キイロマンの地球観撮日記

キイロマンの地球観撮日記

2020年07月14日
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カテゴリ: 映画
フェリーニの「道」という古い映画を観ました 1954年の作品

海辺でたくさんの兄弟と暮らす貧しく知恵遅れの娘が、1万リラで大道芸人の粗野な男に売られていく
男は娘に芸を厳しく仕込んで、ピエロの格好をさせて、一緒にドサ周りをするのだが
ある日、男の粗暴な態度に閉口した娘は、逃亡を企てる
しかし、すぐに連れ戻されてしまう
その後も何度か、逃げ出す機会はあったのだが
結局、彼女は男との生活をする道を選んだ
そうしているうちに悲劇が起きてしまう

主人公は、娘といっても、実際には当時30代の女性が演じている 

このへんがちょっと違和感のあるところですが
身体が小さくて、童顔なので、ままそれらしくは見える
相手役の男も大男でしたしね

徹頭徹尾
可愛そうな娘の物語
悲哀に満ちていた
男は無神経で損得勘定しかしない乱暴者
対するに、娘はやや知恵遅れなものの、心は無垢で清純で という設定
まるで可愛い子犬のような
終いには、それこそ動物のように捨てられていくのだが

なんとも後味の悪い話だったが


彼女はどうしてこんな男との生活を選んだのか
逃げ出す機会はいくらでもあったのに
あるとき同業者の別の芸人に、こんな話を聞かされる場面があった

「私はなんの役にも立たない
 この世で何をしたらいいのか」


その芸人は言った

「あの男は可愛そうな奴だ お前以外に誰が奴のそばにいられる?
 俺は無学だけど、なにかの本で読んだ
 この世の中にあるものはすべて何かの役に立つんだ こんな小石でも
 この石が無益ならすべてが無益だ 空の星だって同じこと
   お前もなにかの役に立っている  アザミ顔のブスでも」

そういって落ちていた小石を拾って娘に渡した
すると彼女はパッと顔が明るくなり、その小石を見ながらしきりと頷いていた
すくなくとも自分はあの男に必要とされている存在なのだ、と思ったようだ
現状を受け入れることに価値を見出そうとしてしまった
この世に無益なものはない 役に立たぬものはない・・・ 
一面の真理ではあるが
やはり、この娘は男を捨てて他へ行くべきだったのだ
むしろ、そうすることで、きっと娘は生きる意味を見出しただろう
男は男で、娘を失うことで、かえって、その意味を見出しただろう
だが、この話ではそれに気づくのが遅すぎた

どんな美辞麗句や真理を聞かされたところで
それを活かすも殺すもその人次第だ
知恵ある言葉も、愚かさの前では役に立たないどころか
かえって道を誤らせるきっかけになることすらある

知恵ある言葉は仙人や聖者ごときが山上で呟くものだ
下界で四苦八苦する我々にはときに遠い言葉でもある
それを理解するにはやはり地道に山を登らないといけない
そういう努力も向上心もないところでは、真の理解も及ばない
言葉だけを猿真似し、字面をただなぞると、かえって痛い思いをするかもしれない
だからといって、所詮、理解できぬ言葉、としてそれを放棄してしまうのは愚かさの上塗りに過ぎない

「あの男は可愛そうな奴だ・・・」
とも芸人は言っていたが
「かわいそうだから」
なんというのは、ただそれだけでは浅知恵な動機ともなる
カント曰く動物的な本能にも近い
「かわいそうだから」でいろんなものをだめにしてしまうことが多々あるものだ
今の世でも社会問題にもなっていますが
娘は、DVを受けていても逃げ出せずにいる人達の心理にも似ていましたね
あの人には私がついていなければいけない かわいそうな人なんだ・・・
なんだか腹立たしいような話でもあった

男と娘は、旅の途中、修道院に泊まらせてもらうことがあった
そのとき、娘はそこの修道女に、ここに残っていったら? と誘われもしたのだが
それが男から逃れる最後のチャンスだったかな
しかし娘は泣く泣く男とそこを立ち去った
実は夜中に、修道院にある銀細工を秘かに盗む手伝いを、男に無理強いさせられていたのだ
罪の意識にも苛まれたのだろうか
別れの場面では、しきりと泣いていた

娘役の演技は、実際に道化師役をやるせいもあってか、すべてが道化風に見える
可愛い笑顔も、哀しい顔も、作り物のピノキオのようだ
その笑顔がかえって悲哀を感じさせたり
哀しい顔には、アンデルセン物語のような残酷さも感じましたね
あの独特な表情が脳裏に焼き付いてしまって
永らくまとわりつきそうだ
まずいものを観てしまった😆





たんぽぽの里





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最終更新日  2020年07月16日 09時57分01秒
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Re:フェリーニ 道(07/14)  
chiichan60  さん
今日は。

66年も前の昔の映画ですが、内容は現代でも通じるような人間の業というか、この世の不条理を扱っていると思います。

新聞を読んでいるとこんなことが起こるのかと思うようなことが日々起こっています。

親から虐待を受けながらも親元から逃げられずに挙句の果てに命を落とす幼子がいかに多い事か、自分のエゴだけの為に母性はどこかへ行ってしまい異性に走ってしまうとか・・・

人間の心の醜い面を見せつけられる映画ですね。
気分転換してくださいませ。 (2020年07月14日 15時39分52秒)

