mikusukeの赤石お散歩日記

mikusukeの赤石お散歩日記

2007年05月30日
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ザードフィルの居城、石で出来た床、音を出さないように神経を尖らせながら走るメイヴィとアルテミス。
廊下と廊下が交差する部分では立ち止まり、メイヴィを制止するように手をあげ、壁に背中を付けてその
先の様子をアルテミスが伺う。

「ねぇ、どうして気で探らないの?向こうには誰もいないに決まってるわ」

「そうね、でも私よりもっと強い人なら気を消すぐらい簡単にするでしょ」

「お姉ちゃん、少しは頭使うのね」

生意気な口調のメイヴィであったが、不思議と腹は立たなかった。
成長後のメイヴィを知っているからか、彼女の言葉は常に真実を告げていると思えたからであった。
背中に壁を背負いながらメイヴィへ笑みをこぼした時であった。

一瞬速く、危険を感じ取ったアルテミスはメイヴィを抱え廊下を転がるようにその場から遠ざかる。
床にしゃがみ込むような態勢でそれでも崩れた壁の向こうに穂先を向け警戒する。
アルテミスの下にいるメイヴィは無表情なままアルテミスの険しい表情へ目を向ける。

「ふーん。こんな場合のためね、勉強になったわ」

メイヴィの表情が少しだけ緩んだ。

「ああ、しかしこいつはまいった。これ程の相手とは戦ったことがない」

アルテミスは余裕無く答えた。

「走れるか?」

アルテミスの問いにメイヴィが小さく頷く。

「私がその角を飛び出したら、お前は反対方向へ逃げるんだ。私がなんとかしよう」

「お姉ちゃんはどうするの?」



それだけ告げるとアルテミスは一気に崩れた壁の向こう側へと飛び出した。正直な所、時間を稼いでメイヴィを
逃がし、隙をついて自分も命だけは助かると思っていた。
その思いも壁から飛び出した直後には、自分の甘さを痛感し、間違いだったと認めるしかなかった。
アルテミスの目の前には一人では無く、複数の猛者達が立っていたのであった。
その全ての者達がアルテミスに気を悟らせない程の者達である。そしてその雰囲気から一人一人がアルテミス


「くぅ」

落胆の表情から、奥歯をかみ締め戦う覚悟を決めたアルテミスは槍を猛者達に向ける。

「お嬢さん、誰だか知らないが後ろにいるメイヴィを返しちゃくれないかい?」

先頭にいた大男が大剣を肩に担ぎ前へ進み出る。その動きに合わせ、少しだけ後ずさりするアルテミス。
その大男の後方に良く目をやるとアルテミスの知った顔が数人確認できた。
花火、セシルス、楸であった。

「楸!」

思わず口に出したが慌てて口を閉ざすアルテミス。

「ん?知り合いか楸」

前方で大剣を肩に担ぐガラテアが楸を見るが、楸は首を横に振るだけであった。
状況からすると敵では無いがアルテミスは用心深く構えを解かない。

「傷つける気はないが少しだけ話を聞いてくれないか?」

ガラテアの声かけにも頑なに構えを解かないアルテミス。仕方ないといった表情のガラテアの肩の剣が微妙に動きだす。
その動きを察知しアルテミスは槍に力を込める。
軽い風が舞ったように感じたその次には体ごと宙に放り出される。身軽なアルテミスは風に逆らわず、天井を足で蹴り
再び床に舞い戻り、ガラテアへ向かって槍を構える。

「ほう、中々の身のこなし」

ガラテアは感嘆の声を上げ、アルテミスはガラテアに集中していた。

_この人強い。まだ全然本気じゃないのに。
_このままではまずい。

腹を決めたアルテミスのオーラが槍へと伝わる。そのオーラの強さにガラテアを含め戦士達が驚きを隠せずにいた。
一撃で決めるしかない、それ以上かかると他の者にやられる。そう決めたアルテミスの神経が刃のように研ぎ澄まされる。
一点に意識が集中した時、アルテミスの肩に手をやる者がいた。咄嗟に振り返るアルテミスの頬に指が刺さる。

