現実逃避所 Ally of Jastice

June 4, 2005
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カテゴリ: 趣味のハナシ
暗い雲、強い雨、暴力的な雷。
それらを部屋の中から眺める兄妹。
ここ数日で、プトレマイオスはいくつもの魔術品(もどき)を手に入れてきた。
今、2人はその検証をしている。
本当はテッドも誘ったのだが、この悪天候のおかげで彼は来られそうにないということだった。
手元には、一番最初に手に入れた白くてやや大きめの石、古ぼけた羊皮紙、透明な護石(そもそもこれが護石かどうかも怪しい)に加え、羊皮紙がもう何種類かと、ブーツ、魔物図鑑、銀の剣が置かれている。
ブーツは茶色の皮製のもので、膝下まである。羊皮紙は前のものと似ていて、古ぼけている。くしゃくしゃの紙の上に赤い色のインクでなにやら言葉が書いてあるが、まったくわからないらしい。魔物図鑑というのは、確かではない。ただ、歴史の教科書の魔術のところに出てくる魔物や怪物に似ている生き物が事細かに書いてあるのでそうよぶことにしただけだ。これも、まったく読めない。
――それらのものの中で、銀の剣はビビのお気に入りだった。ずっしりと重く、ピカピカと光る剣。
柄にはクリアブルーの宝石が埋め込まれていて、護石と似た感触だ。

「じゃあ、ビビ、はじめるぞ。これらのものの中で、文字が書いてあるものが一番謎だ。歴史資料館の資料室から古代魔術の文字についての資料を30冊あまり失敬してきたから……」
失敬してきた、それは、『盗んできた』という意味なのだとビビは捉えた。
「盗ったのね」
おそるおそる聞いてみたが、プトレマイオスはあっけらかんとしている。
「もちろん、一般人は閲覧禁止なんだぞ? 盗まずしてどうやって手に入れるんだ」
「あー、そう……」
ビビは兄の言葉にあきれ返った。
プトレマイオスは机の脇のダンボールから資料をドサドサと机に積み上げ、羊皮紙と資料を見比べて言った。
「というわけで!今から俺はこの文章を解読する。ビビは有無を言わさず助手!いいな? 」
「ハイハイ。有無を言わさず、でしょ」
「よろしい」

「ほんとに、がんばんなきゃな。お前のためにも」
「え?」
思わず聞き返したが、いつものへらへらした兄に戻っていた。
「お前が魔術をなかなか信じないからな、お前のために裏口から入って催涙ガスを撒き散らし、ピッキングで資料室に侵入したこの偉大なるプトレマイオス様が、汗水たらして働き手に入れた魔術所を解読してやるんだ――そう、お前のためにな!ありがたく思えよ」
そう言ってははは……とプトレマイオスは笑い始めたが、ビビは兄が真剣に零したその言葉が忘れられなかった。

「この国は操作されてるからな」
「え? 今なんて――」
おかしい、ビビはそう思い始めた。
何も知らないダメな大学生。
そんな兄はなぜか魔術に詳しい。それどころか、国の裏事情を知っているような口を聞く。
いつもの冗談かとも思ったが、目で文章を追いながら何かを考えている彼の心の奥深くあるものに、ビビは何かを感じた。
絶対何か知っている。
プトレマイオスは何か知っている――魔術に関わる大事な何かを。
ビビはそう確信した。
問い詰めようとしてプトレマイオスの手首を掴もうとした瞬間、「欲しい? 」と銀の剣を指して兄はビビに聞いた。
どうしてわかるのだろう、とビビは思った。兄はいつも、行動を起こす前に次の手に移る。――まるでビビの行動が読めているかのように。
「……くれるの? 」
「あげるよ。……おまえ、物欲しそうな顔してるぞ」
兄の言葉に頬を膨らませ「別にいらないわよ」と弁解しながら、ビビは剣を受け取った。
重く手に響くその剣は、虚空の闇に潜む魔物を切り裂いて来たのだろう。暗黒の刃とは裏腹に、思わず惹かれる清らかさは、とてもきれいな柄に埋め込まれた護石に似た石――
「透石って言うんだ、それ」
またしても、ビビの考えていることをあててしまうプトレマイオスだった。そして、いつものように彼はなにもなかったように作業を続けるのであった。



