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2009年08月22日
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     4 後

 保持は九十九に応急処置を施してもらい、彼の手を借りて沙理菜に擦り寄ると、彼女を抱き起こそうとした。
「保持……」
九十九が保持の肩に手を置き、首を振って止めた。
「州上さん……州上さんっ!」
 紅い雫が零れ落ちていく。保持自身も重症であるが、沙理菜ほど致命的ではない。沙理菜は奇跡的に致死状態ではなったが、原型をとどめない程にまでつぶされた顔や応急処置すら意味を成さないほどの胸部に広がった傷を見る限り、何もかもが手遅れである事は間違いない。
「……守護獣が、護っていてくれたのかもな。そうじゃなきゃ……」
 沙理菜はかろうじて息はある、という状態だった。それえも彼女が晒されていた暴力は想像を絶するものだったのだ。息がある事が奇跡である。
沙理菜は目を薄く開けると、保持の頬に手を伸ばした。

「わた……なか……の……とす……き……よ……」
「州上さん、しゃべらないで! 今助けるから!」
「ご……めん……」
「なんで謝るんだよ……州上さん! 州上さん!」
 やがて沙理菜の身体から力が抜けた。
「……ママ……?」
 死というものを理解できていないのか、コモエは沙理菜の頬をペチペチとなでる。
「州上さんは……州上さんはね……」
「なんでママ……ママ! ママ、ママ、ママーッ!」
 悲しみが込みあがる。心がねじれてしまうような痛みを覚える。
(なんで、なんで……)

「九十九……憎い……僕は憎いよ……」
「保持……ゴメン……俺が……」
「違うんだ。確かに州上さんをこんな目に合わせたあいつが、あいつが所属するアルバール軍が憎い。でもそれ以上に僕は州上さんを護れなかった僕自身が憎い! なんで僕はッ! 僕はッ!」
「……」
 保持は床を何度も殴り、行き場のない怒りを自身に刻み付ける。

「……俺にも……すまん……わからない。だが、俺は決めたよ。アルバールを潰す。この代償はアルバールのクズどもの血で抗わせる」
「……」
「アルバールに血の雨が降り海が紅く染まろうとも、世界の理を変えてみせる」
 九十九は強く宣言してから、顔を伏せ保持に背中を向けた。
「脱出経路を確認してくる。すぐに戻るから、ここにいてくれ」
 九十九が出ていってからも、保持は悲しみに暮れていた。
「州上さん……」
 力だ……
 もし保持に力があれば、沙理菜は死なずに済んだかもしれない。
 もし保持が力を知っていれば、沙理菜を助ける事が出来たかもしれない。
 保持に足りないのは何らかの力と、その使い方の知識だ。
 今まで保持は全てから逃げてきた。自分をこんなものと決めつけ、それ以上を望まなかった。
 何よりそれが一番楽だったからだ。誰に何を言われても、思われても、どうせ自分は――と唱えれば、しょうがないで納得できた。傷付くのは自分。その自分さえ守れればよかった。いや、傷付く事にさえ気付かずにいればよかったのだ。
 だがそれが沙理菜を死に至らしめた。自分が何を出来るのかを知っていれば、違う選択が出来た。
 沙理菜が懸命に脱出しようとしている時に、勝手に諦めていないで協力していれば……
 あの少年兵が突進してきた時に、躊躇せずに沙理菜をかばう事が出来れば……
 今でも保持には、具体的に自分に何が足りないかわからない。
 だからこそ願わずにはいられない。

 力を……
 それを行使する方法を……

 不意に保持は背中に気配を感じた。九十九だろうと振り返ると、見知らぬ人物が仁王立ちしていた。
「誰だよ。勝手に俺を呼ぶのはよ~」
 場違いな声の主は紅の髪の毛を短く刈り上げ、一見美少年のようではあるが、自己主張にも程があるその胸が、彼女が女性である事を証明していた。
「ベニオママッ! ママが! ママが!」
「んな……小萌? なんで……勝手に出たのか? あれだけ勝手に出たらダメだって……」
「……ごめんなさい。でもねコモエ、パパとだから、いいとおもったの」
「パパ?」
ベニオの視線が保持を捕らえる。そして何か得心したように頷いた。
「あなたが、棚加保持殿……あの方の息子……それより……この惨状は……」
「ママが……」
 コモエの視線を追ったベニオが沙理菜の姿を捉えた。そして表情を曇らせる。
「その娘は……ネリュート姐の……サリナ……なんて事だ……そうか。そういう事なのか……」
 ベニオの反応を見て、保持は改めて沙理菜が死んでしまった事を思い知らされてしまった。
 保持に出来る事は、ただ沙理菜の死を悲しむ事しかできないのだと気付いた。
 もう手遅れなのだ。
 力を得ようとも、その方法を知ろうとも、そこに助けたい、守りたい沙理菜はいない。
 もう何もやりたくない。
何も出来ない。
保持の世界の光は消え、闇に覆われる。
生きる事にすら意味を見出せない。
「棚加保持殿! しっかりしろ! 気を確かに持て! 貴方がそんな調子でどうするんだ!」
 ベニオの言葉はもう保持には届かない。
(もうどうでもいい





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最終更新日  2009年08月23日 20時47分09秒
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