PR
コメント新着
New!
千菊丸2151さん
New!
ナイト1960さん
New!
MoMo太郎009さんカテゴリ
「あの梅の木は」 第7話
「裕也、何してるの?」
裕也は香織の声で気が付いた。
伊達家の玄関先で梅の木に見入っていたことに・・・。
梅の木の向こうに、桜の木が重なって見えた気がしたような、
そんな錯覚に陥っていたのである。
「あ、うん、今行く」
玄関のドアを閉めながら香織は裕也の顔をのぞく。
「どうかしたの?心ここにあらずって感じだよ」
「ごめん、後で話す・・・」
「あら、いらっしゃい裕也君、久しぶりねえ、さあ
上がって上がって」
「どうも、ご無沙汰してます。これ少しですけど」
途中で買ったショートケーキの入った、テイクアウト用の
手提げボックスを差し上げた。
「あら、そんな気を遣わなくていいのに、でもありがとう」
手提げボックスを手に香織ママはいそいそとキッチンに向かった。
裕也がリビングに入り、「おじさん、こんにちはお邪魔します」
と言い終わらないうちに、香織の父親が不機嫌な声を出す。
「裕也君さあ、嫁入り前の娘を朝帰りさせるっていうのは、
ちょっとそれはないんじゃないか?」
「あ、すいません気を付けます・・・」
「あらお父さん、うちの父に同じこと何度言われたかしらねえ」
キッチンからダイニングテーブルに手巻き寿司のネタを運んできた
香織ママから耳の痛いセリフが香織パパに届いた。
「おいおい、それを今言うかね?」
「でも、お母さんの言うとおりなんでしょ?」
「お母さん、香織に話しちゃったのかい?それはないよー」
香織パパが頭をかいてバツのわるそうな顔をしたので、リビング
にみんなの笑いが起きた。
笑いに包まれた伊達家のリビングダイニングでの賑やかな食事会は
手巻き寿司の好物のネタを巡る香織パパと裕也との争奪戦によって
一層賑やかなものとなった。
やがて、寿司ネタが尽きる前に、全員がごちそうさまを言い箸を
置いた。裕也は自分の立場と感謝の気持ちをこめて重ねて言う。
「ごちそうさま、香織ママすごく美味しかったです」
「気に入ってもらって良かったわ、また作ったげるわよ」
「はい、期待してます」
香織ママは立ち上がりながら
「そうやって喜んでくれると作り甲斐があるわー、誰かと違って」
その誰かさんが苦々しげに
「なんだよー俺ばっか。このふたりには何のペナルティもないの?」
「それもそうね・・・じゃあ」と香織に目をむけた。
「香織、あとで買い物に行ってくれる?」
香織が快く引き受けると、横から裕也が
「それ、俺も一緒に行くよ、俺、急に4丁目の滝沢精肉店のメンチカ
ツが食べたくなってさあ」
「え、じゃあサミットには行かないの?」
「いや、行くよ。メンチカツを途中で俺んとこに置いてね」
「なんかめんどうね・・・」
「うん、ちょっと訳ありなんだ」
「・・あそう、じゃ後で・・」
「ああ・・・」
訳ありと聞いては仕方もなく、香織は母親のとなりに行くと、
買ってくるものをスマホにメモっている。
「あ、でも香織あなた明日仕事・・・買い物してたら、裕也君と
ゆっくりしてらんないでしょ?」
「あれ、言ってなかった?明日は先週の土曜に休日出勤した代休
だって」
「ああ、そう言えば・・じゃあ頼んじゃおうかしら」
「うん、いいよ、じゃあ行ってくる」
香織は裕也を目で促がして、共に玄関に向かう。
玄関のドアを閉めると香織が裕也に聞きただす。
「訳ありって、どんな?」
「滝沢精肉店でメンチカツを頼んだあとでこう聞いて欲しいんだ」
「伊藤ハムのだったと思うんだけど、『太くてこんくらいの(両手で
長さを示してみせた)ハンバーグが今も売ってるか』ってね」
「伊藤ハムのハンバーグ?」
「そう、香織は知ってる?」
「・・・ハンバーグのレトルトなら知ってるけど・・・それは太い
ソーセージみたいね。裕也は知ってたわけね?」
「正しくは、憶えてる、だね・・・香織んちのあれが桜の木だった
ら、香織もきっと『知ってた』はず」
この時香織はその答えを持ち合わせてなく、傾げた首は元に戻ったが
すぐに閃いた。
「読めた!その時お店の人は『おかしなことを聞くなあ』って顔する
わけでしょ?」
「当たり!さすがだなあ、それを香織にも確認して不思議さを俺と
共有して欲しいんだ」
「わかった、やってみましょー!」
「そんな、張り切らなくてもいいから」
「あの梅の木は」 第12話 2026.05.04 コメント(2)
「あの梅の木は」 第11話 2026.04.29 コメント(6)
「あの梅の木は」 第10話 2026.04.23 コメント(4)