新型iPhoneには、iPhone5cとiPhone5sの2モデルがあります。乱暴にいってしまうと、このうちiPhone5cは外見がポップに大きく変わったものの中身は今までのiPhone5とほとんど同じです。一方、iPhone5sは外見は従来とほとんど変わりませんが、中身はまったく別物に生まれ変わっています。
すでに、テクノロジーをはじめ日経電子版では、新しいiPhone5sで追加した指紋認証機能やカメラの性能向上といった強化点をいろいろと紹介しています。ただ、個人的にもっとも関心を持ったのはCPUが32ビットプロセッサーの「A6」から64ビットプロセッサーの「A7」に変わった点です。
2007年の発売以来、iPhoneは何回もモデルチェンジしてきましたが、いずれも使っていたのは32ビットのプロセッサーです。ほぼ毎回新しいCPUに更新しましたが、それはあくまで32ビットの世界の中で"改良"というレベルにすぎません。今回の64ビットへの移行は、それとはまったく異なる"一新"といえる変更です。
32ビットが64ビットになるというと、単純に「なんとなくすごそう」と思ってしまいがちですが、こと話はそんなに簡単ではありません。CPUはコンピューターの頭脳といっていい部分。つまり、CPUのアーキテクチャーが変わるということは、頭脳がまったく新しいものに入れ替わってしまうということです。
人間にたとえると話す言語や常識が変わってしまうので、そのままでは今までのアプリを理解できずに使えなくなってしまいます。それでは困るので、古い言葉についても理解できるような「通訳」の仕組みを組み込んでいます。この仕組みにより、古いアプリについても使えますが、常に同時通訳を介しながら話をしているようなもので効率はよくありません。
もちろん、新しいCPUでは頭の回転自体がよくなっているので、多少のオーバーヘッドがあっても今までと同じか、もしかするとむしろ速く処理できるかもしれません。しかし、途中に本来だったら必要のない処理をしていることには変わりありませんし、通訳が100%完全に解釈できるとは限らないので場合によってはアプリの互換性に問題が生じるリスクもあります。
こうした無駄をなくすには、アプリを新しい64ビット向けの言葉を話す形に作り替える必要があります。とはいえ、その言葉を理解できるのは当面iPhone5sだけなので、開発者としては古い32ビット向けの言葉を話すアプリをやめるわけにもいきません。しばらくの間は32ビットのiPhoneが圧倒的に多いのは間違いないので、そのような状況でわざわざ64ビット向けのアプリを作る開発者がどれだけいるかはやや微妙なところです。
A7が使っている「ARMv8」というアーキテクチャーは、まだサーバー向けなど一部で使われ始めたばかりで、スマートフォンやタブレットなどのモバイル向けに実用化したのは今回のアップルが最初です。ほかの会社も採用する予定ですが製品が登場するのは早くても来年以降で、アップルがぶっちぎりに独走状態で製品を出してきたといっていい状況です。対応アプリなどの問題がある危険性を承知で、なぜそこまで急いでアップルは64ビット化したのでしょう。筆者はいよいよアップルが基本ソフト「iOS」をパソコンまで拡大することを視野に入れ始めたのではないかと推測します。ご存じのように、アップルはMacというパソコンを販売していますが、そこで使っているCPUはウィンドウズと同じインテル製の64ビットCPUです。
64ビットのCPUが順調に離陸すれば、それを使った新しいパソコンを作ることも十分可能になるでしょう。もしそうなると、スマートフォンのiPhoneとタブレットのiPadに加え、パソコンまでのすべてを自社の技術で固めた垂直統合製品にするという野望が実現します。64ビットをいち早く投入してきたアップルのアグレッシブさが吉と出るか凶と出るか、その将来を見守りたいところです。
出典: http://www.nikkei.com/article/DGXBZO59915430Z10C13A9000000/
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