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聖書預言@ Re:猫の手を借りた日曜日は、少しだけ前に進む(06/07) 神の御子イエス・キリストを信じる者は永…

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2026/10/15
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花火の音は、少し遅れてやってきた。

空いっぱいに桃色の光が開いたあとで、どん、と胸の奥が震える。見えているものと、体に届くもの。そのわずかなずれを、今年はやけにはっきり感じた。

隣にいる友達が、顔を上げたまま笑っている。

わたしも笑おうとして、手元のりんご飴を持ち直した。

赤い飴の表面に、さっきの花火が小さく映っていた。もう消えてしまった光が、まだそこにある気がして、しばらく目を離せなかった。

「日菜子、食べないの?」

「食べるよ。どこからいこうかなって」

本当のことではあった。

丸いりんご飴は、思っていたより大きい。屋台で受け取ったときには、もっと簡単にかじれるものだと思っていた。

友達は、わたしの手元を見て笑った。

「一周眺めてるうちに終わるよ、花火」

「そんなに眺めてない」

少しむきになって、飴の端へ歯を当てる。

硬い。

もう一度、角度を変える。

ぱき、と小さな音がして、薄い欠片が口に入った。砂糖の甘さが舌に広がる。その奥で、まだりんごには届いていない。

「ほら、食べられた」

誰に証明したかったのか、自分でもわからない。

友達が「よかったね」と言った。その言い方が少しおかしくて、今度はちゃんと笑えた。

川辺の草に腰を下ろしていると、浴衣の裾から夜の涼しさが入ってくる。

淡い水色の生地に咲いた青紫の花が、膝の上で折り重なっていた。背中の帯はまだ慣れなくて、姿勢を変えるたびに、ここにいることを思い出させる。

頬には汗が残っているのに、足元の土はひんやりしていた。

すぐ後ろでは、屋台の明かりが並んでいる。

焼きそばのソースの匂い。油の弾ける音。誰かがかき氷を注文する声。提灯の下を行き交う人たちの話し声が、ひとつの大きなざわめきになって流れてくる。

川から吹いた風が、その中に湿った草の匂いを混ぜた。

わたしの髪の先が、顎をくすぐる。

片手で押さえると、友達がこちらを見た。

「その浴衣、やっぱり似合うね」

「さっきも言った」

「何回言ってもいいじゃん」

「……ありがとう」

お礼が、少し遅くなった。

褒めてもらうのはうれしいのに、まっすぐ受け取るのは、まだ苦手だ。平気な顔をしようとして、かえってそっけなくなる。

友達はもう空を見ていた。

わたしも、同じほうを向く。

細い光が夜の高いところへ上がっていく。途中で見えなくなって、一拍置いて、金色の花が咲いた。

川にも、もうひとつ花が開く。

水面のほうは形が揃わない。揺れて、ほどけて、いくつもの細い線になる。それでも、空の花火より長く見ていたくなるような光だった。

「来年も、ここがいいね」

思いがけず、友達が言った。

わたしは頷きかけた。

そのまま頷けばよかったのに、口から出たのは別の言葉だった。

「来年、忙しいんじゃない?」

友達の横顔が、ほんの少しこちらを向く。

「まあ、受験とかあるけど」

「わたしも、まだどうなるかわかんないし」

言い終わるころには、自分の声が嫌になっていた。

来年も来たい。

それだけだったはずなのに。

友達はりんご飴の袋を畳みながら、「そっか」と言った。

責めるような声ではなかった。だからこそ、言い直す場所を失った気がした。

次の花火が上がるまで、空が暗くなる。

さっきまで見えていた友達の表情も、提灯の明かりに縁だけを残した。

約束をして、守れなくなるのが怖かった。

来年の夏には、わたしたちは今よりずっと忙しくなっているかもしれない。違うことを考えて、違う道を選んで、この夜のことを話す機会も少なくなるかもしれない。

そんなことを、まだ何ひとつ決まっていないのに考えてしまう。

わたしはりんご飴の棒を、指先で回した。

