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お店を出てところで、岩崎くんがあたしをじっと見て物欲しげな顔をするので、何かと思ったら、「・・・金貸してくれない?」と言うではないか!「え~、・・・いくら?」「5000円・・・もうぜんぜん金なくて。」財布の中をみせてくれたが、紙幣が1枚も入っていない。「・・・彼女に借りれば?」「もう、借りてる。 給料日来たらすぐ返すからさ。」「・・・・・わかったよ。」「ありがとう!」物欲しげな顔で金貸してって言われたことが腑に落ちなかったが、楽しく遊んでもらっているし、職場の人だからトンズラされないだろうと思い、5千円を渡した。給料日までは、まだ1週間あった。でも彼は、毎月お給料をもらったら、計画性なく、パーッと飲みにいったりして、お金がなくなったら、家にキープしてあるお酒を飲みながら次のお給料日を待つような生活をしているみたいだった。お金を借りたからか、何も言わないのに彼は、遠回りだけれど駅の改札口まで丁寧に送ってくれた。改札を入ってから振り向くと、岩崎くんはまだこちらを見ていた。なんていうか、そういうところが抜かりないなと思った。
2005.12.31
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もうあたしはすっかり目が覚めたので、シャワーを浴びにいった。(ラブホ来たのにエッチしなかったな・・・)と思ったりした。アタシ的にはそれでもかなり満たされるので良いけれど、じゃあ、なんで彼はホテル行きたそうにするんだよ?と思ったりした。だってもう給料日前なのに。彼を起こすには時間がかかるので、そろそろ、声をかけたほうが良さそうだ。 「朝だよ、起きて。」「・・・うーん、わかった。」と言いながら、寝返りを打った。テレビの音量を少し上げて日の光が入るようにカーテンを少し開けて上にのって揺すったりして。少しずついろいろしていくうちにようやく目が開いてきた。戯れるように、彼の身体に触れているのは気持ち良かった。「立っちゃうじゃん・・・」と言うので、触ってみると立っていた。朝立ちだ。そんなふうに戯れているうちに、さらに目が覚めたらしい。起き抜けに、彼はタバコを一服した。いつもの赤LARKだ。冷蔵庫からポカリスエットを出し、少し飲んだ。不機嫌なのか具合が悪いのか・・・、多分2日酔いだ。彼はボーッとテレビを見ている。あたしには大きすぎると思われる音量が、彼の目覚めには良いらしく、いつも朝は、そんなふうにテレビを眺めている。元気ならば、朝30分くらいしか時間がなくても「エッチしよー。」とか言いだしたりするが、今日は、どうにもけだるい様子だ。部屋を出るとき、なにを思ったかキスしてきた。一瞬、時を忘れる。それくらいが今のあたしにはちょうど良いのかも知れない。エッチは手放しに楽しいとはまだ言い切れないから。外に出ると、太陽が眩しかった。もう、午後3時くらいだから、新宿の街はいつものように慌ただしく動いている。駅に向かう途中、サブウェイに入った。サブウェイは数える程しか入ったことがなかったが、サンドイッチは野菜などの具がいっぱい入っていておいしかった。彼は、こういう店でも「ビールないの?」とか言うタイプだが、あいにくサブウェイにはなかったので、コーラを注文していた。コーヒーや紅茶と言うものを彼はほとんど飲まなかった。今まで、身近に酒飲みはいなかったからわからないけれど、アルコールが大好きな人ってそうなのかな。
2005.12.30
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昼過ぎにあたしは目覚めた。岩崎くんは、まだとなりでぐっすりだ。そっとカーテンを明けると、外は快晴で、新しい1日はとっくに始まっている。この部屋だけ、違う時間が流れているみたい。岩崎くんは、寝付きはものすごく良いけれど起きる方は苦手だった。彼は、昼から仕事のときでも、「・・・あと、30分」とか「・・・わかった。」とか言いながらなかなか起きない。「遅刻するよぉ。」と言うと、「・・・今日のランチはヒマだから、もう少ししたら電話して遅れて行く。」と言う。頃合いを見計らって仕事場に電話して「ごめん、寝坊した。」とか「母親を病院に連れてかなきゃ行かなくなってさ。」とか「すみません、腹を壊してしまって・・・」とかウソついて、何時間か遅れて行ったりした。そんなことが続いたから、なぜかあたしが罪悪感を感じてきた。普段は遅刻とかしないのに、あたしと遊んだときは仕事を遅れて行くなんて、やっぱり良くないと思う。だから、彼が次の日休みのときだけ飲みに誘うようにしていた。自分の休みもできるだけ合わせたりして。だから今日は余裕だ。朝6時過ぎに入室すると、夕方5時まで滞在できるし。あたしもウトウトしながらテレビを眺めた。
2005.12.29
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店を出ると、そろそろ始発の出る時刻だった。「どうする?ホテル行こうか?」「えー、でもお金もないんでしょ。」靖国通りを歩きながら言った。あたしも内心帰りたくなかった。彼と遊ぶと、ずーっと一緒にいたくなってしまう。でも、彼も給料日前でお金ないし、あたしもそんなに余裕がなかったので、今日は帰ろうかと思った。駅へ向かう交差点で、「ここで大丈夫だよ。じゃあ、また明日。」と言った。「じゃあな。」彼が歩き出すのを見送ってから、あたしも駅に向かって歩き出し、角のところで振り返ると彼が横断歩道のところまで歩いて戻って来ていではないか。そして、なにか言いたげにあたしを見る。「どうしたの?」「・・・別に。」(なんだよ、やっぱエッチしたいんじゃん。)彼の腕に手を回し、あたし達は歩き始めた。なんとなくラブホ街に向かっていた。「・・・オレもうお金ないから、給料日まで立て替えといてもらえる?」「うん、まぁいいよ。」日付が変わってから飲み始めたので、もう空は白んでいた。朝6時を過ぎると、ラブホは割安料金で泊まれるので、ちょうど良い時間だった。