まいかのあーだこーだ

まいかのあーだこーだ

2021.12.10
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NHK大河「青天を衝け」。

おくにとの不倫が描かれて以降、
渋沢栄一の女性問題に多くの関心が集まりました。


まず、くわしい史実については、
河合敦の以下の記事があります。
https://president.jp/articles/-/45236
また、この手の話にいかにも詳しそうな鹿島茂が、
より歴史的な観点からこのテーマを相対化しています。
https://bunshun.jp/articles/-/49391



とりあえずの事実確認。

渋沢は、
1858年、尾高千代と結婚して、
手はじめに一男二女を産ませ、
1871年、大内くにに不義の娘を産ませて、
ここから さいしょう 同居」

その後さらに、
千代に一男一女を、くにに一女を産ませていますので、
ひとつの同じ屋敷のなかで、
妻とも妾とも性生活が営まれていたことになります。

1882年に千代がコレラで亡くなると、
渋沢は、伊藤兼子と再婚して、
妻妾同居の第2期を開始します。
なんと兼子には七男二女を産ませています。

そのうえ、家の外にも、
多くの妾(愛人)を囲って多くの子供を産ませたらしい。

なお、妾の大内くには、

渋沢の友人だった織田完之と再婚しています。
こちらでは、妾ではなく後妻だったようです。



渋沢の女たらしは、自他ともに認めるところでした。

地位が高くて金持ちだっただけでなく、

レディファーストの習慣を身につけるなどして、
見かけ以上に、当時の女性からモテたかもしれない。

また、文人でありながら、じつは武闘派でもありました。
つまり、沢山の事業を起こしながら、沢山の女性に沢山の子供を産ませ、
91才まで生き抜くという異常なほどのバイタリティがあった。

モンゴル帝国の初代皇帝チンギスハンは、
65年ほどの生涯のうちに、
とんでもない数の女性ととんでもない数の子供を作り、
その子孫がいま世界に3200万人ぐらいいるらしいのですが、
渋沢もこれに負けてなかったかもしれない。



渋沢が好色だったのは間違いないけれど、

脚本家の大森美香は、
それをことさら否定的に描くのではなく、
すくなくとも千代・くに・兼子との関係については、
つとめて肯定的に描こうとしていたようです。

これは、
もともとの大森美香の脚本手法でもあります。
彼女のドラマには、本質的に「悪者」が登場しない。

すべての登場人物に愛情を注ぐのが彼女の流儀だから、
たとえ幕府側の人間であろうと、新政府側の人間であろうと、
根っからの「悪人」として描くことはないし、
千代はもちろん、
くにであれ、兼子であれ、けっして「悪い女」にはしない。

そして、それは案外、
渋沢栄一の生き方にも則した人間観だったかもしれません。

つまり、
男女や善悪や敵味方を問わず、
合本によって適材適所へ配置すれば、
全体的な繁栄を目指すことができる、という考え方ですね。

実際のところ、
渋沢と3人の女性たちとの関係は、
意外に安定的で良好なものだったように思います。

つまり、
大森美香が描いた千代・くに・兼子との関係は、
あながち美化された脚色というわけではなく、
それなりに事実に即したものだったように思うのです。



千代、くに、兼子に共通して言えることがあります。

彼女たちの存在意義は、
あくまで家のなかでの役割によって測られていて、
夫から「女として愛されているかどうか」には、さほど依存していない。

とくに千代が血洗島の中ん家にいたころ、
栄一はほとんど家にいなかったわけなので、
千代は、女所帯である渋沢家の嫁の役割だけに徹していました。

ようやく東京で暮らすようになって以降、
いくばくか妻らしい地位を手に入れたように見えますが、
まもなくすると妾との二世帯 (?) 同居になります。

しかし、その妻と妾の立場も、
夫から見て「本命か愛人か」で測られるような優劣ではなく、
たんに家での役割分担の違いだったように思える。

つまり、
妻は「表の顔」という役割を、
妾は「内助の功」という役割を負ったにすぎないのでは?

こうした役割分担の発想は、
渋沢家の男性たちにも適用されていて、
たとえば篤二は、実子の長男でありながら、
その無能さゆえに嫡男としての役割を認められませんでした。

逆に、多くの妾や愛人のなかで、
大内くにだけが渋沢家に入ることができたのは、
彼女にそれだけの器があったからかもしれません。

ちなみに大内くには、
ドラマでは控えめな女性として描かれていますが、
実際は、もっと男勝りで明るい女性だった気がします。



…女の主体性って何なのでしょうか?

