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2009年08月22日
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     4 前

「そういうわけで、今から保持君と九十九君の歓迎会を始めま~す」
ネリュートに「伝え忘れた事があるから、二人とも来なさい」と真剣な顔で言われれば、謹慎中ではあっても出ないわけには行かない。部屋を出た保持と九十九にネリュートの口から伝えられたのは、先程の表情からは全く予想できない内容だった。
「あ、あの、僕のは前に……」
「あら、あれは保持君のであって、保持君と九十九君のじゃないでしょ?」
「え? あれ? えーと……」
「まぁまぁ、あまり深く考えないの」
 普通歓迎会は一度しか行わないはずだ。参加メンバーががらりと変わるのならいざ知らず、ほとんど変わらないのでは、今回は九十九の歓迎会でいいはずだ。
 なのに何故? 保持は普段使い慣れていない頭をフル回転させその目的を探る。しかし思いつくのは“そっちのほうが面白そうだから”という理由しか浮かばない。

「あら? サリーご機嫌斜め。もしかして、あの日?」
「司令!」
「いやぁ~ん、こわ~い。保持君、保持君、サリーがね、怖~いの」
 ネリュートが保持に抱きついてきたのを、沙理菜が力任せに引き剥がす。そして沙理菜は保持とネリュートの間に仁王立ちした。
「司令、私達は確か謹慎中のはずです! なのに、なんで私がこんな……こんな格好をしなくちゃいけないんですか!」
 沙理菜が着せられているのは、非の打ち所の無いバニー服だった。
「これも任務よ。サリー!」
 いつになく真摯な口調に、沙理菜も口を閉ざした。
「といえば、責任感の強いあなたでも我慢できるでしょ?」
「司令、あなたって人は!」
「いやぁ~ん、こわ~い。保持君、保持君、サリーがね、怒るの~」

 そんなこんなで準備は進んだようで、再び保持と九十九が食堂に呼ばれた時にはそこは……ある意味、天国と地獄の共存する混沌だった。
「じゃ、今回は九十九君の要望で、水着で宴会、そんなのえ~んかい? を開催しま~す」
「親父ギャグ……」
「失礼ね! この魅惑の肢体! これのどこが親父なの?」
 確かにネリュートの、ほとんど裸同然のきわどい水着姿は、ズドド~ン、キュキュキュッ、ズガガ~ン……というようなダイナマイト、いやアトミックボンバーボディといっても過言は無いだろう。

「あらん? 私は未も心も乙女よ?」
「……」
「あら? 何か言いたそうね?」
「はい。でも言わないでおきます」
「あら?」
「言って欲しいのでしたら別ですが?」
「……イイデス。キキタクナイデス……」
 シュンと小さくなったネリュートと入れ替わり、ナーシャが司会を引き継ぎ、音頭をとった。
「これで司令も少しおとなしくなるでしょう。まぁ、そういう事ですので、皆さん、あまりハメを外しすぎない程度に楽しみましょう」
「! ナーシャ艦長まで!」
「いいですか、サリナ曹長」
 ナーシャは声を低めたので、サリナも小声で「は、はい」と答えていた。
「こういう場合、あの人に反抗すればするほど逆効果です。それはお互い重々承知のはずです」
「は、はい。それはもう……」
「どうせ、押し進められるのなら、暴走する前に事を納めてしまったほうが得策だとは思いませんか?」
「う……確かに……このままじゃ、何を言い出すか……」
「えぇ……無礼講の混浴大会など始められる前に、水着宴会で手を打とう、そういうことです」
「分かりました……」
「ん? 悪巧みは終わったの?」
「……分かりました。もう、司令の好きなようにしてください」

