄紅色の麻の葉文様のものを着ていた。「あの、何かご用でしょうか?」「うちは、島原の揚羽屋の女中で、きぬと申します。」 きぬは、島原の揚羽屋からの使いで、先日太夫の命を救って貰ったお礼として、藍曦臣と藍忘機の二人を今夜揚羽屋に招待してもてなしたいのだという。「申し訳ありませんが、只今兄は外出中でして、いつ戻ってくるのかわかりません・・」「そうどすか・・」「あれ、あんた昨夜揚羽屋で見た・・」「申し訳ないのだが、そちらのご厚意に甘える訳にはいきません・・」「しかし・・」「え、なになにどうしたの?」 魏嬰はきぬから揚羽屋の件を知り、揚羽屋からの招待を断ろうとする藍湛を押し退け、きぬにこう言った。「喜んでご招待をお受けします!」「お前、何言って・・」「だって、こんな可愛い子ちゃんがわざわざ招待してくれているんだから、断るなんてもったいないだろ!」「わたしは・・」「丁度島原に行きたかった所だから、願ったりかなったりだ!」「結局それかよ!」 その日の夜、魏嬰達は揚羽屋へと向かった。「ようこそいらっしゃいました。さぁ、“楓の間”へどうぞ。」 魏嬰達は店主に案内され、太夫が待つ座敷へと向かった。 そこには、天女のように美しい太夫の姿があった。「ようこそ、いらっしゃいました。どうぞ、ごゆるりとお過ごし下さいませ。」 それから魏嬰達は、美味い酒と料理に舌鼓を打った。「いやぁ~、美人に囲まれて飲む酒は美味いなぁ。」 すっかり上機嫌となった魏嬰は、ちらりと自分の隣に座っている藍湛の方を見ると、彼は静かに猪口の中の酒を飲み干していた。「お~い藍湛、大丈夫か?」「うん。」 そう言った藍湛は、いつの間にか左右逆の足袋を履いていた。(あれ、何でこいつ足袋を・・)「あら、どないしはりました?」「いやぁ、それが・・」「藍の二の若様、大丈夫なのか?もう、帰らせた方が・・」「触るな。」「え?」 突然、藍湛が魏嬰と江澄との間に割って入って来た。「すいません、何処か休める所ないですか?」「それでしたら、隣のお部屋へどうぞ。」「ありがとうございます。」 女中に案内され、魏嬰は藍湛と共に奥の部屋へと向かった。「今、お水を持って参ります。」「ありがとうございます。」 部屋から女中が居なくなり、藍湛は魏嬰に抱きついた。「おい、急にどうしたんだ?」「わたしのだ・・」「は?」「わたしの・・」 そう呟いた藍湛は、魏嬰に抱き着いたまま眠ってしまった。(あ~あ、困ったな・・)「おい、大丈夫か?」「江澄、済まないが藍家に文を出してくれないか?」「わかった。」「俺はここで藍湛の世話をしているよ。」(そうは言ってみたものの、どうすればいいのか・・) このまま藍湛を部屋に寝かせたまま黒谷へと戻ろう―そう思った魏嬰が藍湛を布団に寝かせようとしたが、彼は自分にしがみついたまま離れようとしなかった。「おいおい、どうしたんだ?」「傍に居て。」「もう、しょうがないなぁ。」 その日の夜、魏嬰は一晩中藍湛と共に部屋で休んだ。「そうか。わざわざ伝えに来てくれてありがとう。」「いえ・・」「忘機は昔から何を考えているのかわからないが、どうやらあの子は魏公子の事が気になっているようだね。」「は、はぁ・・」「まぁ、あの子が恋愛に対して奥手だから、温かい目で見守ってやってくれないか?」「えぇ・・」(一体、何をしたんだ、魏無羨!) 江澄はそう思いながら、胃がキリキリと痛むのを感じた。「兄上、只今帰りました。」「忘機、魏公子は?」「彼は、自室で休んでおります。」「そうか。」「兄上、わたしも部屋で休みます。」「そうしなさい。」「お休みなさい。」 藍湛は兄に一礼した後、自室に入って休んだ。「殿、上様から文が届きました。」「そうか。ありがとう、そこに置いておいてくれ。」「はい。」 曦臣は将軍の文に目を通すと、深い溜息を吐いた。(どうやら、ここに来たのは間違いだったようだね。) 京では、尊王攘夷を声高に叫ぶ岐山藩士の過激派による、幕府要人暗殺などが相次いでいた。 この状況を変える為、江戸から清河八郎ら率いる浪士組が上洛して来たという知らせが曦臣の耳に入ったのは、年が明けて二月経った頃だった。「なぁ、あいつらは?」「さぁ・・何でも江戸からやって来た浪士組だとか。」「へぇ、面白そうだな。」 魏嬰はそう言うと、大広間の様子を見に行った。 するとそこには、紋付羽織姿の男達が真剣な表情を浮かべながら何かを話していた。 その中で一際目立っていたのは、黒髪に紫色の瞳をした男だった。 雪のように白い肌をしたその男は、まるで役者絵から抜き出て来たかのように美しかった。(へぇ、ああいう綺麗な男が居るんだなぁ。) そんな事を思いながら魏嬰が男を見ていると、彼の視線を感じた男がゆっくりと魏嬰が居る方を振り向いたが、そこに彼の姿はなかった。「どうした、トシ?」「いや、何でもねぇ。」(はぁ、後少しで気づかれる所だった。)「魏嬰、そこで何をしている?」「いや、ちょっと大広間の様子が気になって・・」「そんなの、気にしなくていい。」 そう言った藍湛は、何処か拗ねたような表情を浮かべていた。(え、何だその顔?)「おい魏嬰、お前島原で藍の二の若様と一晩過ごしたって本当か?」「何処から、そんな話を・・」「いや、みんな噂しているぞ。」「そうなのか?」「それで、どうだったんだ?」「どうだったって?」「まぁ、後で聞くから!」(何だあいつ、変だったな・・)「魏嬰。」「え、藍湛、まだ居たのか?」「私は、島原で何かをしたのか?」「いや、何も・・」「そうか。」(一体、あいつは 何をしているんだ?) 揚羽屋では、あの太夫が一人の男と向かい合って座っていた。「うちに何かご用どすか?」「藍家の若様方に助けられたんは、本当か?」「へぇ。」「そうか。これから、藍家の若様方を“利用”するのや、わかったな?」「そないな事・・」「出来へんとは言わせへんぞ。お前には色々と“借り”があるんやからなぁ。」 男はそう言うと、意地の悪い笑みを口元に浮かべた。「お前だけが頼りなんや、東雲。」にほんブログ村二次小説ランキング
2024年09月25日
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表紙素材は湯弐様(ID:3989101)からお借り致しました。「天上の愛地上の恋」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。両性具有・男性妊娠設定ありです、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。 その昔、この帝国には闇の悪魔を封じ込め、国を護る聖女が居た。 聖女は浄化の力を持つ炎を操り、それ故に“炎の巫女”と呼ばれた。 聖女はやがて、帝国を統べる皇帝と恋に落ち、結ばれるが、戦いの最中命を落としてしまう。 死の間際、聖女は皇帝に誓った。 幾度も魂が巡り、姿を変えても生涯、皇帝(あなた)を愛し、守り続けると―「アルフレート、これを。」 12歳となったアルフレート=フェリックスは、父親代わりに自分を育ててくれた孤児院の院長・ユリウスによって、額に“守護の印”を授けられた。「この“守護の印”は、特別な者にしか授けられないものだ。アルフレート、お前はこれから多くの困難に立ち向かう事になるだろう。だが、お前は生まれ持った力で人々を助けなさい。」「はい、ユリウス様。」「正直な事を言うと、お前をこの村に置いておきたいが、老人の我儘でお前を苦しめたくない。帝都で沢山学んでおいで。」「はい。」 生まれ故郷である貧しい山村から、アルフレートは一路帝都へと向かった。(帝都には、一体何があるんだろう?) 帝都へと向かう汽車の中で、アルフレートはそう思いながら、ユリウスから渡された手紙に目を通した。『ユリウスへ、わたくしの愛しい天使をよろしくお願いします。』 ユリウスによれば、アルフレートはこの手紙とロザリオと共に、孤児院の前に捨てられていたのだという。(この国の何処かに、僕を産んでくれたお母さんが居るんだ!) 期待と不安に胸を膨らませたアルフレートを乗せた汽車は、間もなく帝都に着こうとしていた。 同じ頃、帝都・ウィーンの中心部にある王宮では、一人の少年がバルコニーから見える外の街並みを眺めていた。「ルドルフ様、こんなところにいらっしゃったのですね。さぁ、もうじきラテン語の先生がいらっしゃいますから・・」「わかった。」 ルドルフはバルコニーを後にし、私室があるスイス宮へと向かった。 彼の名は、ルドルフ=フランツ=カール=ヨーゼフ=フォン=ロートリンゲン、ロートリンゲン=ハプスブルク帝国皇太子として生を享け、何不自由ない生活を送っていた。 だが、ただひとつ彼に足りないものといえば、両親の愛情だった。 父親である皇帝は政務に忙しく、母親である皇妃は窮屈な宮廷を嫌い、放浪の旅を繰り返していた。 彼の理解者は、愛犬のアレクサンダーと、姉のジゼルだけで、同年代の同性の友人は彼の周りには居らず、彼はいつも孤独だった。「アレクサンダー、お前が人間だったらいいのに。そうすれば、寂しくないのに。」 愛犬の頭を撫でながら、ルドルフは苦しそうに咳込んだ。「ルドルフ、どうしたの?」「何でもありません、姉上・・」 そう言って姉に対して虚勢を張ったが、彼女には通用しなかった。「あなた、熱があるじゃない!誰か、誰か来て!」 寝台に寝かせられたルドルフは、苦しそうに咳込みながら寝返りを打っていた。―これで一体、何度目なのかしら?―本当に、ルドルフ様は・・ 微かに開いた、扉越しに聞こえる、女官達の心無い噂話。 頑健で、風邪ひとつひいた事が無い皇帝の一人息子でありながら、病弱でいつも寝込んでばかりいる自分の出自を、噂する者が多い事を、ルドルフは物心つく頃から知っていた。 誰か一人でもいい、熱にうなされて苦しむ自分の手を、握ってくれる者が居てくれたらいいのに―そんなルドルフの心に呼応するかのように、部屋は徐々に氷に覆われていった。「ルドルフ様、どうかなさって・・」 女官達はルドルフの様子を見に彼の私室へと向かったが、その扉が氷で覆われている事に気づき、悲鳴を上げた。「一体何事だ!?」「陛下、ルドルフ様のお部屋が・・」 ロートリンゲン=ハプスブルク帝国皇帝・フランツ=カール=ヨーゼフは、氷で覆われているルドルフの部屋の前で、一人息子に向かって呼び掛けた。「ルドルフ、部屋の扉を開けなさい。」「はい、父上。」 扉を開けて部屋の中から出て来たルドルフの顔は、蒼褪めていた。「ルドルフ・・」「父上、僕は・・」「恐れる事は無い。その力は、ハプスブルク家に神から授けられた特別なものだ。」「はい・・」「何ですって、ルドルフに“力”が?」 フランツの母・ゾフィー大公妃は、ルドルフの“力”が現れた事を知り、驚愕の表情を浮かべた。「そう・・やはり、ルドルフが“皇帝”の生まれ変わりなのね。」「母上・・」「数日前、占術師から言われたわ。“皇帝の伴侶となる聖女が近々現れる”と。」「まさか・・」「あの子の運命は、神様の導きによって決まるものなのよ。」 ゾフィーは、そう言った後、降り始めた雪を窓から眺めた。「寒いなぁ・・」 帝都に着いたアルフレートは、寒さで悴んだ手を暖める為に、掌に小さな炎を灯した。にほんブログ村二次小説ランキング
2024年09月25日
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母が近所のイオンのフードコートにいるミスタードーナツで季節限定ドーナツを買ってきてくれました。ポン・デ・リングのお芋味は美味しかったです。真ん中にあるドーナツはイマイチでした。
2024年09月24日
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表紙は、てんぱる様からお借りしました。「天上の愛地上の恋」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。「やだっ!」 ルドルフはそう叫ぶと、アルフレートが羽織らせてくれたコートを脱いだ。「帰りますよっ!」「やだっ!」「もう、いい加減にして下さい!」「や~!」 突然愚図り始めたルドルフに手を焼いているアルフレートの姿を、コンラートとクラウスは呆然と見つめていた。「なぁ、あれ・・」「赤の他人の振りをしようぜ。」 コンラートがそう言った時、ルドルフと目が合ってしまった。「アルフレートは、ルーディのものなの!」「ルドルフ様・・」「だからお前には渡さないもんね~!」「もうお休みの時間ですよ~!」 アルフレートはそう言いながら手刀をルドルフの首に打ち込み彼を気絶させると、手際よく迎えに車に乗せて去っていった。「なんつーか、慣れていやがるな・・」 コンラートがそう言いながらレジで飲み代を払おうとしたところ、店員から彼はこう言われた。「先程のお客様が、皆様の分までお払いになられました。」「え、マジかよ・・」(あいつの経済力パネェな・・) 翌日、アルフレートは大学を休んだ。「アルフレート、どうしちまったのかなぁ?」「さぁな。」「コンラート、何か知っているのか?」「まぁ、知ってなくもないけどね。」 大学内でコンラートがそんな話を友人達と話していると、そこへルドルフがやって来た。「お前、コンラート=ビューイングだな?」「そうだが・・俺に何か用か?」「昨夜の事、何も話していないだろうな?」「ああ・・」「そうか、ならいい。」 ルドルフはそう言うと、コンラートに背を向けて去っていった。「何だあいつ!?」「確か経済学部の、あの一年・・」「おっかねぇ~!」(わざわざ“俺のモノ”アピールとはねぇ・・昔より相当拗らせてんなぁ、あいつ。) 折角平和な世界に転生して、人生を謳歌すると決めたので、 コンラートは余りあの二人に関わらないようにしようと思った。しかし―「は、執事喫茶?」「そうなのよぉ~、今度の学園祭でね、執事喫茶をやる事になってね、あなたに出て貰おうかなって思っているの!」アルフレートの友人・テオドールの恋人・エミーからそう言われ、コンラートは即座に断った。「ねぇコンラート、この前の試験の時、わたしあなたにノートを見せたわよね?」「あ、あぁ・・」「その時、“ちゃんと借りは返す”って言ったわよね?ね?」「あ~もうわかったよ!やりゃぁいいんだろ、やりゃぁ!」「話がわかる人で良かったわぁ~!」(何か嫌な予感がするんだよなぁ・・) コンラートがそんな事を思いながら図書館に入ると、奥の席から鋭い視線を感じた。 その視線が誰のものか見なくてもわかったので、コンラートは頭をボリボリと掻きながら図書館から出て、カフェへと向かった。「コンラート、どうしたんだ?」「いやぁ、あのお坊ちゃんに目の敵にされちまった。俺は何もしてねぇってのに。」 コンラートがそう言いながらラップトップのキーボードを叩いていると、彼のスマートフォンが鳴った。「はぁ・・」「どうした?」「エミーが、衣装合わせするから来てくれだと。今日はとんだ厄日だぜ。」 コンラートはそう言うと、ラップトップを鞄の中に入れ、カフェから出て教育学部がある建物へと向かった。「あら、来てくれたのね。」「まぁ、頼まれたから来てやっただけだ。それよりもエミー、ひとつ聞いてもいいか?」「なぁに?」「何で、ハプスブルク家の坊ちゃんが居るんだよ!?」「だって、この人は執事喫茶のオーナーだもの。」「オーナー?」「わたしの執事が世話になるのだから、金位出して当然だろう?」 そう言ったルドルフは、今にもコンラートを射殺さんばかりの鋭い視線をコンラートに送った。「あのなぁ、あんた朝から俺に突っかかってくるけど、俺ぁあんたの恋人には全く興味はねぇからな。」「そうか、ならいい。」 ルドルフはそう言うと、コンラートに背を向けて部屋から出て行った。「コンラート、あの人と知り合いなの?」「ま、まぁ、ちょっとな・・」「すいません、遅れましたっ!」「アルフレート、さっきルドルフ様がこちらにいらしていたわよ。あら、あなたルドルフ様と同じ香水をつけているの?白百合の良い香りがするわ。」「えっ、あの、これは・・」(マーキングかよ・・独占欲が強過ぎやしねぇか?まぁ、アルフレートが男で良かったぜ。)「さてと、まずは服装からね。コンラート、これに着替えて頂戴。」 エミーがそう言ってコンラートに手渡したのは、燕尾服だった。「おいおい、何で燕尾服なんだよっ!」「え~、執事といえば燕尾服でしょう?そうよね、アルフレート?」「燕尾服はお屋敷の中でだけ着用します。それ以外は皆さんスーツを着ています。」「へぇ~、そうなに、知らなかったわぁ。」「まぁ、誘拐や脅迫のリスクが常にありますから、燕尾服は目立ちます。でも、執事といえば燕尾服のイメージですよね。わたしも向こうで着替えて来ますね。」 そう言ったアルフレートは衝立の向こうへと消えた。「それじゃ、俺も!」 コンラートがそう言ってアルフレートの後を追うと、彼は着替えている所だった。「あ、すまねぇ。」「大丈夫、もうすぐ終わるから。」 アルフレートの首筋に残る噛み痕を見たコンラートは、彼が何故衣装合わせの時間に遅れたのかがわかったような気がした。「アルフレート、あの坊っちゃんは嫉妬深いんだな。あいつ朝から俺にあんたとの関係を勘繰って来たぞ。」「あの方は、わたしの事を放っておけないから・・」「なぁにモラハラ被害者みたいな事を言ってんだよ。ま、俺はあんたがどうなろうが知ったこっちゃないね。」 コンラートはそう言うと、着替えを終えて衝立の中から出た。「へぇ、そんな事があったのか・・」「はぁ~、これからあの二人と毎日顔を合わせるとなると憂鬱になるぜ。」「まぁ、俺も執事喫茶に出るから、お互い頑張ろうぜ。」「あぁ。」「じゃ、俺バイトだから。」「またな~!」 カフェの前でコンラートと別れたクラウスは、アルバイト先のカフェへと向かった。「いらっしゃいませ。」「ホットコーヒーをひとつ。」にほんブログ村二次小説ランキング
2024年09月23日
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大好きなシリーズの続編。栞子と大輔の娘、扉子が可愛くて。これからの栞子たちの活躍が楽しみです。この本に出て来る佐々木丸美の「雪の断章」が読みたくて、ブックオフオンラインで頼んでしまいました。
2024年09月23日
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近所の大型書店で平積みされているのを見つけて、衝動買いしました。ドラゴンと共に戦う異世界学園ものですが、戦闘シーンや性的なシーンなどが多く、血腥い描写が多いので、成人向けのロマンスファンタジーだと思いました。とにかく冒頭から面白いので、是非成人済の方は読んでみてください、読み耽るくらい時間を忘れます。
2024年09月22日