部屋に入り、カバンを置いて上着と靴下を脱いで彼はベッドに倒れ込んだ。「ひろちゃんも、ここきなよ。」そう言うけれど、寝る前にトイレに行きたかったので先に用を足しに行った。トイレに行ったついでに洗面所と浴室の様子を見て部屋に戻ったら、・・・彼はすでに眠っているではないか!ためしにちょっと揺すってみたが、もう爆睡中だ。まだ5分くらいしかたっていないのに!(なんだよ、自分が来たそうにしたくせに。)と思ったが、しかたない。あたしはエッチしなくても、彼の隣で眠るだけでとても満たされるから、となりに潜り込んで、彼の背中に触れていた。それにしても、こんなに寝付きの良い人っているんだな。あたしはとても寝付きが悪いのでどうしてもいつも取り残された。彼はたくさんお酒を飲むけれど痩せているし、何回もトイレに行ってアルコールもすぐ抜けてしまうからたくさん飲めるんだろうし、あたしより長く起きていたことがないし、まさに快食快眠快便の男だった。・・・うらやましい。
2005.12.28
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彼は、店員さんに話しかけた。「あのオレ5年くらい前に、系列店で働いてたんですけど以前池袋店にいた水口さんって、今どうしているか知ってますか?」その店員さんは、入ったばっかりでわからないらしく、長年勤めている社員の人に聞きに行った。中にいた店員さんに、知っている人がいたようで、出てきてくれた。「水口さん、いま銀座店の店長なさってるんですよ。」「そうなんだ。良く知ってるの?」「僕も池袋店で働いてたんですけど、水口さんはすぐに銀座に異動なさったんで、あまり話したことないんですよね・・・」「オレも池袋店だったんだ。5年くらいまえに。もしかして少し一緒に働いていたかな?」「私も5年近くたちますから、微妙に時期がかぶってたかも知れませんね。」「・・そうだったんだ。水口さん今も働いてるんだな。」なつかしそうに、彼は呟いた。「おっ、ダバダおいてある!」「なに?だばだって。」「土佐の地酒で『ダバダ火振』っていうんだけど、栗の焼酎なんだ。」「クリの焼酎なんてあるんだ?!なんかおいしそう。」「好きだからツボ入りの通信販売で買ったこともあるんだ。」ストレートで注文した。ひとくち飲ませてもらったら、ほのかに甘くておいしかった。店員さんが「どうぞ」と言って、つまみを一品サービスしてくれた。長芋の細切りとマグロなどを海苔で巻いたものだ。「気ぃ使ってくれなくてもいいのになぁ。」岩崎くんはガラにもなく恐縮した。でも、ひとつつまんだら、「これ長芋入ってない方がいいな」とコソっと耳打ちした。調理人ゆえ、その辺のチェックが厳しいなと思った。ときどき、その性質が楽しい気分に水を差すこともあったけれど、まぁ職業病だから大目に見るか。
2005.12.27
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「次どこ行く?」「バッティングセンター」「えーっ、また?」などと話しながら、靖国通りをブラブラ歩いた。「そうだ、ちょっと行ってみたい店があるんだ。」西武新宿駅近くのビルの中に、『さしあげ亭』はあった。串揚げとさしみのお店だ。以前、岩崎くんは、ここの池袋店で深夜バイトしたことがあるらしい。「『さしあげ亭』も、おもしろい名前だけど、系列店も『kit coconeel(きっとここにいる)』とか、おもしろい名前ばかりなんだ。」カウンター席で、ビールと軽くつまみを頼んだ。串揚げ盛り合わせは、アスパラや地鶏やししとうなどに軽くパン粉をまぶして揚げてあった。「どう?」「カラッとしてておいしいね。パン粉が細かいし。」「だろ!ドライパン粉を使ってるからな。こういう串揚げにはドライのほうがおいしいんだ。ロースカツとかは生のほうがおいしいけどな。」さすが、調理人だ。ドライパン粉なんて初めて知った。彼は池袋店で働いていたときの話をしてくれた。昼間は『ハレルヤ』の池袋店で働いていたが、そこは終業時刻が速かったため、週に何回か「さしあげ亭」で働くことにしたそうだ。「店長の水口さん元気かな~。職人気質の人でさ。飲み会で、オレが女の子の腰に手を回してたら『おまえ、調子のんなよ』って怒られたりしたなぁ・・・」彼は思い出モードに突入していった。遠くをみつめて、なにか記憶を辿りまくっている。こんなとき、(彼は誰がとなりにいたって関係ないのかもしれないな。やっぱ、あたし遊ばれてるだけなのかな・・・)と、考えたりした。そして誰といても楽しく飲めちゃう彼の性質をうらやましくも思った。
2005.12.26
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その日は『Clarks Dale』に飲みに行った。あたしはときどき岩崎くんの彼女の話を聞き出した。こんな彼の彼女はどんな子なんだろう?と純粋に興味があった。彼が、彼女と合っていないときこんなことやあんなことをしていると薄々とでも解っているのだろうか?それとも、完全にだまされているのだろうか?ゆかちゃんは、高校を卒業したあと、製菓の学校に通っていたらしい。その後、ずっと製菓や調理の仕事をしていたことや、以前、ディズニーランドで働いてディズニーの地下通路は迷路みたいですごいらしいとか。その頃からずっと京葉線・葛西臨海公園に住んでいること。彼女はとても人見知りで、男性恐怖症だったらしく、彼と付き合うまで男の人と付き合ったことがなかったこと。(男性恐怖症の子がなんで彼に心を許せたんだ?この歌舞伎町の申し子みたいな岩崎くんに?)という点が、とてもふしぎだ。彼女は、訪問販売で『警察公認防犯ベル』(?)を買ってしまい、「そんなのあるわけないだろ。」と彼がクーリングオフしたことがあるそうだ。(・・・だまされやすい子なんだな。じゃ、岩崎くんのことも信じてたりして?!)そうだったら、ヤバいと思った。ゆかちゃん、大丈夫なのかなぁ・・・なんて余計な心配をした。『Clarks Dale』は、その日80年代ジャパニーズポップが流れていたが、2人とも『キューバリバー』でしめくくった。