「おろ? なんだ保持、浮かない顔だな?」
「つ、九十九は……嬉しそうね……」
「この状況で、嬉しくない男がいないかよ」
(確かに美人ぞろい……というか全員が美人さんだけど……)
 だから困るのだ。普段なら保持もそれなりに楽しめたのだろうが、ここにはバニー姿の沙理菜がいるのだ。彼女にフラれた身の上とはいえ、その気持ちの整理が出来ないどころか、ますます強くなっていく現状で、このような形とはいえ一緒の空間にいれば、意識しないわけにはいかない。
「保持、あの時、沙理菜の質問には、あのような形で答えたが、俺は任務とか、そういうの無しでお前とは親友だと思っているからな。お前がピンチになれば、任務じゃなくても、任務を無視してでも助ける。そこだけはわかってくれ」
「う、うん」
「それに、お前をどうにかしろって任務を、俺が受けるはずがないし、来る可能性も今のところない。来ても断るさ。心配するな」
「……うん」
「だから楽しめよ。見てみろ、保持と俺以外は全員が美女であり、しかも水着姿なんだぞ? 鼻の下を馬並みに伸ばしても誰に文句が言える?」
「私が言うわよ。このスケベ」
「んま! 沙理菜ちゃ~ん。つれないお言葉ね~」
「シナを作るな! 気持ち悪い」
九十九が沙理菜のバニー姿を上から下まであからさまに眺め出したので、沙理菜は自分を抱くように胸元を隠すと、九十九に抗議の視線を向けた。。
「な、何よ?」
「ほら、保持、こういう場合、何か言う事あるだろ?」
 と、わき腹を肘でつつかれても、何を言うべきなのか思いつかない。
「なんだよ、保持~。案外気が利かないな。こういう場合は、ほら! 鼻の頭とかをポリポリかきながら照れている感じを演出しつつ、ちょっと目線を外して『に、似あうよ』って言ってあげるのが礼儀だろ?」
「は、はぁ……そうなの?」
「あのね、それ、言われてされても、あまり嬉しくないんだけど……」
(まぁ、せっかくやれって言っているし、確かに似合っているとは思うし……)
「あ、あの、すごく、似合っている……と思うよ」
「え? あ……あ……あの、あり……ありがと……」
 さすがに面食らって恥ずかしかったのか、はたまたあまりの恥ずかしい言葉に呆れたのか、沙理菜が顔を真っ赤に染めると「あ、あの……じゃ……また」と、きびすを返しどこかに行ってしまった。
「……やっぱり、そういう事かい」
「え?」
「いんや、こっちの話さ。これでまた一つ、この世から謎が消えた! ッて感じだな」
「それって、名探偵ケンシロウの真似?」
「そそ」
「でも、九十九も見ていたんだ、あのアニメ」
「まぁな……しっかし、難儀な奴だよまったく……」
 九十九がため息混じりに笑ったので、保持はその意味が気になり、考えようとしたが、背後に気配を感じそれを中断するしかなかった。
「ねぇ~ん、こんな魅力的なお姉さん達に囲まれているのに、なぁ~んで男同士で固まっているのよ。もしかして危ない関係? 衆道なの?」
 お酒が入っていると思しきグラスを片手に、ショートカットの虎柄ビキニの女性が絡んできた。背後には白いフリルのワンピース姿の清楚な女性もいる。
「いやいや、皆さんがあまりに眩し過ぎるから、僕達は隅っこで指を加えて眺めているんですよ」
「あらあら、上手い事言っちゃって 保持君、私達の事を覚えている?」
「あ、えっと、確か放送係か運転手の……」
「保持……おまえなぁ、電車じゃないんだからさ……」
「広い意味ではあっているけどね。私が通信技手で、こっちが操舵技手。もっちろん、名前も覚えているわよね?」
「あ、いや、あの、その……」
「覚えてくれなきゃ、いやんいやん 私がイリーア・コラムスで、こっちがベルーニャ・ハクロシン」
「イリーアさんにベルーニャさんですか。お二人の美貌に負けない、素敵なお名前ですね」
「いやぁ~ん、九十九君の女たらし!」
「……それよりも」
 ベルーニャに言われ、イリ―ナが真面目な顔で、保持達に視線を向けた。
「そうそう、二人に聞きたいことがあるの」
「何ですか?」
「イリーナと私、どっちのおっぱいが好き?」
「は?」
