真理を求めて

真理を求めて

2003.12.02
XML
カテゴリ: カテゴリ未分類
以前の日記で中間集団全体主義のことを書いたけれど、全体主義の問題として、全体の意志を体現するような指導者が、指導者から支配者へと変わっていき、その誤りをチェックするような仕組みが全くなくなったときに、権力が腐敗するという現象が見えてくるということがあるのではないかと思う。

そのことを感じたのは、藤井誠二さんの「教師失格」という本を読んで、その中で体罰と性的暴力を繰り返していた高校教諭の報告を読んだからだ。この高校教諭は、演劇の指導者として高校生を指導する立場に立っていたのだが、女子高生たちが従うしかない立場を利用して、まさにやりたい放題をしていながら誰もそれを止めることが出来ないという状況にいた。

演劇の指導においても、自分の思い通りの動きが出来ないときには、感情的とも思えるような体罰で、まさに相手を思い通りに動かすという支配のために体罰を用いていた。他の人間のチェックが利かない閉じた世界にいたために、女子高生たちもその是非の判断が出来ず、この教諭を絶対権力者のように思いこんでむしろ自分が悪いかのように受け取っていた。

この教諭はやがて性的な暴力にまで手を出すのだが、その時には女子高生たちには正常な思考力が既になくなっていて、されるがままの状態が長く続いていたらしい。全体主義的な絶対権力が腐敗していく過程がよく分かる。そして、その腐敗を支えるのは、無力化した支配される人間たちであることもよく分かる。彼らが無力化すればするほど権力の腐敗は進む。

支配される状況が当たり前のものになり、そこから抜け出す希望がなくなっていた彼女たちがどのようにしてその状態を抜け出したのか。それは、彼らを支配していた全体の意志というものが、彼らの想像の中にあったもので、実際には抵抗できるのだということに気づいたきっかけがあったということだ。現実には、この教諭の暴力というものもあったので、現実的な力もあったのだが、支配に大きく作用したのは、教諭の側が絶対的に正しくてそれには逆らえないのだという空気に全体が支配されていたことだ。

彼女たちは、教諭の行為がひどいものだと受け止めていたのは自分だけで、他の人間はその空気が当たり前だと受け取っていると思いこんでいた。つまり一人一人が孤立していたわけだ。この孤立が彼女たちを支配から抜け出す気持ちを持たせるののじゃまをした。彼女たちが、この支配から抜け出すきっかけは、外部の演劇の指導者との接触で、この教諭の演劇の指導が間違っているという指摘を受けたことと、そこで外部の人間に相談できたことだという。閉じた世界が開けたときに、支配から抜け出すきっかけが見えたようだ。彼女たちは孤立していたけれど、それをきっかけにして連帯することが出来た。これが大きなことだったと感じる。

この事件を見ると、この教諭が特別に倫理や道徳面でひどい男だから、このようにひどいことをするのだと結論したくなる。しかし、権力は腐敗するというメカニズムは、たとえ権力の座に着くまでは立派であっても、自分の誤りに対するチェックをする人間がいなくなったら、よほど誤りに敏感であってもだんだんとそれに鈍くなっていってしまうのを助長するだろう。そして、小さな誤りに固執していくと、それがやがては取り返しのつかない誤りに結びついて権力の腐敗が進んでいくのではないかと思われる。権力の腐敗を進めるメカニズムとして、全体主義が大きく影響するように思われる。全体主義に反対したい一つの理由が見つかった。

指導者が支配者になるのは、その集団が全体主義に染まるかどうかにかかっているような感じがする。全体主義に染まった集団は、全体の意志に反対する考えは出せなくなる。チェック機能が働かなくなって、全体の意志を体現する指導者がやがて支配者に転落するのだろうと思う。言論の自由は、チェック機能にとってもっとも大事なものの一つではないだろうか。これは、個人の気分として自由を謳歌したいという単純なものではなく、これがなくなったときはすべての自由が失われ全体主義が蔓延するのではないだろうか。

さて、今日のイラク関係のニュースの最初のものは次のものだ。



 イラクで日本人外交官、韓国人技師らが相次いで襲撃の犠牲となり、反米武装勢力の標的が広がっている事態について、米軍のマーク・キミット准将は30日、「攻撃しやすい標的を狙い始めた」と述べ、イラク復興を支援する親米諸国や対米協力イラク人の「意思を打ち砕くこと」が戦術転換の狙いだと説明した。(毎日新聞)」