2005.12.25
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最近、清水さんは経済的に苦しいみたいだ。去年の夏2ヶ月ほど入院して以来、病院にも通い続けていた。4月ぐらいから、制度が変わって月160時間以上働く人はアルバイトでも社会保険に加入しなければならなくなった。清水さんはなぜだか、どうしても加入したくないらしく、160時間以下に労働時間をおさえなければならなかったし、他で掛け持ちでアルバイトをするにも体調がすぐれないことも多くてなかなかままならないようだ。以前は、みんなと同じように、昼ご飯を買って来たり、お店のメニューを社員割引で注文したりしていたけれど、今は、カップラーメンとか、すごく安いものしか買わなくなり、お店で、余ったものやお客さんが残した料理を好んでもらうようになっていた。好き嫌いが多くて、潔癖なところのある清水さんなのに。給料日前のある日、「大変もうしわけないんだけど、もしあったら1万円貸してくれませんか。」という丁寧なメールがきたこともあった。給料もらったらすぐ返すと言っているし、清水さんには仕事面で日頃ものすごくお世話になっているので貸すことにした。そんなこともあった。『ハレルヤ』は、店長が変わってからというもの、人件費を削減するために、なんの通達もなく急に人数を減らされたりして、そのワンマンぶりに翻弄されていた。清水さんと同期の働き者の松島さんも、4月に辞めて、あたしの1ヶ月先輩の塚本さんも、難しい名前の肺炎で入院してそれがきっかけで辞めていた。そんな状況だったので、あたしは「辞めるときは前もってそっと教えてくださいね。清水さんが辞めるときはあたしの辞めるときですから。」とよく言っていた。まだ、入って1年半なのに自分が古株というか、しっかり仕切って行かなきゃいけないことも多くなってしまった。新しい人達も入ってた。韓国人のウォンさんは、ワインのソムリエの勉強がしたくて、日本に来たらしい。日本語を勉強した後、旅行関係の専門学校で、ホテルや飲食の勉強をしていた。専門学校は主席で卒業したらしく、日本語もとても堪能で、なぜこんなに優秀な人がビアホールみたいな『ハレルヤ』にいるのか疑問だった。あたしは、再来年の春には、ビルの改装と共に閉店が決まっている『ハレルヤ』なので、それまではなんとか働き続けたいと思っていた。岩崎くんと仲良くなれたことはとても仕事に行く張り合いになった。不純だけれど、やはり恋って大きなエネルギーだ。
2005.12.24
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最初は終電で帰ろうかと思ってたけれどつい最後まで聞いてしまった。練習の後はジョナサンに行って何時間もしゃべるのが恒例らしい。あたしもついていった。終電もとっくに過ぎていて、街は静まり返っていたが、ジョナサンの中は、かなりのにぎわいだった。岩崎くんはビールをたのんだ。佐野くんとケンちゃんとあたしはドリンクバーだ。315円でハイビスカスティーとかメロンソーダとかカフェラテとか飲み放題だ。ケンちゃんの女性の許容範囲が「小学生から50代くらいまで。」と言うので、「それって・・・女性である間すべてじゃん!」と言ったら、小突かれたけれど、2人は、部外者のあたしにもつまらない思いひとつさせない心遣いのあるオトナだった。岩崎くん当人は、型破りで自由きままである意味敵も作っちゃいそうな人間なのに。ホントいい友達だなと思った。2時間くらい話しただろうか。深夜の3時を過ぎた頃ケンちゃんが次の日仕事だからもうそろそろ帰るというと、佐野くんは、あたし達に気を使ってくれたらしく、じゃあそろそ自分も帰るという。四谷在住のケンちゃんと別れ、新宿三丁目までタクシーに乗り、『かり屋』という居酒屋で始発を待った。岩崎くんはホッピーを注文した。「なに?それ」「昔のビールの代用品な。飲んでみる?」ひと口もらった。あっさりしていて飲みやすい。「居酒屋だな」って感じのチープで陽気な味がした。
2005.12.23
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演奏を始めた。あたしは、隅っこに座って聞いた。彼らは、70年代の音楽を中心に演奏した。エリック・クラプトンやディープパープルなど。いとしのレイラとか、Sunshine of Your Loveとか、Smoke on the Waterとか、テレビのコマーシャルにもよく使われている有名な曲が、何曲もあって楽しかった。やっぱり、生演奏は迫力があってすごい。ドラムのケンちゃんはプロなので、素人のあたしが聞いても、やはり圧倒的に上手い。他の二人が一生懸命演奏しているのを後ろからニコニコ見ている感じだ。ボーカルは、ギターの佐野くんと岩崎くんが曲によって担当していた。佐野くんは、部外者のあたしがいるので最初少し緊張しているみたいだったけれど、ギターも歌もうまかった。岩崎くんは、わかりやすくベースを間違えたりしていた。でも、普段仕事しているところと酔っぱらってるところばかり見ているので(あ~、ホントにベース弾けたんだ!)となんだか感心した。彼は、いい声で声量もあるし、表現力もすごくあって、セリフとシャウトはプロ並みだった。これで音程さえ外れなきゃすごいんだけど。それと、ステージパフォーマンスというか、そういう才能もあるみたいだ。弾き方とかも研究しているみたいだ。最初、岩崎くんの顔は機材とマイクに隠れて、半分くらいしか見えなかったのだけれど、彼は途中でそれらの向きを変えて、良く見えるようにした。こういうことを恥ずかしげもなくやるところも彼らしい。となりで気づいた佐野くんは、やさしく微笑みながら見ていた。いい友達に恵まれてるなと思った。
2005.12.22