「大きさは私が勝っていると思うのよね」
「形は私が」
 冷静な感じのイリーナだったが、どうやら既にこれで酔っているらしい。
「ハハハ、コレは難しい質問ですね」
 どこか楽しげな様子の九十九に対して、困惑するばかりの保持は、何も答えられずにいた。
「それは個人の趣味に関係しますし、どちらとはなかなか選べませんね」
「それじゃさ、保持君に触ってもら……」
「触って、何ですか?」
「あ、あ~、お姉さん用事を思い出しちゃった~」
 背後からの気迫に負けた二人が退散し、二人を追い払った張本人の沙理菜が再び合流した。
「棚加君を変な世界に連れ込むのはやめてよね!」
「――って、それって俺の所為かよ?」
「大体ね、道を踏み外す最大の原因は友達が悪いからなのよ!」
「というか、どちらかというと、彼女達は州上の友達だろうが。おっと、軍の同僚云々という逃げはなしな。それにな、過保護すぎると、もしもという状況で案外脆いぜ? こう、もっと柔軟性をだな」
「あなたに任せると、保持君が軟派になりそうなのよ!」
「つ・ま・り、サリーとツクモンを足して二で割ったぐらいがちょうどいいということね。だったらこれからは、二人が保持君に……ってもうあなた達はおもしろ三人組認識されているけどね」
「し、司令!」
「もしかしなくても、ツクモンってのは僕ですか? いや、なかなかいい呼び名ですね」
「それでね――」
ネリュートが何かを言おうとしたその時、突如警告音が鳴り響いた。
今まで聴いたことの無いけたたましい音に、保持は全身を緊張させた。自分の置かれた状況を考えれば、抜き打ちの避難訓練だとか言うことはまずないだろう。
「敵艦からの通信を受信しました!」
「敵艦の位置は不明! 広角通信で返答を呼びかけています」
「索敵! 急いで! 潜航待機状態を解除! 潜航監視状態に!」
 食堂が慌しくなり、その場でモニターを起動させ、いくつかの処理を始める者が続いた。どうやら所定の場所に戻らなくても、緊急の対応は出来るようになっていたようだ。
「緊急対応が終わった者から、順次持ち場に! ナーシャ、行くわよ!」
「こ、このままで、ですか?」
「さっさと終わらせて、続きをするのよ? 着替えるのも面倒じゃない。それに着替えている暇も惜しい、そうじゃない?」
「しかし、司令――!」
「じゃ、命令! 状況が許す限り、着替える手間をかける事を禁じる!」
「り、了解です!」
ここで対応して事が済むのなら、相応の場所は必要ない。やはり現場での対応が必要になるのだろう。モニターを開かなかった残りの乗組員達は、ネリュートの指示通り、水着のまま各々の部署へと散っていった。
「ネリュート司令のなんとなく戦法か……」
 九十九が呟いたのを聞いて、保持は思わず「え? 何ソレ?」と聞き返した。しかしそれに答えたのは沙理菜だった。
「……あの人は、基本的になんとなくという感じで物事を決める傾向があるの。そしてそれが……」
「かなりの確立でいい方向の結果を生む。まぁ、そういう事ってあるだろ? 何かを選択する時、あれこれ悩むよりも、第一印象とかで決めたものが一番良かったり、そういう事だな」
「相変わらず理解しにくい例えね。何かを選ぼうとする時、一見適当に思えても、様々な分析を脳が一瞬でしているのよ。でもまぁ、あんな人だから、運任せのネリュート、なんて誹謗するものも多いわ……」
「まぁ、運だけでなく、生まれとか色々恵まれている事も確かだけどな。いやそれもある意味運か……誰の子供に生まれたかなんて、本人に選べるはずもないのだからな。それこそ人生最初の運だめしだよ」
 どうに引っかかる事がある。聞かぬは一生の恥、という事で保持は思い切って尋ねる事にしたのだ。
「ネリュートさんって、貴族とかの生まれなの?」





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最終更新日  2009年08月23日 20時53分10秒
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