「戦争中は日本人として使い倒し、戦争が終わったら外国人やいうて利になることはカットするのはひきょうや思てます」
国民年金法が外国籍者を排除していたため無年金となった高齢者や障害者が京都や大阪で起こした訴訟。京都訴訟の原告団長、玄順任さん(80)はそう繰り返す。
植民地時代の朝鮮から渡日し、戦争を経て、西陣織の職人として働き続けた。今も仕事がある限り、織り機を踏み続ける。目を痛めているが、「断れば、次の仕事が入るか分からないから」という。
高齢者訴訟の原告はいずれも在日1世だ。体を壊して死線をさまよい、生活保護を受ける原告もいる。これとて申請を却下された際などの不服申し立て権は外国人にはない。つまりは政府、自治体による「恩恵」である。
残り少ない人生で、あえて時間も手間もかかる法廷闘争に踏み切った玄さんたち。先月、京都地裁で言い渡されたのは、わずか15秒程度の棄却判決だ。「死ぬまで、命かけてやりますよ」。判決後の集会で原告の一人、鄭在任さん(86)は顔を上気させた。
「私の言うてること、間違うてますか?」。玄さんのシンプルな問いかけは、司法に届かなかった。国籍の違いは、歴史的な責任を不問に付し、社会保障からも人を排除するほどに決定的な「理由」なのか? 訴訟は問いかける。
1969年生まれ。1995年、毎日新聞社に記者として入社。香川、京都を経て、現在は大阪に勤務。贖われない過去や国籍を「理由」とした排除といった在日朝鮮人を巡る不条理や、新たに定住する外国人が直面している問題。いわゆる「病者」たちの生き難さなど、「健全な国民」にあらざる者たちを取り巻く、この社会のゆがみについて、雑誌や新聞などへ執筆してきた。近年は、パレスチナ難民たちと出会おうと、中東地域への訪問を重ねている。在日1世への聴き取りも、現在の大きな課題として取り組んでいる。
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