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表紙素材は、湯弐様(ID:3989101)からお借りしました。「FLESH&BLOOD」「天上の愛地上の恋」の二次小説です。作者様・出版社様は一切関係ありません。海斗とアルフレートが両性具有です、苦手な方はご注意ください。「は?お嬢様と一緒に旅をするだと?ふざけるのもいい加減にしやがれ!」 ナイジェルの親方・フランクはナイジェルにそう怒鳴ると、彼に向かって鞭を振り上げようとした。 しかし、彼の前に海斗が現れると、フランクは鞭を下ろした。「お嬢様、その髪は・・」「わたしは殺されたくないのです。」「わかりました。」 フランクは深い溜息を吐くと、海斗を道化師見習いとして連れて行く事にした。「お嬢様、これからはあなた様を特別扱いしませんよ。かといって、優しくもしません。」「わかっています。」「道化師見習いとなるからには、何か芸を披露して頂かないと・・」「わかりました、では・・」 海斗は深呼吸した後、幼い頃乳母がよく歌っていた子守唄を歌った。 その歌声は、美しく澄んだものだった。「これでいかが?」「いいでしょう。お嬢様、これからよろしくお願い致しますよ。」「こちらこそ。親方、これからは俺の事をカイトと呼んでくだせぇ。」 海斗はそう言うと、笑った。「ナイジェル、決して間違いを犯すんじゃねぇぞ、わかったな?」「間違いって?」「わざわざ俺が言わなくてもわかるだろう、鈍い奴だな!」 フランクはナイジェルの背を強く叩いた。「安心して下さい、親方。」「そうか。」 フランク達がロンドンへ向かっている頃、海斗の命を狙っている一人の貴婦人が、グラハム卿の元を訪れていた。「ラウル様、お忙しいのにわざわざ来て下さり、ありがとうございます。」「いいえ、こちらこそ色々とご子息の事で立て込んでいるのではなくて?」「あいつの事は、諦めております。」「まぁ、そうなの。」 貴婦人―ラウルは、淡褐色の瞳でグラハム卿を見た。「確か下の息子さんは、ジークとおっしゃったかしら?今はどちらへいらっしゃるの?」「ジークは風邪をひいてしまってね、中々治らないのですよ。」「丁度良いわ、昨日風邪に効くハーブを摘んだのですよ。後で差し上げますわ。」「そのお気持ちだけで充分です。」「あら、残念。」 ラウルは口元を扇子で覆った後、客間から出て行った。(魔女め!)「奥様、お茶が入りました。」「そう。」「あのう・・」「あの男、どうせわたしの事を魔女だの何だのと言っているのでしょう。放っておきなさい。」「は、はい・・」(何度でも言うがいい。最後に勝つのはこのわたし!)「ラウル様、グラハム卿がお帰りになられました。」「そう・・さてと、身支度を手伝って。王宮へ行かなければね。」「王宮へ、ございますか?」「ええ。」 ラウルは櫛で髪を梳き始めながら、グラハム卿と初めて会った日の事を思い出していた。 それは、王宮で開かれた宴の事だった。 皆酒を飲み、浮かれていた。 ラウルも、その一人であった。「いや、離して!」「へへ、お前もその気なんだろう?」 泥酔した男に迫られ、ラウルは必死に抵抗した。 気が付けば、彼女は血に塗れた短剣を握っていた。 そこへ、グラハム卿がやって来た。 彼はラウルと横たわっていた男を見ると、男の遺体を処理した。「この事は、我ら二人の秘密に致しましょう。」「はい。」(まさか、こんなにグラハム卿との関係が続くとは思ってみなかったわね。) エリザベス女王の廷臣である彼を利用しなくては、トレド家のような没落貴族は女王に見向きもされない。 生きる為には、嫌な相手に媚を売らなければならないのだ。「奥様、本日の宝石はいかが致しましょう?」「そうね。このエメラルドのネックレスがいいわ。」「かしこまりました。」 侍女から手渡されたエメラルドのネックレスは、かつて結婚の約束をしていた相手からの贈り物だった。「まぁラウル、そんなに着飾って何処へ行くのかしら?」 ラウルが廊下を歩いていると、そこへ兄嫁・イザベラがやって来た。「王宮ですわ。」「婿捜しをするにしては、地味なドレスね?」「ただ派手に着飾ればいいのではありませんわ、お義姉様。」 ラウルは、これ以上イザベラと話したくなくて、そのまま彼女の横を通り過ぎた。「相変わらず、気味が悪い子ね!」(うるさい女よりは良いわ。) 王宮へと向かう馬車に揺られながら、ラウルは亡き恋人の顔を思い出していた。 もし彼が生きていたら、今頃自分はどうなっていただろうか―そんな事をラウルが思っていると、突然馬車が揺れて停まった。「どうしたの?」「申し訳ありません、馬車の前に突然人が飛び出してしまって・・」 ラウルが馬車の窓から顔を出すと、道に長身の男が倒れているのを見た。「早くその男を退かしなさい。」「はい・・」 御者のパトリックは馬車の進路を妨げている男を退かそうとしたが、その身体はビクともしなかった。「どうしたの?」「男が・・」 ラウルは舌打ちすると、馬車から降りた。 男の方を見ると、彼は時折唸っているが一向に起きようとはしない。 そっと爪先で男の腰辺りを蹴ると、漸く男は静かに目を開けた。「やっと起きたのね。さっさとここから立ち去って頂戴。」「わかった・・」 男はそう言って立ち上がり、ふらふらとした足取りで雑踏の中へと消えていった。「王宮へ急いで。」「はい。」 ラウルを乗せた馬車が静かに動き出した頃、海斗達は近くの町で芸を披露していた。 ナイジェルが奏でるリュートの音色に合わせて歌い踊る海斗と狼の芸は人気を博し、行く先々で彼らは温かい毛布と食事にありつけた。「お前ぇのおかげだぜ、カイト!こんなに儲かったのは、はじめてだ!」 フランクはそう言うと、美味そうにエールを飲んだ。「親方、おいらちょっと買い物に行って来ます。」「気を付けて行けよ、最近物騒だからな!」「はい!」 海斗は宿屋から出て、買い物をする為町を歩いていた。 すると、背後からじぶんをつけてくる気配がしたので、海斗は人気のない場所へ移動すると、木陰に身を隠し尾行者の喉元に短剣を突きつけた。「ひぃ!」「あなた、さっきから俺の後をつけていましたよね?」「誰が言ったの?」「それは・・」 尾行者が次の言葉を継ごうとした時、空気が唸る音が聞こえ、彼の胸に矢が深く突き刺さっていた。(この矢は、一体何処から・・) 姿勢を低くしたまま、海斗が周囲を見渡すと、銀色の髪をなびかせた男が自分の方へとやって来ている事に気づいた。 海斗は静かに、その場から立ち去り、宿屋へと戻っていった。「カイト、どうした?顔色が悪いぞ?」「ナイジェル、実は・・」 海斗はナイジェルに、何者かに命を狙われている事を話した。「そうか。親方に話して、すぐにこの町から離れるように頼んでみる。」「ありがとう、ナイジェル。」 買い物をした後、ナイジェルはフランクの部屋へと向かった。「親方、居ますか?」「どうした、そんな深刻そうな顔をして?」「実は・・」 ナイジェルは、フランクに海斗の命が何者かに狙われている事を話した。「今から移動したら、次の町に着く前に暗くなっちまう。明日の朝、ここを出るぞ。」「はい。」「カイト、風呂の用意が出来たぞ。」「ありがとう。」 海斗が台所へと向かうと、そこには風呂桶が暖炉の近くに置かれていた。 三日ぶりの風呂を満喫した後、海斗は台所の窓から外を見ると、闇の中で揺らめく白銀の髪のようなものが見えた。(気の所為かな?) その日の夜、海斗が部屋で眠っていると、突然狼のガブリエルが激しく吠え始めた。「どうしたの、ガブリエル?」 眠い目を擦りながら、海斗が窓の方を見ると、外にはあの男の姿があった。「ひっ!」「カイト、どうした?」「ナイジェル、今外に・・」 海斗がそう言って部屋から出ようとした時、男が窓を突き破って部屋に入って来た。「動くな。少しでもおかしな真似をしたら殺す。」 銀髪の男は、海斗の首にナイフを押し当てながらそう言うと、真紅の瞳で彼女を睨んだ。「俺を、どうするつもり?」「一緒にわたしと来て貰おう。話はそれからだ。」「わかった。」 海斗は男と共に、ある場所へと向かった。 そこは、あのストーン・ヘンジを思わせるかのような古代の神殿のような所だった。「ここは?」「我々の聖地だ。かつて、ここは我々の一族が治めていた。しかし、ここは“敵”に滅ぼされた。」「“敵”?」「人間だ。お前は、わたしの花嫁。」「何を、言っているの?」「自分でも身に覚えがあるのだろう?どんな大怪我でも一時間経てば治る。よく、謎の渇きに襲われる・・」「そんなの、良くある事でしょ?」「お前は、人間ではない。」「そんな・・」「いつまで、人間と共に居るつもりだ?彼らはお前より早く死ぬ。」「俺に、どうしろっていうの?」「わたしと共に生きてくれ。」「カイトから離れろ!」「ナイジェル・・」「人間風情が、わたしの邪魔をするな。」 男はそう言うと、ナイジェルを突き飛ばした。 男に突き飛ばされたナイジェルは、石柱に頭をぶつけて気絶した。「俺に近づくな!」「これでわたしを刺すつもりか?」 海斗は男を短剣で刺そうとしたが、その刃は海斗の胸に深々と突き刺さった。「カイト、しっかりしろ!」「無駄だ。」「貴様ぁ!」 激情にかられたナイジェルが男を睨みつけると、彼はナイジェルに短剣を投げて寄越した。「この者は、少し眠っているだけだ。じきに目を覚ます。」「お前、何者だ?」「闇の眷族・・古の時代、“神”と呼ばれた者だ。」 男は海斗の髪に優しく触れた後、そのまま闇の中へと消えていった。「カイト、大丈夫か!?」「ナイジェル・・」 ナイジェルが海斗の胸の傷を見ると、傷口は完全に塞がっていた。「ナイジェル・・」「早く戻ろう、親方が心配している。」「うん・・」(知られてしまった・・ナイジェルに、俺の秘密を。)「どうした、カイト?」「何でもありません、親方。」 ロンドンに着いた海斗は、ナイジェルが急に自分に対して時折避けている事に気づいた。「ナイジェルはどうした?」「さぁ・・」「パンを買いに行くと言って、全然戻って来ねぇんだ。少し様子を見て来てくれねぇか?」「はい。」 海斗がパン屋へと向かうと、そこにナイジェルの姿はなかった。(ナイジェル、一体何処へ・・) 雑踏の中で必死に海斗がナイジェルを捜していると、ガブリエルが海斗の元に駆けて来た。「ガブリエル、これはナイジェルの・・」 海斗は、ガブリエルが咥えているナイジェルのハンカチを見て、嫌な予感がした。「ガブリエル、俺をナイジェルの所へ連れて行って!」 ガブリエルに導かれる様にして、海斗はナイジェルの元へと向かった。 そこは、ある貴族の地下牢だった。(ナイジェル、何処に居るの?) ナイジェルは、地下牢の一番奥に居た。「ナイジェル、ナイジェル!」「カイト、か?」 そう言って海斗を見つめたナイジェルの身体は、傷だらけだった。 特に酷かったのは、右目の傷だった。「一体、ここで何があったの?」「逃げろ、カイト!」 海斗は何者かに後頭部を殴られ、気絶した。「この子が、お前の恋人かい?」 ラウルはそう言うと、ナイジェルを見た。「あんたは、一体何が目的なんだ?」「グラハム卿に、私生児が居るなんて知らなかったわ。」 ラウルは、ナイジェルの血だらけの右目に包帯を巻いた。「俺には、父親など居ない!」「自分があの役立たずな息子よりも身分が低いのは、我慢ならないだろうね。」「何が言いたい?」「お前は、一生日蔭の身で居るつもり?お前のような聡明な子は、父親よりも高い地位の人間になる事だって出来る。わたしに仕えれば、の話だけれど。」 ナイジェルは悪魔に魂を奪われぬよう、彼女と目を合わせないようにした。「強情な子だね。まぁいい、わたしにも考えがある。」「待て!」 地下牢から出たラウルは、女中に“ある物”を持って来るよう命じた。「ん・・」「気が付いた?あなたは屋敷の前で倒れていたのよ。」 海斗は、目が覚めると天蓋で覆われた寝台の中に居た。「あなたは・・」「わたしは、ラウル=デ=トレド。さぁ、このワインをお飲みなさい。元気になるわ。」「はい・・」 海斗はラウルに言われるがままに、“ワイン”を飲んだ。「さぁ、ゆっくりと休みなさい。」“ワイン”を飲んだ後、海斗はゆっくりと眠りの底へと落ちていった。「ラウル様・・」「どうしたの?」「久しいな、ラウル。」「あら、こちらにあなたがいらっしゃるなんて、珍しい事。」 ラウルは、銀髪の男―ルシフェルを見てそう言った後、笑った。「わたしの花嫁を、どうするつもりだ?」「まだあなたの花嫁と決まった訳ではないでしょう?」「地下牢の人間を、どうするもりだ?」「それは秘密。」 ルシフェルは、ラウルの胸元に輝くエメラルドのネックレスを見た。「まだ、あの男に未練があるのか?」「まぁね。」「あの人間を、殺すのか?」「いいえ。殺すのは間違いないけれど、あんなに綺麗な子を、放っておく訳ないわ。」「そうか。」 ルシフェルは、そう言うと笑った。「ナイジェル、元気なんですか?」「ええ。」 ラウルに案内されたのは、トレド家のワインセラーだった。 ナイジェルは、樽に縛り付けられていた。 そして、彼の手首から真紅の血が流れ、それはグラスに注がれていた。「そんな・・」「この子は、もう死んでいるわ。」 ナイジェルの遺体に抱き着いて泣き喚く海斗の頬を、ラウルは優しく撫でた。「彼を救う為には、あなたの血が必要よ。」 ラウルは、海斗に短剣を手渡した。「やり方は、わかっているわね?」 海斗は短剣で己の手首を傷つけると、その血をナイジェルに飲ませた。 こうして、ナイジェルは吸血鬼となった。「カイト、どうした?」「少し、昔の事を思い出していただけ。」「そうか。」 オペラ座の地下でのレッスンを終えた海斗の様子が少しおかしい事に気づいたナイジェルは、彼女をカフェへと連れ出した。「俺の所為で、あなたが・・」「あの時、お前に助けて貰わなければ、俺は死んでいた。」「でも・・」 ナイジェルは、そっと海斗の手を握った。「あの時の事を今悔やんでも仕方ない。過去を見つめるよりも、未来を見つめる方が大事だ。」「うん・・」 二人がカフェを出てオペラ座へと戻ると、バレリーナのエリスが何やら慌てた様子で彼らの元へとやって来た。「カイト、大変なの!アンジェリカの声が出なくなっちゃった!」「そんな・・今日は、皇太子様がいらっしゃるのに。」「カイト、あなたが、アンジェリカの代役をして!」「え!?」「もう時間が無いわ!」 エリスに支度部屋へと連れて行かれた海斗は、楽譜を渡された。「ナイジェル、俺に出来るかな?」「大丈夫だ、自分を信じろ。」 ナイジェルに励まされ、海斗は生まれて初めてオペラ座の舞台で歌った。「カイト、素晴らしかったわ!」「そうかな?」「そうよ。」「オペラ座の新たなプリマドンナの誕生ね!」 美しい歌声を持った赤毛の歌姫を、ウィーンのマスコミは称賛した。「“ウィーンの新星誕生”・・」「奥様、どうかなさったのですか?」「いいえ、何でもないわ。」 下着姿の貴婦人は、そう言うと新聞を閉じた。「今日のドレスは、この紫のドレスがいいわね。」「かしこまりました。」「宝石は、エメラルドのネックレスがいいわ。」 ホーフブルク宮で開かれた皇帝主催の舞踏会には、社交界デビューを迎えた貴族の令嬢達の姿があった。「ねぇ、今夜は皇太子様にお会いできるかしら?」「一度だけでもいいから、お会いしたいわ!」 令嬢達がそんな話をしていると、一組の男女が大広間に入って来た。 美しい赤毛をシニョンに纏め、緑のドレスを着た海斗は、隣に立っているナイジェルを見た。「ナイジェル、俺おかしくない?」「大丈夫だ。」「そう、良かった。」 海斗の胸元には、ナイジェルから贈られたトパーズのネックレスが輝いていた。「ネックレス、ありがとう。大切にする。」「あらぁ、久し振りね。まさか、こんな所で会えるなんて。」 背後から美しい声が聞こえ、海斗とナイジェルが振り向くと、そこには華やかなドレスで着飾った宿敵の姿があった。「どうして、あなたが・・」「招待されたのよ。あなたの歌声、聞きたかったわ。」 ラウルはそう言うと、そのまま去っていった。「大丈夫か?」「ええ・・」 帰りの馬車の中で、ラウルは口端を歪めて笑った。「お帰りなさいませ、奥様。」「お帰りなさいませ。」「暫く部屋で一人にして。」「はい・・」 ラウルは自室に入ると、結っていた髪を解き、櫛で梳き始めた。(これから面白くなって来た・・)「ラウル、こんな所に居たのか?」「あらあなた、お早いお帰りね。ブタペストで羽を伸ばしていらしたのではなくて?」「君に会いたくてね。」「まぁ、嬉しい。」 ラウルは愛想笑いを夫に浮かべながら、彼に抱き着いた。「週末、フロイデナウ競馬場へ行かないか?」「わかったわ。」 週末、ウィーン郊外のフロイデナウ競馬場で、ラウルは海斗とナイジェルを見かけた。「ラウル、どうしたんだい?」「いいえ、古い“知り合い”を見かけたのよ。」「そうか。」(わたしを、お前達は殺せない。お前達の断末魔の悲鳴を聞くのが、今から楽しみだわ。)にほんブログ村二次小説ランキング
2024年09月22日
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表紙素材は、湯弐様(ID:3989101)からお借りしました。「FLESH&BLOOD」「天上の愛地上の恋」の二次小説です。作者様・出版社様は一切関係ありません。海斗とアルフレートが両性具有です、苦手な方はご注意ください。1880年、ウィーン。「ちょっと、あたしの衣装は何処なの?」「もう、こんな時に髪型が決まらないなんて、最悪!」 ウィーン中心部にあるオペラ座では、夜の公演が控えているバレリーナ達が忙しく動き回っていた。「ねぇ、あの子は?」「あの子って、どの子よ?」「ほら、赤毛の・・」「知らないわよ!」 地上で忙しくしているバレリーナ達は、地下で歌のレッスンに励んでいる赤毛の少女―海斗の存在など忘れて公演の準備に追われていた。「カイト、そこはもっと優しく。」「はい・・」 海斗がピアノの伴奏に合わせて歌うと、空気が微かに振動した。「そうだ、その声だ。」 ピアノの前に座っていた男はそっと椅子から立ち上がると、愛おしそうに海斗の髪を一房手に取り、それに口づけた。「ねぇ、あなたは俺を知っているの?」「あぁ。お前の事なら、お前が生まれる前から知っている。」 男は灰青色の瞳で海斗を見つめた。(何だろう、この人に見つめられると頭がおかしくなりそう。)「どうした、何を考えている?」「いいえ・・」「さぁカイト、歌え。」「はい・・」 地下で美しい声で歌う海斗の姿を楽譜越しに見ながら、“怪人”ことナイジェルは、初めて彼女と出会った時の事を思い出していた。 今から遡る事300年前、海斗とナイジェルは、ロンドンの宮廷で出会った。「ナイジェル、あれがカイト様だ。」 養父に連れられ、初めて足を踏み入れた王宮で、美しい炎のような髪を持った少女を一目見たナイジェルは、彼女に心を奪われてしまった。ナイジェルの視線に気づいたのか、少女は彼に優しく微笑んでくれた。「何をしている、早く来い!」「は、はい!」「ねぇ、さっきここを通りかかったのは誰?」「あぁ、あの子は道化師見習いですわ。」「道化師見習い?」 初めて宮廷に上がった海斗だったが、宮廷に上がる前、養父から宮廷には女王に仕える道化師が居ると聞いた事があった。「じゃぁ、あの子と毎日宮廷で会えるの?」「ええ、いずれそうなるかもしれませんわ。」「楽しみだわ。」 海斗が侍女達とそんな話をしている頃、ナイジェルは親方である養父から鞭打たれていた。 ここ数日、ナイジェルは何も食べておらず、空腹と疲労の所為で何度も芸を失敗していた。「てめぇ、いい加減にしやがれ!」 養父はそうナイジェルに怒鳴ると、容赦なく彼を鞭打った。 ナイジェルは寒さに震えながら歩いていると、彼はあの赤毛の少女とぶつかってしまった。「ごめんなさい、大丈夫?」「あぁ、大丈夫・・」 ナイジェルはそう言うと、気を失った。「ヘンリエッタ、この子は助かるの?」「ええ。この子は、ただお腹が空いているだけですわ。それに、疲れているようなので、ゆっくり休ませた方が良さそうですわ。」 ナイジェルが目を覚ますと、そこはいつも寝ているチクチクとした干し草のベッドの中ではなく、フワフワとした寝心地の良い清潔なシーツの中だった。「ここは、天国か?」「面白いことをおっしゃるのね。ここは、わたくしの部屋よ。あなた、うちの中庭で倒れていたから、あなたをここまで運んだの。」「君が?」「いいえ、うちの下男のジョンよ。」「そうか。」「まだ起きては駄目よ。あなたに必要なのは、栄養たっぷりの食事と、休息よ。」「わかった。」「お嬢様、大丈夫なのですか?勝手にあの子を・・」「お義父様には、わたしから話しておくわ。」 