チビ傘暮らし ―はじまりの詩が聴こえる。―

チビ傘暮らし ―はじまりの詩が聴こえる。―

PR

×

Profile

チビ傘

チビ傘

Freepage List

2005.03.07
XML
カテゴリ: エンタメ
 江戸時代のお話。(なのに、イメージフォトが「シーバス」とは、これいかに(笑)?)


 とある藩では、酒癖の悪い家臣が二人、酔いに任せて大喧嘩になり、腰に下げた真剣を抜いての大立ち回りの果て、双方が命を落とすという事件が起きた。

 生来、生真面目な殿様は、たいそうこの一件に心を痛め、けじめの意味を込めて「禁酒令」を緊急発動し、以降一切、藩屋敷内での飲酒行為を禁じてしまったのだ。

 ばかりか、通用門の脇に「禁酒番屋」まで設け、さまざまな出入り業者が屋敷内へ持ち込む、そのすべてのブツについて、一つ一つ、厳重に取り調べることとあいなった。

 ここで「ううむ」と唸ってしまったのが、藩一番の酒豪を自他ともに認める、近藤という家臣だ。三度の飯より大好きな酒が、「禁酒令」ごときで止められるものなら苦労はない。

 さっそく馴染みの酒屋の主人を呼びつけ、恫喝し、「どんなことをしてでも、酒を俺のところまで運んでこい!!」と命じる。

 困り果てたのは酒屋の方だ。そりゃ近藤は大のお得意様だから、出来ることなら酒を持って行ってあげたい。でも「番屋」がある以上、屋敷の手前で追い返されるのがオチだ。

「ううむ……どうしたものかなぁ?」

 酒屋の主人までが唸ってしまう始末。店の若い衆にも知恵を借り、「番屋」の目をあざむく方便として、菓子屋になりすまし、南蛮渡来のカステーラの箱の下に、一升酒をうまく隠して持っていくことに……。


(酒屋の)若い衆「表通りにこのたび店を開きました、菓子屋にございます。こちらのお屋敷の、近藤様よりご注文の品、お届けにあがりました次第です」
門番1「なに? 近藤氏(うじ)に?」
門番2「しかして、その中身は?」
若い衆「え、あ……そ、それが……カ、カステーラで」

 極度の緊張のために、ついどもってしまうのを見て、門番二人は、即座に「怪しい!!」と気付いてしまった。だいいち、大の酒飲みの近藤が、甘ったるいカステーラを頬張る光景など、ゆめゆめ思い浮かばない。

 さっそく箱の中身を吟味すると、なんと、本物のカステーラだ。

若い衆「(ホッとして)ですから私は、何度も申し上げたではありませぬか。近藤様が、ご進物用にと、カステーラを御所望なされて」
門番1「そうじゃったな。悪く思うな。これも職務なのじゃ。その方を疑いたくて疑ったわけではない。許せ」
若い衆「いえいえ、わかっていただければ良いのです。では、これでもう、お屋敷の中に通していただけるので?」
門番2「ふむ。要らぬ手間を取らせて悪かったのぉ、菓子屋。ここを通ってよいぞ」
若い衆「ははぁ……」



門番1「なぬ!? おい、菓子屋、ちょっと待て!! いま『どっこいしょ』とぬかしおったな? おかしいではないか? カステーラごとき一つ持ち上げるのに、大の男が、 なにゆえに『どっこいしょ』などと?」
若い衆「いえええええ、ああああああ、そ、それは?????」
門番2「怪しい!! その方、まさかとは思うが、カステーラの箱に、よからぬ仕掛けをほどこしてはおらんだろうな?」
若い衆「そそそそそそ、そんなぁ……めめめめめ、滅相もございません」


 あらためて箱の中身を吟味すれば、案の定、カステーラの下に、瓶に入った一升酒が隠されているではないか。

 さらに問いつめられて、若い衆は、口から出まかせ……、瓶の中には、たいそう霊験あらたかな、帝釈天の境内の井戸から汲み上げた水が入っており、これを飲めばたちどころに無病息災。今後ともご贔屓たまわりたい、近藤様への、ほんの手土産代わりだと。

