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大島和隆の注目ポイント

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2011.10.14
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<RX-8の生産終了と共に>

10月7日、世界でただ1社、ロータリー・エンジンを搭載した量産車を作り続けてきたマツダが来年6月の「RX-8」の生産終了と共にロータリー・エンジンの生産をも終了すると発表しました。時は正にアップルのカリスマCEOスティーブ・ジョブズ氏の訃報が伝えられた翌日で、ハイテク・セクターとオート(自動車のこと)・セクターに常に強い関心を払ってきた者としては、二つのショックが一気に押し寄せたという感じです。勿論、ロータリー・エンジンの話の方が圧倒的にメディア的には地味であることは事実ですが、「イノベーティブな技術」を持つ会社を常に調査対象として投資活動をしてきたファンドマネジャーとしては、正直これもかなり大きなショックでした。

<ロータリー・エンジンとは?>

もしかすると多くの読者の方にとって、そもそも“ロータリー・エンジン”が何であるかということ自体が既にあまり知られていないことなのかも知れません。国内で新車販売が不振であるということは取りも直さず車に対して興味を持っているという人が年々減少しているということであり、更にその車のエンジンの形式にまで興味を持っている人は更に減っているのだろうと思います。「シルキー6」と呼んで、その直列6気筒エンジンの回転のスムーズさが“絹のように”滑らかであることを、会社の技術的なアイデンティティとしていたBMWでさえ、ついにV6エンジンに舵を切るようですから、エンジン形式に拘るなど、もう一部のマニアだけの自己満足なのかも知れません。ロータリー・エンジンもピュア・スポーツ・カーのRX8の心臓部として最盛期の2004年には約6万台の世界販売を記録しているのですが、2010年には僅か約2,900台にまで減少してしまっています。

ロータリー・エンジンに対する通常のエンジンはレシプロ・エンジンと呼ばれます。自動車のエンジンの多くはガソリンなどを燃料とした内燃機関で、その爆発力を利用しているということはご承知の通りですが、エンジンの中でガソリンを爆発させる場所は一般的にはシリンダーと呼ばれる円筒形のものです。爆発によって膨張する空気の力によってピストンがシリンダー内を押し下げられることで必要な力を発生しています。でも本来車が必要としている力はタイヤを回す力です。つまり回転運動です。しかし、シリンダーの中で動くピストンは上下運動、すなわち直線運動の力を発生しているのに過ぎません。これをクランク・シャフトと呼ばれる特殊な形状をした棒に伝えることで回転運動に変換しています。直線運動を回転運動に変える時には、当然ながらエネルギー・ロスが発生します。また断続的な爆発による直線運動の繰り返しが、あの独特な微振動を発生させています。これが一般的なレシプロ・エンジンの構造です。

ならばその直線運動を発生させる爆発を、最初から円運動のシステムの中で発生させることは出来ないかと考えられたのがロータリー・エンジンです。理論上、内燃機関のひとつの無駄(最大の無駄は爆発エネルギーが熱になること)が省けますが、正にこれが「言うは易し、するは難し」そのものの世界で、世界広しといえどもこれを量産車に搭載する技術を持っているのは日本のマツダだけです。因みに、英語では「Rotary Engine」とは呼ばず「Wankel(ヴァンケル) Engine」と呼びます。これは開発したドイツの技術者の名前に由来しており、アイデアとしてドイツで生まれたことの証ですが、日本企業だけが量産可能なものに仕立て上げたというのも誇らしい事実です。

<ロータリー・エンジンの仕組み>



<ロータリー・エンジンの困難さ>

前述のように、ロータリー・エンジンはローターがハウジングの中を回転するわけですが、この時に出来る空間は充分な気密性が保たれないとなりません。さもないと、空気を圧縮出来ず、また爆発した際に排気が漏れたりしてしまいます。勿論、極悪な使用環境にも耐え得る耐久性にも優れていないとなりません。マツダが生産を開始した始めの頃は、このローター自身でハウジングの中に大きな傷をつけてしまう「悪魔の爪跡」などと呼ばれる引っ掻き傷が残ったり、また隙間の気密性を保つためのシールが吹き飛んで吸気から圧縮が出来ず、スカスカになってエンジンが止まったりすることが頻繁に話題になりました。

しかし、エンジニア達の不屈の魂と根性がこの問題を克服します。これはNHKの「プロジェクトX」などにも以前取り上げられていたのでご存知の方も多いかも知れない話ですが、1991年、自動車の耐久レースでは世界で最も過酷なものとも言われる「ル・マン24時間耐久レース」でマツダはそのロータリー・エンジン搭載の車で総合優勝を果たしています。この時の感動は今でも忘れません。何かのドキュメンタリー番組だったと思いますが、レーサーも、メカニックなどのピットクルーも、そして当然走行したレースカー自身も皆ヘトヘトになりながら完走、チェッカー・フラッグを受けるそのシーンは「あのチームのメンバーの1人として、一緒に参加したかったなぁ」と心から思わせると同時に、技術者達の技術に対する執念の凄さに心から感動させられたものです。耐久性の問題がいつでも話題になったロータリー・エンジンが、ル・マン24時間耐久レースに勝てるだけの最高の耐久性を持つことが出来たことを証明しました。この技術のフィードバックがあったればこそ、マツダはDEMIOの低燃費エンジンなど画期的なものを開発出来たのだと思います。

