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翌日は、「他に予定もないし、ひろちゃん、せっかくだから行ってきなよ。」と言う佐藤さんをホテルに残し、ひとり初ダイビングにでかけた。一緒に体験ダイビングする女性2人とインストラクターさん2人と一緒にウェットスーツを着て、ボートで沖に出た。ダイビングに興味をもったのは、岩崎くんが、好きで何回も潜ったことがあるという話を聞いたからだ。夜の酒場が似合ってる彼のイメージからは掛け離れているので、最初は(ホントかよ?)と思ったのだけれど。どうやら、バンド仲間の佐野くんが、インストラクターの資格を持っている人らしくて、その影響のようだ。佐野くんは、夏まで沖縄に住んでいたが、それは海や魚が大好きだかららしい。あたしは、海沿いの街に生まれ育ったけれど海より山に慣れ親しんでいた。案の定、他の二人が既に深いところまで連れていってもらえているのに、あたしは、なかなか『水の中で酸素ボンベから気体を吸い込む』ということが出来なかった。吸い込むとき、どうしても、くわえているモノを放してしまいそうになり、その度に、溺れそうになった。・・・っていうか、浮かびすぎないように重りをつけていて、海面すれすれくらいにしか顔がでないので、非常に苦しい。インストラクターのおねえさんも、困っているようだ。でも、せっかくバリまできて体験ダイビングをしているのだから、このまま海面をウロウロして終わる訳にはいかなかった。終了間際、なんとかボンベから呼吸ができるようになり、もう一人の現地インストラクターさんが、最も近いポイントまで連れて行ってくれた。・・・何メートルくらい潜っただろうか。大きな岩のまわりを熱帯魚が泳いでいる。インストラクターさんからもらったエサを手にしてみたら魚達が近くまで来て、ついばんでくれた。海中に慣れ、なんだか気持ち良くなってきた頃、浮上する時間になってしまった。水圧が気持ちよさの原因だろうか?ランナーズ・ハイみたいに、ダイバーズ・ハイ。・・・ダイビングがやみつきになるというは、きっとこの感覚なんだろうと思った。そのカケラでも体感できたので、やって良かったと思った。
2006.01.31
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夕方からは、最初から「バリにいったら、行こうね。」と話していたスパに行った。全身マッサージとヘアパックとフラワーバス。マッサージは非常に気持ちがよくて佐藤さんは眠ってしまっていた。・・・まぁ、でも日本でもこういうのはあるかなと思った。値段はもちろん、バリのほうが格安だけど。
2006.01.31
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翌日、朝食前にふらっと中庭を散歩した。あたし達の泊っている部屋のテラスから直接つながっているが、庭はどこまで広がっているのか見当がつかないでいた。足を踏み入れると、そこには、南国の緑や色鮮やかな花が咲き乱れていた。スプリンクラーがあちこちでヒュンヒュン回っており、水しぶきが日の光にキラキラ輝いていた。従業員の姿はほとんど見えないけれど、手入れが行き届いていて、どこかの城の秘密の庭みたいだな・・・と思った。遺跡のような石造りのトンネルを抜けても、まだまだ向こうまで広がっているようだ。端まで行くのは、また後にして朝食のレストランに向かった。入り口で、従業員のバリ女性がにこやかに出迎えてくれた。バリの女性は小柄で華奢な人が多いようだ。そして目鼻立ちがはっきりしているので、とても綺麗だった。155センチのあたしより、明らかに小さい人がいっぱいいた。テラス席で睡蓮を見ながらの幸せな朝食の後、なんだかフワフワ夢心地だったが、せっかくなので、ホテルのプールに行くことにした。最初にもらった敷地内の地図をたよりに朝散歩した中庭を、さらに進んでいくと、いくつものプールと、吹き抜けのカフェなどが点在しているのが見えた。そして林の向こうは、海のようだ。ひろびろとしたプールに一通り入って、海の方に行くと、そこはどうやらプライベートビーチらしい。ホテルのお客さん専用だ。「すごいよねぇ!」「さすがバリだねぇ!」あたしたちは、まったくの庶民なので、『プライベート・ビーチ』と言う響きでなんだかうっとりした。木陰のデッキチェアで、どこまでも広がっている蒼い海と空をながめていると、もう、東京での煩雑な出来事が遥か遠い日々のようだ。
2006.01.30
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バリ舞踊はいろいろな種類があるらしいが、レゴンダンスは、たぶん、日本人の多くが『バリ』と聞いて思い浮かべるアレだ。ガムランの演奏が鳴り響く中、照明に映える色鮮やかな衣装をつけたダンサー達が登場した。若い女性達の群舞、少年のソロ、男女ペアなど、様々なバリエージョンの踊りが繰り広げられた。特に女性の群舞は、目や指先の表現や腰の使い方などが非常に独特で、妖艶な美しさだった。バリ女性の大きな目が、さらに舞台化粧で際立っていてその目の動きに吸い込まれそうな気がした。最後に、支配人のような男性が挨拶したが、驚いたことに、まず日本語でしゃべりだした。その後で、インドネシア語、英語で同じ内容を繰り返した。(なんで、現地の言葉でも、世界的公用語の英語でもなく日本語が最初なんだよ!?)と、ちょっとガッカリした。日本人が圧倒的な顧客だから、サービスの一環としてそうしているのだろうけれど、せっかくバリにきてるんだから、あまり身近に日本を感じたくないなーなどと贅沢なことを思った。しかし、レゴンダンスを観ることができて、『バリの伝統』としてだけでなく『舞踏』としてもすばらしかったので、とっても満足な一日だった。
2006.01.29