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スタジオに5分遅れで着いたら、まだ他の2人は来ていなかった。「なんだ、もっとゆっくりしてくればよかったな。」と彼は言った。受付のさだまさしそっくりのおじさんは、「岩崎さん、今なら広い部屋も空いてますよ。」と営業に余念がなかった。「いや、いいです。」と言ってサインをして2階の部屋に向かった。まもなくケンちゃんと佐野くんが相次いでやって来た。迷惑じゃないかとドキドキしたけれど、2人ともイヤな顔一つせず、にこやかに挨拶してくれた。岩崎くんの仲良しなんだから超個性的とか変わってるとか、そういう感じかと思ったらいたって普通の常識ある男性方のようだ。意外。バンド名は、岩崎くんから「タコチンブラザーズ」だと聞いていた。もちろん、こういう名前をつけたのは彼だ。「コミックバンド!?」と聞いたら「違う!」と言っていたけれど。しかし、他のメンバーに「やっぱりそれはちょっと・・・」と言われ、最近、変更することになったらしい。ここ何年かは、佐野くんが沖縄在住だったのでライブなどやっていなかったけれど、「またやりたいからさ、それにむけて練習してるとこなんだ」と彼は言っていた。「そのときはひろちゃん、友達つれて見に来てよ。」3人は、機材を取り出してセッティングを始めた。こんな間近で生演奏を聞かせてもらえるなんて初めてだ。しかも客はあたし一人。わくわくした。
2005.12.21
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土曜日の夜。仕事が終わり、もう入り口はしまっているので調理場を抜けて裏口から出ようとすると、岩崎くんが「ひろちゃん、待ってよ~。」と急いできた。「先帰っちゃうのかよ、一緒に帰ろうよぉ。」いかにも、あたしが彼を置いて帰るみたいな言い方をしたけれど、べつにいつも一緒に帰ってなんていなかった。岩崎くんは、とっとと帰っちゃったり、ながながと飲んでたり、その日によっていろいろだ。「・・・ひろちゃん、今日飲みに行く予定とかあるの?」電車の中で、いつになく遠慮がちに彼は言った。「いや、別にヒマだよ。」「今日、スタジオで練習するんだけど見に来ない?」「え、いいの?行きたい~!でも練習の邪魔じゃない?」「大丈夫だよ。おし、じゃあ一回機材とりに家に帰るから、つきあってくれる?あ、それとも途中のシャノアールでコーヒー飲んでてくれてもいいし。」「うん、じゃあコーヒー飲んで待ってるよ。」30分くらいたって、もう来るだろうと思ったのに岩崎くんはなかなか現れない。もしかして、メンバーの佐野くんやケンちゃんに難色を示されたのかな・・・と考えてはじめたら、ベースを背負った岩崎くんが登場した。「ごめん。遅くなっちゃったよ、急がなきゃ。」ふたたび丸ノ内線に乗り込んだ。「1号車が近いんだ。」電車の中をズンズン歩いて行く彼について行った。1つずつしか席が空いていなかったので、離れて座った。斜め向かいの岩崎くんは、ウキウキした子供みたいな表情であたしを見た。四谷駅で下車し、スタジオへ急いだ。ギターの佐野くんとは中学の同級生で、その頃から一緒にバンド活動をしていたらしい。音楽以外でも1番の仲良しだ。ケンちゃんとは学校は一緒になったことはないけれど、彼も四谷育ちで、音楽友達を通して高校時代からバンドを組んだりしていたそうだ。ケンちゃんは、プロのドラマーだった。最近まで沖縄で暮らしていた佐野くんが東京に帰ってきたので、本格的に、バンドの練習を始めたところみたい。・・・そういった話はいろいろ聞いていたけど、酔っぱらいエロオヤジの岩崎くんが音楽をやっていてベースを弾くと言っても、半分信じていなかった。それに、彼女にウソをつくときの演技が、誰にも見抜けないくらい上手かったから。だから、ベースを担いで現れたところで(あ、ホントだったか!)とやっと思ったわけだ。
2005.12.20
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その夜、ホテルのベッドで横たわる彼の上にいた。彼の髪に触れ、耳に触れ、首筋に触れた。唇にキスして肩に頬をうずめた。彼の胸とあたしの胸が触れると体温がジンワリと伝わってきた。乳首を舐め、脇腹に触れ、腰のくびれを下へと降りてゆく。いつもはほどんど声を出さない彼が時々声を漏らした。股間からペニスへ。ペニスの根元から先端へ・・・。「今日は攻めるねぇ。どうしたの、ひろちゃん。どこで覚えたの?」びっくりしたように彼は言った。「え…、どこでもないよ。・・・気持ちいい?」彼は乳首を舐められるのが感じるらしい。あたしは攻め続けた。「・・・オレが今日マグロなのは、ひろちゃんに嫌われようとしてるんだよ。」そんなことを呟いた。でも、飲みに誘ったのはあたしだけど、ホテルに行こうと誘ったのは岩崎くんのほうじゃないか。いまさらなにを言うのか。かまわず続けた。・・・不思議にその夜は、身体が動いた。こんなふうに男の人を攻めたことなんて無いのに。行為を終えた薄暗い部屋で、早くも眠りに落ちてしまった彼と我に返ったあたしが鏡に映っていた。彼のことが大好きな気持ちと、彼の思うツボにはさせないという負けん気がフツフツと沸き上がってきた。
2005.12.19
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8月。北国育ちなので、暑いのは苦手だ。その日、あまりいいことがなくて、(あぁパーッと飲みたいなぁ)と思って仕事帰りの岩崎くんを待っていたが荻窪行きの終電が来ても彼は現れなかった。仕方なく6号車に乗り込んで、このまま普通に家に帰ってしまおうかとも考えたが、どうにも心のやり場がないような気がした。思い切って新宿三丁目で途中下車し、彼を待った。新宿行きの終電に彼は乗っていた。ホームにあたしがいるのをみつけると、びっくりした顔をして、「誰かと思った。どうしたんだよ?」と言った。「・・・飲み行こうよ。」「うーん。・・・いいよぉ。」彼は、待ち伏せされたのがひっかかったようだ。でも、断るのは可哀相だと思って了解したみたい。「・・・ひろちゃん、ストーカーとかにならないでよー。」彼は、ふざけた調子で言ったがあたしはとてもムカついた。ちょっと思い上がってると思った。好きな相手にしつこいと思われたくない。しつこい人にもなりたくない。でもだからと言って、ずっと柱の陰から見ている人にもなりたくない。浅いけど計り知れない程広い自由恋愛の岩崎くんにそんなこと言う資格あるのか。まあ、でも聞き流した。その日のあたしはパーッと飲みたかったから。彼の行きつけの『Clarks Dale』に入った。いつも大音量で音楽のかかっている店だけど、今日はボブ・マーリィが流れていた。「やっぱ夏はレゲエだな。」彼はレゲエも好きらしい。その頃彼は1杯目はギネスだった。あたしはウォッカを使ったカクテルがお気に入りだった。気持ちがモヤモヤしてたけど彼の楽しげな話し声を聞いてるうちに、だんだんどうでも良くなってきた。「オレも次は軽めにカクテルにしようかな。」3~4杯飲んだあと、そう言った。岩崎くんがカクテルなんて、めずらしい。「レゲエだから、じゃあキューバリバーな。」「えっ、それってどんなカクテル?」「ラムにライムを絞り入れて、コーラで割ってあるんだ。」「じゃ、あたしも同じの。」キューバリバーは夏の夜にピリリと効いた。
2005.12.18
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数日後、仕事帰りのロッカー室前で赤いTシャツに、ジーパンの岩崎くんに立て替えてもらったお金を清算した。フラれちゃったし、もう一緒に飲みに行ったりできないんだろうな・・・と思いながら「ありがとう。」と言った。すると、「またなあ。」と彼は言った。・・・ココロに暖かい風が流れ込んだ。別に彼女になれなくたってかまわない。彼のとなりはパラダイスだから、ただ一緒に遊んだりできればいい。そう思っていた。でも、それは微妙で、楽しくも苦しいことだ。限りなく自由を感じられたけど、それゆえリスクを伴うことなんだ。
2005.12.17
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どういう顔をしたか、ちゃんと見ることはできなかった。「・・・ごめん。やっぱオレ彼女大事だし、いま女より、趣味とかそういうことに興味がいってるから、どんなに美人や性格のいい娘が現れても替える気ないんだ。ごめんね~。」彼はハッキリスッパリ言った。(でもナンパやHはしょっちゅうしてるくせに。)と思ったけれど黙っていた。「ごめんね~。」彼はもう1度謝った。「・・・先に出会ってればな~。」ゆかちゃんより先に出会っていれば、あたしを彼女にしてくれたということか?とにかく、あっけなく砕け散った。こういう展開のあと、どうすれば良いか解らなくて始発までまだ長いし、家に帰って一人になるのもイヤだったし、どうしよう・・・と思っていると、「この後どうする?もう1軒行く?」と言うではないか。もう訳がわからないけど、「じゃ、こないだだめだった『花』に行ってみたい!」「おし、じゃ行ってみるか!」もう、ホントよくわからない。このオトコ。『花』は、もう終電もとっくに過ぎた時間だったのですんなり入ることができた。民家を改造してある内装は落ち着いていて、小上がりも床に照明が入っていてふんわりと光っている。特製サラダとか芋餅のそぼろ煮とか生麩の田楽とか料理も美味しかったし、器や演出も凝っていた。・・・何を話したろう。昔の恋愛話もしたかな。彼の前のお父さんの話も聞いた気がする。悲しい気持ちと楽しい気持ちがごちゃまぜだった。バッティングセンターにも行った。スラリとした彼のスウィングをネットの後ろから見た。彼は幼い頃は、少年野球をやっていて、今もヤクルトファンだった。あたしも挑戦したら、彼より打ってしまった。結局ホテルにも行った。「カラオケでもする?」彼がそう言うので、歌うことにした。彼は日本の歌はサザンくらいしかわからないらしい。洋楽とサザンばかり歌った。あたしはmisiaや椎名林檎を歌った。林檎ちゃんの『歌舞伎町の女王』を歌ったら、「オレのおふくろ、この歌みたいなんだ。」と言って、お母さんの生い立ちを話してくれた。九十九里出身なこと。2回結婚し、2回離婚したこと。最近まで新宿のキャバレーで働いていたこと。(じゃあ、岩崎くんは『歌舞伎町の女王の息子』か。)そんなことをボンヤリ考えていた。ひとしきり歌って疲れたので眠ることにした。「オレのカラダ好きにしていいよ。今日はひろちゃんのダッチワイフね。」・・・そんなことを口走るアタマの中は、どうなっているんだろう。おどろきだが、それが彼のやさしさだった。それに、確かにあたしは、ぬくもりを欲していた。半分眠りに落ちながら、「ツラいだろ、ごめんなぁ・・・」と彼は言った。(そんなこと言われたほうがくるしい)と思ったけど、これも、彼なりのやさしさなんだろうと思った。1秒1秒が、悲しくて、嬉しくて、生々しくて、壊れそうだった。
2005.12.16
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7月。『ハレルヤ』の2階でお酒を作ったりビールジョッキを洗っているときには、よく階下の調理場の様子をうかがっていた。すると、フライドポテトを揚げている岩崎くんの腰から下あたりが見えた。あたしが打ち込んだオーダーを、彼が調理場で読み上げているのに聞き耳を立てたりもしていた。そんな自分に気づいてしまい、だんだん、気持ちが胸の中からあふれそうになってきた。ある日、前回からかなり日にちもたったので、意を決して岩崎くんを飲みに誘った。彼は、楽しげに「うん、行こう!」と言った。『24TH STREET』で彼はギネスとかピンクジンを飲んで、あたしは、スクリュードライバーとかカルアミルクを飲んだ。店長のみっちゃんやきょうこちゃんと、最近おもしろかった映画や好きな音楽や近所のおいしいお店について話しひとしきり盛り上がった。でもあたしは内心、いつ言えばいいのか気を揉んでいた。でも、顔見知りの人がいる店の中では言えないし、言いたくない。だから店を出て歩きながら、ついに彼に言った。「あたし、岩崎くんのこと好きになっちゃったみたい。」
2005.12.15
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6月は、若いのにしっかりものの松島さんと、清水さんの誕生日があった。今回は、大丸でマキシムドパリのケーキを買ってお祝いした。ホールの人達は、自分が夜からのシフトの時も、気がむくと早めに来た。そして、昼から働いている休憩中の人達と2階でしゃべったり、一緒にご飯を食べたりしてとても仲が良かった。岩崎くんは、他の調理場の人はだれも2階で昼食をとらないにもかかわらず、いつも、スポーツ新聞を読みながらお母さんの作った弁当を食べていた。そして弁当箱を洗ってから、調理場の人達が昼寝をしている、地下の休憩室へ降りてゆくのだった。でもある日、なにか感じることがあったらしく、次の日から急に、他の調理場の人達と同じく食材倉庫の部屋で昼ご飯を食べるようになった。別に昼休みにしゃべったりはしてなかったけど、接点が減ってさみしかった。・・・なんだかもどかしい気持ち。あたしにとって岩崎くんと遊んだ日は、人生で一番、めくるめくように楽しい日として輝いていた。だけど岩崎くんは、誰とでも楽しく過ごせちゃいそうな人だから、別にもう、あたしと遊ばなくても平気なのかもしれない。そんなことを考えていた。
2005.12.14
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岩崎くんと食事して、お酒を飲んで、ホテルに行く。そんなフルコースな一夜は、あたしの身体と魂を芯からジンワリと暖めてくれた。彼に対しては、今まで誰かを好きになったときのようなトキメキを感じていなかったので、恋とは違うと思っていた。隣にいると、あまりにも安心してしまう。なんだかなつかしいような、いつか家族だったような、そんな感じがした。(きっと前世で親しかったんだ)勝手にそう思っていた。だから、ゆかちゃんの話をされても特別嫉妬も感じなかったし、あたしが彼を独り占めしたいというような欲望もなかった。それに彼の最大の魅力は、何にも縛られていない、自由なところだったから。・・・でもこの頃になって、だんだん気づいてきた。これも恋なんだってこと。絵の学校は週3回あったけれど、『ハレルヤ』のバイトが充実してしまって週1~2回しか行けなかった。それでも、描きたいときに行けばいいような自由な学校だったので、細々と続けていた。コスチュームデッサンやヌードデッサン、はなやかな衣装を着たモデルさんをえがくファッションエスキース、それと、人物水彩をやっていた。やはり、いちばん難しいのはヌードデッサンだった。自分が女だからか、男の人の身体はとても難しかった。先生の好みでモデルはみんな痩せ型で、ほぼ直線に近い線と急激な曲線、その組み合わせでできていた。それに対し、女性は細身でもゆるやかな曲線だ。絵を描くのは気持ちよい。合理的な物事をこなす左脳の働きを完全にお休みさせて、右脳を大活躍させてあげる。自分の感じたことを感じたまま表現しても良い時間だった。
2005.12.13
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フロあがりに缶ビールを飲んで、キスをした。岩崎くんは、最初の夜から遊び人でエロオヤジだったけどコンドームは必ず付けた。つけたくない素振りもなかった。だから、そういう点では信用していた。あたしは、今日こそうまくいくようにと念じていた。そして、誘われるがままベッドに倒れ込んだ。彼は胸や髪に触れ、額や肩にキスをした。ただあたしは流れに任せて、身も心も開放した。彼のリードにあわせていろいろな体位を試した。sexはスポーツみたい。呼吸が速くなってきた。途中で、攻めに堪え難くなってきて「・・・ちょっと休憩」と言ったけど、「ここでやめるとダメになっちゃうよ。」と言われ、確かにそうなので、ギリギリまで頑張ることにした。彼も息が荒くなってきて、疲れ果てたかなと思った頃、「・・・もうそろそろイキそう」と、彼が言った。そして、彼の動きが止まり、身体を重ねて深呼吸をした。・・・岩崎くんは知らないけど、男の人があたしの中で果てたのは、これが初めてなのだ。
2005.12.12
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「じゃあ、さっそくフロはいるか!」岩崎くんが躊躇なく素っ裸になって、風呂場にむかうのであたしも、いそいで服を脱ぎ捨てて追いかけた。最初はふつうに並んで、波立つお湯にうたれていた。「・・・こっちへこいよ。」かれは、湯に横になりながらそう言った。(さすが3ケタ・・・リードの仕方が慣れてるよ)余計なことがアタマをよぎったが、あたしは彼の足の間に座り、彼の上半身によりかかった。彼は遊び人だから、きっといろんな女の子とこんなことしたことあるんだけど、そう解っていても、キュンとした。彼の体温と感触は、あたしには最適らしくつま先から頭の上へ、生命力が駆け抜けていった。生きている歓び。いままで感じだことのない、生きていることへの肯定感のようなもの。彼の隣にいると、彼に触れていると、そういうものを感じることができるのだ。2人とも湯だってきたので軽く体を洗ってあがった。「今日は思い切りいくよ。」彼は言った。あたしはちょっと不安がよぎったけど受けて立つぞと思った。
2005.12.11
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あぁ、なんだかとても気持ちがいい。6月の生暖かい空気のなかを、手をつないでふわふわ歩いていた。「今日は、こないだよりいいとこ行くよ。」彼はそう言って、いくつかホテルに入って値段をくらべた。通りのいちばんはずれにある『PASEO』が「ここ、値段が手頃なわりにいいんだ。」と、岩崎くんのいうように、きれいそうなのにそれほど高くない。「じゃ、ここにしよっか!」そう決めてから、コンビニに缶ビールとミネラルウォーターと夜食を買いに行った。そして「ジャグジー付きの部屋がいい!」そう言ってタッチパネルにふれた。部屋は、さすがに前回よりも広いしステキだった。まず泡風呂ジャグジーに入らねばならないのでさっそくお湯をためた。このフロはすごいことにライトが七色に明滅するのだ!すごい、ラブホは遊園地みたい。
2005.12.10
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次に、繁華街のはずれにある『24TH STREET』に行った。女性バーテンダーがかっこいいショットバーだ。彼は常連らしく、店に入るなり「ノリ~っいらっしゃい!」と、景気良く声をかけられた。シックでやわらかい雰囲気のインテリアで、気取らずにカクテルが飲める。わたしもこのお店が好きになった。彼は、よく通る声で楽しげにしゃべっている。そして、彼はギネスをのみ、ピンクジンをのみ、オールドグランダットをのんだ。あたしはスクリュードライバーをのみ、ズブロッカをのみ、ウーロン茶をのんだ。なんだか胸の辺りが熱くなってきた。触れていなくても、彼とつながっているような気がする。でも、気のせいではなかった。
2005.12.09
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「次、どこ行こっか?」2人は酔っぱらって、いい気分で店を出た。ゲームセンターの横を通りかかったとき、岩崎くんが、突然「こっちこっち!」と腕をひっぱった。何かと思ったら、迷うことなく『電車でGO』へ直進だ。「ひろちゃんもここ座んなよ。」あたしを横にすわらせると、100円を入れ、『209系京浜東北線快速』を選んでスタートボタンを押した。「ブレーキよ~し。」「制限速度よ~し。」と独特の節回しで音声と一緒になって発音し、指差し確認をしている。品川を発車した。途中の制限速度もひとつひとつちゃんと守った上で停車時刻を守らなければならず、もちろん停車位置もずれてはいけないから、とてもむずかしいと思った。次の田町に停車の際、かなりの時刻オーバーで減点され、そのあと制限速度違反で減点され、浜松町に辿り着く前にゲームオーバーになった。そんな感じですぐ終わっちゃったのに彼はとても楽しそうだった。「ひろちゃん小銭貸して!」と言って続けて3回チャレンジしたが、新橋あたりまでしか行けなかった。・・・それでも岩崎くんは、多いに満足したらしく、「よし、じゃっ次行こうか!」と元気よく立ち上がった。このときはまだ知らなかったけど、彼は「よっぱらい」で「エロオヤジ」なだけでなく、「電車オタク」でもあるらしい。
2005.12.08
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『ワンサカンサ』は、手頃な価格だけれど美味しいお店だ。岩崎くんは、料理をとりわけてくれた。そういう男の人とデートするのは初めてだった。でも気が向いたときだけのようだ。そしてシェフだから料理についていろいろと説明してくれた。隠し味に入っているものも言い当てるので、さすがに敏感な舌先だなと思った。いいイタリア料理店の見分け方も教えてくれた。ガーリックの匂いがきちんと漂っているお店だそうだ。でも、彼は好き嫌いがあった。ネギやタマネギが苦手らしい・・・料理人なのに。いろんな料理に使われているのに。そして彼はチーズが好きだ。イタリアンでなくてもチーズを使った料理が1品あると落ち着くという。あたしもチーズが好きだ。でも、彼はなによりお酒が好きだと思う。大人になってお酒を飲み始めて以来、飲まなかった日はないと言う。事故って入院した日も、ビールは飲んだという強者だ。そして、デザート代わりに『グラッパ』という、イタリアの焼酎を飲んでいた。・・・あたしもたくさん飲めたらいいのにと思う。そうしたら、いつも彼と同じくらい楽しくいられる。
2005.12.07
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花園神社を抜け、四季の道のはずれに、たいていの人が見逃してしまうくらいさりげなくその店はあった。普通の民家で、ちいさな看板だけが光っている。『花』という、京料理居酒屋なのだそうだが、人気ゆえ、すでに満席だった…。「・・・じゃあ、新宿御苑にある、フレンチに行ってみよう!」一駅だけれど、岩崎くんはタクシーを拾った。新宿1-1-1、大木土門前にあるそのお店は『パークカフェ』と言う。雑誌でも見たことのある、新宿御苑を見渡せる、有名なフレンチレストランだ。…しかし、入り口には「空調機の修理のため臨時休業」・・・定休日でもないのにお休みだった。こんなこともあるのか。「…じゃあ、やっぱイタリアンだったな・・・。最初からひろちゃん言ってたのにな。」さすがの岩崎くんも、良かれと思って連れて行った店が2軒つづけてダメだったことにショックを隠しきれなかった。「どうする?また新宿三丁目の駅まで戻るんだけど、タクシー乗る?」「いいよ、そんなに遠くないから歩いて行こうよ!」あたしは、別にショックじゃなかった。新宿の街を見ながら岩崎くんと歩くのは楽しかった。「ひろちゃん、ぜんぜん怒んないんだな。」彼は、意外そうに言った。こんなことになったら、女の子が機嫌をそこねると思っていたようだ。そうして、待ち合わせ場所の目の前にあったセゾンプラザの『ワンサカンサ』に入った。…その日は、イタリアンから始めることになっていたようだ。
2005.12.06
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ある日、丸ノ内線荻窪行きの最終電車で一緒に帰っていたら、「今度の給料日来たら、おいしいもの食べに行かない?」と、岩崎くんが言った。彼のほうから誘ってくれるのは初めてだったのでとてもうれしかった。「うん。岩崎くんおいしい店いっぱい知ってそうだね。」休みを合わせて、6月の第2週の木曜日に約束をした。・・・それを楽しみに、ウキウキ元気な毎日を過ごしていた。木曜日の夕方、新宿三丁目駅で待ち合わせた。彼は、女の子とデートなんて数えきれないほどしているはずなのに、いつもの態度と違って、初々しくちょっと照れくさそうに登場した。「ひろちゃん。フレンチ・イタリアン・和の中でどれが食べたい?」「イタリアン!」と答えた。食べるといちばん元気になる気がするので、お店に入るときは、イタリアンが多かった。「そうか。おれもイタリアン大好きだな。」そういって地上に出て歩き始めた。けれど、彼はまだなにか考えているようだ。「・・・うーん、でも和のお店でいいとこあるから行ってみない?」「うん、いいよ。」「そうか?じゃあこっち!」やっと、迷いなく、元気に歩き始めた。・・・彼のとなりにいると、世界中が色鮮やかに見えてくる。ふしぎだった。
