星の髪飾り

星の髪飾り

2007/01/15
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そこに、自分でせっせと掘った慣れの落とし穴があった。 繰り返される作業に

手抜きや余分が加わる時、賢明から容赦なく追放される。 

 生地見本依頼書
 備考欄: 小林様、今年もよろしくお願いいたします。 
      毎回ですみませんが、お客様に再確認していただく為、
      上記の生地サンプルを直送でお願いします。 
      納品日が近く、先方の上川様は少々神経質な方とお聞きしております。 
      お忙しい中、お手数おかけしますが至急でお願いします。

 ところが裕子がメーカーに送った依頼書は、この数日後、こともあろうに生地見本と一緒に

上川の手元に届いてしまった。 備考欄の一言が積み重ねた努力という建築を破壊した。

長い信頼関係で繋がっていたメーカーの担当者が不在の為、至急の文字に気を効かせた

別の社員が、ご丁寧に生地見本に依頼書を入れて送ったのだ。 


 仕事は打ち切られた。

「風雅」のクレームは、たちまち課内から社内へひろまった。

「インテリア課の信頼をなくした」

「最近、各営業所からの仕事が減った」

 当然のことながら、覚悟していた針の上で一月を過ごした。

それから間もなく、まるで冷めたインスタントラーメンを口に運ぶような何とも複雑な

空騒ぎの送別会。 それを最後に裕子は仕事から去った。 

十二年という年月があっけなく幕を閉じた。 



 引き際から体調も崩れていった。

季節の変わり目と言い聞かせながら、残務に悔いなく明け暮れる日々の中、二つの神経は

バランスを崩した。 自律神経を司る「活動」「休養」が乱れ、軽率の落とし穴に同行した。

けれどもそれらの症状は以前まったく無かったわけではない。 

傲慢のコートと肩書きの帽子を脱ぎきれない顧客。 接客業は互いに相手を選べない。 

子どもが親を選べぬように。 

必要以上の緊張と不安に遭遇した時、信号は黄色から赤に点滅する。

聴く側に判りにくい業界用語で実態を不透明にする、まるで一部の政治家がするような事を

仕事で真似て、外から追放された者もいた。 やはり去って行った彼女の信号は赤だった。

 それでも多くの躍動の源泉は、共に撰んだあの灯りの下で、あの家具に寄り添って、

あるいは疲労を脱いだリビングで、閉めたカーテンのひろがりを見て一瞬でも温もりを感じ

疲れが癒され、時に明日の充電のコンセントになるならば・・・・きっとそれらだった。


 裕子の信号が壊れた。 

歪みは熱も持たずに、身体のあちこちにフルコースでやってきた。

ただこの出来事が、あの若者達との出会いに繋がることを、裕子は未だ知らない。


                 撮影 kitakitune05さん





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最終更新日  2007/01/15 06:07:49 PM コメント(14) | コメントを書く


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