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第4土曜日も由美子は悠介の部屋を訪ねて来た。約束の日にちである。何をするでもなく性に溺れて過ごした。そして2月の初旬、矢代美恵子とその旦那になる金子義明との会食になった。元愛人の彼氏に会いたくないし、何を話したら良いのか分からない。しかし美恵子の結婚式に参加する人が少なく義明側とのバランスが極端に悪いので、披露宴には是非参加して欲しいと言われて止む無く了承した経緯がある。式の前に顔合わせをしたいと言う趣旨である。
場所は都内の洒落たフランス料理店である。悠介はこのようなレストランは初めてであり緊張した。椅子のそばにいくとウェイターが椅子を引いて座りやすいようにしてくれた。テーブルにはフォークとスプーンそしてナイフが並べられている。どうやって食べたらいいのか益々緊張して来た。
「初めまして、金子義明です。よろしく。」
端正な顔立ちで背も高い義明が挨拶した。背の低い悠介は圧倒される思いである。義明が手を差し伸べて来たので、
「寺本悠介です。美恵子さんにはお世話になりました。」と挨拶した。義明の手は大きく温かかった。美恵子は微笑みながら二人を見ている。
椅子に座ったら、義明が飲み物は何にするか聞いて来た。悠介はビール位しか飲んでいないので、何を頼んで良いかさっぱり分からない。格好を付けても仕方ないので、こう言うレストランは初めてなので何を頼んで良いか分からない、と正直に告げた。
「アルコールは大丈夫でしたね? それでは、食前酒はシャンパンにしましょう。アルコールは強くないし、飲み易いですよ。」
「はい、お願いします。」
ほどなくして、ウェイターが来てグラスにシャンパンを注いだ。
義明がグラスを持ち上げたので悠介も真似た。
「では、今後ともよろしく、乾杯!」
「結婚おめでとうございます! 乾杯!」
「結婚式はまだ先だけど、ありがとう。」
「爽やかな味ですね?」
「そうですか? これはシャルドネと言う白葡萄から作ったものなのですよ。」
義明は酒類に関しても詳しそうである。シャンパンを飲みながらメニューを見て料理を注文している。悠介は全てお任せである。美恵子も頼り切ったように義明に任せている。ビーフと言っていたので牛肉も頼んだと分かった。
前菜はすぐ運ばれて来た。前菜を食べながら義明が仕事の説明をしてくれた。海外からの仕入れを担当していて海外出張も多いそうである。英語も堪能である。何を比較しても悠介は敵いそうもない。家柄も教育もスマートさも、そしてお金持ちである。将来は大手スーパーの社長の座が約束されている。しかし、悠介は美恵子がセックスは悠介の方が断然良いと言われた事を思いだした。良い所だらけの義明であるがセックスでは悠介に負けているのである。
その事を思い出して、負け犬のようにいじけている必要はないと思った。それにまだ就職もしていない。就職して経験を積めば義明のように話題も豊富になり物おじせず何でも対応出来るようになれるであろうと願った。今の悠介では全く対抗できない。対抗すべき相手でもないのであるが何故か心の底に対抗心があるのであった。自分の女性を取られたとの思いがあるからであろうか?
美恵子は微笑みながら料理を楽しんでいる。本当にいい人と巡り合い、良い家に嫁入りするものだと今更ながらお祝いを言いたくなる。
料理は次ぎ次と運ばれてくる。飲み物はワインに代わった。飲み易いのでついつい飲み過ぎているようだ。ビールより強い。飲み過ぎると記憶を失う過去があり自己警報がなり出している。聞かれるまま就職先も話した。会社名も知っていた。大企業ではないが業績は好調で将来性もあると言われ良い気分となった。酔って来たので緊張もほぐれ料理の美味しさを堪能している。こう言う所での食事も良いなー、と思った。デザートも出て食後のコーヒーも飲んだ。会計は義明が支払ってくれた。全てがスマートな義明であった。
恵美子の幸せそうな姿に悠介も嬉しく思う。立場が変わっただけで美恵子に風格が出たように見える。もう既に若奧様然としている。女は凄いなーと思う。自分の身体の下で喜びの声をあげていた美恵子とは思えない。変わり身の早さには驚きである。これから結婚して子を産み社長夫人として幸せな一生が約束されているのでる。心も安定するであろう。悠介はその幸せを決して邪魔をしてはならないと思う。やりたくなるであろうがそれは我慢せねばならないと自分に言い聞かせているのであった。
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