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2日目は、オプショナルツアーでウブド方面を見て回る予定だ。サトゥラさんがホテルのロビーまで迎えにきてくれて、白いワゴンに乗り込み出発した。ヌサドゥアからウブドまでは、車で約1時間の道のりだった。昨日到着したデンパサール空港の辺りも通った。別名はングラ・ライ空港というのだが、その由来となった、英雄ングラ・ライの像が高くそびえていた。昨日は夜だったので、よくわからなかったが、今日は、通勤通学の車や自転車、バリの普通の街並がよく見えた。途中、2~3軒の工房とお土産店に寄った。(オプショナルツアーに最初から組み込まれている。)佐藤さんは、最初に入ったろうけつ染めの店で、すでに家族や友達への品をいっぱい買いこんでいたので、(買いすぎちゃない?大丈夫かな?)と思ったが、どうやら、親兄弟や甥姪まで親戚一人一人に買っていってあげるようだ。佐藤さんの家はあたし達の年代ではめずらしく6人兄弟だった。あたしは、いまいち欲しいものがないけれど客1人に店員1人がぴったり張り付いているので、しかたなくTシャツを1枚買った。銀細工のお店では、プレスレットやかわいいデザインのピアスなどがあったので、いくつか買った。「でも、明日や明後日お土産買えるかわからないじゃない?」と言う、佐藤さんにつられて3軒目の土産店では、バリコーヒーや木彫りやパリ煙草など、手頃な土産をいろいろ買っておいた。ウブドでは、まず、バリ絵画のアルマ美術館を見学した。遠近感は無視気味だが、細密絵のような、省略しない丁寧な描き方が特徴のようだ。絵も良かったが、美術館の建物や中庭が独特の建築で心惹かれた。次にモンキーフォレスト(猿が放し飼いにしてある)を見学して夕食には、ライスフィールド(要するに田んぼ)が見渡せるレストランでとった。最後は、一番楽しみにしていたウブド宮殿でのレゴンダンス見学だ。
2006.01.28
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だって、高倉さんは40代後半で吉本さんの父親くらいの年齢だったのだから。それに高倉さんには、妻と成人した息子がいる、と聞いてた。吉本さんは、かなり痩せ型だが、キビキビよく動きパワフルに仕事をこなし、性格もサバけていて同性としては、とても友達になりやすいタイプだった。そう言えば、半年くらい前だろうか。彼女に、1つ年上の彼の写真を見せてもらったことがあった。あの彼とは、もう別れちゃったんだろうか。確かに、高倉さんは寡黙で、ほっそりスタイルが良く、同世代の中ではとてもモテそうなタイプだった。でも、あの颯爽とした吉本さんが、よっぽど現実味のある、歳も近い独身の、カッコいい彼氏と別れ、20歳も年上の妻子持ちと恋愛関係になっているとは、にわかに信じられなかった。「うっそぉ~!しんじらんない~!ヨッちゃんのお気に入りは菅野さんじゃないの?高倉さんとしゃべってるのとか、見たことないし。」「でもねぇ、ヨッちゃんがシフトに入ってて、朝のまかないを高倉さんが作る時、すごく豪華だし、絶対魚は出さないんだよ。」吉本さんは、魚が全くダメだった。錦糸町でバッタリ出くわした時、佐藤さんがいるのがわかると2人は隠れようとする素振りを見せたという。「それ以来、なんだかあたしににこやかに挨拶するようになったんだよ、高倉さん。今までそんなことなかったのに。」・・・そうなのか。それは、やっぱり暗黙の了解でヒミツにしてほしい関係なのだろうから、ホントなんだろうな、と思った。「絶対、ヒミツだからね。」うん、と、あたしはうなずいた。
2006.01.27
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あたしたちが泊るのは、『ヌサドゥア・ビーチ ホテル&スパ』というところだった。ホテルのある、ヌサドゥアのその一帯はまさにリゾート地!という感じに道路も整備され、一糸乱れぬ清潔感であふれていた。さらに、ホテル敷地の入口には踏切のようはバーがおろされており、ガードマンが1台ずつ確認して中に入れるしくみになっていた。ホテルのロータリーにはバリ伝統の『割れ門』が高々とそびえていた。広々としたロビーでチェックインをすませ、サトゥラさんと別れて、従業員さんの案内で部屋に向かった。ロビーには何組か人がいたけれど、廊下ではぜんぜん他のお客さんとすれ違わなかった。滞在中ずっとそうだった。決して人がいない雰囲気ではないのだけれど静かで上品だけれど心地よい開放感にあふれていた。大金持ちの隠れた別荘とか、こんな感じかもしれないと思った。あたしたちの泊る部屋は、一番ランクの低い部屋だったけれど、それでも日本に比べたら、とっても広々とした間取りでテラスからは庭園がよく見えるし、充分大満足だった。長旅で疲れてはいたが、明日からの予定や、『ハレルヤ』の噂話で、横になってからも1時間くらいは話していた。びっくりしたのは、新入社員の吉本さんと調理場の高倉さんが腕を組んで歩いているところを佐藤さんが見た、という話だった。
2006.01.26
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行きは、ガルーダ・インドネシア航空の直行便なので、約6時間の空の旅だ。お昼過ぎに成田を出発した。飛行機嫌いの人にとっては、イヤなものだと思うけれど、離陸って、ワクワクする。いよいよこれから南の島に行くんだという高揚感をかきたててくれた。機内には、我々のような日本人女性のグループが多かった。見るからにサーファーのカップルは、シートベルト着用サインが消えると横並びの空席に横になって眠ったりしていた。機内食がくばられたり、ガイドブックを見て計画を立てたりしゃべるのにも疲れて、2人ともウトウトしていたら、ようやくデンパサール空港に到着した。空港の外に出たら、辺りはすっかり夜だった。HISのシャツを着た添乗員さんが何人かいたが、あたし達を担当してくれるのは、サトゥラさんという笑顔がステキな男の人だった。車に乗り込み、その日はホテルに直行した。