海斗はそう言ってヘンリエッタを安心させた後、養父・ジョゼフが居る書斎のドアをノックした。「お義父様、入ってもよろしいかしら?」「あぁ、入ってくれ。」「失礼致します。」 海斗が書斎に入ると、ジョゼフは執務机の前で、気難しそうな顔をしていた。「どうなさったの、お義父様?何か問題でも・・」「カイト、お前が中庭で保護した少年だが、どうやら厄介な事になったらしい。」「もしかして、あの乱暴者がナイジェルを返せと、お義父様に文句を言いに来たの?」「いや、わたしに文句を言いに来たのは、ナイジェルの実父だ。」「あの子の実の父親?」「あぁ・・グラハム卿だ。」 その名を養父から聞いた時、海斗は恐怖の余りその華奢な身体を震わせた。 グラハム卿―ウィリアム=アーサー=グラハムは、エリザベス女王のお気に入りの廷臣の一人で、政敵を葬り去る事に対して情け容赦がない事で知られている。 そんな冷酷非道な男と、養父がどのような関係にあるのか、海斗にはわからなかった。「カイト、先程わたし宛に届いた手紙には、グラハム卿は明日我が家に来るそうだ。」「急な話ですね。」「あぁ。だから、失礼のないようにグラハム卿をもてなさなければな。」「わたしにお任せください、お義父様。」「頼んだぞ。」 ジョゼフからそう言われたものの、これまでどう客をもてなおしたらいいのかわからない海斗は、養母・アゼリアが生前使っていた部屋へと向かった。 海斗の養母・アゼリアは几帳面な性格で、領地の管理や家計管理、そして客人のもてなし方などを一冊の本に纏めていた。「あった、このページだわ!」 海斗がそう言いながらそのページを捲ると、そこにはアゼリアの美しい文章と絵で事細かに客人をどうもてなすのかが書かれていた。 こうして海斗は、半日という限られた時間の中でグラハム卿を完璧にもてなす為の準備を終えた。「ナイジェルの様子はどう?」「あの方は、中庭でリュートの練習をしておりますよ。」「ありがとう。」ヘンリエッタに礼を言うと、海斗はナイジェルが居る中庭へと向かった。ナイジェルが爪弾くリュートの音色に合わせ、海斗はいつの間にか歌っていた。「ごめんなさい、つい・・」「君は、綺麗な歌声をしているな。」「ありがとう。歌は本格的に習った事は無いけれど、昔ここに来ていたロマの人達に歌と踊りを習ったわ。」「ロマ?」 放浪の部族と呼ばれたロマは、黒い髪と瞳を持った者達だ。 彼らはこの時代の欧州に於いて、差別や迫害の対象となっていた。「実は、わたしはこの家の養女なの。実の親が誰なのかわからないの。でも、わたしには大好きなお義父様がいらっしゃるから、寂しくないわ。」「そうか。俺は、物心ついた頃から今の親方と暮らしていた。その前は、俺と母は小さな修道院で暮らしていた。母は、俺が三歳の時に肺炎で死んだ。母は俺を育てる為に、身を粉にして働いていた。」「お父様を捜そうとは思わなかったの?」「あぁ。私生児を産んだ母を屋敷からその身ひとつで追い出した男を、俺は父と呼べないし、これからも呼ぶつもりはない。」 そう言ったナイジェルの瞳は、何処か悲しみを宿していた。「ねぇ、もう暗くなるから、屋敷の中へ戻りましょう。」「あぁ。」 ナイジェルが海斗と共に中庭から去ろうとした時、急に背後から強い視線を感じて振り返ったが、そこには誰も居なかった。「どうかしたの?」「いいえ・・」(今、誰かに見られていたような・・) ナイジェル達が去った後、茂みの中から一人の男が出て来た。 その髪は、美しい銀色だった。「見つけた、我が花嫁・・」 男はそう呟くと、闇の中へと消えていった。 冷たい夜風が、木々を揺らした。「ねぇ、おかしくないかしら?」「ええ、大丈夫ですよ。」 グラハム卿をもてなす為、海斗は自分が持っている物で一番上等な深緑色のドレスを着ていた。 そのドレスは、アゼリアが海斗の為に仕立ててくれたものだった。「お見えになられましたよ!」 グラハム卿一行が海斗達の元を訪れたのは、彼の手紙がジョゼフの元へと来てから数日後の事だった。 グラハム卿は、金髪碧眼のいかつい顔をした男だった。 どうやらナイジェルは、美人の母親に似たらしい。「グラハム卿、ようこそいらっしゃいました。こちらが、わたしの娘のカイトです。」「はじめまして。」「素敵なお嬢さんですね。わたしの息子の結婚相手にいいかもしれん。」 グラハム卿はそう言ってあごひげを弄った後、自分の背後に立っている少年を自分の元へと呼び寄せた。 グラハム卿と瓜二つの顔をした少年は、海斗と目が合った途端、何処かへと行ってしまった。「済まないな、息子は人見知りでね。」 グラハム卿とその息子を囲んだ夕食は、賑やかなものとなった。「このパイは美味しそうですね。」「我が家で獲れた苺を使った物なのですよ。」 グラハム卿は海斗お手製のパイに舌鼓を打った後、ジョゼフとある話をしに、彼と書斎へと入って行った。 海斗はナイジェルを捜しに、彼が滞在している離れへと向かった。 だが、そこには彼の姿はなかった。(何処へ行ったのかしら?) ナイジェルは、屋敷から少し離れた森の中にある小屋に居た。 そこには、産まれたばかりの狼の子供達が居た。 母親の狼は、数匹の子供達を遺して漁師に撃たれ、亡くなった。 ナイジェルは乳離れしたばかりの子供達の世話をしていた。 そこへ、ナイジェルの異母弟がやって来た。「こいつらがお前の新しい家族か、ナイジェル?」 ナイジェルの異母弟・ジークは、そう言うと彼をまるで脅すかのように、手に持っていた松明を掲げた。 だがナイジェルは、このあばた面の異母弟が臆病者だという事を知っている。 だからナイジェルは、少し彼を脅す事にした。「あぁ、お前を殺す日までに、こいつらと仲良くしようと思ってな。」「う、嘘だ!」「じゃぁ、今から確めてみるか?」 ナイジェルがそう言って一匹の狼をジークに向かってけしかけると、狼は彼に牙を剥いて威嚇した。「ふん、こいつはまだガキの狼だ、僕を襲える訳がない!」「どうした、ガキの狼相手に怯えているのか?」「うるさい!」 苛立ったジークは、持っていた松明をナイジェルの顔に近づけた。「お前の生意気な顔を焼いてやる!」「その前にあなたの首が飛ぶわよ。」 炎のような髪をなびかせ、海斗はそう言うとジークの首筋に短剣を押し当てた。「貴様、僕を誰だと・・」「あなたが誰なのか、よく存じ上げているわ。親の威を借りた臆病者、グラハム家の恥さらし。」「黙れ、赤毛の魔女め!」 海斗の言葉に、激昂したナイジェルは彼女を殴ろうとしたが、その前に海斗から強烈な膝蹴りを股間に喰らい、悲鳴を上げて地面に転がった。「畜生!」「今度わたしを侮辱したら、お前の食べ物に強烈な下剤を仕込んでやる!」 ジークが森から去った後、海斗はナイジェルの方へと向き直った。「怪我は無い?」「ああ。それよりも、君は強いな。」「わたし、刺繍も剣術も好きなの。」「そうか。」 海斗のような貴族の令嬢が剣術や馬術を習う事は珍しい。 戦場に出るのは男の仕事で、その帰りを待つのが彼らの妻や娘の仕事だからだ。「この子達、可愛いわね。本当に狼なの?」「まだ小さいが、立派な牙が生えているぞ。」「まぁ!」 ナイジェルは、海斗と過ごしている時と、狼達と戯れている時だけが、心が安らいだ。 このままずっと、心安らかな時が続いたらいいのに―ナイジェルがそんな事を思い始めた時、悲劇が起きた。 海斗の養父・ジョゼフが狩猟中の事故で亡くなり、孤児となった彼女は修道院へ送られる事になった。「ナイジェル、起きている?」 海斗が修道院へ送られる日の前夜、彼女はナイジェルの元へとやって来た。「カイト、その髪は・・」 海斗の腰下まであった長い髪は、首の後ろに届くか届かないかの長さになっていた。「ナイジェル、あなたこれから、親方とロンドンへ行くのでしょう?」「あぁ。」「わたしも連れて行って!わたし、修道院なんかには行きたくないの!」「カイト・・」「お願い、わたしを助けて!」「わかった。親方には事情を話しておく。」「ありがとう!」 こうして海斗は、ナイジェルと共に道化師見習いとして一路ロンドンへ旅立つ事になった。「あの娘が逃げただと!?」「はい、わたしが目を離した隙に・・申し訳ございません!」「あの娘を見つけ出して、殺せ!」にほんブログ村二次小説ランキング
2024年09月22日
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※BGMと共にお楽しみください。「天上の愛地上の恋」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。「ルドルフ様、あのぅ・・」「何だ、アルフレート?」「本当に、やるんですか?」「あぁ。」 挙式の後、ホーフブルク宮殿で開かれた祝宴で、ルドルフは“ガータートス”をした。 ルドルフの父・フランツ=ヨーゼフは息子の余興に顔を顰(しか)めたが、ジゼルとマリア=ヴァレリーをはじめとする女性陣には大受けだった。「ねぇ、どうしてアルフレートはドレスを着る気になったの?」「それは、わたしが決めたからだ。」「ルドルフ、お前・・」「本当は二人でタキシードを着ても良かったのだが、結婚の準備を進める内に、アルフレートにドレスを着せたいなぁと思ってな。」「へぇ、そうか。」「アルフレートが余りにも美し過ぎて、アルバムを作ってしまった・・」「あ~、そうかい。」 ルドルフの惚気話に付き合わされるのは嫌だったので、ヨハン=サルヴァトールはそそくさと新郎新夫の元を後にした。「疲れたな・・」「はい。」「ラクセンブルク宮殿に着くまで、少し休んでいいか?」「はい・・」 ホールブルク宮殿からラクセンブルク宮殿へと移動する車の中で、ルドルフはアルフレートの膝上に頭を預けて眠ってしまった。 結婚準備と公務で多忙を極めていたのだろう、彼の美しい白皙の顔、特に両目の下は、深い隈に縁取られていた。(この方は、わたしがお支えしなければ・・) アルフレートがそう思いながらルドルフの金褐色の髪を優しく梳いていると、突然車が大きく揺れた。「何かありましたか?」「申し訳ございません、デモ隊が道を塞いでおりまして・・」「デモ隊?」「はい・・いかが致しましょう、引き返しましょうか?」「いや、いい。アルフレート、お前は車の中に居ろ。」「ルドルフ様、危険です!」 アルフレートや運転手・ブラットフィッシュの制止を聞かず、ルドルフは車から降り、デモ隊の元へと向かった。 デモ隊は、“バルカンに自由を!”という横断幕を掲げながら通りを行進していた。「君達は何故、こんな事を?」「バルカンでは毎日、沢山の人々の血が流れている!それなのにこの国の人達は何も知ろうとも、見ようともしない!」 デモ隊のリーダーと思しき女性は、そう言うとルドルフを睨んだ。「君達の主張は良くわかった。だが今は、このデモを平和的に終了してくれないだろうか?このまま感情的になっても、何の解決にもならない。」「わかったわ。」 デモ隊は、すぐに解散した。「ルドルフ様、無茶な事をなさって・・」「そう怒るな、アルフレート。デモ隊も解散したし、これから甘い初夜を過ごすというのに、そんな顔をするな。」 ルドルフはそう言うと、アルフレートの唇を塞いだ。「からかわないで下さいよ、もうっ!」(お二人共幸せそうで何よりだなぁ・・) 後部座席に漂う甘い空気を感じながら、ブラットフィッシュはラクセンブルク宮殿へと只管車を走らせた。「それでは、わたしはこれで失礼致します。」「あぁ、ご苦労だったな、ブラットフィッシュ。」 ブラットフィッシュが部屋から出て行くと、寝室には少し気まずい空気が二人の間に流れた。「ルドルフ様、あの・・」「どうした?生娘でもあるまいし、今更恥ずかしがるか?」「なっ・・」(もう、この方はいつもわたしをからかって・・)「そんなに緊張しなくても、いつも通りにしていればいいだろう。」「何だか、緊張してしまって・・」「今は、わたしの事だけを考えていればいい。」 ルドルフはそう言うと、アルフレートの唇を塞ぎ、彼の漆黒の髪を撫でた。「アルフレート、愛している・・」「ルドルフ様・・」 アルフレートの、宝石のような美しい翠の瞳が、自分だけを見ている―それだけでも、ルドルフを興奮させた。 それ以上、二人の間に言葉は不要だった。「済まない、無理をさせたな。」「いえ・・」 己の腕の中に居るアルフレートは、そう言って潤んだ瞳でルドルフを見つめた。「何だか、このまま時間が止まって欲しいな・・」「わたしもです。」「アルフレート、お前はわたしと出会って後悔していないか?」「いいえ。わたしは、あなた様と出会う為に生まれて来たのだと、思っています。」「お前・・そんな殺し文句を何処で覚えたんだ?」 ルドルフは、そう言うと恥ずかしそうに枕に顔を埋めた。「そんなに照れる事はないでしょう?」(こいつは、いつも隙を突いてくるな・・) いつも自分が主導権を握っている所為で、時折アルフレートが自分の前にだけ見せる、小悪魔めいた顔に、ルドルフはハートを鷲掴みされてしまうのだった。「ルドルフ様?」「まったく、お前には敵わないな・・」「それは、こちらの台詞ですよ。」 甘い初夜を過ごした二人がラクセンブルク宮殿を後にしてホーフブルク宮殿へと戻ると、フランツ=ヨーゼフが渋面を浮かべながら二人を出迎えた。「陛下、どうかなさったのですか?」「先程、“バルカン自由連合”から、このようなメールが来た。」 フランツはそう言うとスマートフォンの画面をルドルフに見せた。 そこには、ルドルフと連合代表との会談を望む、という旨が書かれたメールが表示されていた。「父上、詳しい話は中でいたしましょう。」「わかった。」「ルドルフ様、わたしは先にお部屋の方へ行っていますね。」「アルフレート、お前も一緒に来い。」「ですが・・」「アルフレートも同席しても良いですか、陛下?」「あぁ、構わない。」 ルドルフとアルフレートは、フランツと共に彼の執務室へと向かった。「昨夜、デモ隊の代表者と話し合いました。まさか、彼女があの団体の代表だったとは知りませんでした。」「サラエボは、“昔”から戦火が絶えない場所だ。サラエボを含めバルカン半島の情勢を考えると、万一の場合に備えてお前が彼女とウィーンで話し合い、共にバルカンの事を話し合うのが一番良いだろう。」「ええ、父上。それよりも、そろそろこの帝国の在り方を変えなければなりません。最早帝国主義は時代遅れの産物にしか過ぎません。君主制を廃止し、共和国制にすべきかと・・」「そんな事をすれば、この帝国は滅びてしまう!共和国制など・・」「陛下、わたしの方から憚りながら申し上げますが、立憲君主制というのはいかがでしょうか?」「立憲君主制、だと?」「はい。皇帝や国王が政治的権力を行使するのではなく、憲法によってその権力を制限し、議会を中心に政治を行う体制にするのです。皇帝陛下は、国民の象徴的存在として君臨すれば良いのです。」「そうか・・それならば、お前に王冠を譲る事を考えねばならんな。」「父上、それは・・」「わたしももう若くない。それに、従来のやり方ではこの国が滅ぶかもしれないからな。“引き際”というものを考えなければならない時期を迎えているようだ。」 フランツはそう言うと、ゆっくりと椅子から立ち上がった。「お前と話せて良かった。」「わたしもです、父上。」 ルドルフはそう言った後、フランツと握手を交わし、彼の執務室を後にした。「ルドルフ様、あの・・」「アルフレート、これから色々と忙しくなるな。」「え、えぇ・・」 数日後、ルドルフはホーフブルク宮殿で“バルカン自由連合”代表・ソフィアと会談した。「この話し合いで、バルカンに真の平和が訪れますように。」 ルドルフとソフィアの会談は滞りなく終わった。 二人の会談が終わった数時間後、オーストリア=ハプスブルク帝国皇帝フランツ=カール=ヨーゼフは皇帝の座を退き、その地位をルドルフに譲り、更に絶対君主制を廃止し、立憲君主制へと移行する事を全世界のメディアに向けて発表した。―皇太子様が皇帝となられるなんてねぇ・・―不安もあるけれど、あの方なら・・―この国が良くなるかも・・ 戴冠式の準備と、それに並行して日々の公務に追われ、ルドルフは過労で寝込んでしまった。「無茶をなさってはいけませんと、いつも申し上げておりますのに・・」「うるさい・・」「困った方ですね。」「寝ていれば治る、放っておけ。」「わかりました。」 数日間寝込んでいたルドルフはアルフレートの懸命な看病のお陰で快復し、無事戴冠式の日を迎えた。「お兄様、おめでとうございます。」「ありがとう、ヴァレリー。」「おめでとうございます、ルドルフ兄様。」「ありがとう、フラン。」 ルドルフの戴冠式は、美しく華やかに行われた。「ハプスブルクに栄光あれ!」 ルドルフの頭上には、宝石で美しく飾られた王冠が輝いていた。「ルドルフ、これからこの国を頼むぞ。」「はい、父上。」「アルフレート、ルドルフの事を宜しくね。」「はい、皇妃様。」 新皇帝即位を祝う夜会に、ソフィアが一人の少女を連れてやって来た。「ルドルフ様、この度はおめでとうございます。」「ありがとう、ソフィアさん、この子は?」「わたし達が運営する孤児院で世話をしている子なの。名前がないから、みんなナジェーヅダ(希望)と呼んでいるわ。ナジェーヅダ、新しい皇帝陛下にご挨拶は?」「はじめまして・・」 ソフィアの背後に隠れていた少女が挨拶し、彼女の蒼い瞳とぶつかった時、ルドルフは思わず彼女を抱き締め、涙を流した。「ルドルフ様?」「ルドルフ兄様、どうか・・」「やっと、やっと会えた・・わたしの、大切なエルジィ。」 ルドルフはそう言うと、自分を不思議そうに見つめている少女を見た。 すると、少女は蒼い瞳を瞬かせた後、ルドルフをこう呼んだ。「お父様?」 わたしには名前がない。 だからみんなにナジェーヅダと呼ばれて、5歳まで孤児院で暮らしていたの。 ある日、ソフィアさんに連れられて、初めてパーティーに行ったの。 これは、新しい王様の誕生日をお祝いするパーティーなのよって、ソフィアさんが言っていたわ。 生まれて初めてお洒落をして、新しい王様に挨拶をしに行ったの。 新しい王様は、とても背が高くてハンサムで、まるでお気に入りの絵本に出て来る王子様みたいに格好良かった。「はじめまして・・」 わたしが緊張しながら新しい王様に挨拶すると、王様はわたしを抱き締めて、泣きながらこう言ったの。「やっと・・やっと会えた、わたしの、大切なエルジィ。」 その言葉を王様から聞いた時、わたしは“全て”を思い出した。 そして、夢の中でいつもわたしを呼んでくれた男の人の事も、思い出した。―エルジィ。その人の顔は、王様と同じ顔をしていた。 あぁ、この人は、わたしの―「お父様?」「そうだよ。よかった、こうして会えて。」 それからわたしは、“お父様”と“天使様”と暮らすようになった。 毎日おいしいごはんを食べて、綺麗なお洋服を着て、そして大好きな“お父様”と“天使様”と一緒に暮らせて、幸せだった。 だから、“お姫様”になる為のレッスンやお勉強の時間も、大好きだった。 でも、周りの人はそんなわたし達の事を“普通”だとは思わなかったみたい。 学校で家族についての作文を書いて発表したら、次の日、わたしはクラスの皆から無視された。 孤児院に居た頃、親が居ない、名無しだからってもっと酷い事をされていたから、無視されるなんて平気だった。 でも、“お父様”と“天使様”を馬鹿にされ、わたしはキレて学校で暴れてしまった。「ごめんなさい、わたし・・」「良く我慢していたね、エルジィ。あとはわたし達に任せておきなさい。」“お父様”が学校に来た後、わたしは苛められなくなった。 それからわたしは、“天使様”―アルフレートさんと“お父様”と三人で、幸せで楽しい思い出を沢山作った。 アルフレートさんは、自分やわたし達と同じような、戦争や病気で親を亡くした子供達や、様々な理由で親と暮らせない子供達を支援する活動をしていた。 わたしはそんなアルフレートさんを、心の底から尊敬していた。 でも、幸せな日々は長く続かなかった。 アルフレートさんはいつものようにサラエボに行って慈善活動をしていた時、サラエボで地震が起きて、老朽化した建物の下敷きになって死んでしまった。 突然のアルフレートさんの死に、わたしは悲しみを自分の中に封じ込めている“お父様”の分まで泣いた。“お父様”は、アルフレートさんが亡くなってから、ずっと笑わなくなってしまった。 わたしは何とか、“お父様”を元気づけようとしたけれど、駄目だった。 心ではわかっていたの、“お父様”を笑わせてくれるのは、“天使様”―アルフレートさんだけだって。「エルジィ、アルルレートに会いたいかい?」「うん・・会いたいわ。お父様に、もう一度笑って欲しいから。」「そうか・・」“お父様”はそう言うと、寂しそうに笑った。 それが“お父様”と過ごした、バート・イシュルでの最後の夏の事だった。 その年の冬、“お父様”は、“天使様”の元に旅立ってしまった。 視界が闇に包まれ、それと同時にあれ程己を苦しめていた苦痛がなくなるを感じた後、ルドルフは自分が死んだのだと気づいた。 死後の世界などないと思っていたが、ルドルフが目を開けると、眼前には美しい緑に囲まれた、蒼い湖が広がっていた。(ここは・・) 始まりの地―自分とアルフレートが運命の出逢いを果たした場所。(アルフレート・・) ルドルフはそっと目を閉じ、アルフレートの名を心の中で呼んだ。「ルドルフ様。」 さぁっと、爽やかな風が吹き、懐かしい声が己の耳朶をくすぐるのを感じたルドルフが背後を振り向くと、そこには最愛の人の姿があった。「アルフレート・・」「さぁ、参りましょう。」「何処へ?」「あなた様となら、何処へでも。」「あぁ、そうだな。」 THE・ENDにほんブログ村二次小説ランキング
