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2026.03.29
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カテゴリ: ライトノベル



「あの梅の木は」  第 6


「うん、あそこにしよう」

裕也が振り返りながら立ち止まり、続ける。


「駅ビルに新しい鰻屋が出来たの知ってる?」

「うん?知らないけど、これからそこに行くの?」

香織の声に混ざった疑問のトーンは裕也が鰻を好きじゃないのを

知っているからだ。


「うん、こないだ帰りの電車で小島と会ったんだけど。笹塚駅に

福岡の柳川名物『鰻のせいろ蒸し』の店がオープンしたって教えて

くれて、その足であいつは千歳烏山だけど、俺に付き合ってくれて

一緒に食べに行ったんだ」

「そっか、そう言えば聞いたことあったっけ、裕也は鰻だめだけど

柳川の『せいろ蒸し』なら食べるって」

「そう、あの店のは小骨も無いし、蒸し具合も、三百年も注ぎ足し

たというタレも絶妙でね・・やばい思い出しただけでヨダレが・・」


「じゃあ今日は『鰻のせいろ蒸し』にする?」

「ようし、今日は俺のおごりだ!」

「やったー!」


ちょうど横断歩道が青になり、ふたりは急ぎ足で中野通りを渡り、

京王線笹塚駅に向かった。


50 分ほどしてバカ旨だった『鰻のせいろ蒸し』を堪能したふたりは

店を出て甲州街道を渡り、十号通り商店街を抜けて裕也のマンション

に着いた。


裕也は靴を脱ぐと PC デスクの上にカバンを置き、着替えを始めた。


「香織、フロの仕度・・・」

「言われなくてもやってます」


見ると香織はすでにバスタブをさっと洗ってお湯をためるスイッチを

自動にしていた。裕也がスウェットの上下に着替えてベッドで横に

なっていたので


「横になってると寝落ちしちゃうからー」

「大丈夫、今日は一人じゃ寝ないから」

「あら、そうなの?」

「鰻、食ったから大丈夫」


香織は裕也の目が光を増しているのに気付いた


「やばそうな目をしてる」

「えー、『期待してる』の間違いじゃないの?」

「ばか・・・」

「一緒に入る?フロ」

「もう、懲りないわねえ、忘れちゃったの?『バスタブ落水事件』」


以前、裕也の強くしつこい要望を仕方なく香織が OK したのだが

裕也が焦って足を滑らせて頭からバスタブに落ちたのを香織が面白が

って『バスタブ落水事件』と命名して以来、裕也をからかう為に

使っている。これを言われると流石に裕也も黙るしかない。


何事もなく、交代で入浴を済ませたあと、冷えたビールを飲んで

「プハーッ!」を合図に裕也は香織の手を引いて行く、鰻の効能が

関係したのであろう、有無を言わさない力と気迫に満ちていた。


裕也が譲らない20%の照明の下、久しぶりだったせいなのか、いや

やはり鰻の効能が関係したのであろう、この夜の2人は情熱の嵐の

中にいた。


翌日は日曜日なので、ゆっくりしていても良かったのだが、 10 時頃

香織のスマホに着信があった。


「お母さんだ・・もしもし、うん起きてるよ・・・手巻き寿司?

ちょっと待って」

裕也を見ると大きく頷いている。

「うん、裕也も食べたいって、・・・分かったじゃあお昼前には

うん、じゃあ・・・」


「手巻き寿司か、久しぶりだ」

「裕也、好きだもんね手巻き寿司」


「うん、じゃあカフェでケーキでも買ってくか」

「お母さんはいちごのショートケーキね」

「覚えてるよ」



手土産を買って香織の家に着いた。玄関の手前で裕也は庭を見る


「・・・梅の木だな・・・」とつぶやき首を振った。









更新しました。
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最終更新日  2026.03.30 00:00:23 コメント(4) | コメントを書く


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