【粗筋】
田舎から奉公に来たおなべどん、器量は悪いが働き者。ところが、このおなべどん、夜にこっそり塀を乗り越えて出掛けたり、夜中に血まみれの顔でニタリと笑ったり、怪しい行動が多く、皆が気味を悪がって番頭に相談するので、番頭はおなべの留守の間に荷物を調べ、血まみれになった獣の皮を見つけた。おなべに解雇を告げる番頭のおびえた様子から、おなべは自分の秘密を知られたことを悟る。猟師であった親の因果か、子猫が足に怪我をして帰ったのをなめてやったが始まりで、猫の生き血の味を覚え、猫を捕らえては血をすっていたのだという。
「これからは手足くくってやすみますでなァ、どうぞ置いとおくなされ」
「何や、ほたら、お前、猫とりかいな……しかし、昼間はあないして、おとなしいに働いてるお前が、夜になるとそんな恐ろしいことをするとは……ああ、猫かぶってたんや」
【成立】
上方噺。「下女子猫」とも。 落ちは「かぶる」に「かぶりつく(食う)」の意味を効かせている。
古くは、「皮ごと食えば分からへんのに、なぜ皮を残しんや」と尋ねると、「私も若い女じゃもの。子猫の皮食うひまはない(子猫の乾く暇はない)」というバレ掛かった落ちだった(「子猫」は女性性器の隠語を指す洒落)。本文は桂米團治の演じた落ち。松鶴(6)はおなべの故郷が芸州と聞いた番頭の、「ああ、それで猫かじるのや」という台詞で落としている。これは広島の「芸州」と芸者の「芸衆」を洒落、芸者をネコと言ったことをもじったもの。
それにしても、このおどろおどろしい世界を落ちの一言であっさりと終わらせてしまう……落語の世界の何という素晴らしさか。
【一言】
番頭のオドオドした様子で、おなべは番頭が自分の秘密を知ったことを悟る。
「番頭さん、おまえ、わしの留守中になんか見はせなんだか?
……番頭さん。見た~なァ~」
「見た見た見た!」
米團治系では「見た見た見た」の後でボーンと鐘を入れるが、笑福亭系では、おなべの「見た~なァ~」の後にボーンと入れるのだと聞いた。(小佐田貞夫)
●
「雨後の月というものは、わるわるう冴えるもんやなァ」というセリフが出てきます。奉公人同士が女子衆のおなべの噂話をしている時に出てくる描写なのでありますが、ゾーッとする表現ではありませんか。語感といいますか語調といいますか、これが「雨上がりの月」でしたらさして怖くはないのですが「ウゴノツキ」……。それに加えて「ワルワルウサエル」……。どんより曇った夜空で冴えわたる青白い月の色の不気味さを感じさせてくれます。「猫の生き血を吸う」なんてことよりもよっぽどこの「月」のほうに凄味があるように思うのです。(桂米朝)
【蘊蓄】
イタリア映画に「何かいいことないか子猫ちゃん」があり、主題曲も有名である。この「子猫」は、原題では「 pussy 」である。意味は日本と同じで、本来は猫の子のこと。
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