<ベンツの社員も憧れるマツダ車>

もう7、8年も前の話になってしまいますが、シュツット・ガルトのベンツ本社(当時はまだダイムラー・クライスラーでした)を訪問した折、機会あって日本で言うなら財務部の一般職の女性が運転する社用車で同市内を移動したことがあります。その時の車内の他愛無いお喋りの中で聞いたのが「自分達のサラリーでは自社のCクラスでさえ買えないので、マツダの車を買うのが夢」だという話です。車種で言うと日本名はどうやらカペラでしたが、普段、日常的に自社製品である多くのメルセデス・ベンツに触れ、それを高嶺の花と諦めている人が次に欲しいのがカペラだというのは、何と日本人として誇らしかったことか。理由は性能と品質と価格のバランスでした。マツダが欧州に力を入れていたこともありますが、トヨタでも、ホンダでも、日産でも無く、マツダが良いというのがちょっとした驚きでもありました。勿論、欧州系の他社の車についても尋ねてみましたが、歯牙にもかけないという感じだったのが印象的でした。恐らくこれこそが、ドイツの隣の国フランスで行われるル・マン24時間耐久レースの戦績が影響していることは言うまでもありません。速度無制限のアウトバーンをぶっ飛ばすお国柄ですから、これはかなり重要なお墨付きだったようです。

<水素ロータリー・エンジン>

ロータリー・エンジンはその構造上、どうしてもその圧縮比をある程度以上に上げることが出来ません。空気は急速に圧縮すると熱をもつという特性がありますが、これは究極の環境燃料と呼ばれる水素を使った場合の障害となります。すなわち、ある程度まで圧縮比を引き上げた場合に、早めに水素が自爆してしまうため、小型で高圧縮比の水素エンジンを作ろうとするとレシプロ・エンジンでは限界が来てしまいます。平たく言うと、小さな排気量では馬力のある水素エンジンをレシプロ方式では作れないということです。ロータリー・エンジンはその逆です。変な言い方になりますが、ダラダラ爆発されても、それが回転エネルギーになるのです。それが最大の特徴です。そして、同じ程度の馬力を得るためにはエンジン本体のサイズを小さくすることが出来ます。これもロータリー・エンジンの特性のひとつです。

水素ロータリー・エンジンのRX-8に同乗させて貰ったことがありますが、助手席に乗っている限り、ガソリンなのか、水素なのか、正直一切わかりません。運転をしていた技術者に問い掛けましたが、その差は普通の人には解らないだろうとのことでした。そして何より凄いと思ったのが、水素とガソリンをシームレスに運転席からスイッチ一つで切り替えられるということです。水素が素晴らしいということは解っていても、そのガソリン・スタンドのような水素ステーションの普及はまだまだ難しいのが現状です。水素が入れられれば水素で走り、補充出来ない状況ではガソリン車として走る。そんなことが可能になるのが水素ロータリー・エンジンだと、今でも私は思っています。だからこそ、その可能性の火を消さないで欲しいと。

<化石燃料の問題は無くなっていない>

東日本大震災後、それに伴う原子力発電所事故の関係で急速にエネルギー問題のベクトルが向きを変えました。しかし、化石燃料が有限であり、また化石燃料を燃やす限りは二酸化炭素(地球温暖化ガス)が排出され続けるという事実は変わっていません。北極のオゾン層が史上最大の大きさになっていると週末報道がありました。オゾン層が無くなり、また地球温暖化ガスである二酸化炭素が増えれば、エルニーニョやラニーニャ現象等と呼ばれる海流温度以上による異常気象が益々増えるでしょう。我々は何を排気しているのかを常に考えないといけません。今は電力を得るために、ガンガン原油、天然ガスそして石炭を燃やして火力発電を増やして、どんどん二酸化炭素を排出しています。京都議定書批准問題はどこに行ったのでしょうか?

自家発電機能が無い電気自動車さえも環境車両という誤解を呼びながら増えて行く流れがあります。私は水素ロータリー・エンジンとハイ・ブリッド・システムの組み合わせがひとつのソリューションだと思っています。技術開発は一度止めるとその時間的空白をなかなか埋められないと聞きます。ゼロ戦を作った日本の航空機産業が欧米の後塵を拝し続ける理由は、終戦後GHQによりその研究開発を止められたからです。そうならない為にも、是非、マツダのエンジニアの人達には引き続き頑張って頂きたいものです。コア技術を諦めた企業が発展を続けた歴史が余りないという事実も重要です。投資家としてそういう企業を株主になって応援する、というのも株式市場の役目の一つだと、私は信じています。

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楽天投信投資顧問株式会社
CEO兼最高運用責任者 大島和隆
(楽天マネーニュース[株・投資]第106号 2011年10月11日発行より) ==========================================================






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最終更新日  2011.10.17 09:13:21


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