「戦場では常に背後にも気をやらないといつか死ぬことになるぞ」

「!!」

アルテミスは声にならない程驚いた。自分の頬に指を差したその男はアルテミスの良く知る人物。
そして、戦い方を全て叩き込まれた師匠。ゲルニカであった。

「お前があの有名なゲルニカか」ガラテアが少し驚いた表情を見せる。

「ああ、ちょいと面白そうだったのでな。それとこいつが応援しろとうるさくてな」

ゲルニカが右手に持つ槍を指差して片目を閉じる。

「さぁお嬢さん。槍子の強さを見せてあげなさい。ちょいとハンデでこいつ貸すからさ」

ゲルニカがアルテミスの肩を叩き、後ろに下がりながら自らの槍をアルテミスに放り投げた。
そう、魔槍メタルビートルであった。

赤石物語
(Blackworld and Redstonestory)

~古都の南風 傭兵の詩~



ザードフィルの居城の最上階。その窓際で赤い月を眺めるこの居城の主がいた。

「さて、随分お客が集まってきたな」
「誰もが自分の正義を掲げ、そしてそれぞれに対する悪を討ち取りに」
「その敵の首を取った後、彼らには天国でも現れるとでも言うのか?」
「それとも、俺や赤い悪魔の首を取らないと世界が地獄にでも変わるとでも思っているのか?」

「私には到底解りかねます」

ザードフィルの後方、扉の横で立っている男が答える。

「ロスよ。お前は実に忠実だよ。でもお前はお前の考えで動いてもいいのだぞ」

「いえ、御館さまに従うのが某の考え」
「誰に脅迫された訳でも、誘惑された訳でもありません。それが某の望みなのです」

ロス・ゲラーは静かに答える。

「それも一つの考え方か」

ザードフィルは振り返り、少し笑みを見せまた窓の外の赤い月に目を向ける。
少し間を置き、またザードフィルが話し始める。

「人は欲望の為に人を傷つけてきたのか、人を傷つける為の言い訳が欲望なのだろうか?」
「そして、人を守る為にまた人を傷つける。それとも、人を傷つける為の言い訳が人を守ることなのか?」
「誰かより強いことはそんなに偉いことなのか?」
「競って強くなることを目指し、その結果どんどん強い技や装備が生まれ、そして多くの血が流れる」
「自分達だけの平和を守るため、自分達以外の者達の血を流す」
「悲しいが、それが俺の見てきた現実だな」
「何故だと思う」

「恐れで御座いましょう。他者への恐れですな」

ロス・ゲラーは静かに答える。

「それも正解の一つだな」
「他者との違いが恐怖や孤独感を生み、争いを育てる」
「唯一、そこから逃げ出す方法は自分で考える事を放棄し、他人に同調することだけだ」
「そして考えない者達によってまた争いが大きくなる」
「人は本当に意味では隣人とでさえ意識の共感を持つことが出来ない」
「心の壁は果てしなく厚い」
「まぁ俺は神様じゃない、全ての人間を救うことなど出来んし、全ての悪を倒すことも出来ん」
「今夜は俺も楽しむとするかさぁ行くぞ、ロス。宴の始まりだ」

ザードフィルは振り返り、ロス・ゲラーに声を掛けて居室を後にした。
全ての者達の思惑が薔薇の蔓のように絡み合い、お互いの棘で刺激しあう。
宴は静かに始まろうとしていた。


<あとがき>

いつの間にか50章><;
12章×3部構成のつもりが・・・orz
しかも、まだ2部すら終っていない・・・正直疲れたよ><;
うーん富樫でも見習うかw





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最終更新日  2007年05月30日 17時20分11秒
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