2024年09月22日
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※BGMと共にお楽しみください。「天上の愛地上の恋」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。「こんなに結婚式の準備が忙しいものだとは思いませんでした・・」 アルフレートはそう言いながら、結婚式の招待状をパソコンで作成していた。 王侯貴族の結婚式は、今までアルフレートにとっては、“テレビの中の世界”でしかなかった。 しかし、その当事者となった今となっては、こんなに準備が煩雑なものだとは知らなかった。 パソコンで招待状を作成し、招待客リストを作成するだけでも、その膨大な量を纏めるのには、時間と労力がかかった。「はぁ・・」「コーヒーでもどうだ?一日中パソコンの前で座りっぱなしで疲れただろう?」「ありがとうございます・・」 アルフレートは、ルドルフから受け取ったコーヒーを一口飲んだ後、溜息を吐いた。「世界中の王族を招待するから、色々と忙しくなる。それよりもアルフレート、こちらを向いてくれないか?」「は、はい・・こうですか?」 アルフレートがそう言ってルドルフの方を向くと、ルドルフはアルフレートの唇を塞いだ。「いきなり、何をなさるのですか!?」「もう二週間もお前に触れていない。これ位、いいだろう?」「そんな・・」「何だ、嫌か?」「あ、ルド・・」「ルドルフ、元気だった~!」 突然執務室の扉が開き、ルドルフの姉・ジゼルが中に入って来た。「姉上、ノックくらいして下さい・・」「あらぁ、いいじゃない!ねぇ、アルフレート、あなたに聞きたい事があるんだけど。」「聞きたい事、ですか?」「あなた達、どっちがドレスを着るの?」「姉上・・」「何よぉ~、一番気になる事じゃない。」 ジゼルはそう言って笑うと、ルドルフを見た。「でもあなた達二人が幸せになれて本当に良かったわ。」「姉上・・」「アルフレート、ルドルフの事を宜しく頼むわね。」「はい、ジゼル様。」「ルドルフ、“今度こそ”アルフレートと離れちゃ駄目よ。あなたはいつも無茶ばかりするんだから。」 そう言ったジゼルは、慈愛に満ちた眼差しでルドルフを見た。「姉上・・」「さてと、久し振りに会ったんだから、ゆっくりお茶でも飲みながら話しましょう。ザッハートルテを注文しちゃったから、ひとりじゃ食べ切れないのよ~」「わたし達は、本当にきょうだいなんでしょうか?」「そんな事、気にしない、気にしない~」 ジゼルと甘いザッハートルテとコーヒーを囲みながら、ルドルフとアルフレートは楽しいひと時を過ごした。「さてと、わたしはもう帰るわね。子供達をレオポルドに預けっぱなしだから、そろそろ戻らないと・・」「今日は会えて嬉しかったです、姉上。」「また、結婚式の時にね。あ、結局ドレスはどっちが着るの?」「その話はもういいでしょう、姉上。ドレスは着ませんよ。」「え~、つまらないわね~」 ジゼルを王宮前で見送った後、ルドルフはアルフレートをじっと見つめた後、こう言った。「ドレスを着るなら、やはりお前の方が似合うか?」「またご冗談を・・」「冗談じゃないぞ、本気だ。」「えっ!?」「結婚式が楽しみだなぁ~!」「どういう意味ですか、ルドルフ様!?」(ルドルフ様は、一体何をお考えなのだろうか・・) 昼間のルドルフの言葉を思い出し、アルフレートは少し上の空になりながらとある貴族のパーティーに出席していた。「アルフレート様、どうかなさいましたか?」「すいません、ボーッとしてしまいまして・・」「色々とお忙しいのでしょう?」「えぇ、まぁ・・」「皇太子様とは、何処で知り合われたの?」「そうですね・・シュタルンベルク湖でスケートをしていた時に、知り合いまして・・」「ロマンティックな出会いね~」「プロポーズのお言葉は?」「“わたしと、結婚してくれないか?”です。まさか、あのような場所でされるなんて、思ってもみませんでした・・」「まぁ~、あのプロポーズはロマンティックでしたわ。皆さんもそう思いません?」「えぇ、本当に!」 いつしかアルフレートの周りには、貴婦人達が集まっていた。 今までこうした華やかな場所とは無縁だったので、アルフレートは彼女達とどう会話すればいいのかがわからず、困っていた。「皆さん、わたしのフィアンセに何のご用かな?」「ルドルフ様、今アルフレート様にプロポーズの言葉をお聞きしていたところでしたのよ。」「それは困るな、あのプロポーズの事は、二人だけの思い出にしたかったのに。」 ルドルフはそう言って貴婦人達に愛想笑いを浮かべると、アルフレートの手を取り踊りの輪に加わった。「“昔”より、ダンスが上手くなったな。」「あなたのリードが上手いからですよ。それに、これからの事を考えて、特訓もしましたし。」「そうか。」「あの・・ルドルフ様、昼間の事ですが・・」「何の事だ?」「ドレスの事で・・」「明日、友人のウェディングサロンに予約を入れておいた。」「じゃぁ、あれは・・」「さてと、もう曲が終わりそうだから、主催者に挨拶して帰るとするか。」「は、はい・・」 翌日、アルフレートはルドルフに連れられ、彼の友人が経営するウェディングサロンへと向かった。「皇太子様、ようこそいらっしゃいました。どうぞこちらへ。」 ルドルフの友人・ハイリンヒはそう言うと、二人を特別室へと案内した。 そこには、様々な色やデザインの美しいドレスが飾られていた。「あの、本当にこのようなドレスをわたしが着ても良いんでしょうか?」「何をおっしゃいます!このドレスは、あなた様の為にだけ仕立てられたドレスですよ。」「そうですか・・」 鏡の前に立ったアルフレートは、美しく繊細な刺繍が施されたマーメイドラインのドレスを纏った後、その美しさに思わず溜息を吐いた。「アクセサリーはどうなさいますか?」「そうだな、これを。」 ルドルフはそう言うと、サファイアとエメラルドが鏤められたティアラをベルベットの箱から取り出した。「これは・・」「お前の為に作らせた。何だ、気に入らないか?」「このような高価な物、頂けません。」「アルフレート、お前には、この世で一番美しく輝いて欲しいんだ。」「ルドルフ様・・」「愛している、アルフレート。」「先生、どうしましょう、お茶が冷めて・・」「しっ、二人の時間を邪魔するのは野暮ですよっ!」 ハイリンヒはそう言うと弟子を下がらせた。 2024年10月1日、ウィーン・シュテファン大聖堂。 その日、世界中のマスメディアや王侯貴族が、オーストリア=ハプスブルク帝国皇太子・ルドルフの挙式の為に集まった。 その主役であるルドルフは、生涯の伴侶となるアルフレートと共に、ホーフブルク宮殿から馬車に乗り、シュテファン大聖堂へと向かった。(何だか夢のようだなぁ・・) ヴェール越しにルドルフの顔を見ながら、アルフレートはこれが現実なのかと思っていた。 戦争で日常を奪われ、家族や友人を奪われ、名も無き孤児であった自分が、こうして最愛の人と幸せになれるなんて、未だに信じられなかった。「どうした、アルフレート?」「いえ・・」「足元に気をつけろ。」「はい・・」 馬車から降りた二人を、沢山の観光客達やマスメディア、通行人達の歓声が迎えた。「うわぁ~、アルフレート、綺麗~!」「ヴァレリー、静かに!」 ルドルフの妹・マリア=ヴァレリーは、美しいウェディングドレス姿のアルフレートを見て感嘆の声を上げ、隣に座っていたフランツ=サルヴァトールを慌てさせた。「うわぁ・・綺麗・・」「ジゼル・・」「やっぱり、ドレスはアルフレートが着ると思っていたのよねぇ~!」 ルドルフとアルフレートの結婚式は、滞りなく終わった。「ルドルフ様、何故アウグスティーナではなく、シュテファンで結婚式を?」「注目されたいからに決まっているからだろう?それ以外に何の目的がある?」「え・・」「それよりも、初夜が楽しみだな。」「ルドルフ様・・」「そんな顔をするな、今すぐお前を抱きたくなる。」「からかうのはやめて下さいっ!」 アルフレートが赤面して俯くのを、ルドルフは嬉しそうに笑いながら見ていた。 挙式の後、夜を徹して祝宴を開くのが何処の国の王室の決まり事でもあるようだが、その前に王宮のバルコニーに王族全員が出て国民達に挨拶するのも同じようだった。「アルフレート、やっぱりあなたがドレスを着ると思っていたわ~」「ジゼル様・・」「姉上、お静かに。」「後で写真を撮らせて、いいでしょう?」「はい・・」「やったぁ~!」「あの、もうよろしいでしょうか?」「あぁ。」 侍従長によってバルコニーのカーテンが開くと、外からこの日を祝福する人達の声が響いていた。「何だか、怖くなりました・・」「前を向け、堂々としていろ。」「はい・・」 白い軍服姿のルドルフにエスコートされ、彼と共に王宮のバルコニーへと出たアルフレートは、マスメディアのカメラや沢山のスマートフォンのカメラが自分達に向けられている事に気づいて一瞬顔を強張らせたが、すぐに笑顔を浮かべて、彼らに向かって手を振った。「アルフレート。」「え?」 ルドルフに肩を叩かれ、アルフレートが彼の方を向くと、ルドルフはアルフレートの唇を塞いだ。 主役二人の突然のキスに、王宮前に集まっていた人々の間から歓声が上がった。 二人のキスシーンは、音楽をつけられ、世界中に拡散された。 二人にとって、人生最良の日となった。にほんブログ村二次小説ランキング
2024年09月19日
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麺がもっちりとしていて、尚且つ濃厚な味噌との相性が抜群でした。スープも美味しかったです。
2024年09月18日
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「魔道祖師」「薄桜鬼」の二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。一部残酷・暴力描写有りです、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。サラサラと、桜が風に舞う音が聞こえ、藍忘機はそっと襖を開けた。上着を羽織り、庭へと出みると、桜の木の近くに植えられている白木蓮の花が満開になっていた。“魏嬰、この木が大きく育ったら、ここで花見をしよう。”“わかった。”あの日、そんな約束をしていた愛しい伴侶は、もう鬼籍に入ってしまった。彼だけではなく、かつて熱い志を持ち、共に学び夢を語り合った友達は、皆自分だけを置いて、常世へと旅立ってしまった。“藍湛!”白い花弁の向こうに、愛しい伴侶の笑顔が見えたような気がした。「魏嬰、会いに来てくれたのか?」“当たり前だろ!”「やっと・・」白い花弁に藍忘機は覆われ、やがてその姿は見えなくなっていった。「含光君、お食事をお持ち致しました。」藍景儀が師の部屋を訪れると、そこの主は居らず、彼は白木蓮の根元に倒れていた。「そんな・・」景儀が師の死を嘆き悲しんでいると、彼の頬を誰かが優しく撫でられたような気がした。ふと景儀が顔を上げると、そこには自分に笑顔を浮かべている魏無羨の姿があった。「魏先輩・・」彼の笑顔を見て、景儀は全てを悟った。「そうか、忘機が・・」「とても、安らかなお顔をされておりました。」「きっと、魏公子が迎えに来てくれたのだろうね。そんなに悲しむ事はない、いつかわたし達も、黄泉へ旅立つ日が来るのだから。」藍曦臣は、そう言うと青空を仰いだ。「これは・・」「これは、忘機の日記だよ。」藍忘機の四十九日の法要が終わり、景儀と曦臣が彼の遺品を整理していると、桐箱の中に三十冊もの日記帳を見つけた。「彼は、幼い頃から日記をつけていたよ。」「そうですか・・」「一番古いものは、忘機が六歳の頃に書いた物だね。」日記を曦臣が頁を捲ると、そこから微かに白檀の香りがした。そこには、ただ一行だけ書かれてあった。“母上が死んだ。”「ああ、何という事・・」「お子様方はまだ幼いというのに・・」母が長患いの末にこの世から去ったのは、藍湛が六歳の時だった。「若様、早く中に入りませんと、お風邪を召されますよ。」「母上がここへ帰って来るのを待ちます。」「いけません・・」乳母が慌てて藍湛を屋敷の中へ入れようとしたが、彼は頑として正門前に座り込み、その場から動こうとしなかった。その日から藍湛は、毎日屋敷の正門前で母の帰りを待ち続けるようになった。「藍湛、こんな所に居ては風邪をひいてしまうよ。」「兄上、母上は・・」「母上はもうわたし達の元へ帰られる事はない。けれども、母上の魂は常にわたし達の傍にいらっしゃる。」「うわ~ん、兄上!」「うんうん、良く我慢したね。」泣きじゃくる弟の小さな背を、藍渙は彼が泣き止むまで優しく撫で続けた。「そんな事があったのですね?」「あの子はまだ六歳・・母の温もりが恋しい年頃だった。さてと、次の頁を捲ろうか。」「はい・・」次の頁は、最初の頁よりも文字数が多かった。「おや珍しい。あの子は無口で何を考えているのかわからなかったが、日記には色々と書いていたようだね。」「あ、何か落ちましたよ。」景儀は、そう言って床に落ちた紙を拾い上げた。そこには、藍湛の―十代の頃の彼が、美しく描かれた墨絵だった。「これは、魏先輩が・・」「まだ、持っていたんだね。」藍渙は目を閉じ、藍湛と魏嬰が初めて会った時の事を思い出していた。姑蘇藩は、初代藩主の御世から、将軍家に忠誠を尽くして来た。そしてそれは、“家訓”として代々藩主に伝えられ、いつしか姑蘇藩は武芸に秀でた藩となった。姑蘇藩は、藩士達の教育に力を注いだ。“雲深不知処”と呼ばれる藩校では、藩士の子供達が数え六つの頃から通い、そこでは毎日、“什の掟”を叩き込まれていた。一.年長者の言ふことに背いてはなりませぬ一.年長者にはお辞儀をしなければなりませぬ一.卑怯な振舞をしてはなりませぬ一.弱い者いじめをしてはなりませぬ一.戸外で夫人と言葉を交へてはなりませぬならぬことは、ならぬものです幼き頃からこの掟を叩きこまれている子供達は、性別、年齢問わず団結し、年長者は年少者を守り、年少者は年長者を敬った。やがて“雲深不知処”の教育は他藩にも知られる事となり、姑蘇藩士の子弟のみならず他藩の子供達が“留学”に来るようになった。「急に賑やかになりましたね、兄上。」「あぁ。今年も他藩の子供達が来たようだね。忘機、くれぐれも彼らと争いを起こさないように。」「はい・・」藍湛は兄からそう釘を刺され、彼は平穏無事な生活を送ろうと、己の胸に誓ったのだった。しかし、彼は一人の少年と運命の出逢いを果たした事により、その後の人生が大きく変わる事になった。「あ、お前もしかして藍の二の若様か?俺は・・」「魏無羨、お前授業を抜け出してこんな所に・・」「じゃ、またな!」その少年―魏無羨は、赤い髪紐を揺らしながら、まるで嵐のように藍湛の前から去っていった。「あの子は?」「申し訳ございません、あいつは俺の義兄で魏嬰と申します。俺は・・」「雲夢江藩の江楓眠様のご嫡男、江澄様ですね。」「た、沢蕪君!」「そんなに緊張しないでくれ。わたしは偉くも何ともないのだから。」「は・・」「それにしても、君の連れは不思議な子だね。忘機の心をすぐに掴んでしまう。」「あいつは、問題児です。いつも父上や母上を困らせてばかりで・・」「彼と忘機は、良い友になりそうだな。」「さぁ、それはどうだか・・」江澄は、そう言って溜息を吐いた。 魏嬰は、無口な藍湛とは対照的に、良く喋った。「なぁ藍湛、いつも小難しい顔をして何の本を読んでいるんだ?」「君には関係ない。」「そうか。」江澄は、藍湛に執拗につきまとう魏嬰の姿を見た途端、慌てて藍湛の元から引き離した。「お前、いい加減にしろ!来て早々問題を起こす気か!?」「そんなに目くじら立てるなよ、江澄。俺はただ、藍湛と仲良くしたいだけだよ。」「仲良くしたいだと?藍の二の若様はお前を迷惑がっているように見えるがな。とにかく、余り問題を起こすなよ!」「はいはい、わかったよ。」自分の忠告を魏嬰が素直に聞く筈がないという事を、江澄はその身をもって知っていた。案の定、魏嬰は“雲深不知処”に入校してから色々と問題を起こした。その度に江楓眠が“雲深不知処”を訪れては、義理の息子に対する己の躾の足りなさを藍啓仁に詫びたものだった。だが当の本人はどこ吹く風で、自由気ままに過ごしていたのだった。「全く、何だってあいつは問題ばかり・・」「いやぁ、この前の魏先輩の太刀さばきは凄かったですね。」」そう言って扇子で口元を隠しながらひょっこりと江澄の前に姿を現したのは、魏嬰の悪友・聶懐桑だった。「その口ぶり、何か知っているようだな?」「これ、わたしから聞いたって、魏先輩には言わないでくださいよ?」懐桑は軽く咳払いすると、数日前に起きた事を話した。それは、魏嬰達が入校して数日後の子だった。その日、魏嬰達は姑蘇の城下町・彩衣鎮を散策していた。「へぇ、美味い物あるんだなぁ。ひとつ貰おうか?」「魏先輩、そんなに食べるんですか?」「だって、藩校の食事、みんな薄味で食えたもんじゃないぜ!」「まぁ、確かに・・」「それよりも、藍湛はどうして俺の事を嫌うんだろうなぁ?俺は仲良くしたいのになぁ。」「魏先輩がしつこいからじゃないですか?あんまり強く押すよりも、一旦引いた方がいいですよ。」「そうか~?」茶屋の軒先で魏嬰達が団子を食べながらそんな事を話していると、突然向こうから甲高い女の悲鳴が聞こえて来た。「何でしょう、今のは?」「行くぞ!」魏嬰達が、悲鳴が聞こえて来た方へと駆け付けると、そこには数人の男達が一人の少女を取り囲んでいた。「お前ら、一人相手に弱い者いじめか?姑蘇藩士の名が廃るぜ!」「うるせぇ、すっこんでろ餓鬼」!」激昂した男の一人が、そう叫ぶと魏嬰に持っていた棍棒で殴りかかろうとしたが、魏嬰はそれをひょいと躱した。「俺は、弱い者いじめをする奴が大嫌いなんだよ!」魏嬰はそう叫ぶと、男の手から棍棒を奪い取り、怒号を上げる男達と戦い始めた。五対一という劣勢だというのに、魏嬰は男達の攻撃を難なく躱し、棍棒一本で彼らに立ち向かっていった。「凄ぇ・・」「魏先輩、頑張れ~!」「お前ら、突っ立ってないで力を貸せ!」「おう!」それから、魏嬰達の大立ち回りが始まり、野次馬が次々とその騒ぎを聞きつけてやって来た。「お前ら、一体何をやっている!」運悪く、騒ぎを聞きつけた奉行所の役人達が魏嬰達の元へ駆けつけ、“雲深不知処”にその騒ぎが届く事になった。「全く、お前達はロクな事をしないな!」「藍先生、お言葉ですが俺達はゴロツキに絡まれていた娘を助けただけです!」「そうですよ、あの娘さん、わたし達が助けなければ今頃どうなっていたか・・」必死に魏嬰達が藍啓仁に対して抗議の声を上げたが、魏嬰達は七日間の謹慎処分を受けた。「納得いかねぇ、悪いのは向こうなのに!」「魏先輩、さっさと罰則の書き取りを済ませましょうよ。」「あ~、腹立つ!」藍啓仁が魏嬰達に課した罰則は、“姑蘇藩什の掟を千回書き取りする事”だった。「何だって、こんな事・・」「魏先輩・・」「君の自業自得だ。少しは慎みを身につけなさい。」」「何だよ~、慰めてくれないのか?」魏嬰はそう言うと、様子を見に来た藍湛に抱きついた。「恥知らず!」「魏先輩、まぁた藍の二の若様にちょっかい出してるよ。」「若様も気の毒に。」「でも若様の方もまんざらではない様子でしたよ?」懐桑がそんな事を言いながら書き取りをしていると、廊下の方から誰かが言い争っているかのような声が聞こえて来た。「何故、我が藩が京都守護職を・・」「初代藩主の御世から、我が藩は将軍家に仕える身なのだ。」「ですが叔父上・・」「これはもう、決まった事だ。」「そんな・・」雲夢の夏は蒸し暑いが、姑蘇の夏はうだるような暑さだった。「あ~、暑い!」魏嬰は夏の暑さを凌ぐ為、彩衣鎮の郊外にある川で水浴びをしていた。「はぁ~、やっぱり暑い日には水浴びが一番だよな~」魏嬰がそんな事を言いながら川の中を泳いでいると、そこへ藍湛がやって来た。彼は下帯一枚の姿の魏嬰を見ると、眉間に皺を寄せた。「あ、藍湛!」「はしたない!」「何だよ、そんなに目くじら立てなくてもいいだろ?あ、お前も入るか?」「わたしはいい。」「遠慮するなって!同じ男同士、恥ずかしがらなくてもいいだろう?」「止めろ!」藍湛は魏嬰に半ば強引に川の中へと引き摺り込まれ、着物と袴が濡れてしまったので、思わず魏嬰を睨みつけた。「君の所為でびしょ濡れだ!」「はは、水も滴るいい男じゃないか!」「うるさい!」川での出来事以来、藍湛と魏嬰の関係は良くなるどころか、悪化してしまった。「お前、また何をやらかしたんだ?」「ちょっと強引に水浴びに誘ったのに、あいつ着物が汚れたから怒って来てさ・・」「当然だろう!お前、京に着くまでおかしな事をするなよ!」「はいはい、わかっているよ!」姑蘇藩主・藍曦臣が京都守護職に就任し、藩士らを引き連れて上洛したのは、夏が過ぎ、厳しい冬の事だった。「ひぃ、寒い!」「うるさい、黙って歩け!」「こんなに寒いのに、何であいつは涼しい顔をしているんだ?」「うるさい!」「寒いから黙っていられないじゃないか!」「全く、この先が思いやられる・・」「どうしたんだい忘機、少し嬉しそうだね?」「いいえ、何でもありません。」だが、この時藍湛の心の中では小さな漣が起きていたのだった。にほんブログ村二次小説ランキング
2024年09月16日
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新選組とともに京の町をわたしも駆けてみたいと、「十二月の都大路上下ル」を読んで思いました。「八月の御所グラウンド」は、戦禍で稀有な才能を持った若者の未来が奪われる怒りを感じました。そのような惨禍を、二度と繰り返してはならないと、本を閉じた後に思いました。
2024年09月16日
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最近、楽天ブログ読書コミックランキングを時折チェックしていたのですが、まあ100位前後に入るのがいいくらいだなあと思っていますが、今日チェックしたら12位!二次小説とか、あまり更新していないんですけどねぇ…不思議です。 にほんブログ村ランキング二次小説カテゴリーは、最近20位前後をいったりきたりしています。これも不思議すぎる。
2024年09月16日
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2011年に亡くなられたカール大公の、波瀾万丈な生涯を描いた伝記です。ルドルフ皇太子さまの一人娘・エルジィも波瀾万丈な生涯を送りましたが、やはり元王族というだけでナチスやソ連から危険視されるというのが可哀想ですね。しかし、ハプスブルク=ロートリンゲンの家が21世紀まで続いているというのは、ひとえにエルジィやカール大公、そして彼の母・ツィタ皇妃のお陰なのかもしれませんね。
2024年09月16日
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表紙は、てんぱる様からお借りしました。「天上の愛地上の恋」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。「ルドルフ様・・」「早くしろ。」ルドルフの苛立ったかのような声が聞こえたので、アルフレートは大人しく彼に従った。「お前は、あんな奴らに媚を売って・・」「そんなつもりは・・あっ!」ルドルフが前戯もなく己の中に挿入って来たので、アルフレートは思わず悲鳴を上げた。「お前は、わたしだけのものだ。」そう言って自分を見つめているルドルフの蒼い瞳は、狂気で少し濁っていた。時折トイレの方から聞こえて来る二人の艶声に、バーに居た男達は皆、顔を赤くして俯いていた。「うちの執事が、世話になったな。」暫く経ってトイレから気絶したアルフレートを横抱きにしながら出て来たルドルフは、そう言って男達を牽制した後、バーをあとにした。「お帰りなさいませ。ルドルフ様、お食事は如何なさいますか?」「要らない。父上と母上は?」「旦那様と奥様なら、お休みになられました。」「そうか。」広大なハプスブルク公爵邸の奥―“スイス宮”と呼ばれる場所にルドルフは入ると、アルフレートを横抱きにしながら自分専用の浴室へと向かった。そこは、浴室というよりも彼の私室のひとつといっても過言ではない位、広かった。大人二人が余裕で入れる位の大きな浴槽にアルフレートを寝かせると、ゆっくりと彼の服を脱がせていった。「ん・・」「気が付いたか。」「あの、ここは・・」「色々と汚れているだろうから、綺麗にしてやろうと思ってな。何だ、嫌か?」「い、いいえ・・」「そのタトゥー、良く似合っているぞ。」ルドルフはそう言うと、アルフレートの内腿に彫られたタトゥーに口づけた。それは、大学に入学した時に二人で互いのイニシャルを内腿に彫ったものだった。美しい“R”の飾り文字が、アルフレートの白い肌に映えていた。「もうあんな事はなさらないでください。」「わたしに黙ってあんな場所へ行ったお前が悪い。」「そんなに拗ねるなんて、まだまだお子様ですね。」「うるさいお兄様には、こうしてやる。」ルドルフはそう言うと、アルフレートの唇を塞いだ。「なっ・・」「さてと、わたしも一緒に入るか。」「お止め下さい・・あぁっ!」結局、アルフレートはルドルフに抱かれてしまった。「もう、こんなに痕をつけて、わざとですね?」「何の事だ?」翌朝、アルフレートは身支度をしながら自分の首筋から胸元にかけてルドルフがつけたキスマークに気づいて赤面した。「わたしはもう行きますからね。」「おやおや、お兄様は拗ねてしまわれたか。」「ふざけないで下さい!」アルフレートはそう言うと、ルドルフの部屋から出て行った。「アルフレート、おはよう!」「おはようございます、マリア=ヴァレリー様。」「ねぇ、昨夜どうしてお兄様と二人で帰って来たの?」「あの、それは・・」ルドルフの妹、マリア=ヴァレリーからそう尋ねられ、アルフレートは赤面して俯くしかなかった。「ヴァレリー、そんな事をアルフレートに聞くのは野暮だよ。」そう言いながら二人の間に割って入ったのは、フランツ=サルヴァトールだった。「フラン様、おはようございます。」「おはようございます、アルフレート。今日も大学ですか?」「ええ。」「ルドルフ兄様はどちらに?」「お部屋だと思います。ルドルフ様に何かご用ですか?」「実は、明後日提出のレポートで、わからない事があって・・」「そうですか。そのレポートを、後で見せて頂いてもよろしいですか?」「いいですが・・どうして?」「何か良いアドバイスが出来るかなと思って・・」フランとアルフレートがそんな話を廊下でしていると、そこへルドルフがやって来た。「フラン、どうした?」「ルドルフ兄様、実はレポートの事でご相談したくて・・」「わかった。」朝食の後、ルドルフとアルフレートはフランのレポートを手伝った。「これで何とかなるだろう。」「ありがとうございます、ルドルフ兄様、アルフレート。」「それにしても家系図作りとは、今の子供は大変だな・・我が家は色々と複雑だから、作るのに骨が折れただろう?」「はい。でも、ルドルフ兄様と同じ名前の人を見つけたので嬉しかったです。」「そうか。」「ルドルフ様、本日のご予定は?」「今日は友人達の集まりがあるから、遅くなる。」「そうですか、余り羽目を外されませんように。」「わかっている・・」そう言ったルドルフは、何処か拗ねたような顔をした。午前中の仕事を終えたアルフレートは、大学で体育の授業を受ける為、大学の構内にあるトレーニングジムに来ていた。「うわ、何だよアルフレート、その噛み痕、誰にやられた!?」「え?」ロッカールームでアルフレートが服を脱いでいると、隣に居たクラウスがアルフレートのキスマークを見て驚いていた。「いや、何でもないよ。」「そ、そうか・・」クラウスにとってアルフレートは実の兄のような存在で、それは今でも変わらない。だが、アルフレートの内腿に彫られたタトゥーを見た途端、チリリとクラウスは嫉妬で胸が焦げそうになった。そして、彼の首の噛み痕をつけたのが誰なのか、クラウスはわかったような気がした。「お~い、どうしたんだよしけたツラして?折角この俺様が奢ってやるって言うのによ。」「なぁコンラート、あんたアルフレートが仕える“坊ちゃま”って、誰なのか知っているか?」「知っているも何も、ハプスブルク家の坊ちゃんはこの大学の有名人だぜ。クラウス、もしかしてお前、アルフレートの事が好きなのか?」クラウスはコンラートの言葉を聞いて、飲んでいたビールを噴き出しそうになった。「なっ、なっ・・」「あいつの事は諦めた方がいいぜ。」コンラートがそう言ってつまみのフレンチフライを口に放り込んだ時、奥のテーブルが急に騒がしくなった。「なんだぁ?」コンラートとクラウスが奥のテーブルの方を見ると、泥酔した長身の男が半裸でポールダンスをしていた。その男の内腿には、アルフレートと揃いの、飾り文字の“A”のタトゥーが彫られていた。「コンラート、あいつもしかして・・」「坊ちゃま、帰りますよっ!」店の入口のドアベルが鳴り、アルフレートが血相を変えてルドルフの元へと飛んできて、彼に慌ててコートを羽織らせた。にほんブログ村二次小説ランキング
2024年09月15日
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表紙は、装丁カフェ様からお借りしました。「天上の愛地上の恋」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。両性具有・男性妊娠設定ありです、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。1888年12月2日、ハプスブルク帝国皇帝・フランツ=カール=ヨーゼフは、在位40年目を節目に、その地位を一人息子である皇太子・ルドルフに譲る事を発表した。生前退位という、前代未聞の出来事に、ウィーンのみならずプラハ、ブタペスト、果てはサラエボに至るまで、天地を揺るがす程の騒動となった。「陛下、本気なのですか?」「わたしが今まで、冗談を言った事があったか?」「そ、それは・・」「しかしながら陛下、皇太子様は自由主義にかぶれておいでで・・」「保守的な思想のままでは、この帝国はやがて滅びる。それに、わたしももう年だ。ルドルフにこの帝国を任せた方が良いだろう。」「はぁ・・」ルドルフは、私室に長年の幼馴染であり恋人であるアルフレート=フェリックスに宛てた手紙を書いていた。「お兄様、入ってもよろしくて?」「どうした、ヴァレリー?」「その手紙は、アルフレートに宛てたものなの?」「あぁ。」アルフレートは、アウグスティーナに長年勤めていたが、ルドルフの結婚を機にヴァチカンへと異動してしまった。「これで、アルフレートをわたしの元に呼び戻す口実が出来た・・」「お兄様?」ヴァレリーは、ルドルフが、アルフレートがヴァチカンへ異動した後荒んだ生活を送っていた事を知っていただけに、ルドルフが何を思っているのかが何故かわかってしまった。「アルフレートが、ウィーンに戻って来るの?」「あぁ。お前も嬉しいだろう、ヴァレリー?」「え、えぇ・・」一方、ヴァチカンではアルフレートがルドルフから届いた手紙を受け取っていた。「わたしが、アウグスティーナに?」「マイヤー司祭が君の事を是非にと推してくれてね。それに、来年ルドルフ皇太子様の戴冠式があるからね。」「戴冠式・・」それは、つまりルドルフが皇帝になるという事だ。(あの方が、皇帝になられる・・)ウィーンを去った後、人づてにルドルフが荒んだ生活を送って居るという噂を何度か聞いた事があった。(わたしが、お傍に居たら、あの方は・・)ルドルフとシュテファニーとの結婚が決まった時、これ以上彼の傍に居てはいけないと、アルフレートは一方的にルドルフの手を離した。その所為で、彼は―(くよくよと昔の事を悔やむのをやめよう。今は、これからの事を考えなければ・・)アルフレートはそう思いながら、そっと首に提げた十字架を握った。それは、あの日―ルドルフと結ばれた雪の夜に、彼が鎖を繋いでくれたものだった。「お父様、それはなぁに?」ルドルフが私室でアルフレートが昔、自分に贈ってくれたオルゴールを聴いていると、そこへ世話係の目を盗んで自室から抜け出した彼の娘・エルジィが入って来た。「これはお父様が昔、天使様から頂いたものだよ。古いものだから、鳴らないと思っていたんだが・・」「お父様は、天使様とお会いになった事があるの?」「あぁ。とても美しい方だよ。」「エルジィも会える?」「会えるさ。」(漸く、アルフレートが帰って来る・・わたしの元に。)オルゴールの音色を聴きながら、ルドルフはアルフレートと別れた日の事を思い出していた。「ルドルフ様、長い間お世話になりました。どうか・・」「どうしても、行くのか?」「はい。ルドルフ様、あなた様はこの国を背負う方です。このような不毛な関係を続けるのは・・」「不毛な関係だと!?お前は、わたしを愛した事を悔いているのか!?」「いいえ・・」「ならば、一緒に死ぬか、わたしと。」ルドルフがその両手を己の首にかけても、アルフレートは微笑っていた。「何故、微笑っている?」「ルドルフ様、わたしはあなたを愛しています。わたしとこのままあなたが居ると取り返しがつかなくなる。」「アルフレート?」「わたしはこれで失礼致します。シュテファニー様とお幸せに。」「嫌だ、行くな!」泣いて縋るルドルフの手を、アルフレートは振り払った。あれから7年―アルフレートに捨てられた悲しみは、ルドルフの中で彼に対する強い執着と独占欲へと変わっていった。(アルフレート、今度こそお前をわたしだけのものにする。)その為には、悪魔になっても構わない。「お父様?」はっと我に返ったルドルフは、訝し気に自分を見ているエルジィに気づいた。「エルジィ、もうお部屋に戻りなさい。みんな心配しているよ。」「お父様と一緒に寝たい!」「まぁエルジィ様、そのような事をおっしゃってはいけませんよ!」エルジィの世話係はそう言いながらエルジィを宥めようとしたが、彼女は、ルドルフにしがみついて離れようとしなかった。「エルジィは今夜、わたしと一緒に寝ると、シュテファニーに伝えろ。」「ですが・・」「わたしがどれ程女好きでも、実の娘相手に欲情する程愚か者ではないとでも伝えておけ。」「は、はい・・」エルジィの世話係が蒼褪めた顔をしながらスイス宮から出て行った後、ルドルフは寝室で自分と一緒に寝られる事が嬉しくてはしゃぐエルジィの姿を見て微笑んでいた。こうして、子供の頃に自分が父や母と一緒に寝た記憶があっただろうかと、ルドルフはふと思い出そうとしたが、普通の温かい家庭にありがちな、親子の交流などなかった事に気づき、自嘲めいた笑みを浮かべた。せめてエルジィには、娘にだけは、自分のような寂しい思いをさせないようにしよう―ルドルフは、そんな事を思いながら、自分に似たエルジィの金褐色の髪を優しく梳いた。「お父様、お話して~」「お話?どんなお話がいいんだい?」「天使様のお話がいい!」「わかった、天使様のお話をしてあげようね。」にほんブログ村二次小説ランキング
2024年09月14日
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「天上の愛地上の恋」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。―ルドルフ様 夢の中で、“彼”はいつも笑っていた。 いつも、自分の隣に居てくれた“彼”は、星空が美しく瞬く中で、静かに逝った。―ルドルフ様、約束します。何処で何をしても、わたしは必ずあなたの元に戻ります。(お前は嘘吐きだ、アルフレート。また一緒に居られると思ったのに、お前は―) 朝の光が、カーテン越しに殺風景な部屋を静かに照らし始めた。「ん・・」 ルドルフは眠い目を擦りながらベッドから出ると、隣に寝ていた筈の女は居なかった。 彼女と何処でどう知り合ったのかさえ、もう憶えていなかった。 所詮、そういったレベルの女だったという訳だ。 ただ、それだけの話だった。 手早くシャワーを浴び、身支度を済ませると、ルドルフは愛車に乗って大学へと向かった。「はぁ、今日も暑いなぁ。」 同じ頃、アルフレート=フェリックスは自転車を漕ぎながら、そう言って溜息を吐いた。 生まれ故郷である緑豊かな田舎から、極東の島国へとやって来て、数年経つ。 毎年、夏になると日本は酷暑が続き、昼夜問わずアルフレートは何とか暑さを凌いでいた。 日本に来て最初の頃は、日本語がわからずに苦労したが、やがて慣れて来た。 今は日本語も何も不自由なく流暢に話せるし、毎日アルバイト漬けだが、退屈な田舎での生活よりも刺激的な生活を送っていた。(ふぅ、何とか間に合ったな。) アルフレートがそう思いながら大学の駐輪場に自転車を停めていると、そこへ一人の学生がやって来た。「アルフレート、おはよう。」「おはよう、テオドール。」「今日も暑いね。」「あぁ。日本に来て数年経つけど、この暑さは未だに慣れないね。」「そうだね。」 アルフレートがテオドールと共に大学の構内を歩いていると、向こうから華やかな連中が歩いて来るのが見えた。「あの人達は?」「あぁ、あの人達は、この大学の中で一番派手なグループさ。余り関わらない方がいいよ。」「わかった。」「あ、もうこんな時間だ、急がないと遅刻するよ!」「待ってよ、テオドール!」 アルフレートはそう言って友人の後を追い掛けた時、誰かに見つめられたような気がしたが、彼はその事に気も留めなかった。 何とか一限目の講義に間に合ったアルフレートが背負っていたバックパックからルーズリーフを取り出した時、彼は再び強い視線を感じて振り向くと、そこには誰も居なかった。(気の所為か・・)「アルフレート君、君って家事出来る?」「出来るけど、それがどうしたの?」 昼休み、アルフレートがコーヒーを飲んでいると、そこへ同じ学部の学生がやって来た。「実はさぁ~、家事代行サービスのバイト、人手不足でカツカツでさぁ~、上司から誰か勧誘して来いって頼まれてさぁ・・」「わかった、やるよ。」 家事代行のバイトは、アルフレートが今やっている配達員のそれよりも待遇や給料が良かった。“今回の派遣先のお客様は気難しい人だけど、君なら大丈夫そうだ。” 面接の際、上司からそう太鼓判を押され、アルフレートが向かったのは、都内の一等地に立つタワー=マンションの最上階だった。 この部屋に住んでいるのは、自分と同じ大学に通う学生だという。 苦学生の自分とは、天と地程に住んでいる世界が違う人間が居るのだな―そう思いながらアルフレートは、大きく深呼吸してタワー=マンションのエントランスにあるインターフォンの画面に、派遣先の部屋番号を入力した。『どちら様ですか?』「家事代行サービスです。」『どうぞ。』 カチャリと、オートロックが解除される音がしたので、アルフレートはそのままエレベーターで最上階まで向かった。 エレベーターから降りると、美しい装飾が施されたドアが、アルフレートの前に現れた。にほんブログ村二次小説ランキング
