Der Nakajistil
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気がつけば、前回ここに日記を書いて2年以上がたつ。世の中色々変わっているけど…僕のまわりの環境はまったく変わっていない。同じ町で、同じ職場で、同じ仕事をしている。そんな中で最近よく思うのは、俗に「完成された楽器の王」と言われるピアノでも、いまだにストラディバリに匹敵する楽器が存在しないということである。その要因のひとつは、ピアノの打弦機構という仕組みのもつ宿命的な限界のためである。それはどういうことかと言えば、弦の振動とはそもそも、何かしらの衝撃、ピアノで言えばハンマーが弦を打つショックがきっかけとなる。ただ、その時点ではまだ「音」にはならない。その衝撃の波が弦の両端に走り、そこから帰ってきて両方の波がぶつかる。その時の波同士の干渉が弦の振動となるのである。そして、最初の衝撃から帰ってきてぶつかり合うまでの時間が長ければ長いほど振動数が低くなる。つまり、音程が低くなるということである。反対に、音程が高くなればなるほど、衝撃から干渉までの時間が短くなる。ここでピアノという楽器の短所が出てくる。ハンマーが弦を打つということは、ある程度接触している時間があるということだが、音程がある高さになると、波同士の干渉が起こる時点でまだハンマーが弦に接触した状態なのである。つまり、高音になると、ハンマー自身が弱音器として機能してしまうわけである。中・低音と同じように高音を作ると必然的に弱い音になる。だからといってハンマーを無理に硬くしたりすると、金属的な不快な音色になる。残念ながら現代の技術をもってしては根本的にはこの問題は解決していない。なので、各メーカーは色々な工夫をしている。たとえば、鳴らす弦のほかにもう一本共鳴用の弦を設置したり、金属フレームを工夫して高次倍音がよく鳴るようにする…などである。多くのメーカーのピアノでは高音になると、1本の弦の中に振動部分の他に共鳴部分を作っている。しかし、これらはすべて苦肉の策という領域を越えていない。整音の場合は、顧客の要望に応じて音を作り分けている。パワーを求める人には、若干音色が歪んでも音量を重視して作り、プロなど技量のある人にはやわらかめに作って、フォルティッシモは弾き手の技量にゆだねるという具合である。ヴァイオリンの場合はストラディバリ、グァルネリ・デル・ジェスと言った完璧な名器が存在する。もちろん、天才的な名人が存在したことも確かだが、擦弦楽器は演奏そのものは難しくても、上記のような、打弦楽器のもつ限界がない。「わが社はピアノのストラディバリ」と謳うメーカーは少なくない。僕は職業柄、名器と呼ばれる多くのピアノを試してきたが残念ながらストラディバリに匹敵するとは言いがたい。もし、そのような楽器が登場するとすれば…それはストラディバリやグァルネリより数倍才能を持つ楽器職人によらなければならないだろう。また、「完成された」と言われるピアノにおいてもまだそのような余地があるのは…楽器職人にとっては夢であり、ロマンでもある。
2008.10.09
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