門番1「手土産と申したな? 近藤氏(うじ)への……。つまり、この瓶の中身は、あやつが頼んだ品ではないということじゃな?」
若い衆「え、そりゃ、まぁ……そういうことで」
門番2「ならばじゃ、近藤氏とわれわれは、この屋敷の家臣仲間であるからして、手前どもも、少しぐらい、その霊験あらたかだという水を分けてもらっても、何らおかしくはあるまい? なぁ、御同輩?」
門番1「ふむ、そりゃその通り。菓子屋の手土産というのなら、遠慮は無用というものじゃ。さっそくご相伴に預かろうではないか」

 勝手な理屈をつけて、二人の門番は、瓶の口を開ける。たちまちプ~ンと、酒特有の甘い香りが鼻をつく。

門番1「ほぉ、こりゃ……たしかに霊験あらたかな水じゃわなぁ、御同輩? あっはははははは」
門番2「いかにもいかにも。こりゃ、体に効きそうですぞ。あっははははは」

 なんのことはない、二人とも、相当にいけるクチだ。

 菓子屋と称する若い衆を、「この、いつわり者めが!! さっさとこの水を置いて立ち去れ!! さもなくば即刻、叩き斬るぞ!!」と恫喝し、とっとと追っ払い、二人して酒を一升、差しつ差されつ飲み干してしまったのだ。

 悔しいのは酒屋の主人。お次は、油屋になりすまし、番屋を通り抜けようとするが、これもすぐにバレてしまい、「いつわり者めが!!」と追い返され、またまた一升酒を、ただで門番どもにくれてやる恰好になってしまった。

「くそーッ、番屋のロクデナシどもめが!! 近藤様にお渡しする酒を、これで二升もただで横取りされたとあっては、たまらない。どうしてやるか、見てやがれ!!」

 主人は腹立ちまぎれに、一升瓶の中に、店じゅうの者の小便を順に注ぎ入れ、たっぷり満タンにして栓をした。

 みたび若い衆に、屋敷まで持って行かせ、「近藤様からのご注文で、なんでも、大事にしている松の木の、肥やしにしたい……とかで、これを」と門番に説明する。

 すでに門番二人は、二升の酒を腹の中におさめ、ベロンベロンに酔っ払っている。

 若い衆がはっきりと、箱の中身は「小便です」と答ているのに、信じようとしない。「おやめになった方がよろしいですよ」との忠告も聞かず、瓶の栓を抜き、中身を吟味する。

 まだ「中身」は温かい。ブクブクと細かい泡まで浮いている。おまけに、思いっきりプ~ンと鼻を突く香りは、これまでの甘い香りとは似ても似つかない。

門番1「こりゃ、なんじゃ?」
若い衆「だから先ほどから何度も申し上げております通り、小便です」
門番1「(酔った口調で)小便だとぉ~? たわけたことをヌカすな、バカたれが!! ただでは済まさぬぞ」
門番2「まったく近頃の町人どもは、油断も隙もないですなぁ、御同輩?」
門番1「しっかし、今度の酒は、……こりゃ燗ですかな? ちょうど人肌の飲み頃になってるようで……。アブクがひどいけれども…………、ううむ、こりゃ、あまり高い酒ではござらぬな?」
門番2「(泡をフーフーと吹いて飛ばし、無理にでも飲もうとして)うわぁ、こりゃ、鼻にも目にもピリピリきますなぁ。……どうも、こりゃ…………ふうむ、この刺激が、じつにどうも、たまりませんなぁ」
門番1「まさしく。ちょうど拙者、甘い香りの酒には、いささか飽きも出てきたところでしてな。このツンとくる酸っぱい刺激は、これはこれで、なかなかどうして……」

