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2009年08月22日
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     3 後

「う、占い?」
「あぁ、占いだ。おっと、そんな胡散臭い顔するなよ。占い、正確には占術、占学と呼ばれる、立派な学問だ」
「で、でも……」
「今の地球じゃ占い=詐欺見たいな構図が成り立っているけど、過去多くの国では占いが政冶の中枢に関わっていたって知っているわよね?」
「う、うん」
 日本では卑弥呼や、陰陽師などが政治の表や裏で活躍した。現代においても閉鎖的な部族などでは、シャーマンがあらゆる権力を握っていたりする。
「地球でも未来予測という形で色々研究されて入るようだけど、占学というのは突き詰めれば統計学だ。全宇宙の数千極のあらゆるタイプの人間、数十万の国家、事象などの全てのデータの統計を取って……つまり、簡単に言うと、カエルが鳴いたら雨が降る、ということを裏付けする為の学問ということさ」
「……最後のカエル云々がちょっと違うけど……」

「えぇ、まぁ。というか、素朴な質問……極というのが単位だろうって事は分かるけど、どれくらいの単位?」
「おいおい、疑問はそこかよ……えっと、極は十の四八乗。億、兆、京、垓(がい)、杼(じょ)、穣(じょう)、溝(こう)、澗(かん)、正(せい)、載(さい)、極(ごく)だ。ちなみにその後には恒河沙(こうがしゃ)、阿僧祇(あそうぎ)、那由多(なゆた)、不可思議(ふかしぎ)、無量大数(むりょうたいすう)な。地球じゃ滅多に使わないし、正直さっぱりだろ?」
「う、うん、まぁ。実際、京を越えたあたりから、まるで……」
「話が反れているわよ」
「おっと、そうだ」
「ご、ごめんなさい」
 気を取り直し説明が再開された。しかし今ので、保持も考える時間とそれを噛み砕く時間を得られたので、何とか理解できそうに思えた。
「えっとな、実際にはカエルというのは両生類だよな。だから雨が降る前に空気が湿ってくると活発になり鳴き始める……らしいんだが……アルバールのカエルは地球のカエルとはちょっと違っていて、水辺では生息できないから湿度はなく……」
「話……また反れているわよ?」
「おっと! こりゃ失礼。とにかくそういう仕組みを知らなければ、カエルというのは降雨に限定すれば予知能力がある! とか錯覚したりしそうだろ?」
「う、うん、確かにそう感じるかも」

「なんだか良く分からないけど、だったら、なんで僕なのか、とかも判るものじゃないの?」
「せっかくだからカエルの例えを借りれば、カエルは空気の湿気から雨を予見するとしましょう。でも、実際の降雨の規模や時間は分からないわけじゃない? 近いうちに雨が降るだろうという事しか、ね。つまり占学はまだまだ万能じゃないのよ」
「追記。例えば、こう」
 九十九はそう言って、拳を保持に突きつけた。
「俺が保持を殴ろうとした。保持はどうする?」

「あぁ、でも俺の拳が早いかもしれない。保持が何かに躓いて避けきれないかもしれない、州上が止めに入るかもしれない。未来というのは、過去と現在の“かもしれない”の一つの結果だ。個人データやその場所や状況などのデータから、ある程度の確立による未来予測は可能だ。でも、絶対、百%なんて事はまずない。何よりそれ自体が、確立によって証明される。そうだろ?」
「あ、え、う、うん。なんとなく分かるような気がする。つまり、僕が何らかの形で何かに関わるだろう確率が高いという事は分かっているけど、それが何なのか、良く分からない、と……」
「まぁ、その何かに関わる、というのはこの戦争の終結に関わる何か、という事だろうけどな。そもそもその事を占った結果、保持の名前が出てきたんだから」
「なるほど。そうか、漠然と占っても、漠然とした答えが返ってこない。だから事前に何について占うかは決めて、それを予測しているわけなんだ……」
「そういう事。冴えているなぁ、保持」
「いやぁ……エヘヘ」
 あまり褒められ慣れていないので、保持はつい反応に困り、苦笑いに似た表情をしてしまう。
「でも、全宇宙のデータを集めるって、大変だよね」
「あぁ大変さ。でもまぁ、今はもう収集システムは出来上がっているから半自動だけどな」
「へぇ」
「連盟本部惑星がある絶対中立宙域に占学用演算惑星エインソーフがあるの」
「う~んとな、惑星全てがコンピューターって人工惑星だよ。大きさは地球の三倍ぐらい」
「正確には2.5倍ぐらいよ」
「そんな細かい事はいいんだよ」
「あのねぇ…確かに数字的には細かいのかもしれないけど、その差で地球数個分ほどの誤差が出るのよ」
「あのさ、それが何の意味がある? 大体これぐらいの大きさという指針であって、別に数学の授業じゃないんだからさ。だいたい最近の日本の教育の現場は、円周率3だぞ! ゆとり教育バンザイッ! ハイル文部科学省ッ! ジーク文部科学大臣ッ!」
「……あなたねぇ……で、でも、間違った情報を教えてしまったら後で、棚加君が恥をかくのだから!」
(そういえば九十九自身が、似たような事を言っていたような気がする……)
「へいへい。ま、そんなわけで、地球の約2.5倍の大きさの人工惑星一杯にコンピューターがあり、その惑星の周囲を制御用の衛星が……えっと、いくつだっけ?」
「確か一一八万八千機ほどね」
「そう、ソレがまわっているわけだ」
「な、なんだか気が遠くなりそうな話だね……」
 思わず惑星の周りを所狭しと衛星が飛び交う映像を思い浮かべた保持だったが、その分元となる惑星が巨大である事思い出し、そんなものなのかと納得した。
「ま、それだけ凄いって事であり、それだけの設備を持ってしても、厳密な予言に至る事はない。いかに難しいかがわかるだろう?」
「でも、地球じゃもっと簡単にやっていると思うけど……ノストラダムスとか……」
「あぁ、ノストラダムスね。彼は連盟大学の占学教授だったのよ? 正確には大学の研究班の名称ね。この名称がその教授から付けられたの。あの当時は今ほど地球への干渉が厳しくなかったから、実験場所に選んだらしいわよ?」
「え? そうだったの?」
「えぇ、それどころか、エインソーフの基礎理論を組み立てのは彼よ」
「あの預言書を見たことあるだろ? どうとでも取れるような、実に曖昧な預言書だったろ?」
「あ、ゴメン、ノストラダムスの予言書というのは知っているけど、中身は知らないんだ……」
「まぁ、私達もそういう感じよ。基礎知識としては知っているけど、専門分野じゃないから、表層的なことしか分からないわ」
(それでもゼロよりはマシだと思うけど……)
 知らなくて当然はあっても、保持としては少し恥ずかしい気分だった。しかし沙理菜にそんな保持の機微画が伝わるはずは無く、説明を続けていた。
「それにね、預言というのは言葉や文字に表すと、ある種の強制力が働くわけ。ほら、よく目標や夢を口にすると叶うっているじゃない? それって迷信とかじゃなく、そうやって他人にもソレが伝わる事で、ソレを実現しようという力が少なからず働くわけ。そうやっていくうちに、それが叶うという未来に繋がる可能性が高まるわけね」
「ほら、アレだな。例えば氷室舞衣のファーストアルバムの限定版を探しているとしよう。それを他人に言う事で、もしかしたらその人が覚えていて、どこかでフラリと入った中古屋で見つけるかもしれない。するとソレを買うなり、教えてくれたりして手に入る。アラ不思議! ホ~ラ、叶った! ッてことだな。でもしゃべらなければ、それまでだ。気付くことすらないかもしれない。予言も何月何日に何かが起きるという目標に向かって、ソレを聞いた人間が意識的、もしくは無意識動くことで実現する可能性が生まれる。そんな計算や実証データなんかもエインソーフで管理しているんだ」
「ヘェ……」
「むずしい話はおしまいだ。俺も頭痛くなってきた」
 きっと保持に気を使ったのだろう。九十九という男はそういうやつだ。
「でも僕が何に関わってくるのわからないんだったら、別に必要ないんじゃ……」
「いいか保持? それが分からなくても、敵側に渡るのならば、確保しておきたいと思うのが人情ってやつさ」
 そうそうと、沙理菜も頷いている。だったらそうなのだろう。
「それに、そういうことは確保してからゆっくり考えればいいの。全てはその次なのよ」
「でもさ、正直言うとアルバールはさほど保持を重要視してないんだよな」
「だったらなんで?」
「そりゃアレさ。サンクロバが手を出したからそれに感化されて……とりあえず確保しとけ! そんなノリなんだよ。それに、アルバールは体面的にはエインソーフの信憑性を疑いその存在自体認めていない」
「占術結果を管理国家群、つまりサンクロバの都合のいいように改変されている可能性があるってやつ?」
「そう。まさにそれ! しかしなぁ、結局それを疑うって事は、自分自身がそうする意思がバリバリ全開フルスロットルってことなんだよなぁ」
「なるほど……一理あるわね」
「さて、そろそろ着くみたいだ」
 どうやらしゃべっている間に、二人は色々作業していたようで、連絡艇のディスプレイにメルビスの艦影が小さく映し出されていた。
「最後にあなたに確認しておくわ」
「ん? なんだ? 彼女なら今のところいないぞ?」
「そんな事じゃないわ。というか本当にどうでもいいことでしょソレ……」
「ひどいなぁ……」
 明らかに演技と分かる動作で落ち込む九十九を一瞥し、沙理菜は真摯な表情で問う。
「あなたは棚加君に危害を加えるつもりはないのね?」
「あぁ、それは全くない」
「確かあなたは現在も任務中と言ったわね? ということは現在もアルバール軍に席を置く下士官という事でいいのかしら?」
「あぁ。間違いない。しかし俺の任務はそういう事には縛られないから、当面は、という制限が付くけどな」
「なら命令が変わって棚加君を拉致しろという命令がきたらどうする気?」
「……」
 それは息苦しい沈黙だった。
「そう……分かったわ」
 九十九は言葉にはしなかった。しかしその沈黙は、命令に従うという意思表示でもあることぐらい、保持にも理解できていた。





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最終更新日  2009年08月23日 20時53分23秒
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