まいかのあーだこーだ

まいかのあーだこーだ

2021.06.30
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カテゴリ: NHK朝ドラ
朝ドラ「おちょやん」の総集編を見ました。

本放送のときは飛び飛びの視聴だったので、
ようやく全貌を把握することができましたが、
あらためて「すごいドラマだなあ…」という感想です。



めちゃくちゃな家庭に育った千代。
めちゃくちゃな家庭に育った一平。
そして千代と一平がつくった家庭もまた瓦解する。

家族幻想がことごとく打ち砕かれる。


ろくでもない父親のもとで苦労しながら、
結局は自分でつくった家庭も壊していました。

あたかも家族幻想を粉砕することが、
いまのNHK朝ドラの主要な任務だと言わんばかりに、
このテーマを朝っぱらから容赦なくお茶の間に叩きつけています。



実際問題、世の中には、
テルヲなんぞよりもっとひどい親があふれていて、
意地悪な継母や、虐待男を家に連れこむような親もたくさんいる。
もはや「親孝行」を美徳に出来る時代じゃなくなってる。

場合によっては、

子供は、親のために生きるのじゃなく、
なによりも自分のために生きることを考えなければならない。

そういう時代です。

もともと、わたしは、
やれ「親孝行だ」などと言って、

はなっから疑ったほうがよいと思っているし、
そういう社会はとても嘘くさいと思っている。

むしろ、
親を捨てねばならない子供のほうを、
社会は積極的に支えていかなければなりません。

今回の朝ドラからは、そういうメッセージを感じます。



まあ、
救いらしい救いもなかった「スカーレット」に比べれば、
まだしも「おちょやん」のラストには救いがありましたが、
それでもなお、物語全体の壮絶さは、
その「スカーレット」さえも上回っていたように思います。

父に裏切られ、
最愛の弟にも裏切られ、
そして信じた夫にも裏切られる女性の半生。

もちろん、そこには、
大正モダンの欧風文化に感化され、
イプセンの「人形の家」の台本を手離さなかった女性の、
いわゆるフェミニズム黎明期の姿も託されているでしょう。



もともと「スカーレット」も「おちょやん」も、
実在した成功者をモデルにしているのだから、

たとえば「わろてんか」や「あさが来た」のように、
あるいは「ゲゲゲ」や「まんぷく」や「エール」のように、
理想的な家族を軸にしたサクセスストーリーにも出来たはずです。

しかし、そうはしなかった!
そんな話はつまらないし、嘘くさいから!

現実の人生は、
努力すれば報われるような単純なものではないし、
血縁家族は、
無条件に信頼できるような帰るべき場所じゃない。

だからこそ、
「おしん」も「純情きらり」も、
「スカーレット」も「おちょやん」も、
人生の成功だの、
家族の愛情だのといった安易な幻想を叩きのめすのです。

主人公は子供のころから成熟しているけれど、
周りの大人はガキみたいなクズばっかり。
血縁家族より赤の他人のほうがよっぽど信頼できる。
いくら努力をしたって報われるわけでもない。

そうした逆説が、これらの作品の世界観を作っています。



もしも努力して成長して成功する話が見たいのなら、
シルベスター・スタローンの『ロッキー』でも見てればいいのだし、
ひたすら理想的な家族像だけを見たいのなら、
マイケル・ランドンの『大草原の小さな家』を見ればいいわけで。

しかし、
現代のNHK朝ドラの存在意義は、
そういう甘い幻想を否定し尽くしたところにこそある。

実際のところ「おちょやん」は、
浪花千栄子をモデルにしながらも、
彼女が映画やテレビで成功するまでの人生を描いてるわけではないし、
かといって、
吉本の歴史を描いた「わろてんか」ように、
藤山寛美へいたる松竹の歴史の栄華を描いてるわけでもありません。

ただ、ひたすらに、
女性が直面する「家族幻想の崩壊」と「成長成功の逆説」を描いたのです。



さて、
今回の脚本は「半沢直樹」を手がけた八津弘幸でした。

TBSの「半沢直樹」は、
なぜか演出の福澤克雄ばかりが注目されがちだけど、
この朝ドラ「おちょやん」をとおして、
あらためて八津弘幸の脚本の実力が認知された形です。

原作なしのオリジナル脚本ってことが信じられないほど、
エピソードが豊富だったし、その中身も充実していました。
そして申し分のないメッセージ性を湛えていました。

たぶん八津弘幸は関東の人だと思うけど、
そうとは感じさせないほど、
泥臭くてアクの強い関西芸人の世界を、
見事なほどリアルに表現できていたと思います。
わたしは関西人じゃないから分からないけど(笑)