2024年09月13日
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表紙は、装丁カフェ様からお借りしました。「天上の愛 地上の恋」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。両性具有·男性妊娠設定あり、苦手な方はご注意ください。二次創作・オメガバースが苦手な方はご注意ください。一部性描写が含まれます、苦手な方はご注意ください。「あっ・・」「どうした、アルフレート?」「いえ、何でもありません・・」 内腿を生温かい体液が伝う感触がして、アルフレートは思わず悲鳴を上げた。(どうして、こんな時に・・) アルフレートは溜息を吐きながら、トイレの個室内で、経血で汚れたスラックスを見た。 アルフレートは、ある“秘密”を持っていた。 それは、彼が半陰陽(両性具有)であるという事だった。 その事を知っているのは、マイヤー司祭と亡くなった幼馴染・ローザと、友人のテオドールだけだった。 男性のΩ自体その存在が珍しいが、半陰陽のΩは稀少価値が高く、それ故に乱獲され、絶滅危惧種とされていた。 そんな“秘密”が周囲に露見したらどうなるのか―アルフレートはそんな事を想像するだけでも恐ろしかった。 発情期(ヒート)の発作はルドルフと番になってから以前より軽くなったが、月経に伴う下腹の鈍痛と出血は、アルフレートが初潮を迎えた頃よりも酷くなっていった。 その痛みを和らげる薬はあるものの、非常に高価な上に入手困難なものなので、アルフレートは月経の間、只管痛みに耐えるしかなかった。 アルフレートはトイレの個室から出てアウグスティーナ教会へと戻ると、同僚から顔色の悪さを指摘され、心配された。「すいません、少し疲れが溜まっているだけですから・・」「余り無理しない方がいいよ。」「ありがとうございます・・」 アルフレートはそう言って仕事に戻ったが、強烈な倦怠感に襲われた。「アルフレート。」「マイヤー司祭様。」「酷い顔をしているね。あとで、わたしの部屋へおいで。」「はい・・」 アルフレートの蒼褪めた顔を見たマイヤー司祭は、彼に生理痛を和らげる薬を手渡した。「これで少しは痛みがマシになる筈だ。」「ありがとうございます。」「この事を、ルドルフ様には・・」「伝えていません。心配をかけさせたくないので・・」「そうか。」「薬、ありがとうございました。」 アルフレートはマイヤー司祭から薬を受け取ると、彼の部屋から出た。「アルフレート!」「ヴァレリー様、フラン様。」「アルフレート、酷い顔をしているけれど、風邪でもひいたの?」「いいえ、少し疲れが溜まっているだけです。」「そう?余り無理しないでね。」「ありがとうございます、ヴァレリー様。」 アルフレートがそう言ってマリア=ヴァレリーに微笑んだ時、彼は下腹の鈍痛に襲われ、その場に蹲った。「アルフレート、どうしたの!?フラン、誰か呼んで来て!」「う、うん!」「マリア=ヴァレリー、フラン、どうした?」「ルドルフ兄様、アルフレートが突然苦しみ出して・・」 アルフレートが苦しそうに喘ぎながら俯いた顔を上げると、そこには蒼い瞳で自分を見つめるルドルフの姿があった。「ルドルフ様、わたしは・・」「フラン、医者をわたしの部屋に呼べ。」「はい、わかりました!」 ルドルフが苦しそうに喘いで廊下に蹲るアルフレートを抱き上げると、彼から微かに血の臭いがする事に気づいた。―アルフレート、お前はわたしのものだ。 闇の中で、自分を呼ぶ声がした。(嫌だ、来るな!)「アルフレート、大丈夫か?」「ルドルフ様、ここは?」「わたしの寝室だ。お前、急に廊下で倒れたから驚いたぞ。」「申し訳ありません・・」「謝るな。まぁ、わたしもお前の事を余り気遣えなくて済まなかった・・お前の身体の事を、知らなかったからな。」 ルドルフはそう言うと、アルフレートの手を握った。「ルドルフ様には、知られたくなかったのです・・こんな、身体の事を・・」「そうか。」 ルドルフの手が、そっとアルフレートの項を愛撫した。「あの、ルドルフ様?」「すまない、こんな状態のお前を見て、欲情してしまった。」「あ・・」 ルドルフのモノが己の腰に当たっている事に気づき、アルフレートは身体の奥が疼くのを感じた。「ルド・・こんな、あぁっ!」「お前の中は、いつにも増してわたしを締め付けて離さない・・」「そんな事、言わないで・・あぁっ」 アルフレートはルドルフによって両足を大きく広げられ、結合部が丸見えになる姿をさせられていた。 ルドルフに突かれる度にアルフレートは頭がクラクラして、何も考えられなくなってしまった。(いけない、こんな・・) まだ発情期(ヒート)は先なのに、ルドルフのラットに誘発され、アルフレートは発情してしまった。「ルドルフ様、もう、抜いて下さい・・」「もう遅い。」「そん・・なぁぁ~!」 アルフレートはルドルフの欲望が中で爆ぜるのを感じ、意識を手放した。 アルフレートを寝台の中に寝かせた後、ルドルフはナイトガウンを羽織り、寝室を出て執務室に入った。 執務机に置かれていた書類に目を通していたルドルフの元に、ヨハン=サルヴァトールがやって来た。「大公、こんな夜遅くに何か用か?」「ルドルフ、お前あいつを番にしたそうだな?」「あぁ。アルフレートとわたしは、“運命の番”だからな。」「あいつをどうするつもりだ、愛人にでもするのか?」「アルフレートは、わたしの妻にする。」「馬鹿を言うな、あいつは・・」「男でもあるが、女でもある。」 ヨハンはルドルフの言葉を聞いて驚愕の余り、絶句してしまった。「ルドルフ、お前はあいつの為に王冠を捨てるというのか?」「アルフレートは、わたしだけのものだ、誰にも渡さない。」 そう言ったルドルフの蒼い瞳は、暗く淀んでいた。「ルドルフ、あいつとは別れた方が良い、手遅れになる前に・・」「わたしに指図するな、大公。」 ルドルフはそう言ってヨハンに背を向け、寝室へと戻った。 寝台の中で眠るアルフレートの艶やかな黒髪を梳いた後、ルドルフはアルフレートの薄い腹を撫でた。―半陰陽だとしたら、彼は子を産めるのか?―はい。 昼間アルフレートを診察した医師の言葉を聞いたルドルフは、アルフレートをますます独占したくなった。(アルフレートはわたしの、わたしだけのΩだ。誰にも渡さない・・)「ん、ルドルフ様・・」「お休み、アルフレート。良い夢を。」にほんブログ村二次小説ランキング
2024年09月12日
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※BGMと共にお楽しみください。「薄桜鬼」「火宵の月」「天上の愛地上の恋」二次小説です。両性具有·男性妊娠設定ありです、苦手な方はご注意ください。作者様・出版社様とは一切関係ありません。性描写が一部含まれます、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。女がちらりと自分に銃を突き付けている男を見ると、彼は恐ろしく背が高く、蒼い瞳は冷たい光を放っていた。「動けば撃つ。」「あんた、勘違いしているんじゃねぇか?俺はあんたの友達をあの化物から助けてやっただけだぜ。」「どうだか。」男―ルドルフはそう言うと、撃鉄を起こした。「ルドルフ様、どうか銃を下ろしてください。」「ヴィクター、無事か?」「はい。そちらの黒髪の方、助けて下さってありがとうございました。」「いいって事よ。」「それよりも、この吸血鬼は一体・・」「じきにわかる。」女がそう言った後、空が白み始めたかと思うと、太陽が東の空に昇った。すると、ヴィクターに襲い掛かって来た吸血鬼が、女に斬られた首ごと消滅した。「なっ・・」「あれは、吸血鬼といっても下っ端の存在さ。俺やあんたみたいに太陽の光を浴びても死なねぇ奴もいる。」「ますます怪しいな。このまま貴様を逃がす訳にはいかん。」「そうカリカリしなさんな、坊や。」女から軽く挑発され、ルドルフの眉間に皺が寄った。「ルドルフ様、こちらにいらっしゃったのですね。」ルドルフが女に再び銃口を向けた時、一人の青年がルドルフ達の前に現れた。青年は、黒髪に上質なエメラルドを磨き上げたような、翠の瞳をルドルフに向けると、少し困ったような顔をしてルドルフにこう言った。「また王宮を抜け出されて、吸血鬼事件を追っていらしたのですね、困った方。」「うるさい。」まるで幼子を叱る母親のようにルドルフに向かって声を掛けた青年は、天使のように美しかった。いや、天使そのものだと、ヴィクターと黒髪の女は思った。「さぁ、一緒に王宮へ戻りますよ。」「うるさい。」そう言ったルドルフは、少し拗ねたような顔をしていた。「あの、ルドルフ様、そちらの方は・・」「ヴィクター、お前はアルフレートと会ったのは初めてだったな。アルフレート、こいつはわたしの友人の、ヴィクターだ。」「初めまして、アルフレート=フェリックスと申します。」「ど、どうも・・」美しい青年司祭―アルフレート=フェリックスから微笑まれ、ヴィクターの胸は何故か高鳴ってしまった。「ふぅん、神父と吸血鬼が恋人同士とはねぇ・・ま、俺らには関係のねぇこった。」黒髪の女はそう言って呆れたような顔をした後、ルドルフ達の前から消えた。「彼女は一体、何者だったのでしょうね?」「さぁな、それよりもそろそろ戻らないとな。」「そうですね。ヴィクターさん、ではわたし達はこれで失礼致します。」「は、はぁ・・」呆けたように帰宅したヴィクターに、エレーヌの雷が落ちたのは言うまでもなかった。「ルドルフ様、どちらへ?」「出掛けて来る。」「お熱がありますね。昨夜無理をなさったから・・」「これ位、何ともない。」ルドルフはそう言ってアルフレートにそっぽを向いたが、彼はルドルフの額にその掌を押し当てたまま、外そうとしなかった。「お休みになって下さい。さもなければ侍医をお呼びして・・」「もういい、わかった!」子供のように頬を膨らませて拗ねたルドルフは、足音荒く私室へと戻っていった。「後でお薬をお持ち致しますね。」「要らない。熱を下げるには、汗を沢山掻けばいいのだろう?」「ル、ルドルフ様?」不意を突かれたアルフレートは、ルドルフにあっという間に寝台の中へと引き摺り込まれてしまった。「いけません・・あっ」「ここが、良いんだな?」「違います・・あ、そこは・・」ルドルフがアルフレートの法衣を脱がし、カソックのボタンを外しながら彼の下肢に触れた時、何かが濡れたような感覚がした事に気づいた。見ると、彼の漆黒のスラックスに血のような染みが広がっていた。「怪我でもしたのか、見せてみろ。」「いけません!」ルドルフはアルフレートが制止する声を無視し、彼のスラックスと下着を剥ぎ取った。するとそこには、男と女、両方の性器が存在していた。「見ないで・・見ないでください。」「逃げるな。わたしに全てを見せろ。」腰を浮かし、自分から逃げようとするアルフレートを、ルドルフは自分の方へと引き寄せ、彼の足を大きく開かせ、仰向けにさせた。「ルドルフ様、あっ、そんな、汚い・・」「お前の血は、甘いな。気が狂いそうだ。」ルドルフはアルフレートの蜜壺を舐め、彼に見せつけるかのように彼の愛液と経血を飲んだ。「これ以上は・・」「もう遅い。」ルドルフはアルフレートの上に覆い被さると、彼の中に挿入った。「はぁぁ・・んっ・・」グチュグチュという水音と共に、ルドルフのモノが己の中を進んでゆくのを感じ、アルフレートは思わず彼の背に爪を立てた。ルドルフの熱は翌日下がったが、今度はアルフレートが熱を出して寝込んでしまった。「すまない、無理をさせたな。」にほんブログ村二次小説ランキング
2024年09月09日
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終戦記念日に放送されたドラマ。79年経ち、戦争の記憶が風化されつつある中、戦争が日常生活を破壊するという描写を、空襲といった悲惨な光景を皆無にして表現するというのは斬新でしたが、それだからこそ田中さんが孤児となり辛い記憶を平和な現代の子ども達に語るのが、胸に迫りました。平和な時代で生まれ、悩みながらも飢餓や空襲の恐怖に怯える日々を送ることなく生きる私たちが、出来ることは何なのかを、観終わって考えてしまいました。
2024年09月09日
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graphics by Little Eden「薄桜鬼」「火宵の月」「天上の愛地上の恋」二次小説です。両性具有·男性妊娠設定ありです、苦手な方はご注意ください。作者様・出版社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。「まぁ、おかしな事をおっしゃるのね。」ヴィクターの言葉を聞いた女は、そう言って笑った。「わたくしが売っているのはハーブです。」「では・・」「女はいつの時代も、己の命を削ってまでも美を手に入れるつもりですわ。」「何だと?」「砒素は、鮮やかな緑を生み出すものですわ。量を間違えてしまうのは、命取りになりかねませんわ。」「何が言いたい?」「ジェニー、これは一体どういうことなの!?」ヴィクターと女が睨み合っていると、店のドアベルが鳴り、中に太った女が入って来た。その顔は、ツィテと同様、醜く腫れ上がっていた。「あらあら、お可哀想に。」「笑い事じゃないわよ!」太った女はそう叫ぶと、ある物をカウンターに叩きつけた。それは、ツィテが口にしたのと同じ茶葉だった。「痩せるって言うから買ったのに、何なのよこれは!」「茶葉には確かに痩せる効果はありますが、個人差があると、ご購入の時にはっきりと説明したでしょう?」「でも・・」「返金なら致します。」女は太った女にそう言うと、金貨が詰まった袋と小瓶を彼女に渡した。「ありがとう。」店から上機嫌な様子で出て行った女をヴィクターが見送ると、女は彼に先程太った女に渡した物と同じ小瓶をカウンターに置いた。「それは?」「あの方の、顔の腫れを治す解毒薬ですわ。これを、ツィテ様に飲まして差し上げて下さいな。」「わかった・・」「またのお越しを、お待ち申し上げておりますわ。」女は不敵な笑みを浮かべると、店の奥へと消えていった。「本当に、これを飲めば腫れが治るのですか?」「はい。」「ありがとうございます、先生。」女の言葉に嘘はなく、彼女から渡された解毒薬を飲んで眠った後、あの酷く腫れ上がった顔はすっかり元に戻っており、ツィテは鏡で己の顔を見た後、思わず安堵の溜息を吐いた。「良うございましたね、お嬢様。」「えぇ。もう怪しいものには手を出さないわ。」「その方がいいでしょう。」「そうか。そのハーブ店の女店主がどうもあやしいな。」「わたしも、そう思います。ルドルフ様、どちらへ?」「少し野暮用へな。」「はぁ・・」ルドルフが言う、“野暮用”とは、すなわち女との密会だ。「お前も来るか?」「いいえ、結構です。」「何だ、つれないな。」ルドルフはそう言うと、そのままヴィクターに背を向けて歩き出した。「お帰りなさい、あなた。」「ただいま。」ヴィクターが帰宅すると、妻のエレーヌが彼を出迎えた。「随分と疲れているわね。」「あぁ、色々とあってね。」「そう。」エレーヌと共に夕食を食べながら、ヴィクターはあのハーブ店の謎めいた女店主の事が寝るまで頭から離れなかった。「最近、吸血鬼騒ぎがこの近辺で起きているのですって。」「へぇ、それは物騒だね。」「何でも、その吸血鬼を見た人間は、その恐ろしさで気が狂ったそうよ。あなたも気をつけてね。」「わかったよ。」吸血鬼なんて、昔のおとぎ話の中にしか登場しないものだと、ヴィクターは“その日”まで信じていた。「じゃぁな。」「あぁ、またな。今夜はお前と久しぶりに会えて良かった。」“その日”、ヴィクターは学生時代の友人と久しぶりに会って楽しく酒を酌み交わした。上機嫌で、少し酒に酔いながらヴィクターが夜の街を歩いていると、路地裏の方から変な“声”が聞こえて来た。(何だ?)耳を澄ませてみると、その“声”は徐々にヴィクターの元へと近づいて来た。(おいおい、嘘だろ・・)すっかり酔いが醒めたヴィクターは、その“声”の主―巷を騒がしている吸血鬼を見て、恐怖の余り失神した。“吸血鬼”が彼の喉元にその鋭い牙を食い込ませようとした時、その首は宙に舞った。「ったく、面倒かけさせやがる・・」そう言って吸血鬼の血で濡れた刃を払った黒髪の女は、舌打ちした後その場から離れようとした。しかしその前に、彼女は銃を背後から突きつけられていた。「動くな。」(厄介だな・・)にほんブログ村二次小説ランキング
2024年09月07日