ここで、米軍は「攻撃しやすい標的を狙い始めた」と語っているが、これはテロの常套手段ではなかったのだろうか。元々正面からぶつかることの出来ない戦力だから、小さな戦力でも相手に打撃を与えようと思ったら、弱いところをねらうのは戦略としてすぐに考えつくことだと思う。相手がテロだと自覚しているのなら、それくらいのことは最初から考えておいてくれといいたいくらいだ。

世界の世論が、まだ自分たちの方を向いているという可能性があれば、テロリストであっても政治的な配慮をするだろうけれど、世論に絶望したテロリストは、すべてが敵だと考えるようになるだろう。そこまでテロリストを追い込んだとしたら、最後の一人まで抹殺しない限りテロはなくならないだろう。新たなテロリストが生まれなければ、最後の一人に到達することが出来るが、新たにテロリストが生まれるようなら、この戦いには終わりはない。

アメリカがイラクを攻撃したときに、それによって100人のビン・ラディンが生まれると言った人がいた。イスラエルの力の対応は、パレスチナに常に新たなテロリストを生んでいる。今後も力の制圧に頼るのか、それとも別の道を探すのか、大きな岐路に立っているのではないだろうか。

「<米国>イラクの駐留米軍構成の見直し求める声相次ぐ」

というニュースを見ると、アメリカではテロリストに対応できるような特殊能力を持った軍隊を送るべきだという論調になっているらしい。つまり、今のところは最後の一人まで抹殺するような力の制圧をすることを望んでいると言うことだろうか。その力の制圧が、次のような失敗を生んでいるとは考えられないだろうか。それとも、その関連性を考えるのはいやだというのだろうか。

「民間人多数が巻き添え=米軍と武装勢力の戦闘、死者54人に-イラク」

米軍の大規模な掃討作戦で死んだイラク人の中に、民間人が多数入っていたと言うことは、新たなテロリストを生み出す原因にならないだろうか。それとも、ケン・ジョセフ氏の報告にあったように、これもフセインの残党を排除するための仕方ない犠牲として受け入れるというのがイラクの人々の感情なのだろうか。次のような報告もある。

「イラク人の8割が米軍不信 英シンクタンク世論調査

 【ロンドン1日共同】AP通信によると、英シンクタンク、オックスフォード国際研究所は1日、15歳以上のイラク人を対象にした大規模な世論調査で、イラクを占領する米英軍をほとんど信頼していないとする人が8割近くに達した、と発表した。
 調査ではまた、約75%近くがイラクを占領統治する米軍主導の連合軍暫定当局(CPA)を信頼できないと回答。フセイン政権崩壊後に米軍政と協力しながら活動中の諸政党についても、信頼できるとした人は約2割しかいなかった。


世論調査というものをそのまま信用するわけではないが、ケン・ジョセフ氏の身近な実際の経験と、イラク全土を予想するための世論調査と、両方を無視することなく、どちらが実際のイラクの状況を正しく反映しているのかを考えたいものだと思う。

日本の自衛隊派遣が、テロの排除のために有効になるのか、それともテロを新たに生み出す恨みの連鎖の中に組み込まれてしまうのか、どちらの可能性が大きいのか慎重に判断する必要があるのではないだろうか。僕は、テロリストの側が国際世論を全く信じていない状況ではないかと思われるので、この状況をどうにかする方が先なのではないかと思うのだが。アメリカやイスラエルの不正を国連の場で正さなければならないのではないだろうか。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2003.12.02 09:24:43
コメント(2) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

キーワードサーチ

▼キーワード検索

カレンダー

コメント新着

真の伯父/じじい50 @ Re:自民党憲法草案批判 5 憲法34条のロジック(02/03) 現行憲法も自民草案も「抑留」に対する歯…
秀0430 @ Re[1]:自民党憲法草案批判 5 憲法34条のロジック(02/03) 穴沢ジョージさん お久しぶりです。コメ…
穴沢ジョージ @ Re:自民党憲法草案批判 5 憲法34条のロジック(02/03) ごぶさたです。 そもそも現行の憲法の下で…
秀0430 @ Re[1]:構造としての学校の問題(10/20) ジョンリーフッカーさん 学校に警察権力…

フリーページ


© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: