音楽三昧＋α

上松美香/イノセンシア

　シンプルなアルパから奏でられる上松美香の表情豊かな音符の数々｡

　優雅なクラシックのグランド・ハープや哀愁感の漂うアイリッシュ・ハープは、音楽ファンの方ならご存知でしょう。最古の楽器と言われるハープ属は、古代メソポタミアを起源として長い年月をかけながら世界中に散らばり、さまざまな形に変化しています。プラジル、アルゼンチン、ボリビアに囲まれた中南米の国パラグアイでも、この国独特のハープである「アルパ」はとてもポピュラーな楽器。スペインから渡ってきたとされるアルパは、インディオ系民族の楽器として重宝され、他の国よリヨーロッパのハープ(つまリクラシック系)に近い形をしています。高さ約1.5mほどのやや小ぶりなボディで、女性でもひょいとかつげてしまうほどですが、琴に似た音色で繰り広げられる音楽は、初めて聴く人も魅了するに違いありません。音楽のあるところでは常にアンサンプルの中心となり、国民的な楽器と言えるほど親しまれているアルパは、パラグアイの人にとって友だちのような存在なのでは、と思えてしまいます。幼い頃からアルパに魅せられた上松美香さんは、シンプルなこの楽器を駆使して楽しさも哀愁も、エキゾティックな雰囲気も作り出してしまうプレイヤー。ラテンのリズムに心が躍りそうな「カスカーダ(滝)」で始まる彼女の初CDは、アルパー台で演奏しているとは思えないほどカラフルで、スピーカーからたくさんの音符があふれ出るような印象を持つほどです。メキシコやペルーの民謡にも似た素朴さを持つパラグアイの音楽は、親しみやすくノスタルジックなメロディが印象的で、初めて耳にした人でもすぐにアルパと共に歌えることでしょう。有名な「アルハンプラの想い出」や「入江のざわめき」など、ギターで演奏されることの多い曲も、アルパの音色を得てリフレッシュされています。ジャベという金属製のビックを使った「鐘つき鳥」では、陽気なリズムにのって「どうやれば、こんなにたくさんの音色が出るのだろう」と驚くほど、素晴らしいテクニックを披露。また、最近では井上陽水が歌ってヒットした名曲「コーヒー・ルンバ」も収録。思わず手拍子をしたくなるノリは、若い美香さんだからこそ生まれる新鮮な音楽なのかもしれません。筆者はある雑誌の仕事で一度だけ彼女にインタビューをしたことがありますが、その場の雰囲気を楽しくしてくれた明るい人柄と笑顔は、まさに奏でる音楽と等身大。そうしたピユアな感性が音楽に満ちている彼女のオリジナル曲「天使のささやき」「白い鳥」も、このCDで聴くことができます。さらには作曲家の兄・範康が彼女のために書いた「星の小さな贈り物」という、心が洗われるようなトラックも。やさしくゆったりと音楽が流れる「天使のささやき」は、かつて大ヒットした「ウインダム・ヒル」レーベル(ジョージ・ウインストンなどが在籍)の音楽を思い出しますし、静かな夜空にまたたく星がテーマになっている「星の小さな贈り物」は、まるで星座群を見つめている時のあたたかい気持ちがよみがえってくるようです。アルパが単なる民族楽器であると思われている方や、このCDが南米の民俗音楽であると思われている方は、この3曲をぜひ聴いてみてくださ。美香流のしなやかさに、心が奪われるはずですから。(山尾敦史)

　｢カスカーダ(滝)｣､｢ミス･ノーチェス･シン･ティ(君偲ぶ夜)｣､｢エスパニョレータス｣､｢入り江のざわめき｣､｢アルハンブラの想い出｣､｢天使のささやき｣､｢白い鳥｣､｢星の小さな贈り物｣､｢月光る海辺｣､｢鐘つき鳥｣､｢カレータ･グイ｣､｢セルベセリア･アメリカーナ｣､｢コーヒー･ルンバ｣､｢遠いあなたへ｣

　上松美香(アルパ)､フアン･ホセ･ドゥアルテ(ギター)

　解説:横堀朱美

　録音:2000年2月19～20日､キング関口台スタジオ#1

　SEVEN SEAS(キング･レコード)　FKCC-40605

　購入年月日:2001年7月10日(CDクラブ)

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