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graphics by Little Eden「薄桜鬼」「火宵の月」「天上の愛地上の恋」二次小説です。両性具有·男性妊娠設定ありです、苦手な方はご注意ください。作者様・出版社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。―今年に入って三人目ですって・・―恐ろしいわ・・―犯人は吸血鬼なのかしら?「お嬢様、マリー様からお手紙が届きました。」「そこへ置いておいて頂戴。」「はい。」マリーの友人であるツィテは、髪をブラシで梳いた後、彼女が自分に宛てた手紙の封を切った。そこには、また人が死に母が狂っている事などが書かれていた。「お嬢様、客間にお客様が・・」「わかったわ。」親友からの手紙を読み終えたツィテは、自室から出て、階下にある客間へと向かった。そこには、自分の元婚約者であるユリウスの姿があった。「お久しぶりですわね。一方的にわたくしとの婚約を破棄したあなたが、今更わたくしに何のご用かしら?」「ツィテ様、どうか・・」「イザベル、お客様のお帰りよ!」ユリウスはまだ何か言いたそうな顔をしていたが、その前に屋敷から叩き出された。「朝から嫌な気分だわ。」「お嬢様、どちらへ?」「すぐに戻るわ。」ツィテがそう言って屋敷から出ると、“ある場所”へと向かった。「おやお嬢様、いらっしゃいませ。」「“例の物”をお願い。」「かしこまりました。」ハーブ店の店主・ジェニーは、ツィテにそう言って金貨が詰まった袋と引き換えに、“例の物”を取り出した。「どうぞ、これからもご贔屓に。」「ええ。」ツィテは、帰宅した後に、“例の物”をティーポットの中に入れた。「お嬢様、ロザリア様がお見えです。」「わかったわ。エリー、この“お茶”をロザリア様に。」「わかりました。」「あら、どうしたの?辛気臭い顔をして・・」「ロザリア様、お忙しいのに一体何のご用でしょうか?」「あなた、これからどうするつもりなの?」「あなたに、関係ないでしょう?」「大ありよ!あなたが独身だと、わたくしの立場が・・」「お茶、冷めない内にどうぞ。」「ありがとう。」ロザリアは、何の疑いもなくツィテが“例の物”を入れたお茶を飲み干した。「では、また暇があったら来るわね。」「ええ、お待ちしておりますわ。」厄介な客人が去り、ツィテは安堵の溜息を吐いた。「お嬢様、どうかなさいましたか?」「疲れたから、部屋で休んでいるわ。」「はい。」ツィテは自室に入ると、そのまま着替えもせず寝台の中に横になり、そのまま眠ってしまった。「ん・・」彼女が目を覚まして窓の外を見ると、そこは漆黒の闇に包まれていた。一体、自分はどれほど眠っていたのだろう―そんな事を思いながらツィテが乱れた髪を整えようと鏡で自分の顔を見た瞬間、彼女は悲鳴を上げた。「何なの、これ!」「お嬢様、どうされたのですか?」「わたしの顔が~」「ひぃぃ~!」ツィテの顔は、醜く腫れ上がっていた。すぐさま医師が彼女を診察したが、原因が判らず治療のしようがなかった。「ツィテ様、最近何か妙な物を口にされた事はございませんでしたか?」「妙な物・・あのハーブ店で貰った、茶葉しか思いつかないわ。」「それは、今もまだこちらにございますか?」「ええ。」医師は、ツィテから渡された“例の物”が入った茶葉を手に取ると、その臭いを嗅いだ。「この茶葉を、暫く預からせて頂いてよろしいでしょうか?」「えぇ、どうぞ。」医師はツィテから預かった茶葉の成分を調べると、その中には人体に有害な物が含まれている事に気づいた。「ルドルフ様、今よろしいでしょうか?」「ヴィクターか。どうした?」「この茶葉に、微量ですが砒素が含まれていました。どうやら、怪し気なハーブ専門店で、“美容茶”として売り出されているようです。」「そうか。その店の主を調べろ。」「はい。」医師・ヴィクターは、ツィテが“毒茶”を購入したハーブ店へと向かった。「あら、珍しい事。」黒猫を抱いた店主の女は、そう言って蠱惑的な笑みを口元に浮かべた。「いらっしゃいませ。」「貴様か、砒素入りの茶を売ったのは?」にほんブログ村二次小説ランキング
2024年09月07日
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graphics by Little Eden「薄桜鬼」「火宵の月」「天上の愛地上の恋」二次小説です。両性具有·男性妊娠設定ありです、苦手な方はご注意ください。作者様・出版社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。弔いの鐘が、村中にこだました。―またなの?―よく人が死ぬわね。―半年前にも、あそこの大奥様が・・村人達はヒソヒソとそんな話をしながら、仕事に精を出していた。「オリヴィア、何をしているんだい、早くあっちのテーブルに酒を運びな!」「はぁい。」自分をこき使う女将に向かって内心舌を突き出しながら、オリヴィアは狭い店内を忙しく歩き回っていた。まだ昼だというのに、店はそれなりに賑わっていた。娯楽も何もない村では、気心が知れた友人達と酒を飲みながら他愛のない話をするしかないのだ。―なぁ、聞いたか?あそこのお屋敷、また人が死んだらしいぜ。―あそこ、呪われているんじゃねぇか?客達の話を聞きながら、オリヴィアは彼らが高台にあるあの屋敷の事を話している事に気づいた。あの屋敷には、ハプスブルク家と縁がある貴族が住んでいるというのだが、その姿を一度も自分達は見た事がなかった。村人達は彼らが吸血鬼か、魔女などの闇の眷属なのではないかという馬鹿らしい噂が広まっていた。その屋敷では、良く人が死ぬという異常事態が起きているからだろうか、その噂を本気で信じている者達が多い。「オリヴィア、お疲れさん。」「お疲れ様です。」「これ、余ったからやるよ。」「ありがとうございます。」店主のグスタフは、時折店の残り物をオリヴィアに分けてくれる。バスケットの中を覗くと、そこには揚げ立てのドーナツが入っていた。グスタフが作るドーナツは絶品で、幼い弟達がよく喜ぶのだった。「今日は、送っていかなくていいのかい?」「はい。」「そうか。銃は持っているね?」この地域には熊がよく出没する為、村人達はナイフや銃で武装していた。「勿論よ!」「最近、ここらには山賊が出て来るから寄り道せずに帰るんだよ。」「ええ!」店から出たオリヴィアは、宵闇に包まれた街をランプ片手に掲げながら歩いていると、一台の馬車から目にも止まらぬ速さで彼女の前を通り過ぎていった。馬車は、あの屋敷の方角へと消えていった。(一体、何なの?あの屋敷で変な集会でも開いているの?)オリヴィアがそんな事を思いながら家路を急いでいると、その屋敷では故人を偲ぶ会が開かれていた。「あぁ、また一人死んでしまったわ。この家でもう何人、死んでしまったのかしら?」「お母様・・」「呪われているのよ、この家は!」喪服姿の老婦人は、そう叫ぶと気を失った。陰鬱な集まりが終わった後、マリーはドレッサーの前で結い上げていた髪を解いて溜息を吐いた。「お嬢様、今よろしいでしょうか?」「どうぞ、入って。」「失礼致します。」屋敷の執事長が銀の盆に載った蜜蝋が捺された手紙をマリーに手渡すと、彼女はその封を切った。そこには、流麗な文字で、彼女の幼馴染からお茶会の誘いの旨が書かれていた。(お茶会、ねぇ・・)マリーは下書き用の紙を引っ張り出すと、幼馴染の手紙の返事をそこに書き始めた。“親愛なる、我が愛しの友へ・・”(これで良いわ。)「この手紙を、メアリーの元へ届けて頂戴。」「かしこまりました。」オリヴィア達が住む村から遠く離れたウィーンの歓楽街では、一人の娼婦が殺されていた。彼女は、全身の血を抜かれていた。にほんブログ村二次小説ランキング
2024年09月07日
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短編集でありながら、どの話も読み応えがあって良かったです。
2024年09月07日
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表紙素材は、装丁カフェからお借りしました。「相棒」「名探偵コナン」「火宵の月」の二次創作小説です。作者様・出版社様・出演者様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「杉下さん、ここに居たんですか、随分と捜しましたよ!」そう言いながら息を切らして杉下右京の元へとやって来たのは、彼の部下である神戸尊だった。二人は、米花町の外れにある神社に居た。そこの宮司が、何者かによって殺害されたのだが、全身に獣に噛まれたような痕があり、“狗神の祟り”だと、周辺の住民が騒いでいるという。「“狗神の祟り”ねぇ・・今時、“祟り”なんて存在するんでしょうかね?」「するかもしれませんよ。今でも都市伝説がネット上に溢れているじゃありませんか。」「はは、そうですね・・」(あ~、また始まったよ・・)尊は、右京が大のオカルト好きである事を忘れていた。「さぁ、あそこですよ。」「はいはい、わかりましたよ・・」事件現場となった神社の境内へと二人が向かうと、そこには野次馬と鑑識班が集まっていた。「米沢さん!」「二人共、お久し振りです。お二人と最後に会ったのは、あの村での事件以来ですな。」「えぇ、そうですね。早速遺体を拝見しても?」「こちらです、どうぞ。」境内の近くに張られたブルーシートの中で、右京と尊は宮司の遺体を初めて見た。「死因は撲殺ですね。凶器は鈍器のようなもの。まぁそれは、検死してみなければわかりませんがね。あ、神戸さん、どちらへ?」「少し、外の空気を吸いに・・」尊はそう言うと、口元をハンカチで覆いながら、ブルーシートの中から出て行った。(暫く戻って来ないでしょうね・・)尊はホラー映画や、死体が苦手なのだ。右京が屈んで宮司の遺体を観察していると、確かにその全身には獣の噛み痕のようなものがあった。右京が興味を惹かれたのはそれではなく、遺体が右手に握っている、“何か”だった。「米沢さん、遺体の右手を開いて下さい。」「わかりました。」死後硬直した遺体の右手を傷つけぬよう開いた米沢は、握られていた物を右京に見せた。それは、涙型の紅玉の耳飾りだった。「この紅玉の純度の高さを見ると、高級品のようですね。近年、ダイヤモンドよりも蒼玉やエメラルド、そして紅玉などの所謂“カラーストーン”の方が市場価値が高いと言いますからねぇ。ところで米沢さん、遺体の第一発見者の方はどちらに?」「実は、病院に先程搬送されました。出血が酷く、意識不明の重体だそうです。」「そうですか。だそうですよ、神戸君。」「わかりました・・」尊の運転で、右京は遺体の第一発見者である男が搬送された病院へと向かった。そこには、既に先客が居た。「おやおや、あなたが警視庁のシャーロック・ホームズですか。初めまして、僕は降谷零と申します。」「公安の方がこちらにいらっしゃるという事は、この事件には何らかのテロ組織が絡んでいるのでしょうか?」「それはいくらあなた方でもお教えする事は出来ませんね。」「手厳しいですねぇ。神戸君、主治医の先生に話を聞きに行きましょう。」「はい。」右京と尊は、男の主治医・宮田から話を聞いた。「この耳飾りに、見覚えはありませんか?」「いいえ。ですが、あの人がここに運ばれて来た時、彼は誰かを捜しているようでした。」「誰かを捜しているようだった?」「はい。彼は、“カゲツ”と、女性の名前らしきものを呼んでいて・・恐らく、彼の奥さんの名前だと思います。」「我々の為に時間を割いて下さって、ありがとうございました。何か彼に変化があったら、こちらの方に連絡して下さい。」「わかりました。」米花中央病院から二人が出た時、もう昼の十二時を回っていた。「もうこんな時間ですね。ここら辺でお昼でも食べます?」「そうしましょう。おや、あそこのお店、中々良さそうな雰囲気がしますねぇ。」「そうですか。」二人が、『喫茶・ポアロ』に入ると、金髪碧眼の店員が彼らを出迎えた。「いらっしゃいませ~」「おや、また会えましたね。」「奥のテーブル席へどうぞ。ご注文がお決まりになられたらこちらのベルでお呼び下さい。」「右京さん、どうしたんですか?」「いいえ、何でもありませんよ。」(降谷さんに、似ていると思ったんですがねぇ・・)にほんブログ村二次小説ランキング
2024年09月07日
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「天上の愛地上の恋」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。両性具有·男性妊娠設定あり、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。(一体誰が総帥に毒を・・?)「父上の容態は?」「頑健な方なので、治療の甲斐があって現在は容態が安定しています。一週間もしたら退院できるでしょう。」「ありがとうございました。」ルドルフは父の治療をした医師から説明を受けた後、隣に立っていたアルフレートが突然苦しそうに呻いている事に気づいた。「アルフレート、どうした?」「すいません・・これは・・何でもありません・・大丈夫・・ですから・・」アルフレートは額に脂汗を浮かべながらその場に倒れた。―アルフレート・・誰かに呼ばれたような気がしてアルフレートが辺りを見渡すと、そこには“昔”の幼馴染・ローザの姿があった。「ローザ、どうして・・」―ルドルフ様の手を、今度こそ離しちゃ駄目よ。ローザはそう言うと、アルフレートに微笑んで消えた。「ローザ、待って!」「気が付いたかい、アルフレート?」「あなたは、どうして・・」アルフレートは、自分の前に立っているかつての仇敵の姿を見て驚いた。「わたしはここで医師をしているんだ。それにしても、“ルドルフ皇太子”は相変わらずお前に対して異常なまでに過保護だね。お前が重い生理痛で苦しんでいるだけだと言っているのに、お前は信用できないと言われてね・・」ベルトルト=バーベンブルクは、そう言うと溜息を吐いた。「そう、ですか・・」アルフレートは、生まれつき男と女、両方の性を併せ持っている。初潮を迎え、膨らみ始めた胸を晒しできつく巻いて目立たないようにして戦場に立っていたアルフレートだったが、内腿を伝う生温かい体液とそれに伴う鈍痛だけはどうしても周囲に隠す事は出来なかった。半陰陽として生まれた者は、貴族の慰み者として高値で取引されるか、夜の世界で死ぬまで“商品”として扱われるかの、どちらかの人生しかなかった。しかしアルフレートは養い親が彼の身体の秘密を守ってくれたので、“普通の男性”として生きて来た。戦争が始まるまでは。戦場では半陰陽や女性の兵士が居たが、彼らの多くは前線には立たず、軍上層部の愛人として彼らの寝所に侍るだけの、低い立場に居た。アルフレートは己を守る為護身術を学び、厳しい訓練にも耐えた。しかし、戦場に出た彼は仲間を庇って負傷し、敵の捕虜になってしまった。そこで―敵軍の収容所で彼を待っていたものは、終わりなき悪夢と屈辱の日々だった。「アルフレート、大丈夫か?」「はい・・」「痛み止めを一週間分出しておくから、ちゃんと飲んでおくんだよ。」バーベンブルクはそう言った後、診察室から出て行った。「ルドルフ様、心配をお掛けしてしまって申し訳ありません。」「謝るな。」病院からハプスブルク邸へと帰る車の中で、ルドルフとアルフレートの間に気まずい空気が流れた。「バーベンブルクとお前は、一体どんな関係なんだ?」「彼は軍医で、わたしが敵軍の収容所から救出された時にわたしを診察してくれただけです。」「そうか。」「ルドルフ様、わたしは・・」「もう生理痛は酷くないか?」「はい。さっき痛み止めの薬を飲みましたから、少しはマシになりました。」「そうか。余り無理をするなよ。」「はい・・」その日の夜、アルフレートは中々眠れずに部屋から出て音楽室へと向かおうとした時、ルドルフの部屋のドアの隙間から灯りが漏れている事に気づいた。(ルドルフ様、こんな時間まで何を・・)「そうか、ありがとう、遅くまで済まなかったな。」どうやら、彼は仕事をしていたらしい。「ルドルフ様、入ってもよろしいでしょうか?」「入れ。」「失礼します。」アルフレートがルドルフの部屋に入ると、机の上には仕事の資料が広げられていた。「こんな夜遅くまで、お仕事ですか?」「あぁ。最近、プラハの方で労働環境の改善を求めるストライキの所為で工事が遅れているらしい。近々、プラハへ行かなければならないな。」「そうですか・・」「一緒に来ないか?」「え?」「別にいいだろう。」「は、はい・・」アルフレートは、ルドルフと共にプラハへ向かう事になった。「あの、ルドルフ様、本当にいいのですか?」「いいに決まっているだろう。」旅行客でごった返しているウィーン中央駅で、ルドルフはそう言いながらアルフレートと逸れぬよう、彼と手を繋いだ。「ルドルフ様!?」“昔”と同じように、ルドルフは今も世界的に有名な財閥の御曹司で、有名人だ。そんな彼が、同性である自分と手を繋いでいる所をマスコミに見られてでもしたら・・「アルフレート?」「ルドルフ様、わたしは・・」「周りの目など、気にするな。」プラハに着いた二人は、ルドルフが購入した邸宅でプラハ滞在中に過ごす事になった。「ルドルフ様、この邸は・・」「お前を暮らす筈だった新居だ。」「そ、そうですか・・」「お前、何故顔を赤くしている?」「え・・あの・・シャワー浴びて来ますっ!」アルフレートはそう言うと、浴室へと入って行った。(何で、今更緊張するんだろう・・)アルフレートがシャワーを浴びている間、ルドルフは彼のシャンパンに睡眠薬を入れていた。彼は、病院でバーベンブルクと交わした会話の事を思い出していた。“半陰陽ならば、アルフレートは子供を産めるのか?”“ええ。”“そうか・・”「ルドルフ様?」「シャンパン、飲むか?」「はい。」アルフレートを永遠に自分のものにする為には、どうすれば良いのかルドルフは考え、ある結論に達した。それは―にほんブログ村二次小説ランキング
2024年09月06日