それについて考えるとき、
「本妻になる」だの「夫に愛され続ける」だのってことは、
みじめなほど従属的な指標にしかならない。

夫に愛されるか否かに関わらず、
家庭や社会での自分の役割を生きることのほうが、
よっぽど主体的というべきなのかもしれません。


…まあ、

ひとつの家のなかで、
妻とも妾とも公然と性生活が営まれるってのは、
いくら広い屋敷だとはいえ、
なかなか理解しがたいものがあるのだけれど、

実際のところ、
夫に経済力があって、ちゃんと生活を保障してくれるなら、
妻だろうが、妾だろうが、嫡子だろうが、庶子だろうが、
さほどの違いも不満もないのかもしれませんし、

案外、
女所帯のなかで各自の役割分担をこなしていくうえでは、
夫が忙しければ忙しいほど、
妻妾ともども 「亭主元気で留守がいい」 ってのが本音だったかも。

夫が留守であれば、
そのぶん女たちが自由恋愛をする機会も増えるわけだし(笑)。
昔だったら、
夫以外の子供が出来てしまっても、
それを「夫の子供」と称して産めちゃったかもしれないし。




ドラマのなかで、
姉の歌子は、弟の篤二にこう言います。

あれほどの仕事をなすった父さまなら、
品行上の欠点があっても「時代の通弊」として致し方ありません。
しかし、その子たるものは違います。


本心からそう思ってるかどうかはともかく、
父の好色は「時代の通弊」として許される…というのが、
ここでの歌子の考えです。

たしかに渋沢栄一は、幕府に仕えたこともあって、
一方では、
大奥や吉原のような江戸文化の名残りを生きていた面があるし、
他方では、
鹿島茂が「メナージュ・ア・ラ・パリジェンヌ」と言うような、
フランス流の自由恋愛の文化に触れていた面もある。

いずれにしても、それらは、
ひとりの妻だけを愛する「一夫一婦制」の価値観とは異なるものでした。



敗戦後の日本は、
米国流の「一夫一婦制」を取り入れ、
一人の妻が一人の夫に愛される家族像を理想にしたのですが、
これがかならずしも合理的なシステムだとはいえません。

なぜなら、
一夫一婦制の場合、
妻ひとりの役割があまりにも多すぎるからです。
およそ不可能なほどの無賃労働を強いられるハメになっている。

これに対して、
たとえば「一夫多妻制」は、
家長の権力を強大化させたり、
ヒエラルキーを硬直化させる弊害はあるけれど、

女性側の拒否権や選択権が保障されるのならば、
じつは多くの女性にとって都合のいいシステムだともいえる。

むしろ一夫多妻制というのは、
男性にとって不都合なシステムなのですよね。
多くの男性があぶれるわけだから(笑)。



一夫一婦制は、社会的な強制力がないかぎり実現しません。

それはたしかに平等といえば平等であり、
あらゆる遺伝子を残して多様性を確保する意義はあるかもしれないけれど、
自然に逆らっているわけだし、悪平等と言えないこともない。

べつに優生政策を支持するつもりはないけど、
出来の悪い男の遺伝子まで満遍なく残す必要ってあるの?という疑念もある。

むしろ、一夫多妻のシステムでなら、
ほとんどの女はあぶれることなく経済的にも安定するし、
女所帯のなかで、余裕をもって役割分担ができる気もする。



一夫多妻制を想定する場合、
つい「女の幸せ」がどうなのかを心配しがちですが、
むしろ考慮すべきなのは「男の幸せ」のほうなのですね。
あぶれてしまう大多数の男たちを、社会がどう制御するのか。

実際、
男の妬みは、女の妬み以上に凶悪です。

たとえば猫の場合、
あぶれたオスはとても凶暴化して、
メスをふたたび発情させるために子殺しをするそうです。
人間のなかにも、それに近いことをやる男がたまにいますよね。

おそらく一夫一婦制というのは、公娼制度と同じように、
あぶれた男たちの暴力性を抑制するための救済措置なのだと思う。



近年の日本のテレビドラマやコミックでは、
契約結婚や偽装結婚などの思考実験がさかんに行われていますが、
これをたんなるフィクションだと笑うことはできません。

実際のところ、
地縁からも血縁からも切り離された一対の若い男女に、
「恋愛」と「生活」と「経済」と「出産」と「子育て」を、
すべて全うさせようとする現行の結婚制度のほうが、
はるかに荒唐無稽なファンタジーだと言わざるをえないのです。

とりわけ女性の負担が多すぎる。



いまさら一夫多妻に戻せとまでは言わないけれど、

この期に及んで渋沢栄一の顔を紙幣にする意味があるとしたら、
もうすこし、
男女の役割を合理的・社会的に分担できるような
新しいシステムの創出を喚起することにあるのかもしれません。




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最終更新日  2021.12.14 07:13:12


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