2003/01/16
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カテゴリ: 気まぐれのお話
Nに寄ってこってりとしたソフトクリームを食べた後、民宿に向かった。子どもの頃、宇宙飛行士になるのが夢だったという宿の主人の趣味で、10台も望遠鏡が置かれた庭が売り物のところだ。あの時は、私たちのほか1組居るだけの、静かな夜だった。夜の食事で、お前が左利きだということに気が付いた。肘がぶつかるからといって食卓の左端に腰掛けたお前の横にマスターが座り、斜め前に私が座った。「左利きって芸術家に多いんだよ」マスターがご飯をほうばりながらお前に言っていた。「小学校のときは嫌でした。でも、今は、むしろそのおかげで得することもありますから・・」「え?」私が聞き返すと「印象深いでしょう。だから人に覚えてもらえるし」そうでなくてお前自身が印象深いのだという言葉は恥ずかしくて言えなかった。

天空の星々は文字どおり降るようにきらめいていた。「まるで。プラネタリュームだな」マスターはまるで逆のことを言いながら、しばらくあちらこちらの望遠鏡を覗いては感心していた。お前と私は、それぞれに寝椅子にねころがって、空を見上げていた。いつものことだが、ビールをすすりながら夜空を見ていると、わけもなく涙が出そうになる。問いかけて来る声に、あわてて目をしばたくとお前に方を向いた。「500円硬貨って、こうするとお月さまみたい」お前は空に硬貨を掲げて、私に笑いかけた。「ほら、こんなふうに・・」袖なしのブラウスから上に伸ばした腕が白々と浮かび上がり、脇から胸の膨らみが見えそうでドキッとした。

ビールが飲みたいと先に部屋に戻ったマスターが去ると、庭にはお前と私だけになった。しばらく二人は黙って夜空を見上げていた。「荒海や佐渡に横たう天の川」小さな声でお前がつぶやくのが聞こえた。ふと、横を見ると、いつの間にか半身を起こしたお前と目が合った。





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最終更新日  2005/07/04 09:33:22 PM
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