2005.12.05
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東京駅という場所柄、ゴールデンウィークの『ハレルヤ』は、旅行客などの家族連れが多かった。店内には、お酒のお客さんでにぎわっているときには、全く聞こえなかったBGMが、穏やかに流れていた。あたしは、5月から丸ノ内線で通うことにした。中央線よりも10分ぐらい時間がかかるが、行きも帰りも座れるし、運賃も安かったし、丸ノ内線は、絵の学校に行くときに使ってるので、その交通費も浮く訳だ。考えてみると、なんで今まで丸ノ内線で通っていなかったのだろうと思えてきた。でも本当の理由は、それではないことは自覚していた。…岩崎くんとしゃべりたいからだ。『ハレルヤ』では、調理場の彼となかなかしゃべることはできなかった。でも、丸ノ内線にしたからといって、調理場とホールでは帰る時間が微妙にズレることも多くて同じ電車になるとは限らなかった。ある日、ホームのベンチで電車を待っていると岩崎くんが階段を降りてこちらの方へやってきた。「あれ?ひろちゃん。どうしたの!?」「うん、丸ノ内線で帰ってるんだ。」電車が来て、6号車に乗った。岩崎くんもあたしも最後尾あたりに乗るのが便利だった。「えっ、でもなんで?」「…岩崎くんと一緒に帰りたいからさ。 それに学校に行く交通費も浮くし、 JRより安いんだ。」本気のような偶然のようなふりをした。どうせわかってるだろうけど。
2005.12.04
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…あたしは彼の耳たぶを触り、首筋を触った。濡れてくると、彼は、指でこころみた。「痛くない?」彼は聞いた。「うん。大丈夫。」さらに指を動かして「どう、痛くない?」と聞いた。「うん。」「・・・あ、いた。」入り口付近でちょっと痛みを感じた。あたしは彼のあそこを愛撫した。「・・・痛くない?」「うん。きもちいい。」だいぶ濡れてきたようで「どう、入れてみる?」「・・・うーん・・・」まだ、自信がなかった。濡れていても、いざ本番となると緊張してうまく行かないことが多かったから。それて、一度痛いと思ってしまうと、もう、緊張がとれなくなってしまうのだった。「今日はこれくらいにしとくか。」彼は、すぐに引いてくれた。なんだか申し訳ない気持ちになって、お返しにあたしも手で試みた。・・・そうして、その夜は眠りについた。それでも、やっぱり、彼のエネルギーはあたしを果てしなく自由にするようだった。
2005.12.03
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初めてうちに泊まりにきた岩崎くんは、「・・・まあまぁ、いい部屋じゃん。」と、泊めてもらう身分としてはそんなことを言った。缶ビールをちょっと飲んで、布団に横になりながら深夜のお笑い番組を見ていたが、「明日仕事だし・・・もうそろそろ寝なきゃな。」と言って、テレビを消した。・・・すんなり寝るのかと思ったら、彼は、わたしの胸に触れ、性器に触れてきた。そして軽くキスをした。だからあたしも彼のに触れてみた。彼は、学生時代付き合った男の子とは違って、どうすれば女の子が感じるのかわかっていた。(さすが3ケタ)と思ったけれど、攻めてくる指先に、声をもらした。彼は、わたしの濡れ方が少ないのを感知すると今度は舌先を使って愛撫してきた。・・・経験したことのない快感が身体を走った。
2005.12.02
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銭湯通いは面倒だけれど、ジャグジーや気泡風呂もあるので、とても疲れが取れる。ヘトヘトで、「帰ったらすぐ寝よう。」と思っている日でも、元気になって眠気もすっかりどこか行ってしまう。あたしが女湯から出てくると休憩所で岩崎くんはスポーツニュースを見ていた。彼はヤクルトファンだ。今日は岩本の逆転タイムリーで勝ったので、ごきげんだった。湯上がりのポカリスエットを飲みながら、暗い夜道に出た。「‥やっぱでかい風呂は気持ちいーな。」「ねっ、そうでしょ?」などと言いながら、上機嫌で歩いていると「そうだ!彼女に電話しなきゃ。」と彼が言った。毎日、彼女が家に着いた頃、電話する決まりになっているらしい。「携帯貸してくれる?」彼は、わずらわしいからと言ってまだ携帯を持っていなかった。・・どうやら彼女はまだ家に着いていないらしく、留守電になった。「もしもしゆか?今日、高倉さんと森田と飲んだあとサウナに泊まることになったんだ!ひさしぶりに入ったら、すっげー気持ちいいのなー。じゃあおやすみー!」(!?)いかにもありそうなウソが、あまりにもなめらかに出てくるので驚いた。そして、あまりにも自然な演技に唖然とした。‥高倉さんと森田さんは、彼と一緒に調理場で働いている仲間だった。(こんな上手に嘘つかれたら、見抜けないかも…)と思った。「そんなに上手に嘘ついちゃっていいの?」「あぁ、・・・オレなりのやさしさな。」ウソでも、彼女を安心させるのが岩崎くん流のやさしさと言いたいようだ。でも、岩崎くんがこんな男だということは同い年の女なら、わかってるんじゃないだろうか?今日の嘘が見抜けないとしても。
2005.12.01
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