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「天上の愛地上の恋」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。両性具有·男性妊娠設定あり、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。性描写が含まれます、苦手な方はご注意ください。「実は・・」アルフレートはカロルスに、ルドルフの出張に秘書として同行する事になったと報告すると、彼はこう言って来た。『そうか。では、お前はその息子を一週間の間、骨抜きにするんだ。父親の方はガードが堅そうだから、息子を先に陥落すんだ、いいね?』「はい・・」『アルフレート、お前には期待しているよ。わたしを失望させないでくれ。』「わかりました・・」カロルスとの通話を終えた後、アルフレートが深い溜息を吐いてトイレの個室から出ようとした時、誰かに口を塞がれ、別の個室へと引き摺り込まれた。「少し様子がおかしいと思ったら、そういう事か。」「ルドルフ様・・」アルフレートが振り向くと、そこにはルドルフの姿があった。「わたしに近づいて来る人間は、大抵裏がある。まぁ、予想はしていたが、お前が父上の命を狙う刺客だったとはね。」「わたしを、殺しますか?」「いいや。ここで、お前がどんな立場なのかを思い知らせてやる。」「いや・・」アルフレートから逃げようとすると、ルドルフは彼の腕を掴んで自分の方へと引き寄せた。噛みつくかのような荒々しいキスをされ、アルフレートの身体は何故か反応してしまった。(こんなの・・変・・)「力を抜け。」ルドルフの手が自分のスラックスのチャックとベルトにかかったのを見たアルフレートは身を捩って暴れたが、無駄だった。暫くすると、自分の中にルドルフのモノが入って来るのをアルフレートは感じ、思わず呻いた。戦場に居た頃、こんなものよりももっと酷い事をされた。(何も考えるな。)アルフレートが只管ルドルフの責めに耐えていると、何も反応しない彼にルドルフは苛立ったのか、アルフレートの奥をしつこく責め立てた。「うあっ!」ゴリ、と、内臓を激しく圧迫するかのような感覚と共に、激しい快感がアルフレートを襲った。「ここが、いいのか?」「そんな事は・・あぁっ!」「こんなにわたしのものを締め付けてくるのに、素直じゃないな。これでどうだ?」ルドルフはアルフレートと身体を繋げたまま身体を反転させ、彼を奥深く貫いた。「これでお前はわたしのものだ。」そう言って自分の耳元で囁いたルドルフの言葉を聞いたアルフレートは、意識を失って倒れた。―裏切り者!ルドルフがアルフレートを酷く抱いたのは、彼がプラハに戻る前夜の事だった。アルフレートが自分を凌辱し、オーストリアの国家転覆を企む仇敵・ベルトルト=バーベンブルクを庇い、自分を裏切ったから、ルドルフは彼を犯した。そして―「ん・・」アルフレートが目を覚ますと、そこは見慣れぬ部屋のベッドの上だった。「気が付いたか?」「ここは・・」「わたしが贔屓にしているホテルのスイートルームだ。お前を苛め過ぎたから、ここへわたしがお前を連れて来た。」「ありがとうございます。もう大丈夫なので・・」「勝手な真似は許さない。お前はわたしと日本へ行くんだ。」―勝手な真似は許さないよ。君は僕とウィーンへ行くんだ。「わかりました・・」数日後、アルフレートはルドルフと共に日本へと向かった。日本に滞在している間、アルフレートは商談とパーティーの時以外は、ルドルフに抱かれた。「お願い、あぁ・・」「わたしを、裏切るな・・」「ルドルフ様?」自分の頬が濡れている事に気づき、アルフレートがルドルフを見ると、彼は蒼い瞳から真珠のような涙を流していた。―あいつは一度死んじまった、お前がウィーンを去った時からな。アルフレートの脳裏に、ヨハン=サルヴァトールの言葉が甦った。「わたしを裏切るな、わたしを置いていくな、わたしを独りにするな・・」(嗚呼、やっと言えた・・) アルフレートを“あの時”、己の誇りと気位の高さ故に引き留められなかった。長い時を経て、漸くルドルフは“あの時”言えなかった言葉をアルフレートに伝える事が出来た。「大丈夫ですよ、わたしは何処にも行きませんから。」「離れるな・・絶対に離さないから。」まるで、二人は獣のように互いの身体を貪り合い、互いに果てた時には空が白み始めていた。「ルドルフ様、起きて下さい。」「おはよう、アルフレート。」「コーヒーです、どうぞ。」アルフレートからコーヒーを受け取ったルドルフはそれを一口飲んだ。「ルドルフ様、ひとつお聞きしたい事があるのですが・・」「何だ?」「ルドルフ様には、前世の記憶というものを信じますか?」「前世の記憶?」「はい。オカルトめいたものかもしれませんが、昔―自分が生まれる前の記憶を持っている人が居るんです。すいません、変な事を言ってしまって・・」「いや、謝らなくていい。わたしにはそういったものではっきりとしたものはないが、お前に会ってから最近変な夢を見るようになった。」「変な夢?」「お前と瓜二つの顔をした司祭が出て来た。」「そう、ですか・・」「その司祭は、何処か嬉しそうな顔をして、“あなたは、幸せなのですね”と、わたしに言うんだ。その夢を見た後、いつもわたしは泣いているんだ。どうしてなのか、わからない・・」(ルドルフ様は、まだ全ての記憶を思い出されていない。)「わからない事は、わからないままでいいのですよ。」「そうか・・」「まだ時間がありますから、寝ましょう。」「あぁ・・」ルドルフの背を、アルフレートはまるで幼子をあやすかのように優しく叩くと、眠りに落ちた。翌朝、二人がホテルを出てタクシーで空港へと向かっていると、ルドルフのスマートフォンが鳴った。「もしもし、わたしだ。父上が、倒れた!?」(総帥が倒れられたなんて、どうして・・)ウィーンに着いた二人は、フランツが集中治療室に入っている事を知った。「どうやら、飲物に何らかの毒物が混入されたようです。」「毒物?」にほんブログ村二次小説ランキング
2024年09月05日
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※BGMと共にお楽しみください。「火宵の月」「天上の愛地上の恋」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。両性具有·男性妊娠設定ありです、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。「皇太子様だ!」「な、何と・・」「陛下、すぐに皇太子様をお止め致しませんと・・」「よい、あの子の好きにさせてやれ。」オーストリア=ハンガリー帝国皇帝フランツ=カール=ヨーゼフは、次々と犬を射っては他の選手達を圧倒してゆく息子の姿をロイヤルボックスから見ていた。有匡はそんなルドルフの姿を見ながら、他の選手達と犬達の動きに注意していた。(こちらが今二点・・あちらが四点・・逆転するには、向こうに居る三人の頭と首を狙わねば・・)有匡が鏑矢を番えてルドルフの後方に居る二人の選手達に向かって鏑矢を放つと、鏑矢はそれぞれの首と頭に当たり、鏑矢が当たった選手達は戦線離脱した。(よし!)残りは後一人―有匡がそんな事を思っていると、風を切る音と共に、有匡の首めがけて鏑矢が飛んで来たので、彼は咄嗟に右腕でその鏑矢を払った。するとすぐ傍であからさまな舌打ちが聞こえたので、有匡が周囲を見渡すと、ルドルフと視線がぶつかった。ルドルフは、すぐに有匡から視線を外し、残っていた選手の頭を射った。(これで、五対四か。一発逆転するには、どちらかが頭や首を射つしかない。)有匡がそんな事を思いながら馬を走らせていると、ルドルフがわざと馬をぶつけて来た。(この・・)馬をぶつけられた衝撃でバランスを崩し落馬しそうになったが、何とか体勢を立て直し、勝ち誇っているルドルフの喉元に有匡は鏑矢を射ち込んだ。虚を突かれ、怒りに滾ったルドルフは、有匡の死角に入った。(このままで済まさんという事か。五対五でわたしと彼がどうやって決着をつけるのかを皆固唾を呑んで見守っているから、下手に動けんな・・)有匡がそんな事を思いながら周囲を見渡していると、甲高い乳幼児特有の泣き声と、犬が吠えるような声が聞こえた。いつの間に入り込んでしまったのか、五歳位の女児が泣き叫びながら涎を垂らしている犬から逃げていた。(一か八か、やるしかない!)有匡は大きく深呼吸をすると、鏑矢を番え空に向かってそれを放った。鏑矢は放物線を描いて女児に襲い掛かろうとしていた犬に当たった。有匡は泣き喚く女児を馬上から抱き上げ、母親の元へと帰した。「先生、お疲れ様でした。」「全く、面倒な事に巻き込まれたな。さっさと帰るぞ。」「はい。」天幕の中で有匡が武家装束から私服へと着替えていると、そこへエリザベート付の女官が入って来た。「皇妃様がお呼びです、すぐに来なさい。」「はい・・」どうやらエリザベートは有匡と火月を気に入ったらしく、ウィーンに工房と住居を移すよう二人に言って来た。「お言葉ですが皇妃様、わたし達は都会よりも、田舎暮らしの方が性に合っていますので・・」「あら、あなたの刺繍の腕を田舎で埋もれさせるには勿体ないわ。」「ですが・・」「あなた達もそう思うでしょう?」エリザベートはそう言うと、女官達を見た。「え、えぇ・・」「皇妃様の仰る通りですわ。」女官達は互いに目配せし合いながら、エリザベートの言葉に賛同するしかなかった。「ルドルフ、あなたはどう思って?」「わたしも母上に賛成致します。それに、わたしもあなたに興味が湧いた。もっとあなたの事を知りたいです。」「は、はぁ・・」(最初から、わたし達には拒否権はないという事か・・)「謹んで、お受け致します。わたくしのような身分卑しきものに目をかけて下さり、有り難き幸せにございます。」こうして、有匡と火月は住み慣れたバイエルンの片田舎を離れ、ウィーンで暮らす事になった。「ねぇ火月ちゃん、顔色悪いんじゃない?」「え、そうかな?」引っ越しの準備に追われる中、火月は手伝いに来ていたパン屋のおかみさんからそう言われ、鏡で己の顔を見ると、そこには蒼褪めた顔をした女の顔が映っていた。最近、立ち眩みがしたり、身体の怠さを感じたりするのは、夏の暑さの所為だと思っていた。「ねぇ、あんたもしかして妊娠しているんじゃないの?」「え・・」「あたしの知り合いに腕の良い産婆が居るから、一度診て貰った方がいいよ。」「はい、そうします。」火月はパン屋のおかみさんから紹介された産婆に診て貰うと、妊娠三ヶ月だという事がわかった。「確かか?」「はい。すいません、こんな時に。」「謝るな。これから、忙しくなるな。」「はい・・」ウィーンへと移り住んだ有匡は、身重の火月の為に仕事に励んだ。「それにしても、今こうして先生と幸せに笑って生きているのが嘘みたいですね。」「あぁ、そうだな・・」有匡が火月とそんな事を話していると、外のノッカーが誰かに叩かれる音がした。「わたしが出る。」有匡が居間から出て玄関ホールへと向かい、用心深くドアを開けると、そこにはオーストリア=ハンガリー帝国の軍服を着た男が立っていた。「皇太子殿下が、お二人に王宮へ来るようにとの仰せです。」「わかりました、すぐに参ります。」有匡と火月がホーフブルク宮殿へと向かうと、馬車から降りた二人をルドルフの侍従・ロシェクがスイス宮へと案内してくれた。「皇太子様、火急の用とは、一体何でしょうか?」「実は、このような物をイシダから預かったのだ。」ルドルフがそう言って二人に見せた物は、一振りの刀と脇差、そして懐剣だった。「これは四年前の万博の際、日本が出品した物だそうだが・・何か心当たりはあるか?」「はい。この脇差と刀は、わたしの亡き父の物でした。そしてこの懐剣は、妻に婚儀の証として贈る筈のものでした。長らく戦の混乱で所在不明となっていましたが、こうして手元に戻って来てくれた事を、嬉しく思っています。」「戦?イシダから、自分達の国は八年前に大規模な内戦が起きたと聞いているが・・」「その戦で、わたしと妻はそれぞれ家族を亡くしました。父は逆賊の汚名を着せられるのを良しとせず、自害して果てました。」有匡はそう言って言葉を切った後、涙を堪えた。彼の隣に座っていた火月は、そんな夫の姿を見て、そっと彼の背を優しく擦った。「申し訳ありません、夫の代わりに僕がお話致します。」火月はそう言うと、深呼吸して有匡と彼の父・有仁と初めて会った日の事を話した。「夫と僕は、それぞれ異人との混血児として生まれました。幼い頃、金髪紅眼という人とは違う容姿の所為で僕は苛められていました。その日も、近所の子供達から石を投げられて泣いていました。そこを、夫と義父が通りかかって助けてくれたのです。」火月は今でも、有匡と有仁に出会った時の事を憶えている。化猫、鬼の子と罵られ、石を投げつけられて泣いていた時、丁度出稽古先から帰宅途中の二人に助けられたのだった。「義父は、蘭方医としても学者としても、人としても立派な方でした。義父と夫は、僕の事を一人の人間として接してくれました。その時僕が六歳、夫が十八歳の時でした。」「え、ちょっと待ってください。という事は、お二人は今お幾つなのですか?」火月の話をルドルフの隣で聞いていたアルフレートは、そう二人に尋ねると、有匡は苦笑しながらこう答えた。「わたしが三十七、妻が二十五となります。年が十二も離れているので、最初妻の事を実の妹のようにしか思っていませんでした。妻と再会したのは、わたしが彼女の姉と見合いをした時でした。」火月には、腹違いの兄と姉が居り、その姉・美代と年が近い有匡との間に縁談がまとまるのはごく自然の流れだった。気立てが良く、美しい美代と初めて会った有匡が他愛のない会話をしていると、隣室に控えていた火月が乳母の制止を振り切って二人が居る部屋へと乱入し、こう叫んだ。「僕が、先生のお嫁さんになるの!」突然の火月の告白に、その場に居た者達は皆目を丸くしたという。「その時、わたしは彼女の言葉をただの子供の戯言と思っていたのですが、彼女のわたしに対する想いが真剣なものだと気づいたのは、わたしが二十二、妻が十を迎えた頃でした。」1862(文久二)年、会津藩主・松平容保は幕府から京都守護職を任命され、有匡や火月の異母兄・静馬をはじめとする藩士達と共に上洛する事になった。「僕も行きます!」「我儘を言うな。」「そうだぞ火月、何故待てない?」「だって、このまま先生と別れたら、一生会えない気がして・・」そう言って泣きじゃくる火月に根負けし、二人は彼女を京へ連れてゆく事にした。会津から京への長旅は、十を迎えたばかりの火月にとって過酷な旅だったが、彼女は弱音ひとつ吐かなかった。「京での日々は、色々と辛い事が多かったですが、楽しい事の方が多かったです。」流石に男ばかりの場所に火月は置いてはいけないので、有匡は有仁の知人に火月を預かって欲しいと頼んだ。京は、当時幕府要人の暗殺や“天誅”などと称した過激派浪士達の闇討ちなどが横行していたが、有匡達や江戸からやって来た壬生浪士組こと新選組が過激派浪士達を取り締まった。1864(元治元)年、新選組がその名を全国に轟かせた“池田屋事件”から一月後、長州藩が挙兵し、会津・桑名・薩摩藩と新選組が長州藩を迎え討った。会津・桑名藩兵と長州藩兵が衝突し、長州藩が御所に発砲し、会津・桑名両藩は劣勢に立たされたが、薩摩藩の援軍によって形勢が逆転し長州藩に勝利した。「戦闘は一日で終わりましたが、その後の長州勢の放火や残党狩りの為に会津・桑名が放火した所為で、京の街は炎に包まれました。わたし達に待っていたものは、全てをなくした人々からの怨嗟と憎悪の誹りでした。」有匡はそう言った後、喉を潤す為に紅茶を一口飲んだ。「それまで、わたしは京の治安を守る事に誇りを持っていました。しかし、焼け野原となった京の街を見た時、己の中の正義とは何なのかを考えてしまいました。」「その時、火月さんは何処に?」「義父の知人の計らいで、大坂に避難しておりました。」“禁門の変”と呼ばれたその戦から数月後、二人は再会した。「暫くは穏やかな日々を送っていました。三年後、幕府が倒れるまでは。」1867(慶応三)年十月十四日、徳川慶喜が鎌倉の世から約七百年握っていた政権を明治天皇に返上する、“大政奉還”が起きた。「その日から、足元の薄氷が音を立てて崩れてゆくような気がしました。」有匡がそう言った時、誰かがルドルフの執務室のドアをノックする音が聞こえた。にほんブログ村二次小説ランキング
2024年09月05日
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表紙は、てんぱる様からお借りしました。「天上の愛地上の恋」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。「はぁ、もう朝か・・」アルフレート=フェリックスは、痛む腰を擦りながら、主を起こさぬようそっと彼の寝室から出て、その隣にある自室に入った。アルフレートは、ハプスブルク公爵家の執事をしている。通常、彼のような上級使用人は個室が与えられているが、それは地下の使用人部屋にあった。しかし、アルフレートは“坊ちゃんのお気に入り”という理由で公爵家の家族が住む上階と同じ部屋に住んでいた。「おはよう、アルフレートさん。」「おはようございます、フランクさん。」身支度を済ませたアルフレートが、燕尾服の裾をなびかせながら厨房へと入ると、料理長のフランクがエッグベネディクトを作っていた。「今朝は来るのが遅かったですね?」「坊ちゃんが、一晩中離して下さらなかったので・・」「そ、そいつは大変でしたね・・」何かを察したフランクは、そう言うと完成したエッグベネディクトを皿の上に器用に載せた。「後はわたしがやっておきます。」「はい、わかりました。」アルフレートは、公爵家の者達が食べるエッグベネディクトの皿をワゴンに載せ、彼らが集まるダイニングへと向かった。「おはようございます、奥様、旦那様。」「おはよう、アルフレート。ルドルフはまだ部屋に居るの?」「はい。昨夜は遅くまでレポートに取り掛かっておられたので・・」「まぁ、勉強熱心なのはいい事だけど、無理は禁物よ。」ハプスブルク公爵夫人・エリザベートは、そう言うと紅茶を一口飲んだ。「アルフレート、わたしはもう出掛けなくてはいけないから、ルドルフの事を宜しくね。」「はい、奥様、いってらっしゃいませ。」「では、わたしもそろそろ出なくてはいけないな。」「旦那様、いってらっしゃいませ。」ハプスブルク公爵フランツ=カール=ヨーゼフを玄関ホールまで見送った後、アルフレートは懐中時計を見ながら、再び二階の主の部屋へと向かった。「坊ちゃん、起きて下さい。」アルフレートがそう言いながら再び主の寝室に入ると、その主であるルドルフ=フランツ=カール=ヨーゼフ=フォン=ハプスブルクは、寝台の中でまだ眠っていた。「いい加減起きて下さい。もう奥様も旦那様もお仕事に行かれましたよ。そろそろ坊ちゃんも・・」アルフレートが痺れを切らしてルドルフを揺り起こそうとすると、シーツに包まっていたルドルフがアルフレートの腕を掴んで彼をシーツの海の中へと引き摺り込んだ。 彼は、生まれたままの姿だった。「まだ、起きたくない。」「いけません。早くお召し替えを。」「お前がキスをしてくれたら起きる。」「もぅ・・」アルフレートは溜息を吐きながら、ルドルフの額にキスをした。だが、ルドルフは少し拗ねたような顔をしてアルフレートにこう言った。「そんなのじゃ足りない。」ルドルフはアルフレートの唇を塞ぐと、彼の口内を舌で犯した。「んっ・・」互いの唾液を絡ませ合いながらルドルフとキスをしたアルフレートは、彼の元気になった下半身を見て絶句した。「これじゃ、いつまで経っても起きられないな。」ルドルフはそう言った後、ニヤニヤと笑った。「すいません、遅れましたっ!」「さっき始まったばかりだから、大丈夫だよ。」あの後、アルフレートはルドルフに抱かれ、大学の講義に遅刻してしまった。「アルフレート、今日は遅かったじゃないか?」「坊ちゃんが、わたしが出掛ける時に酷く愚図ってしまって・・」「あらら、それは大変だね。」昼休み、アルフレートは大学のカフェテリアでサンドイッチを食べながら、朝起きた事を友人のテオドールに愚痴った。「今朝は、“キスしてくれたら起きる”とおっしゃるから、額にキスをして・・」「でも結局、それだけじゃ済まなかったんだ?」「う、うん・・」「惚気話、ご馳走様。」「あ、いたいた!アルフレート、急な話で悪いだけどさ、今日の飲み会に来てくれないか?」「え・・」「頼むよ~」ひょんな事からアルフレートは、メンバーが足りないからという理由で普段交流が無いグループの飲み会に参加する羽目になってしまった。(あ、こんな時間だ・・)「どうしたの、さっきから時計ばかり見て?」「わたし、そろそろ帰ります、坊っちゃんに夜食を作らなくてはいけないので・・」「そんな我儘坊っちゃん、放っとけばいいじゃん~!」「ですが・・」アルフレートがバーから出ようとした時、店に一人の青年が入って来た。恐らく背が高いその彼は、金褐色の髪を揺らし、凍てついた冬の海のような蒼い瞳で周囲を見渡した後、アルフレートの存在に気づくと、公衆の面前であるにも関わらず彼の唇を塞いだ。「ル、ルド・・」「帰るぞ。」突然の事に呆然としている男達に向かって男―ルドルフは薄笑いを浮かべた後、アルフレートをトイレへと連れ込んだ。「壁に手をついて後ろを向け。」にほんブログ村二次小説ランキング
2024年09月05日
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暗殺されたエリザベートが、二度目の人生を生きることに。ご都合主義といえばそうなのですが、史実を知っているだけにこういった歴史改変ものは好きです。一番感動したのは、ルドルフ様がマイヤーリンクで死なず、皇帝になったことでしょうか。ルドルフ様が生きていたら世界が大きく変わったかもしれません。Amazonや楽天のレビューは辛口ばかりでしたが、わたし個人としては面白かったです。
2024年09月02日
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ヴィクトリア朝京都を舞台にしたシャーロックホームズとワトソンの物語。面白かったのですが、最後まで設定がわかりづらかったです。
2024年09月01日
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