2006.01.25
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もう、ぜんぜんバリ行きって気分じゃないし、荷造りも全くしていなかったので、あきらめて有給の間、家で寝てるのもいいな・・・なんて思ったが、それではあまりにも佐藤さんに申し訳ないのでなんとか必死で荷造りして、電車に乗り込んだ。京成の急行で佐藤さんとおちあい、旅は始まった。昨日から今日にかけての出来事を簡単に説明して、「岩崎くんて、性格悪いよねー。」などと、佐藤さんがのんびり言うのを聞いているうちに少し気分が治まってきた。以前、ヨーロッパに行ったときは関空だったから、成田空港に行くのは初めてだった。空港って好きだ。普段は実家に帰る時、羽田ー千歳を利用しているが、国内線の空港でも国際的な気分になるから不思議だ。ここからどこへでも行けてしまう。いま、すぐそこにいた人が、数時間後には何千キロも離れたところにいる。そんな、果てしない感じが好きだった。成田空港は、もちろんメチャクチャ国際的なニオイがした。免税店がいっぱいあって、佐藤さんは、「あ、COACHだ!」と、さっそくチェックしていた。煙草も安くて、『ハレルヤ』の友人達にカートンで買っていってあげたい衝動に駆られたが、出発前なので、やめた。
2006.01.24
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煮えくり返りながら『ハレルヤ』から帰り、もう今日こそは岩崎くんに抗議しようと思って彼の家へ電話した。・・・どうやら、まだ帰っていないらしい。彼はお母さんと同居していて「おふくろは夜中は電話に出ないから、平気だよ。」と言っていたけれど、長くコールを続けるのは申し訳ないので5回で切った。しかし、どうにもこうにも怒りが収まらなくて翌朝6時台の電車でバリ旅行に出発しなければいけないのに、荷造りする気が起きない。ビールを1缶あけて1時間後、もう1度電話したら、岩崎くんが出た。「あのさぁっ、呼び鈴長鳴らしするの止めてくれない?」「・・・だって聞こえてないとこまるじゃん?」のらりくらりとそんなことを言った。「!? ちょっと鳴らしただけでも、店のどこにいても聞こえんだよ! うちらだって、料理とりに行けるならとっくに 行ってるさ。 早く料理運んでほしいなら、 ジリジリ鳴らすんじゃなくて 店長に人数増やすように言ってよ!!」「オレがベルああやってならすのは 社員の男たちがもっとちゃんとやれって 思ってるからさ。 オレも昔、接客やってたことあるから。 もうちょっとうまく回せるはずだろ?」「・・・社員の男の人達なんて ホールの仕事アルバイトより出来ないんだから。 店長に怒られないように立ち回るだけでいっぱいいっぱいで、 うちらにシワ寄せがくるだけじゃん。 あのウルサいベルの音、お客さんに丸聞こえなんだよ。」 「ホント、もう絶対、あんなふうに鳴らさないでね。」「・・・イヤ、オレはならすよぉ。」「?!」・・・あまりケンカしたことがないので、怒りを表現する言葉がスムーズにみつからなくて頭が痛くなった。泣きながら、同じ内容を繰り返し訴えていたら、ようやく、「・・・あぁ、わかったよ・・・。」岩崎くんが折れたので、「・・・じゃあそういうことで。よろしく。」電話を切った。
2006.01.23
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『ハレルヤ』では、調理場で料理ができあがると、近くにホールの人がいないときなど、調理場の人は、呼び鈴を鳴らして我々に知らせるしくみになっていた。その呼び鈴は、自転車のベルみたいな感じでちょっと長く鳴らすと、かなり耳障りな音だった。数字しか考えていない店長によってホールの人員はどんどん削られているので、その日みたいに、ひとたびお客さんがいっぱい入るとどうにもこうにもお店が回らなくなった。おしぼりを出し、オーダーを受けビールを出し、3テーブルくらいまとめてオーダーを受け、他でも何組もお客さんが呼んでいるのを笑顔でなんとかかいくぐり、水割りやサワーを作りに行き、出し、お客さんを案内し、料理の注文を受け・・・。それでもいつもは、料理を運びに行くスキがみつかるのだか、究極的に忙しいときは、それすら出来なくなった。運ばれるのを待っている料理が、デシャップに乗り切らないほど並んでしまうこともあった。優しい菅野さんや一番若くて温和な森田さんは、いつも短く「・・チリん・・」とベルを鳴らすだけだが、岩崎くんは、誰も料理をとりにこれないと「ジリリリリリリリリリリリ・・・!」と、火災報知器のような鳴らし方をした。しかも、鳴らしたあとニヤニヤしている。状況を分かっているはずなのにジリジリならす彼の顔に、ベルを投げつけようかと思ったが、そんなヒマもとりあえずなかった。その日の帰り、ホールを代表してベルを川に捨ててしまいたい衝動に駆られたが、とりあえずお店の備品だし、冷蔵庫に隠して帰った。
2006.01.22
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彼女は学生時代から7年くらい付き合っていた人と去年別れたと言っていた。「わたし面食いだからさ、顔が良くないとダメなんだ。」確かにそのお酒の兄ちゃんは、スリムで今風な顔立ちをしていた。彼は、見た感じ20代前半で、年上好みの佐藤さんの条件にははずれていたけれど、佐藤さんは、彼が配送にくる時間帯になるとウキウキして、言葉を交わすのを楽しみにしているようだった。「ひろちゃんは?岩崎くんとはどうなの?」「・・・うん、ときどき飲みに行ってるよ。」岩崎くんとよく飲みに行くことは、話していたけれど、それ以上のことは、ヒミツにしていた。でも大人なので、敢えて口にしなくても、だいたい想像はついていたと思う。彼女のように、年上の兄姉がみんな結婚して、親からの期待もあると、プレッシャーだろうなと思った。それにくらべ、あたしは呑気なものだ。兄弟も結婚していないし、親も特になにも言わないし。まだまだ自由気ままでいたいと思っていた。水着なんかも買ったり、楽しく準備をしていよいよ明日、バリ旅行に出発だという日、ちょっとした事件(あたしにとって)が起こった。