本のページをピラピラぺらぺらとめくり、文字と文字をつなぎ合わせて、文章を訳していく。
放課後のこの作業を始めて早1週間。収穫は何もなかった。
というのも、文字の意味などでわかっているものはごくわずかで、羊皮紙に書いてある文字の多くは読めないものだった。
それでも、プトレマイオスは諦めなかった。手探りでもわかるようになると、研究をやめなかった。
彼女は、「兄さん」と呼びかけた。
「なに? 」
「私魔術なんて信じてない。みんなも魔術は信じてなくて、科学が魔術だって思ってる。それなのに学校では魔術を教えるでしょう? 戦争や、憎しみとか悲しみとか、魔術がもたらしたものは大きいけれど、魔術の存在さえ根元から忘れてしまえば恐怖に駆られることもない。魔術は科学だ、じゃなくて、科学は科学だ。そういう世の中になれば、魔術をよみがえらさせようとして神隠しになる人々もいなくなるし、なんだかいい方向にいくと思うの」
長いセリフだった。疲れた、と思った。
「何年か前のおまえの作文だな? 」
ビビは驚いた。
「そうだけど、よく覚えてたね」
「――お前の作文はさ、みんなが書く先生や学校に合わせてるような作文と違うよな。いいと思ってる」そして、「でも」と彼は続けた。
「いつもびびの作文には『なんだか』が出てくるんだよ。その『なんだか』って一体なんだよ」
真っ向から放たれた言葉は、とても大きいものだった。
「それは……」
「『勘』か? 違うだろ? 」
勘ではない。
『なんだか』というのは、そう思えてならない『当たり前』のことだと思っていた。
ではなぜ目の前にいる兄にとっては『当たり前』ではないのだろう。
どうして『当たり前』ではないかなんて、ビビにはまだわからなかった。

「とにかく兄さん、私これでやめるから」
プトレマイオスは何も言わなかった。
けれど、寂しそうな目をしていた。だから、ビビは何か理由を、傷つけないような理由を、言わなければいけないような気持ちになった。
「あ、あのね」沈黙の池に、小さな石を投げ込んだ。波紋は広がらなかった。兄は彼女の目を見て、確かにちゃんと話を聞いていたけれど、表情は何も変わらなかった。「その……プトレマイオス? 」もう一度、石を投げ込んだが、豆粒くらいのものだった。
「私、魔術ってわからない。なんだか怖い。それで、プトレマイオスも怖い」
「そうか」
頷くだけで、何も聞いてこない。
「なんだか、これ以上魔術に関わっていく兄さんを見てると、そのうち兄さんもどこかに行っちゃうような、そんな気がする」
「――また、『なんだか』だな」
「うん……『当たり前』っていうか、本能的に関わっちゃいけない気がする」
プトレマイオスは、「わかった。つき合わせて悪かった」とだけ言って、雨の中どこかへ行った。





やぁやぁどうも、ラムセスです。
悪霊です。齢ン千年です。でも外見はいつまでも17歳です。
いや、それを言いたいわけじゃないんだけど。
ちょっと任務から帰ってきたよ。
あぁぁ、疲れた。
君は疲れてるか? ま、人間がどうなってようと別にどうでもいいんだけどね。
今回のミッションは、だ。資料館から資料を持ち出した青年の追跡だった。
俺たちががんばって魔術をあやふやなものに仕立て上げたって言うのに、魔術が実在するなんてバレて、魔術師が増えたら、俺らが悪霊だってバレるのも時間の問題だし、何より古文字を解読されたら困ったことになる! 俺はヤダよ、そんなのイヤだ。記憶操作は難しいんだ。人間の脳の中に入らないといけない。ものすごく疲れる!イヤだ!
……というわけで今しがた俺は雨に乗り男の行方を探ってみた。心配の芽をひねり潰すために。
でもそいつの自宅までついて俺やんなっちゃった。
そいつはなんかガキと、魔術にゆかりのある品々を検証してたんだよ。
あー…アレどうすっかね。いや、どうもできないね。
だって俺を召喚するための呪文が書かれた羊皮紙を懸命に解読しようとしてるんだから。下手に出て行って……バレたらどうするんだよ。ていうかバレるだろ。
魔物を識別する護石を、ガキが持ってた。
それにあのガキは魔術の才能があるみたいだった。護石と透石が共鳴してたから。
男のほうは、護石と透石について知っているようだった。
ここで行ったら間違いなく殺られる、そう思った俺はかっこ悪くも引き上げてきた。
バカ、命は大事に決まってんだろ。
当面の仕事は、あの男がどこから情報を得ているかだな。





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Last updated  June 10, 2005 09:55:52 AM
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