Re:フェリーニ 道(07/14)  
色々映画も見ましたが、この映画は結構印象に残っているのです。
この子の姉が死んだので代わりの女が欲しいとザンパノはやってきますが、娘が死んだと聞いても、まるで他人事のような淡々とした母親の反応とか。
ともかく、発表会ではこのテーマをピアノで弾きます。中身がわかっているので、弾きやすいと言えば弾きやすいです。 (2020年07月14日 20時37分53秒)

Re[1]:フェリーニ 道(07/14)  
chiichan60さんへ

大道芸人の男役はザンパノといいましたが
野卑なザンパノも根っからのド悪党というわけでもないのですよね
もちろん程度の差はあるだろうけど
男ってこういう身勝手なところがあるよな、というものを感じさせるのですよ
ザンパノに近い輩はそのへんに結構いるかも
あるいは自分の中にもそういう部分があるかも
それだけに見ていて嫌になるのですよ

(2020年07月14日 22時12分32秒)

Re[1]:フェリーニ 道(07/14)  
クレオパトラ22世さんへ

確かに印象深い映画でしたね
淀川長治さんの解説もありました
https://www.youtube.com/watch?v=sIO8YMsbJzA
面白い解釈ですね
あの綱渡りの芸人を神としている
うーむ 神というには笑い方が下卑ていたが
芸人はジェルソミーナを自分の旅に誘ってもいましたね
最後は名残惜しそうに別れを告げていたけど

そういえば 
修道女は二年ごとに修道院を転々とするという話もありましたね
長くいるとその土地を離れられなくなるから
神とだけ常に一緒にいられるようにするためにそうする、と語っていた
意味深なセリフだった

(2020年07月14日 22時12分52秒)

Re:フェリーニ 道(07/14)  
俵のねずみ  さん
この主役たち見覚えがあります
きっと大昔見たんだと思いますが(写真かも?)
当時私は内容まで理解できなかったんだと思います
男女それぞれが持つ特性とエゴ

無くしてみて初めてその有難さ、意味が分かるって寂しい
しかし残念なことに生きているときはなかなかそれを認めようとしない(気づかない)

淀川さんの言葉でいうところの
彼女が少しいかれていたので、
だからこそわからないままを受け入れる穢れなき純真さがより出るのかも

当時は中野信子さんもまだ生まれてなかったし・・・
男女の脳の違いなんて分かりもしないしね~
時代なんでしょうけど・・・今もやっぱり男社会は残っている?💦

行きつくところは無償の愛・・・なのかなあ・・・?
対価を求めず

亡くなったお姉さんのことはわからないけど
きっとひどい目にあったのかもしれませんね・・・

淀川さんを久しぶりに見てこのころの映画見てみたくなりました (2020年07月15日 01時14分42秒)

Re[1]:フェリーニ 道(07/14)  
俵のねずみさんへ

淀川さんの解釈では
男 身勝手なザンパノ 女 男の言いなりなジェルソミーナ 神 綱渡り芸人のキ印
という三点に分けた捉え方ですが
娼婦まがいのしょうもない女も出てくるのですよ
しょうもない、をどう表現するかですが、無意識な所作ですね
おとなになっても玄関の自分の靴を揃えられない輩は多いですよね
映画では 笑い方 食べ方 で表現していました
笑う 食べる というのは半ば無意識的な行為なので人となりがよく出ます
ケタケタと品のない笑い方
くちゃくちゃと行儀の悪い食べ方
ジェルソミーナは半分は女で、半分は頑是ない子供といったところか

無償の愛
というのは誤解を招きやすいですね
身を滅しても相手に尽くすといったような
ジェルソミーナはかわいそうにザンパノを好きになろうと努力した
そうすることで自分も報われると思った
そういう相手次第な自己評価は良くないよ
自分を愛するからこそ他人を愛するのが本来だと思います

(2020年07月15日 12時16分40秒)

Re:フェリーニ 道(07/14)  
kopanda06  さん
こんばんは。

人の愚かさや身勝手さが描かれた味わいある作品。
過ちに薄々気づいていても、引き戻せない時があるのが人なのでしょう。
(2020年07月16日 19時32分23秒)

Re:フェリーニ 道(07/14) ―の主人公の女性  
元衆議院議員・山本譲司の著書で見た、偽造結婚に利用されて有罪判決を受けたものの、結局自分を利用したヤクザの所に自ら舞い戻っていった知的障碍者の女性の話が頭にかびました。 (2020年07月17日 12時19分15秒)

Re[1]:フェリーニ 道(07/14)  
kopanda06さんへ

自分の心の居所というのもあって
そこに胡座をかいてしまうのでしょうか
そのうち、出来事のほうがそれを揺るがしてきますね
いつまでもそうはしていられず
それも不幸と言われるものの一局面なのかな
そうなる気もしていたんだよなぁ 
なんてあとから思ってみたり

(2020年07月18日 16時20分32秒)

Re[1]:フェリーニ 道(07/14) ―の主人公の女性(07/14)  
HNが思いつかん..さんへ

山本譲司さんの本は一度読んでみたいと思っていました
刑務所には知的障害の人が多いらしいですね

この映画は、出てくる人物がみな道化じみています
実際、道化師が多いのですけど
物語のトリックスター的な存在の人も、まさに道化師
主役の女性もふだんの様子からして道化じみていて
それゆえ知的障害者という設定が必要だったのかも
フェリーニは別に「道化師」という映画も撮っていますが
道化師に特別な思い入れがあるようです


(2020年07月18日 16時21分46秒)

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