2006.01.21
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有給を使って、『ハレルヤ』の朝番で働いている佐藤さんと、バリ旅行に行くことになった。ここのところ一緒にランチの2階を担当する機会が増えて親しくなったのだ。歳も3つ違いくらいで、同世代なので話しやすかった。もう夏ぐらいから「どこ行く?」「どこがいい?」とパンフレットを見て話していたが、「ヨーロッパ行きたいけど高いね。」「あったかいとこがいいな。」「やっぱ南の島がいいね。」・・・ということでバリに決まった。彼女は、『ハレルヤ』に来る前にも飲食店の経験があって、慣れているからか、あたしだと手首が折れそうになる重たい物も平然と運んでしまう、頼りがいのある人だった。結婚願望が強いため、どこかにいい男性はいないか、ということが目下の関心事だった。ブランドはコーチが好きで多分、彼女みたいな興味関心を持っている人が同世代の主流かもしれないな、と思った。新宿のHISに予約に行って、その帰りに近くで飲んだ。彼女は、『ハレルヤ』にお酒を配送しているお兄ちゃんに最近興味があるらしかった。
2006.01.20
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絵の学校に行った日は、少し早めに『ハレルヤ』に行って、お昼(と言ってももう夕方近くだけれど)を食べることにしていた。丸ビルができてからは、よく地下の食品売り場で買って行った。『ハレルヤ』に着くと、お客さんは少なめだったが、アイドルタイムの人員も減らされているので、みんな忙しそうだ。岩崎くんはいつも4時少し前から休憩時間なので、調理場には姿が見えなかった。2階に行くと、もう清水さんが来ていた。カッブ麺を食べて、食後の一服をしていた。清水さんはだいたいマルボロメンソールだった。あたしの知っている男の人でメンソールを吸う人は彼だけだ。もうすぐ5時になるので、清水さんもあたしも、5分前に来てちょっとだけ休憩していたウォンさんも階下に降りて行った。チラッと調理場を見るとまだ岩崎くんがいない。(おかしいな・・・)と思ってそっと彼のタイムカードを見てみると出社しているし、確かに休憩中だが、すでに1時間が過ぎていた。(なにやってるんだろ?)と思ったが、あたしが休憩室に行ってみる訳にもいかないので自分の仕事に入った。5分位して、慌てて岩崎くんがタイムカードを押しにきた。どうやら、寝過ごしたらしい。調理場の森田さんや田村さんが笑っていた。あたしは、料理をとりに行くときや2階でお酒を作っている時にチラっと調理場をうかがうクセがついていた。『ハレルヤ』では、面と向かって話せるチャンスはほとんどないし、帰りは調理場の方が早かったり、長々とお酒を飲みながら残っていたりして一緒に帰れるとは限らなかった。なんとなくしゃべりたいと思ってもなかなかそれがかなわない。一緒に帰らない日が続くと、ココロとカラダにストレスを感じた。ただ、ちょっと、となりにいたいだけなんだけれど・・・。はっきり用があれば「一緒に帰ろう!」と言えるのだけれど、あんまりしょっちゅう誘ってウザいと思われるのも怖かった。週に5日も一緒に働いているけれど、ときどき苦しかった。
2006.01.19
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「パンも食べる?」「・・・あぁ、そうだなあ・・・」食べるんだか食べないんだか分からない返事だった。そう言えば彼は、いつもはお母さんが朝食を作ってくれるのでヨーグルトや果物まで食べているらしい。そんな健康的な朝食はヒデのイメージからは想像できないけれど。しっかり食べていかないと仕事中にお腹が空いてしまうみたいだけれど、一緒に飲んだ翌朝はたいてい2日酔いで、飲み物だけだった。しかし、一応食べてくれた方が良いのでパンを焼いて、リンゴを並べた。なんとか起きだして台所で一服し、顔を洗って、コーヒーを飲んだ。アルコールの入っていないヒデは、とても静かだ。(ホントはけっこう暗い面もあるのかもしれない)と思った。結局、パンは半分くらい残して、もう行かなくてはいけない時間だった。駅の改札で「じゃあ、あとでな。」「うん。じゃあね。」と言って、ホームへ降りて行く彼を見送った。あたしはその日、家に帰って一休みしてから絵の学校に行って、夕方から『ハレルヤ』だ。(また夕方会うんだな…)と思った。
2006.01.18
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翌朝、寝付きは良いくせに寝起きはメチャクチャ悪い岩崎くんを何回も起こしながら、コーヒーを入れた。インスタントと違って、安い豆でもペーパードリップできちんと入れると香りがグッとくる。夜はお酒ばかりでコーヒーを全く飲まない彼だけど、朝は砂糖とミルクを入れて、わりと飲むらしい。そういえば、『ハレルヤ』でも喫茶タイムが終わると、カウンターの余ったコーヒーを調理場に差し入れるのが決まり事みたいになっていて、そのときは飲んでいるようだった。「オレは真にコーヒー好きだから、マズいコーヒーは飲まないんだ。水出しとか、ほんとにおいしいヤツなら飲むよ。」と言っていたが、どちらかといえば、酒好きの岩崎くんが安い酒でもなんでも飲みたいように、コーヒー好きと言うのは、キャパシティー広くどんなコーヒーでもあるなら飲みたいんじゃないかな、と思ったが、言わなかった。「もう9時半だよぉ。」そう言って、彼の上に乗っかった。「・・・うぅーん、アソコさわって~。」(なんだよ、エロオヤジ。)・・・さわったら朝立ち中だった。しかし、イチャついてる時間はなかったので、「もうそろそろ起きないと、チコクするよー。」と、腕を引っ張った。