 二人同時に、せーの、で口に含んだ。

門番1「(即座に吐き出して)ななななな、なんじゃ、これは? 酒ではないではないか?」
若い衆「(平然とした顔で)ええ。正真正銘、間違いなく、小便です」
門番2「うううう、うむッ、……こ、このぉ、正直者めが~ッ!!」

 チャンチャン。


************ **************

 2005年3月7日の「オチ」


 高校時代に落研の部長をやっていた時、文化祭で催すことになった「寄席公演」の演目の、最終打ち合わせの場で、一人の後輩君が、この「禁酒番屋」をやりたい、と申し出てきた。

 俺自身は当時、このネタを知らなかった。さっそく目の前で演じてもらうと、あまりにオゲレツな話なので俺はたまげてしまった。(その頃の、純情だった俺に戻りたい(笑))

 このネタを、かりにも高校の文化祭の場でやってしまって構わないのだろうか? と悩んだ。顧問の教師も悩んだ。

 が、本人は「どうしても、これがいい」という。さんざん討議の結果、「どうってこと、ないんじゃないの?」の意見が多数を占め、そのまま文化祭当日、後輩君は「禁酒番屋」を演じたのだ。

 あろうことか一番真ん前の席に、普段から気難しいことで有名な、校長先生が陣取っている。マズイ!! 校長の前で、ションベン飲ませる話は!!

 知らないぞー。俺のせいじゃないぞー。みんながOKを出したんだぞー。俺は反対したんだぞー。すっかり「逃げモード」の俺だ。

 ところが校長は、話の途中からクスクス……がゲラゲラ。最後の、門番が小便を口に含んだ後、思いっきり吐き出して、酒屋の若い衆を怒鳴りつけるところなどは、あまりのおかしさからか涙まで流してやがった。

 終演後、校長が楽屋を訪ねて来て、こう言った。

「私が思う落語の魅力の一つは、権力をかさにきせて威張り散らしているような輩を、普段は弱くつましく生きている庶民と呼ばれる連中が、アイデアを巡らせ、一瞬で猛烈にヘコませてやる。――そこだな。いやぁ楽しかったし、大いに考えさせられもした。今後は、私も君たちに、間違っても小便を飲まされぬよう、せいぜい気を配って生きるとするよ。あはははははは」

 負けた、と思った。

「これこそ落語」だと思った。

 俺たち、当時の落研部員はみな、古典落語の名作をひたすら覚え、お客さんの前で、ただ覚えたことをそのまま、さして何も考えずに演じていたが、校長はひとり、「禁酒番屋」の話に大笑いしつつ、今の自分の立場とオーバーラップさせていた。

 校長にとって、「禁酒番屋」は古びた話ではない。「今」なのだ。

 立川談志師匠いわくの、「落語は、人間のすべての業を活写する芸である」の言葉。

 人間の業に、今も昔もない。

 小便を運ぶ側の業と、飲まされる側の業……。

 S武グループのお家騒動を新聞で読むとき、ふと、「誰か一人でも、T氏に小便を飲ませる度胸のあるやつは、いなかったのか?」との思いが頭をよぎった。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2005.03.07 19:07:09
コメントを書く
[エンタメ] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

Keyword Search

▼キーワード検索

Comments

海のくまさん@ チン型取られちゃったw http://onaona.mogmog55.net/dfcqli4/ 俺…
ドライブ好き@ 風呂入るのメンドクサイ! http://feti.findeath.net/rt5k36-/ 今日…
もじゃもじゃ君@ 短小ち○こに興奮しすぎ(ワラ 優子ちゃんたら急に人気無い所で車を停め…
まさーしー@ なんぞコレなんぞぉ!! ぬオォォーーー!! w(゜д゜;w(゜д゜)w…
まさーしー@ なんぞコレなんぞぉ!! ぬオォォーーー!! w(゜д゜;w(゜д゜)w…

Category


© Rakuten Group, Inc.
X

Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: