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2005年10月20日
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テーマ: 本日の1冊(3719)

朴泰遠 著 
牧瀬暁子訳
作品社
2800円
清渓川(チョンゲチョン)の川辺で生活する1930年代のソウル下町庶民の風俗小説である。本の表紙の写真を見て、ソウル郊外の田舎町の物語だと思ったら大間違いである。実際はソウルの街の中心部、現在でいうと鐘閣駅の南側の人々の生活を描く。そこにその頃下水も洗濯の川も兼ねた生活用水があった。母子世帯の母親、田舎から薬局店に住みこみで働く少年、散髪屋で使い走りをしながら街を観察する少年、妾を囲う街の有力者、飲み屋の女中、かどわかされて出てきた寡婦、全部で50章、主人公を時々換えながら淡々と描く。

名もなき貧しい庶民の小説で、こういう構成の小説として私は藤沢周平の『本所しぐれ町物語』を思い浮かべた。しかしこの小説は藤沢文学とは実は対極にあるといっていい。藤沢文学が庶民の身体に寄り添うように哀切を描く『濡れた』文学だとしたら、朴泰遠のこれは庶民を客観的にドキュメンタリーのように突き放して描く『枯れた』文学なのだ。それが朝鮮文学の特徴なのかどうかは私は知らない。エピソードの中には嫁ぎ先で不幸になっていく娘を想う母親の話等、描きようによってはいくらでも泣かせることが出来ようものなのに、ここに出で来る庶民は打算的で、常に金と地位のことが頭から離れず、成功を夢見てはいるが、一方情に厚い人々で、私は正直あまり共感を持つことが出来なかった。しかし、これこそが賭け根なしの30年代ソウル下町の韓国の庶民なのだと著者はいいたいのだろう。それだけに民俗的な記録のように忠実に生活実態を写しているのは、読んでいてよく分かった。

訳がいいのかどうか分からないが、文体は現代文学とほとんど変わらない。ただ、読み進めるのには当時の時代風俗に精通してないと難しい。ただ、この本には実に30ページに渡る詳細な『註』が付いていて、この注自体がちょっとした戦前ソウル下町事典の様相を示していて面白い。

註釈や解説文の充実といい、朝鮮文学の入門編としては、なかなかいいテキストではあると思う。玉に瑕は少し高いことであろうか。

2005-10-21 00:34:02





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最終更新日  2005年10月21日 00時37分44秒 コメント(3) | コメントを書く
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