2006.01.17
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「ひろちゃんも彼氏つくりなよ。」酔いが回ってきて恋愛話なんかになると、彼はそんなことを言うので、そのたびに「・・なら、合コンやってよ合コン。」と言っていたら、「・・・あぁ、わかったよ。そのうちな。」本当に彼は、合コンを催してくれることになった。「ねぇいつやってくれるの?」「う~ん、12月1月はいそがしいから、2月くらいな。」「ほんと?やったあ。」なんだかワクワクしてきた。「あたし合コン初めて。」「え、でも学生時代飲みに行ったりしたんだろ?それが合コンみたいなもんじゃん。」「そうかもしれないけど・・・ヒデは?合コンとかいっぱいやってそうだ。」彼は、バンド仲間や友達からは、『ヒデ』と呼ばれていた。『まさひで』の『ひで』。「まぁな。最近はさすがに控えてるけどな。」
2006.01.16
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「・・・今日、ひろちゃん家行っていい?」荻窪行きの電車に乗って、席に座ると岩崎くんが言った。「なんで?またお母さんとケンカでもしたの?」「・・・。あんまり帰りたくないんだ。」「いいけど、お金ないんでしょ?うちウォッカしかないよ。」「いいよ、ウォッカあるなら。コーラで割って飲むからさぁ。」コンビニに寄って、グレフルジュースとコーラとつまみとかを買って家に帰った。「なんか、音楽かけていい?」「いいけど・・・、夜だし隣につつぬけだから、小さい音ならいいよ。」「なんか音楽ないとさみしいんだよね。」「そうなんだ?いつもなに聞いてるの?クラプトンとかこないだ演ってたみたいなの?」「あぁ。他にもけっこういろいろ聞くよ。FM流してるときもあるしな。」「へぇ。」(そういえばあたし最近はなにも聞いてないな。)「おっ、山崎まさよしじゃん」CDの棚の見て岩崎くんが言った。ゆかちゃんも好きな山崎だ。結局、うちはJ-POPがほとんどなので、岩崎くんはラジオを流しはじめた。あたしは氷とグラスと、冷凍庫で冷やしているウォッカを用意した。
2006.01.15
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友達との連絡はあきらめたらしい。あたしたちをチラッと見たのに話しかけるでもなく、ちょっと離れたところに小学生みたいにしゃがんで電車が来るのを待っている。「岩崎が待ってるよ。オレももう電車来るし。」池袋方面の電車のほうが、先に来たようだ。清水さんは、岩崎くんのことが嫌いだけど、あたしが岩崎くんと仲がいいから気を使ってそんなことを言ってくれた。「や、でも友達と飲みに行くとかいってるからべつにいいんだ。」岩崎くんと仲がいいことがどれくらい知られているのかわからないけれど、2人だけでいるのを見られたのは、ホームのベンチで電車を待っているときに社員の中井さんに会ったのと、ロッカー室の外でしゃべっているところを、清水さんと、みんなに『オヤジ』と呼ばれている古谷さんに見られたのと、ロッカーから改札に行く途中で新入社員の梶原さんに会ったくらいだ。よく一緒に帰っている割には、見られていない気がするけれど・・・。清水さんには(岩崎のどこがいいんだか?)と思われてるに違いない。
2006.01.14
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「そうなんだー、じゃあね。」改札を入り階段を下りたら、今度は清水さんがいた。「あっ、清水さん!」「お疲れ~。」「あたしよりかなり先に店出ましたよねぇ、タバコでも吸ってたんですか。」「うん。北口の方に歩いて行くと、喫煙所があるんだ。だいたいそこで一服してから帰ってる。」清水さんはいろいろな意味で大人だった。お客さんの前ではいつもクールで的確な対応をしたが、ちょっと離れたところでは、涼しい顔をして辛口なことを言いまくっていた。彼は、お客さんの服装や造作や声やいつも何を注文するかまで実に良く覚えていた。圧倒的な観察力だ。あたしなんか忙しくなると、いっぱいいっぱいでお客さんの顔だってまともに見れなくなるのに。それと、彼に言わせると女性客はみんな『ババァ』だった。サラリーマンが圧倒的に多い『ハレルヤ』の客層だけれど、時にはきれいな女性客だってくるのに。彼のハードルはどこまでも高いようだ。女性に対しても食べ物に関しても好き嫌いが激しいので、なかなか簡単にはシアワセになれないらしかった。そんな気難しい一面を持つ清水さんだけれど、仲良くなった人達にはお兄さんのような、お父さんのような温かさを発揮したりした。たとえは、みんなにケーキを買ってきてくれた時、食べきれなくて持って帰る人のための、紙袋まで用意してくれたりした。まかないで鍋が出たとき、みんなの分を取り分けてくれたり。やっぱり、離れて暮らしてはいるけど1児の父だ。まるで子供をかわいがるような心の使い方だと思った。清水さんと今週の競馬の話をしていたら、岩崎くんがひとりで階段を降りてきた。
2006.01.13
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今年も『ハレルヤ』の甘いもの好きの人達でクリスマスケーキを食べよう!という話になった。カタログを眺めていると、どれもおいしそうで見ているだけでワクワクしてしまう。最終的に、清水さんと『モンサンクレール』のラ・ネージュ・ド・ノエルと『ヴィタメール』のサンバ、『ダロワイヨ』のブッシュ・ド・ノエルに決定して、予約した。ある日の帰り、丸ノ内線の改札の外で岩崎くんが立っている。公衆電話をかけていたようだ。岩崎くんは、未だに携帯電話を持っていない。あたしも去年持ったばかりだけれど「なんで持たないの~?不便じゃん。」と言ったら、以前、ポケベルを持ったときに新宿在住だから、夜の仕事が終わった女友達たちに気楽に呼び出されて、愚痴の相手をさせられたりして面倒くさかった・・と言っていたっけ。「なにしてるのー、帰らないの?」「あぁ、友達と待ち合わせてるんだ。」「飲みに行くのかぁ。なんだ、金あるなら今度から利子付けるよぉ。」「給料日前なんだから、あるわけないじゃんオレが。ヤツがオゴってくれるから行けるんだ。」「ふぅん。そうなんだ。」「毎年、地元のヤツらと忘年会やるんだけど、オレとヤツが幹事だから打ち合わせすることになってるんだ。」「忘年会とかするんだ?小中時代のお友達と仲いいんだねー。」「久しぶりに六本木で飲める予定なんだけどな。ここで待ち合わせたんだけど、まだ仕事終わってないのかな。オレ金ないから先行っちまうわけにもいかないし。」あたしは小中のお友達とは、もう全く付き合いがなかった。女友達に聞いても、そういう感じの人が多かった。しかし友達の彼は、今でも中学時代のお友達といちばん仲が良いらしいし、案外男の人のほうが、幼なじみと長く続いてるみたいと思った。
2006.01.12
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次の日、あたしは夕方から『ハレルヤ』の仕事だった。調理場を覗くと、岩崎くんの本日の持ち場は焼き場のようだ。焼き場を担当した人がまかないを作ることになっているので今日のまかないは岩崎くんが作ってくれるのだ。ホールは、春から入った学生の人達も慣れて、店長の突発的な思いつきや方針に翻弄されながらも仲間うちでは、それなりに楽しく働いていた。岩崎くんのまかないの日は、なんとなく塩分多めで油も多めの印象だったが、その日、作ってくれた白身魚のピカタのようなものは、程よい味で、とてもおいしかった。最近、清水さんはお金に困っているようだ。『ハレルヤ』以外で、単発バイトを紹介してくれる会社に登録して働いているようだが、交通費を節約するために、自宅のある池袋から、事務所のある新宿まで歩いたりしているようだ。ある日、「もし余裕があったら、1万円貸してもらえませんか。来週には返します。」というメールがきた。次の日、清水さんは休みだったが、駅地下のコンビニ前で待ち合わせた。「ごめんね、すぐ返すから。ありがとう。」そう言って、お金を受け取って帰って行った。清水さんって、「僕は幸せになってはいけない」と思い込んでるような顔をしているから、とても心配だった。彼は大丈夫なのかな。
2006.01.11
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まずは正常位、あたしを持ち上げながら腰高位、足を肩に持っていって屈曲位。今度はあたしが上で騎乗位、後ろから肘膝付位、緩やかに前座位・・・なかでも、あたしは肘膝付位が角度がいいみたいで痛くないし、いちばん気持ちいい。霊長類はみんなバックからsexするらしいから、あたしも動物だからなって思った。彼はほとんど声をもらさないけれどあたしは、我慢するとうまく感じられないみたいだから感じたまま声を発していた。ふたたび彼が上に乗りラストへ向かって、激しく腰を動かした。「・・・もうすぐイクよぉ!」「・・・うん、いいよ!」なぜだか彼はいつも教えてくれる。(あっ)イったみたい。彼の動きが急に緩やかになり、やがて止まった。抱き合ったまま、しばらく放心状態で彼の体温と心臓の鼓動を感じていた。やがて、締めくくりのキスをして起き上がった。sexって短距離走みたいだな。彼は終わった後、いつもギュッと抱きしめるか、キスするかして締めくくる。急に素っ気なくなったり、ぶっきらぼうに終わったりしたことはなかった。そのあたりが女心を押さえていて、さすがだと思った。
2006.01.10
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岩崎くんはコンドームを付けることを絶対忘れない。いい加減で適当な性格の彼において、その点は、意外なほどしっかりしていた。(もしかしたら、以前、何かひどい目にあったことが あるのかな。)余計なことを勘ぐってしまう。そういえば、こんな話をしていた。高校卒業してすぐ免許をとってバイトで貯めたお金で車を買った。ある日、お酒をたくさん飲んで酔っぱらっていたけれど、友達を送ることになって、運転したら帰り道に電柱に激突して、信号機がボンネットに落ちてきたそうだ。幸い本人は4~5日入院しただけで済んだけれど、それ以来、もう車の運転はしないと決めたそうだ。岩崎くんは、お酒は止められそうにないから、それは賢明な選択だと思った。そんなことを思い出した。彼がコンドームを器用に付けるところを興味津々な顔で見ていると「・・・なんだよー。」と彼が言った。
2006.01.09
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彼のペニスを手でさわり始めたら、「・・・ひろちゃん、舐めて。」フェラを要求してきた。「えぇーっ」ちょっと抵抗してみた。フェラは嫌いではなかったけれどあまり自ら進んではやらなかった。フェラでイカせてあげるのは、かなり疲れるし、「フェラ好きな女」と思われても困るから・・・。それに、あたし岩崎くんの彼女じゃないし、都合の良い女と思われるのイヤだし・・・。学生時代に初めて付き合った人とSEXしたとき、痛くてなかなか挿入できなくてそれで申し訳ないから、せめて口と手でイカせてあげたい・・・と思って始めたことだった。でも、あたしは挿入でイカせてあげたいし、イケるようになりたいと思っていた。岩崎くんのおかげで、かなり感じるようにはなれたけれど・・・。舌先でペニスの先端を弄んだ。フェラで満足されちゃったらヤだなと思ったけれど、岩崎くんが気持ちいい顔してくれるので少しくらいはご奉仕しようと思った。彼は、あたしの乳首やクリトリスを指先で翻弄する。その強すぎず弱すぎない触れ方が、あたしを気持ち良くさせた。ときどきヴァギナに触れて、「・・・もう濡れてきたじゃねぇか。」彼が言った。身もココロも開放する方法をあたしも覚えてきたみたい。
2006.01.08
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恋に落ちるというのは理屈じゃなくて、背が高いとか顔が良いとかお金持ちとかそういうことでもなくて、もう、運命づけられている気がする。「この人と恋に落ちるよ。」って神様が魔法をかけている気がした。あたしは常に彼氏をさがしてるタイプでもなかったし、性欲が高ぶってもいなかったし、でも彼と出会ってしまった。彼女持ちの彼と。フロ上がりの岩崎くんのビールを一口もらった。胃にキューっと染み渡った。彼の顔が近づいてきて、キスをした。彼が胸を触り、腕を回して抱きよせてきたのであたしたちはベッドに倒れ込んだ。彼の身体はいつも程よい体温をしている。ずっと触れていたくなるような気持ち良さだった。まだ濡れている髪にさわり、耳に触れ、頬に触れた。剃り跡からヒゲが生えかかっているところの触り心地が気持ちいい。イカリ肩で、肩幅のあるしっかりした骨格だけれど体の厚みはない。なんだかあたしと似ているな、と思った。「オレ乳首感じるんだ。」以前、そう言っていたのであたしは彼の乳首に触れた。指でかなり弄んでから、舌先で触れた。ほとんど声をださない彼の、声が漏れた。
2006.01.07
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「そうなんだー!?最初からベースだったの?」「あぁ。ボーカルもやってたけどな。ベースは弦が少ないから簡単だろうと思って始めたんだ。」そんな理由、岩崎くんらしいと思った。いつもみたいに、ラブホのお値段を何軒も見て回り、やっぱり『PASEO』に決めた。その先の職安通りのコンビニで、岩崎くんの缶ビールとチーズバーガーと二日酔い用のポカリスウェットと、あたしのジャスミンティとサンドイッチと抹茶プリンを買ってラブホに戻った。最初にフロに入ることにして、湯を入れ始めた。彼は、泡風呂にするのが好きで、よく備え付けの発砲する入浴剤を入れた。「これに入れば身体洗ったことになるしな。」(や、それほどの洗浄能力はないだろ。)と思ったが黙っていた。お湯がたまったので服や下着を脱ぎ捨てて、嬉々としてあたしたちは浴室にむかった。湯に入り、彼の身体に触れたら胸を貫き通すように、暖かいエネルギーが流れ始めた。彼と一緒にいるときにだけ起こるこの感じ。これが“恋に落ちる”という感覚なのかも知れない。そんなことを思いながら、向き直ってキスをした。
2006.01.06
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ネオンが鮮やかにキラキラ光っている。ある意味、人生の頂点だと思った。何も心配しないで、今だけを楽しみ尽くしている。好きな人と、見えない力で繋がっている感じ。人は、こんなにもあふれているというのにその中で本当にココロを許せる人と出会えるのは数える程しかないのだから。緩やかな坂道を下ったところで自転車を停めた。「この先は警察がよく2人乗り取り締まってるんだ。」(よく知ってるよなぁ・・・)岩崎くんはそんなところぬかりなかった。彼はバッティングセンターが好きだ。ラブホに行く前になぜかよく寄った。でも、好きな割に打率は低い。今日も3本くらいしか内野安打にならなかった。それでも楽しいらしい。そう言えば、早朝野球のチームに所属していて以前はときどき試合に参加してたって言ってたっけ。「オレ、少年野球の頃から守備のほうが得意でさ、バッティングがもうちょっと良ければよかったんだけどなぁ。」・・・たしかに。中学の頃は、陸上部で走り幅跳びをやっていたそうだ。「顧問の先生が専門的でさ。科学的なトレーニングを実践していてとても強い中学だったんだ。」そんなことを酔ったときに何回か話してくれた。「でも、途中で辞めちゃったんだ。」「なんで?」「リレーの練習をしていたときになんでか忘れたけど、すごくムカつくこと言われて先生をバトンで殴っちまったんだ。」(・・・マジで!?)岩崎くんは、きっといろいろ悪さしてきただろうとは思っていたけれど、暴力的なタイプではないので意外だった。「で、そのあと軽音に入ったんだ。」
2006.01.05
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『24TH STREET』を出て、靖国通りを歌舞伎町方面に歩き出した。途中で、置きっぱなしのような自転車が何台かとまっていた。「おっ、これ鍵かかってないじゃん。」1台、鍵の壊れている自転車を岩崎くんは目ざとくみつけて言った。そして、もう手をかけている。「なんとか乗れそうだな。」(うそ、乗る気なの?)とあたしは罪悪感がよぎったが、「ひろちゃん、後ろ乗って。」もう乗る気満々の岩崎くんに促されて、後輪のステッパーに立ち乗りした。あたしの重さと潤滑油が切れて軋む車体によれながらも、発進した。岩崎くんは、あれだけ飲んだ後なのにそれを感じさせない漕ぎっぷりだ。自転車のヨレ具合にあわせてあたしもバランスをとった。それを解っているかのような岩崎くんのバランスと相殺されて、滑るように通り抜けて行った。ドキドキした。まるでジェットコースターみたい。新宿の街は、あたしにとってはパラダイスだ。
2006.01.04
