マックス爺のエッセイ風日記

マックス爺のエッセイ風日記

2010.02.10
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カテゴリ: 生活雑記


 しぃさんが薦めてくれたのが安住洋子著「いさご波」2009年 新潮社刊。著者は兵庫県生まれの大阪府育ち。地元の短大を卒業後、学習塾で国語の教材を作りながら小説を書いていたようだ。1999年「しずり雪」で長塚節文学賞短編小説部門大賞を受賞。人生の哀歓を描く作風は、「初期の藤沢周平を思わせる」とY新聞社の評。

 この本には5つの短編が収められている。いずれも国を追われた武士の哀歓が滲む作品だ。冒頭の「沙の波」に登場するのは、江戸城松の廊下で吉良上野介相手に刃傷沙汰を起こし、切腹を申し渡された浅野内匠頭の旧家臣。そして他の4篇には、世継ぎ問題で2つに分散した九鬼家の家臣が登場する。

 没落武士の心情には胸を打つものがある。かつての主家を思う気持や武士としての意地。暮らしにも困窮する中で、どう矜持を保つのか。周平の小説には奇抜な剣戟が次々と登場して読者を飽きさせないが、あれは男の世界だった。だが女性作家は、心のひだを丁寧に追う。確かな時代考証なのに、しっとりとして艶やかな文章は女性だからこそ描けた武士の世界だろう。読み終えても深い余韻が残る。

 もう1冊は新田次郎著「アラスカ物語」(新潮文庫)初版は1974年刊。著者は長野県生まれ(1912-1980)で中央気象台に勤務し、富士山測候所勤務などを経験。1956年「強力伝」で直木賞受賞。「八甲田死の彷徨」、「剱岳・点の記」などで山岳小説の分野を開拓。随筆家藤原てい(故人)は妻。数学者で随筆家の藤原正彦は長男。

 主人公フランク安田が宮城県石巻市出身の日本人であることを知り、この小説に興味を抱いた。明治元年に医師の三男として生まれるが、生家の没落で三菱汽船の船員となりアメリカに渡る。その後クジラの密漁を取り締まる船で北極海に行くが、氷に閉じ込められて単身犬ぞりで助けを求めに氷原を彷徨う。

 物品横領の濡れ衣を着せられた彼は、僚船を救出後エスキモー集落で生活を送る。密漁のためにクジラが激減して生活が成り立たなくなる沿岸エスキモー。餓死寸前の数百名を救うため、彼は苦労の末に約800km離れた場所まで彼らを導き、新しい村を建設してリーダーとなる。この間、エスキモーの娘との結婚、雪山の横断、金鉱の発見、インディアンとの融和など冒険の連続。やがて第2次世界大戦が勃発すると、彼は米国本土に連行され、強制収容所に入れられる。

 実話だけに読んでいてスリルがあった。明治、大正、昭和の各時代を生き抜いた素晴らしい日本人がアラスカにいたこと、旧北上川がかつて伊寺(いじ)川と呼ばれ、伊寺牧(いじのまき)が石巻に変わったこともこの小説で初めて知った。小説に登場する日和山へ、昨年のマラニックの際に登ったことも懐かしい思い出だ。

 新田次郎の小説を読んだのは初めてだが、彼の描く「男の世界」に完全に魅了された。気象学者だけあって、小説の裏づけとなる取材は完璧。本書の30年前に書いた「アラスカ」に物足らず、再び取材し直して書き改めたのが「アラスカ物語」。引き続き「強力伝」を買い、目下「男の世界」を読み耽っている。

注記>かつて「エスキモー」と呼ばれた民族は、現在の文化人類学(民族学)では彼らの呼称を採用し、「イヌイット」と呼ばれています。





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Last updated  2010.02.10 19:41:57 コメント(6) | コメントを書く
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