飴の赤が、暗がりの中で深くなる。

楽しい時間にいると、ときどき、その終わりを先に探してしまう。

なくなると知ってから好きになるより、最初から少し距離を置いておいたほうが、平気でいられる気がして。

けれど今、隣にいる友達とのあいだにできた静けさは、全然、平気ではなかった。

終わるのが惜しいと思える時間を、わたしは今、ちゃんと生きている。

胸の中でそう言ってみた。

花火が消えるたびに寂しくなるのも、この夜が好きだからなのだろう。

りんご飴をもう一度かじる。

さっきできた割れ目から、今度は歯が深く入った。ぱり、と飴が割れて、りんごの果汁がにじむ。

甘さのあとに、少し酸っぱい味がした。

友達へ顔を向けかけたとき、川向こうから次の光が上がった。

一本ではなかった。

白い筋が、いくつも空を駆けていく。

周りの話し声が小さくなった。

隣の友達が息を吸う。その音が聞こえるくらい近くにいるのに、わたしはずいぶん遠い来年のことばかり考えていた。

光が開く。

金色、その向こうに桃色、さらに低いところで青。

夜空に重なった花が、川面まで明るくする。友達の頬も、わたしの浴衣の袖も、草の一本一本も、一瞬、同じ色になった。

大きな音が届く。

胸の奥で何かが跳ねて、わたしは思わず声を出した。

「たまやー!」

自分で驚いた。

隣の友達がこちらを見て、それから、ぱっと笑う。

「日菜子、声出すんだ」

「……出すよ、たまには」

少し照れて、空へ顔を戻す。

友達も、わたしより大きな声で「たまやー!」と叫んだ。

その声が周りの歓声に混じる。

わたしは笑ったまま、今度こそ言った。

「来年も来たい」

花火の音に、半分隠れた。

友達が顔を寄せる。

「え?」

「来年も。ここで見たい」

声を少しだけ強くした。

「忙しいかもしれないけど。来たいとは思ってる」

友達は、わたしを見たまま頷いた。

「じゃあ、そういうことにしとこう」

「そういうこと?」

「来年も来たいってことで」

あっさりした言い方だった。

日にちを決めるわけでも、絶対と付け加えるわけでもない。その軽さに、わたしの肩から、ようやく力が抜けた。

「うん」

今度は、すぐに返事ができた。

川辺の風が、浴衣の袖を膨らませる。

りんご飴の棒は、握りすぎて少し指に食い込んでいた。持ち直すと、その跡を夜の空気が冷やした。

空では金色の光が、長い尾を引いて落ちている。

終わってほしくない。

そう思った。

でも、次が咲くのを待つ気持ちも、同じくらいあった。

友達がわたしのりんご飴を指さした。

「そこ、赤いのついてる」

「どこ?」

「口の端」

差し出された紙ナプキンで拭くと、ほんの少しだけ赤く染まった。

「取れた?」

「うん。たぶん」

「たぶんって」

二人で笑う。

花火を見ていたはずなのに、空を見ていない時間も案外多い。

飴をかじったり、髪を押さえたり、言いそびれたことを言い直したり。

あとから思い出すのは、どちらなのだろう。

夜空いっぱいの光か。

隣で笑っていた、この声か。

きっと、うまく分けられない。

ソースの匂いも、草の冷たさも、帯の少し窮屈な感じも。口の中に残ったりんごの酸っぱさまで、今夜の花火と一緒になる。

忘れたくない夜には、光だけじゃなく、隣にいた人の声も残る。

友達が、また空を指さした。

「見て。次、上がる」

わたしは頷いて、顔を上げた。

まだ何も咲いていない空に、細い光が伸びていく。

来年のわたしが何をしているかは、わからない。

でも、今年のわたしがここに来たかったことも、来てよかったことも、もう曖昧にしなくていい。

りんご飴を持つ手を、膝の上へ下ろした。

川に、最初の光が映る。

わたしは隣と同じタイミングで、息を吸った。

#青春小説 #日菜子の夏 #花火の余韻 #来年も一緒に #心に残る夜

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Last updated  2026/10/15 09:26:04 PM
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