その泥臭さやアクの強さを嫌った視聴者も多いでしょうが、

そこにこそ凄みや醍醐味があったわけだし、
演技と物語のダイナミズムもあったのだし、
スペクタクルとしての面白さもあったのだし、
朝っぱらから濃厚な映画を鑑賞させられるような見応えがありました。

いちおうは史実に沿っているので、
京都の山村千鳥一座や映画撮影所パートも必要だったのでしょうが、
それらは大阪パートの迫力に比べると、
正直、ちょっと見劣りがしたのも否めません。

やはり大阪の道頓堀パートこそが本作の主軸であり、
岡安の家族的な温かさと、大阪芸人の豪胆で破天荒な生き様が、
最大の魅力になっていたと思います。



シズと延四郎の悲恋物語。
ロミジュリ的なみつえと福助の戦争悲劇。
一平とお夕との悲しい母子物語。
千之助と万太郎の因縁のライバル物語。

…などのサブストーリーも非常に印象的で、
それだけでスピンオフドラマを作ってほしいと思うくらい、
胸に深く刻まれるような内容のものでした。

これらは史実というより、
かなり脚色された部分だとは思うけど、
そこにこそ八津弘幸の作話手腕が光っていたと思います。


代、 鳥、 之助、 兵衛…と名前をそろえたのは、
やはり「 両役者」の意味合いを込めてであり、
そこからすると、
さしずめ須賀廼家 太郎や 歳は「 両役者」であり、
かたや 平は、たったの「 両役者」ってことでしょうか?(笑)
千秋万歳なんて言葉もありますね。




そして、
ドラマのダイナミズムを生み出すこの脚本家の巧みさは、
養女の春子を 「父と継母の孫」 と設定したところに、
もっとも顕著に表れていたと思います。

じつは史実では、
浪花千栄子の養女(南口輝美)が誰の娘だったのか、
明らかになっていません。
「弟の娘」という説もあれば、「母の親縁の子」という説もある。

かりに愛する弟や母に縁のある子ならば、
主人公にとっては、だいぶ受け入れやすかったはずです。

…にもかかわらず、

よりによって、
もっとも憎むべき父と継母の孫 と設定したところに、
八津弘幸のすぐれた作劇術と思惑とがうかがえます。

つまり、
半沢直樹は「復讐の物語」ですが、おちょやんはまったく逆なのです。

千代は、
自分を裏切った夫にも、
その不倫相手にも、
まして、その不義の子にも復讐ができません。

それだけではなく、
幼い自分に不幸な運命を強いた父と継母にも復讐できないし、
それどころか(=だからこそ)、
ついには彼らの孫娘を養女として受け入れ、
自分の唯一の家族にするのです。

千代自身が、
血縁ではない岡安の人々に支えられたように、
春子もまた、
血縁ではない人々に支えられて生きていくのでしょう。



人間は成長などしないし、
努力したって報われないし、
お芝居は、台本どおりには進まない。

むしろセリフを忘れたときにこそ芝居が活気づき、
台本と違うことを喋り出したときにこそ感動が生まれ、
禁じられた接吻によってこそ公演が成功し、
出ないと思ったラッパの音が出た瞬間にこそ笑いが生まれ、

そして、

もっとも憎むべき人間との再会や、
ラジオドラマに誘うおっさんのアホみたいな楽天性こそが、
人生を諦めてしまった主人公を、奇跡のように救い出すのです。

人生とはそんなものだし、感動とはそんなものだし、
お笑いとはそんなものですよね。

そこに八津弘幸の脚本の真骨頂がありました。



話は変わりますが、

噂によると、
トータス松本が「俳優を目指す」と言ったとき、
井上陽水は賛成し、奥田民生は反対したそうです。

ですが、
トータス松本の俳優業の展望は、
ここで「朝ドラ史上最悪の父親」を演じたことによって、
一気に広がっていくのだろうなあと思うし、
それが良いか悪いかは別として、
「もう歌わなくても食ってけるんじゃないかなあ」って気もします。

むしろ奥田民生のほうが音楽だけでやっていけるのかどうか。
そっちが心配になりますね。



他方、

大阪のアクの強い芸人たちのなかで、
杉咲花と成田凌の主演コンビの演技は堂々たるものでした。

杉咲花には、
「いだてん」のときにもかなり泣かされましたけど、
意外にも彼女は、民放以上にNHKで実力を発揮しています。

セリフのない演技にも圧倒的な説得力があって、
成田凌との掛け合いにも盤石の安定感が出ていました。

そのほか、
篠原涼子、名倉潤、宮田圭子、
片岡松十郎、ほっしゃん、板尾創路らの演技も素晴らしかったです。






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最終更新日  2024.06.20 17:14:47


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