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彼は、私立高校の商業科に入学して勉強嫌いだったから大学受験は最初からするつもりがなくて、したがって、バイトとオンナに情熱を傾けていたらしい。「最初は、ファーストフードで働いてたんだ。ローストビーフサンドを売ってる店でさ。六本木にあったんだけどその頃バブルだったから、けっこういい時給だったんだ。」「オレ、その頃からあまり顔かわってないからさ、未成年に疑われることも無く、六本木で飲み始めてたんだ。いろんなお酒を試すのが楽しくてな。」地方の進学校で地味な高校生活を過ごしたあたしには考えられないことだった。なんだかうらやましくてしかたがない。「バーテンのバイトもしたことあるって言ってたよね?」「あぁ。オレが考えたカクテル入賞したこともあったぞ。『サンシャイン・オブ・ユア・ハート』って言うんだけど、ヴァイオレットを使ったカクテルなんだ。1000種類くらいカクテル載ってる本になら、あると思うよ。」(またぁ。適当なこと言ってんじゃないの?)と、内心疑っていたけれど、口には出さなかった。「学校が目黒にあったから、帰りによく渋谷でも遊んだな。オレらの学校の近くに女子校があってさ。そこの娘たちも同じようなところで遊んでるから、よくナンパしたな。」「ほんと?」「ナンパにはコツがあってさ。マクドナルドとか店に入ったら、最初に目が合った娘に直進していくんだ。」「・・・うそぉ。ケダモノじゃん。」「や、でも、これが案外うまくいくんだよな。」彼は高校時代からそんなヤツだったらしい。呆れる一方で、自由奔放やりたい放題の岩崎くんに憧れを憶えるのだった。
2006.01.03
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いい気分で店を出て、酔い覚ましに御苑から三丁目まで歩いた。せっかく良いお店でお食事した後だから、品良く、しかも肩肘張らずに済み、それほど高くない『24TH STREET』に行くことにした。「ごめん、2軒目からはワリカンねー。」彼のお給料がいくらか知っているので、これ以上おねだりするのは辞めておいた。・・・でも考えてみると、岩崎くんはあたしの3倍くらい飲むから彼のほうがおトクだと思う・・・。店長のゆきこちゃんは、あたし達と歳が近いこともあって気楽に話ができた。ここの店は岩崎くんの家から5分くらいのところにあって常連みたいだ。「午前2時くらいにフラッと現れることが多いよね。」ゆきこちゃんは言った。バーテンダーが全員女性なのだけれど、ゆきこちゃんも、あみちゃんも、めぐちゃんも、みんな髪がショートだ。そういえば、彼はショートヘアが好みだと言ってたっけ。
2006.01.03
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料理は、どれもなかなかおいしかったが、1番良かったのはパスタだ。岩崎くんはボロネーゼ系、あたしはフレッシュトマト系のものをそれぞれ選んでいたが、お互い自分の食べているのがおいしいので、「これ、おいしいよ。」「たべてみなよ!」と、途中で交換して味を見た。パスタの硬さもちょうど良くてホントにどちらもおいしかった。サービスもきちんとしてた。ワインのテイスティングもさせてくれたし、グラスが空いてくると、良いタイミングで注ぎにきてくれるし、お手頃価格なのに行き届いていた。ワインは、あたしも白1杯と赤をグラス1/3くらい飲んだ。岩崎くんは、それ以外の量を全部飲んだ。赤の方が酔い方が得意でないようでハーフボトルだったけど、それでも強者だと思った。あたしは彼の残したデザートももらった。甘いものはぜんぜん食べられない人だった。おいしかったのに。
2006.01.02
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御苑から三丁目までブラブラ歩きながら戻った。 こんなふうにフレンチとか品よく食べた後はやすい居酒屋とか行きたくないので、 『24th street』に行くことにした。 「この店もよかったんだけどな。」 『ラ・ベットラ・ベル・トッティ』の前を通りかかったとき、 岩崎くんが言った。 雑誌で見たことのある、人気のイタリアンだ。 予約しないと入れなそうだけど、いつか行こうと思った。 それにしても新宿近辺は、 岩崎くんの行ったことある店がいっぱいだ。 さすが新宿育ち。
2006.01.01
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次の給料日、岩崎くんは契約社員の更新で、臨時収入があったらしい。お金を貸してくれたお礼に、前に行った時、空調の修理中で臨時休業していた『パークカフェ』に連れて行ってくれた。大木戸門の目の前の2階にあって、新宿御苑を見渡しながら食事が出来るので桜のシーズンなどは、予約も取れない程の人気だという。夜のコースは3500円のプリフィクススタイルだ。イタリアンフレンチという感じ。大酒飲みの岩崎くんは、もちろんボトルでワインを注文した。あたしは銘柄なんて皆目わからないが、彼はワインリストを見て、「あ、こんなのも置いてある!」と楽しそうに目を通している。彼は人の名前や店の名前は、ぜんぜん覚えなかったり、ずっと間違えたまま覚えていたりするから大丈夫なのかな?とときどき思ったが、さすが、興味のあることは記憶力が違う。ここのお店のサービスの方々はみんな3~40代の男性だった。そのうちの一人が、ボトルを持って登場した。目の前で栓を抜いて、岩崎くんに手渡した。彼は、コルクの匂いをかいだ。続いて、サービスマンはグラスに少し注いた。岩崎くんは、グラスを白いテーブルクロスにかざして色を見たり、回して香りを嗅いだりしてから、少し口に含んで味を確認した。そうして、岩崎くんのOKが出てから、サービスマンはグラスに注いでくれた。家族も身近な友達も、お酒の強い人がいなかったので、(おぉ、これがテイスティングか!)とちょっと感動した。ちゃんとしたところに食事をしにきたんだなという実感が沸いてくる。それに、いつもと同じ、ラフなシャツにジーパンで居酒屋イメージの岩崎くんなのに、手慣れた様子でテイスティングをするところがなんだかスゴい。ちょっと見直した。
2006.01.01
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